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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第15話「ね? これが旅行のテンション、ハワイマジック」

いらっしゃいませ。

「パラセーリングもやっるぞー!」


 マジかぁ。

 オレちょっとビビってますよ涙月(ルツキ)さん。


「え? よー君別に高いとこ苦手じゃないよね?」

「『高い』と『速い』と『不安定』が重なると苦手」

「あーそっかぁ。良し、いっくぞー!」

「あ、聞いた上で強制連行なんだ」


 まあ良いけどね。

 せっかくのハワイだからオレも少しくらい背伸びして遊びたいし。

 ただお金が心配だけど。


「よー君、男の子ならその辺気にしなさんな。

 慎重なのは美徳の一つだけど女の子を引っ張っていける勇気も美徳だよ」

「勇気」


 勇気、か。

 そう言われると考えさせられる。確かに慎重すぎるとそれは臆病ともとられかねない。

 そうなると女の子どころか同性にも嫌われてしまう。

 ……イヤだな。

 イヤだと感じるならば、意識して変えていかなければ。


「うん。わかった。

 行こう涙月」

「おっけ。

 素直なのも美徳だよ」






 で、午後五時が過ぎた。

 自由時間は終了し六時までにはホテルに帰らないといけない。遅れたら普通に怒られてしまうだろう。


「ふむ」


 自分の腕を触ってみる、オレ。

 ちょっと日焼けしたかな。健康的な日焼けなら良いけど真っ黒になったらどうしたもんか。


「お待たせー」


 と、水着から私服にナノマシン衣料をチェンジさせた涙月が合流。

 ビーチを管理しているところが用意してくれていたシャワールームから出てきたところではあるが、


「涙月、髪まだ濡れてるよ」


きちんと乾いてはおらずに。


「これねぇ、これくらいなら自然乾燥するかなって。

 海水でキシキシになったとこにドライヤーかけすぎるのも髪に悪そうだから」


 成程。まだまだ子供だと思っていたが涙月もこう言うのに気を遣うようになったのか。

 去年一緒に海に行った時は「若さで乗り切る!」って言ってたのに。

 女の子って一年経つと変わるんだな。

 こんな事を思っていると少し強い風が吹いた。その風は涙月の髪をさらい、オレの顔にパシンと当てて。


「あ、ごめん」

「……ん、大丈夫」


 痛くも痒くもなかったし。

 ただ、変わらないものもあるんだな、と思った。髪の香りとか。柔らかさとか。

 ……なんだろう? 昔は普通に触ったりしていたのに今はなんか、恥ずかしいな。

 オレも変わったって事だろうか。


「ここからホテルまでどれくらいだろ?」

「二キロメートルくらいだから歩いて二十分って感じだよ、涙月」

「んじゃ六時には余裕で間に合うね。

 今は五時十五分だ」

「うん」


 とは言え道中に何があってどんなものに目を惹かれるかわからないから素直に帰路につかなければ。

 早速歩き出す、オレたち二人。


「いや~カップル多いねぇ」

「ん。

 家族連れも多いね」


 そして外人さんの水着が大胆。言わないし目も向けないけれど。


「この旅行でくっつく学生多いとみた」

「ええ?

