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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
154/334

第154話「……ありがとう」

おいでませ。

「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 バトル終了から十分。オレたちと合流したティアナとコリスだったがその姿はと言うと、コリスの両肩に腕を乗せてズルズルと脱力したティアナが引きずられてくると言うものだった。


「ま~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 け~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 た~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「ティアナ……痩せて」

「し~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 つ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 れ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 な~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 人間意識がある時よりない時の方が重く感じると言うが脱力したティアナの荷物としての重量は小柄なコリスが引きずり歩くには少々大変だろう。


「この姿勢で……一キロメートルくらいですぅ……」


 歩いたのは。意外に体力あるな。


(ヨイ)が勝っちゃうからぁ」

「ええオレのせい?」

「ほれほれティアナ、こっちおいで」


 イチゴシェイクをティアナの鼻先で振って気を引く涙月(ルツキ)。ティアナの鼻がぴくぴくと動いて、飛びついた。と思ったら涙月がシェイクの入ったカップを引っ込めた。テーブルに突っ込むティアナ。


「ひ、ひどい」

「冗談冗談。ほれ」


 今度こそストローをティアナの口に突っ込んだ。ずずず~と吸い付くティアナ。あっと言う間に表情に喜色が広がる。

 女の子って単純だなぁ、そんな事を思いながらオレもシェイクを啜る。

 ……なんかオレたち、いつも何かしら食べてる気がする……。太らないか心配になってきた。

 オレはちらりと目を横にスライドさせる。空は晴天。夏に似合うカラっとした天気で雲の白さが蒼天に際立って見える。にも関わらず横に座る女の子はと言うと、一人曇天を背負っていた。

 ララだ。

 護衛の青年リューズが病床についてからまだ目が覚めないのが気掛かりとの事。当然と言えば当然だが、ララが沈んでいれば復活すると言う話でもなく。


「……レースの神さま」


 鉄拳が飛んできた。


「危ないな! バトルが終わったのに頬に痣作るとこだったよ!」

「レースの神さまとか言うからでしょえっち!」

「スケッチ!」

「ワンタッチとか言わないわよ⁉」


 ……っち、ノリの悪い。


「ララ今日はレースじゃないのん?」

「う……っ」


 涙月に問われて――恐らく無意識に――スカートを手で押さえるララ。

 あ~……そうですか。


「えーなになに何の話?」


 こちらは復活したティアナ。興味津々といったご様子で目にコイバナと書かれていた。

 コイバナではないが。エロバナ?


「実はねぇ」

「言わなくて良いの涙月! 宵! あんたまだ今日一試合残ってるでしょ! 準備なさい!」

「まだ二時間ある――」

「ほら行くわよ!」

「えええええ」


 ララに首根っこをひっつかまれて引きずられるオレである。


「……悪かったわね、気を使わせて」


 少し皆から距離が取れたところでぽつりと、ララ。


「……ん」

「ああいたいた。宵」


 一言だけララに返した時、反対側の歩道から名を呼ばれた。

 見るとそこにいたのは。


氷柱(ツララ)さん」


『聖剣』地衣(チイ) 氷柱さんだった。

 おや? 横にいる女の子は?

 氷柱さんは少女の手を取ったまま近くに在る横断歩道まで行ってこちら側に来ると、ララを見て小さく会釈した。あ、そうか、ララの身分を知っているんだ。


「どうしました? 魔法処女会(ハリストス・ハイマ)の方は?」

「うん、この子が宵に逢いたがっていてさ。正確に言うと【紬―つむぎ―】所有者全員にだけど」

「この子?」


 言われて少女を見る。ツバの広い帽子を被っているから顔が見えない。それに気づいたのか少女が帽子を取って、オレはハッとした。


「アマリリス――」

「……宵……しゃがんで」


 花の名前を持つに相応しい可愛らしい声。オレは言われるままにアマリリスの前に跪いて目線を同じ高さに持っていく。

 アマリリスはオレの頬に両手を添えて。


「――!」


 アマリリスの感情が流れ込んでくる。

 これは――感謝? と、謝罪?


「ありがとう……皆が、悪くないから良い子でいられる」

「うん」

「それと……」

「おっと」


 続けて喋ろうとした唇にオレは指を当てて塞いだ。きっと「迷惑かけてごめん」と言い出すところだっただろうから。


「【紬―つむぎ―】がなくても動いたよ」

「……ありがとう」


 そう言って微笑んで。






 軽い邂逅があって、アマリリスは涙月の元へと歩き出した。

 アマリリスと氷柱さんに手を振りながらオレは横にいるララに言った。


「……う――」

「――らんだりはしないから大丈夫よ」


 静かに、ララ。


「……さいで」

「うん」


 表情を見ても良かっただろうか? でも何となく見られなかった。今はまだ笑っていないかも知れないから。






 そして二時間後――


『さあ両選手疲れは取れたでしょうか⁉』


 本戦第三戦準々決勝。


『日本中学生代表! 天嬢(テンジョウ) 宵選手!

 エジプト中学生代表! カルパ=パルカ選手!

 ここを突破すれば優勝は目前だ!』


 本当に優勝が見えてきた。オレは控えサークルに立って思う。もう少しで――幽化(ユウカ)さんに届く。

 けどその前に。

 会場の反対側にいるカルパ。彼をちゃんと見て、倒すんだ。


『フィールドを選定します!』


 ルーレットが表示され、針がくるくると回る。


『決定! 日本平安京です!』


 おお、まさかこんなところでお目にかかれるとは。


『ナノマシン収斂開始!』


 大気中に撒かれているナノマシンが集まり固まって、かつての魔都・平安京を造り上げた。


『両選手フィールドへ!

 カウントダウンを開始します!

 10

 9

 8


 3

 2

 1

 0! バトルスタート!』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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