第155話「お前のそれは無敵なの?」
おいでませ。
「アエル!」
オレのパペット、ヤマタノオロチ、顕現。
「ロード・デザート!」
カルパのパペット、王冠とマント、顕現。
二人共しっかりと土を踏みしめて、駆ける。駆けた――はずだ。しかしオレは確かにいるのにカルパの姿が消えていた。
「あれ?」
上空のモニターを見るがどこにもカルパは映っていない。
「これは――」
アトミックに似た能力を持っている。アトミックは水になったがカルパはなんだ? 『デザート』――砂漠。
「砂!」
「正解!」
突如地面が凹んだ。蟻地獄になったのだ。しかしすぐにアエルがオレの服を噛んで引っ張り上げる。それを追って地面から砂の巨腕が伸びてくる。動きは鈍重。掴まらない。
しかし巨腕から小さな砂の腕が数十と伸びてきた。今度は速い。
「アエル! ブレス!」
炎の息吹で吹き飛ぶ腕群。
『ぎゃはははははははは!』
「うわ⁉」
飛び散った砂が宙でぴたりと動きを止めたかと思うとピエロの仮面に変貌し嗤い始めた。
正直かなりキモいんですけど。
『ははは――――はぁ!』
「うわ⁉」
ピエロの口から新しい顔が出てきて、また口から顔が出てきて、更に口から顔が出てくる。
これに何の意味が?
計十個のピエロ吐きピエロが動きを止めて、別の位置の土が砂になって盛り上がり始めた。それは巨大な王冠とマントになり、砂の化物の体ができてピエロ吐きピエロがその手の指に指輪として納まった。
かなり大きい。アエルと良い勝負の巨躯だ。
砂の王さまは腕を振り上げると凄まじいスピードで振り降ろす。アエルは首の一つを鞭の如くしならせ腕を迎え撃つ――と思われたが砂の腕がナイフに変わった。ええ⁉
『ぐぅ⁉』
砂のナイフはアエルの黒い鱗に当たり、僅かにその下の皮膚へと到達した。砂の王さまの動きが止まった隙を見て他の首が砂の肩に噛み付いて噛み千切る。だが砂の王さまに痛がる素振りはない。
ユーザーはあの中にいるのだろうか? それとも別の場所から遠隔で指示しているのだろうか?
その答えを示す動作が次に行われた。
「――⁉」
平安京の建物がぼろぼろと砂になっていったのだ。それらは集まり、固まり、計十体の砂の王さまとなった。
更にアエルの下の道や建物も砂になってアエルの巨躯を砂中に封じ込める。
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
同化――させられてしまった。しかしアエルは解放された。プラマイ0――だけどちょっと負けた気分だ。
アエル、熱源探査。
そのくらいの機能は【覇―はたがしら―】は勿論サイバーコンタクトにも【紬―つむぎ―】にもついている。
視界が少しばかり暗くなり、白から赤の色で熱量が観測される。砂の王さまに灯る色は――橙。熱いと言う程ではなく冷たいと言う程でもない。つまりは人の体温と同じ熱量。となるとまた厄介だ。中に人が隠れていたら見つけられない。
では他の場所に人の反応はあるか?
オレは砂の王さまの攻撃を避けつつフィールドを一望すべく空高く舞う。
フィールドを作るナノマシンの色は黄色。人を冷ます事も熱す事もない適温。その中に人の熱はなかった。
結論、カルパは砂の王さまの中にいる。
全ての砂の王さまが腕を持ち上げた。指をピストルの形に曲げて、砂礫を放つ。その数一秒に数百。
「まず――」
すぐに黒鱗の盾を出してガードする、が、予想以上に一発一発が重い。宙にいたら当ててくれと言っているのと同義。オレは下降し、十体の中央にホバリング。地上まで降りたら砂に巻き込まれるからである。
これで無闇やたらに散弾できないはず。同士打ちになるのだから。と思っていたら何の容赦なく撃ってくるではないか。オレに――黒鱗に当たるのはその内の四割。あと六割は別の砂礫に当たり、僅かに残っている建物の瓦礫に当たり、そして砂の王さまに当たる。
誤射で砂の王さまを気持ちばかり崩してくれるが直後砂が再び集まって回復する。
ユーザーに当たらなければ良いと。しかし黒鱗だってそうそう簡単に貫けるものではない。
向こうもそう思ったらしく射撃が止まり、砂の王さまが手を繋ぎ、バリケードになった。
オレをここから逃がさないつもりか。けど上がまだ空いて――影が差した。巨大で深い黒の影。上を向くとそこにあったのは砂の大球体。
「まさか――」
懸念は良く当たる。大球体が落下してきた。
押し潰す気か。
「咬牙!」
牙の力が大球体を削る。何度も何度も放って削るも削り尽くすより落下の方が速い。
ならあえて。
オレは更に下降し砂になった地面に咬牙で穴を開けて潜り込む。砂はオレを討つべく棘になったり圧殺を試みたりと蠢くが牙の威力の残滓がそれらを阻む。
ずん……、重い音が振動と一緒に届いた。大球体が地上に達した音だ。
オレは土竜もかくやと言う速度で砂中で方向転換し、一体の砂の王さまの真下から飛び出して、
「咆哮!」
中から炎のブレスを放った。微塵になって崩折れる砂の王さま。再生するかとも思われたがそれはなく。
「『冥王』!」
紫色の光がシャワーとなって崩れた砂の王さまに降り注ぎ、その時間を崩壊させる。
「お前のそれは無敵なの?」
「――!」
今のはカルパの声だ。声は東の砂の王さまから。こんな簡単に居場所をバラした? それに無敵かだって?
「負ける気は――ないよ!」
カルパが潜む(だろう)砂の王さまに向けて『冥王』のジョーカーを放つ。同時に他の砂の王さまが動き、東の砂の王さまにまとわりついて一体化した。紫のシャワーが横殴りの雨となって砂の王さまに浸透し、崩壊させる。
「――⁉」
しかし崩壊は強固になった砂を全て崩せず、表面四・五メートルを崩しただけだった。
力が奥まで届かない。絶対的なものだと思っていたアエルのジョーカーが防がれた。……いや、落ち込むな。続けて撃てばいずれカルパに届く。
しかしオレが撃つよりも早く砂の王さまの左腕が動いた。砂になっていない地面を建物ごと引っペがし、オレにぶつけてきたのだ。けどこれだけなら。
「咬牙!」
牙の力で崩れていく大地。
「行くよ、ロード・デザート。ジョーカー発動」
「――あ」
しまった。今のは時間稼ぎか。
平安京の全てが砂になり、高く上に昇っていく。
「なに?」
砂は一箇所に固まって、削られて、形を作っていく。あれは――そう、砂のお城だ。
「来なよ天嬢、俺は玉座にいるから」
砂のお城……どう考えても罠だらけに違いないだろうそれに飛び込んでいく必要はなく。
「ほうこ――」
「咆哮を禁じる」
「――う」
まっすぐお城に伸ばされた右腕からは何も出なかった。
あれ? 失敗した?
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