第153話『『『信じろ!』』』
おいでませ。
☆――☆
「彼なりの『星章』だよ、ピュア」
「星章」
オウム返しに言葉に出す。
「うん。オーラとか気とも言うね。
海から生まれた戦士は海のエネルギー『士気』を操ると言うけれど星章は星の持つエネルギーだ。これは士気とは違って習得できない。才能とパペットシステムとの相性の問題なんだ。持っている人間は持っているし、そうでない人間は生涯持てない。
宵は持っている人間だった。だからこの大会は彼を目覚めさせるのにちょうど良かった」
「あの子に興味があるの、ユメ?」
「あるよ。同じ星章持ちとしては勿論、人としても好みだな」
「…………」
楽しげに語る僕――ユメにピュアは視線を投げかける。
「ん? むくれてる?」
「むくれてない」
「…………」
即座に否定してきたピュアに対して僕は手をのばし、
「どうして頬をツネってくるの?」
柔らかな頬を指で摘んだ。
「いや、可愛いなと思って」
「…………」
「痛い! 足をヒールで踏まないで!」
☆――☆
「避けられるならどうぞ!」
あちらこちらの影が棘となって襲い来る。周りに逃げられるスペースはない。
棘がオレのいる位置に迫り、突き刺さった。
「……やりすぎたかしらん?」
ちょっと顔色を青くするティアナ。しかしすぐにその表情は驚愕に変わり。
「黒鱗、八叫」
一つでも身長ほどもある黒鱗と言う盾を八つ顕現して全方位をがっちりガード。
からの。
「咆哮!」
「あっまーい!」
幾つもの影を伸ばし、幾重もの盾を築く。炎のブレスが一つ二つと壊していき、最後の斜めに張られた影で斜め上へと曲げられた。
「盾持ってるのはよーたんだけじゃないの!」
「そりゃそうだけどさ!」
「え?」
近くからの声にティアナが間の抜けた声を上げた。
影を消してオレの姿を確認しようとしたのが大間違いで、
「うっそ⁉」
斜影の盾に足をかけていたオレと目があった。
そのオレの手には細い光――炎――の刃がついた青銅の剣がある。影を破る気で振り上げていたのだがこれならティアナ本体を狙える。
「――て思った?」
「は?」
にやりと笑うティアナ。オレは消えていく影の上で何とかバランスをとりつつ既に剣を振り下ろしていて、間違いなくティアナに一閃当てられる場面である。
なのにティアナは笑っていて――姿が消えた。
剣から放たれた炎を伴う剣圧がフィールドを斬り裂く。しかしそこにティアナはいない。
影に逃げた? でもなんのアクションもなかったはず。
「これがスエロのジョーカーよん」
声は――後ろ。
「あれ?」
振り向きざまに剣を薙いだがそこにもティアナはいなかった。ただ少し光が乱れている。
光?
「光を操るジョーカー?」
「おしい! 光の中を移動できるジョーカーでっす!」
「皆光の中を移動していると思うのですが」
生きてるからには、ね。
「そんな冷静なツッコミは要りません」
「んじゃ何が違うのさ?」
極めて普通のテンションで聞いてみた。すると。
「光子を移動するのね。小さーな粒の中に侵入してほいほい飛んでいけるわけ」
「普通に話に乗ってくるとかおバカさんですか」
「…………」
返事がない。成仏でもしたのだろうか。
「だ、誰がするか!」
心の中の言葉に反応するティアナ。オレの心中を想像して言ったのだろうがきっと今頃顔を朱くしているのだろう。
「光子の中にいるって言うなら」
右手を掲げる。
「咆哮!」
炎を放ち、ぐるんと一周体をまわす。
「当たらないって!」
声は遠くから。当たらないのかも知れないが距離はとったらしい。影の攻撃は来ない。ジョーカーとは一緒に使えないのか?
ならば今のうちに。
「『獣王』!」
ジョーカー発動。フィールド全域を多面体のガラスで封じる時間凍結の力。
「……ティアナ」
返答はない。
「ティーアナ」
これにも返答はない。首尾良く凍結されられた。
「実況さん! この場合勝敗は⁉」
『え? えー……あ――ちょっと審議します!』
良し、相手が動けないままならきっと戦闘続行不可として勝てるはず。
と思っていたら――
「眩しっ熱い」
肌に当たる太陽光が強くなった。
雲から出たのかと思って顔を上げるとそこには。
「光が――」
オーロラがあった。
いや、まさか、ここで見られるわけが。となるとこれは――攻撃!
カ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
光の収斂、柱となって降り注いだ。
「黒鱗!」
八叫で全身を覆う。そこに降ってくる光。
重い。熱い。
光は凍結された空間を壊し、フィールドを壊し、
「光を操れるんだなこれが!」
どうやらティアナを自由にしてしまった。
「嘘つき!」
「おしいって言っただけだもん」
声には余裕が含まれている。
オレの方はと言うと光に押されて膝を折っていて。
「くぅ……防げないなら……吹っ飛ばす! 咆哮!」
「おお⁉」
咆哮の炎で光を押し返す。しかしそれも数メートル進んだだけで二つの力が拮抗した。
「な~る!」
「――!」
ティアナが光子から飛び出てきて迫って来る。両手に影の剣を携えつつ。
「く――!」
オレは咆哮を放つ右手を維持しつつ左手で青銅の剣を握り、振られた刃を捌く、捌く、捌く。
右手を自由にしないといつか押し切られる。
「――アアアアアア!」
気合一つ。咆哮の威力をなんとか上げてその隙に光の効果範囲から転がり出る。
「すっきあり!」
「ない!」
思った以上に鍛錬されているティアナの剣捌き。しかしこちらとてちゃんと鍛錬を積んでいる。
オレとティアナは何度も剣を捌き合い、互いに浅い傷をつけていく。
そんな時ティアナの唇が弓なりに歪んだ。笑ったのだ。
「レイ!」
「――⁉」
先ほどの光の柱が――十倍の範囲で降ってきた。
「咆哮!」
「ムダだって!」
「八叫!」
「は?」
首八つ分の咆哮。奥の手だったそれを出して光の滝を受け止める。
「――⁉ 押される⁉」
叫んだのは――オレ。
「――あっぶな……でもってチャーンス!」
ティアナの目がキラリンと光る。
この隙に斬りに来る気だ。
慌てるなオレ。ティアナはきっと重傷を負わせる攻撃はしてこない。それをいなして剣で足を斬る。
それまで咆哮は耐えられるか? 押されているのに。
『慌てるな』
――! アエル⁉
覇王の声だ。
『儂を』
『私を』
『俺を』
『我を』
『うちを』
『自分を』
『手前を』
『小生を』
『『『信じろ!』』』
咆哮の色が変わった。白かったものが桜色へと変色し、炎の激流だったものが巨大な一匹の蛇へと変貌した。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「「――⁉」」
オレの手を離れレイを喰い飲み込んでいく桜蛇。
オレもティアナも口をぽかんと開けてその姿に魅入っていると、桜蛇の目がぎょろりと動いてティアナを見つけた。
「え? ちょっと?」
桜蛇に睨まれ動けなくなるティアナ。そんな彼女にゆっくりと近づき、
『ガァ!』
ひと吠えする。
「ひっ」
ペタンとお尻をつくティアナ。
「ご、ごめん神巫……わたしここでリザイン」
『バトル終了! 勝者天嬢選手です!』
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