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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
150/334

第150話「――お帰り、二人共」

おいでませ。

☆――☆


「――たくっ、クリミナトレスのバカ」


 重力爆発と言う難を逃れて、マレフィキは宙から地を見下ろす。その地上は広範囲に渡ってポッカリと穴が空いたも同然の姿で。


神巫(カンナギ)~? 死んだ~?」


 ほんの少し期待を込めているような、地上へと投げかけられる言葉。向こうからしたらわたし、神巫(カンナギ)も重力爆発に巻き込まれたタイミングだったのだ。期待するのも無理はあるまい。

 しかし。


「わたしが死なないのは想像つくでしょう?」

「――⁉」


 声はマレフィキの上からだった。すぐに上空を仰ぎ見るがそこにわたしの姿はない。


「くそっまたか!」


 見る事叶わず。

 パペット『一朶(イチダ)』のジョーカー、自らの体を音波に変換する能力である。


「だけど!」


 叫ぶマレフィキ。伸ばした腕の手首で何かが回転を始めた。

 回転、それは宇宙に於いて重要な現象だ。


「――らぁ!」


 回転の範囲が広がりマレフィキの体をボール状に包む。


「これならどこから攻撃されたって! ――⁉」


 歌だ。歌が響いている。わたしの歌が。

 回転の力が弱まり、止まってしまった。


「こなくそっ! 『ボルテックス』!」


 マレフィキのパペット、歯車でできた人形・ボルテックス。


「同化するわよ!」


 再び響く、歌。


「『ウォーリアネーム! 【かんらからから世界の破壊を】!』」


 ところが同化――できずに。


「なに⁉」


 それだけではない。ボルテックスを形作っていた歯車がぽろぽろと崩れ出している。


「か・ん・な――⁉」


 焦りと苛立ちを隠さず表情に出すマレフィキ。だけどその手の先が消えているのに気がついた。


「ちょっと!」

「音波にできるのはわたし自身だけじゃないの」

神巫(カンナギ)!」


 指先から腕へ、腕から肩へ、肩から首・胸に。どんどん分解されていく。消えた体が音波になり、音符になり、一つの楽譜になっていく。


「因みに、わたしが求めない限り楽譜化した体は戻らないから。貴女の楽譜から貴女の力を引き出せるけど」

「待て! ちょっと!」


 涙目になって訴えるマレフィキ。


「もうわたしたちに敵対しない?」

「しない! しないから!」

「わかったわ」


 楽譜化が止まった。止めたのだ。残っているのは頭と腰から下だけだがこれなら戻れば誰かが何とかするだろう。その通りだと言うように――


「するに決まってんでしょ!」


 その瞬間、マレフィキは理解すらできずに音波になって消えていった。

 姿を元に戻すわたし。

 散っていったマレフィキの(コア)を確実に砕こうと固形化させたすぐ後に、後ろから首に腕を回された。


「――⁉」

「動かないで」


 ひんやりとした吐息が耳を撫でる。


「……誰?」

「ピュア。仮想災厄ヴァーチャル・カラミティのママ」

「!」


 ピュアの手がマレフィキの(コア)に伸びて、握った。


「ごめんね。帰してもらうから」


 ふと、得体の知れない冷たい拘束が解かれた。

 周囲を見回しピュアの姿を探す。


「――! コリス! ティアナ!」

「「え?」」


 急に名を呼ばれて二人はわたしの姿を探す。


「クリミナトレスの(コア)を砕いて!」

「ムダ」

「「――⁉」」


 時すでに遅しとはこの事か。既に(コア)はピュアの手の中に。


「誰あんた⁉」


 ピュアはティアナの問いには応えず、二つの(コア)を口元に運ぶと―― 一息に飲み込んだ。


「――お帰り、二人共」

「ツィオーネ!」

「スエロ!」


 パペットを向かわせる二人。しかし。


「バイバイ」

「「――っ!」」


 何らかの力が働いて二人のパペットは弾き飛ばされ、その力がユーザーである二人も弾き飛ばした。

 けれどその隙にわたしが接敵していて音波の剣をピュアに向けて振るう。


「――!」


 もう数センチで当たる、と言うところで音波の剣に細い光の十字架が突き刺さった。


「バイバイ」


 ピュアの銃の銃弾を受けて、わたしの胸に光の十字架が突き立つ。

 倒れるわたしの姿を見ようともしないでピュアは光に包まれて姿を消してしまった。


「……やれやれ」


 ムクリと起き上がる――わたし。

 銃弾を受ける瞬間体の一部だけを音波に変えて難を逃れたのだ。


「コリス、ティアナ、無事?」

「何とか。痛いですが……」

「ですぅ……」


 服や体についた砂や土を払いながら起き上がる二人を見てわたしは一つ柔らかく微笑んで。


「……ピュア――仮想災厄ヴァーチャル・カラミティの母――」


 言葉と同時に彼女の姿を思い出す。人の体は一定の温度を持っている。ピュアだってそうだろう。けれど彼女の体は――彼女の態度には温度がなく。あれは感情を捨ててしまった人間の温度だ。

 そう言った得体の知れない人間を相手にするのは中々に難しい。


「はあ……ユメもとんだ子を妻にしたものね」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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