 そんな簡単にいくかな」

「ちょーと、イヤかなり心が解放されるから大胆になっちゃうんだよ。

 よー君も告られるかも?」

「まさか」


 なんて事を話していると、とある学生に帰路を待ち伏せされて呼び出された。

 オレではなく涙月が。先輩の――三年生の男子に。

 ……こう言う展開もあるのか……。


「行ってきて良い?」

「ダメ。……え?」


 自分で驚いた。こんなストレートに「ダメ」なんて言葉が出てくるとは思わなかった。

 や、涙月がコロッと転がるとは思ってないけれど、なんか、イヤなので……。

 涙月の方もオレのはっきりとした意思表示に少しばかり驚いたらしく目をぱちくりとさせて。そして柔和に微笑むのだ。


「先輩、ごめんなさい」


 微笑んで、先輩に向けて頭を下げる。

 先輩男子は涙月の「ごめんなさい」に思わず半歩ひいて、オレの方を睨んできた。

 オレは睨み返しはしなかったけれど一歩も引かずに彼の目を見つめ返す。

 そうすると向こうも申し訳なさそうにして去って行って。

 ここでようやっと涙月は下げていた頭をあげた。

 そして言うのだ。肩に乗せているクラウンジュエルに向けて。


「クラウン、よー君の『ダメ』撮った?」

『撮ったである』


 なんといつの間に録画モードに。


「消してください」

「将来流すのでイヤです」

「……流す?」

「式で」


 ああ、式で。ネットに流すとかじゃなく式ね。はいはい。了解です。

 ……待て待て。


「どんだけ気早いんだ!」

「声でか!」






「ほい天嬢(テンジョウ)高良(タカラ)合流と」


 ホテルに辿り着き、担任教師に戻ってきたむねを報告。ずっちー先生はオレたち二人が提示する学生手帳をスキャンしてバイオメトリクス認証をして、本人確認。受け持つ学生の名前が書かれた書類に印をつけた。


「夕食は七時から二階の食堂でだ。

 それまでホテルの部屋で大人しく待つ事。

 良いか?」

「「はい」」

「ん、行って良いぞ」


 通せんぼする形で陣取っていたずっちー先生が横にずれて、オレたちはホテルの中に入る。

 入ると夕方だと言うのにちょっと暗くて。なんでライト暗くしてるんだろう? と思ったのだが、理由はすぐに判明する。


「おお、なんか面白い」


 言いながらぴょんぴょん兎のように跳ね回る涙月。

 彼女の足元では、床に着く足に合わせてエフェクトが煌めいていた。

 はあ、床にこんな仕掛けがあったのか。

 当然オレの足元でも広がるエフェクト。

 これは確かに暗くした方が映えるな。かっこいい。


「階段から行こうよよー君」

「え? 結構昇るよ?」


 男子は十階から二十階、女子は三十階から四十階なのだが。歩いて昇るにはきついのでは?


「部屋に着いたらしばらく会えないし」


 ……一時間強なんだけど……。


「もちょっと床で遊びたいし」


 面白い床ではあるけれど……。


「……体力は大丈夫?」

「若さで乗り切る」

「……了解。行こう」


 エレベーターホールをスルーして、階段へ。

 行ってみるとなんと、同じ事を考えたのか学生さんカップルが何組か居たりして。

 最初はスルーしあっていたのだが皆が皆ゆっくりと昇るものだから顔を合わせてお互い気まずそうに苦笑。

 次第に距離が離れていき、小声で話すようになり、いちゃつきだすのだった。


「ね? これが旅行のテンション、ハワイマジック」

「……う、うん」


 ハワイ、恐るべし。


「あ、もう階段終わりか」


 少し残念そうに、オレ。

 ゆっくり昇ったからだろう、体力は何も問題なかった。

 床のエフェクトも楽しめたと思う。

 ただ他のカップルに気を使って会話は最低限だった。そこが心残りか。

 涙月も同じ気持ちだったのか十階の廊下へと続く一歩前で立ち止まっていたり。

 しかしやがて後方にいたカップルさんが追いついて来てしまい、


「ふぅ、ここまでだね」


残念そうに涙月は笑う。


「部屋に戻って一人だったら通話しようねよー君」

「ん」

「ほいじゃ一時バイバイ」

「バイバイ」


 上へと昇っていく涙月を姿が見えなくなるまで見送ってオレは部屋に戻った。

 残念ながらそこにはルームメイトがいて、涙月の方からも通話の要求はなく大人しく食事の時間を待ったのだった。






 食事はビュッフェスタイル。ただし座る場所は決まっていて涙月とは一緒になれず――男女別だからだ――食べながら教師陣による今後の予定の確認が始まった。


「明日は事前に募った参加希望者による天文台見学でーす」


 全員で行くには人数が多いから、である。

 オレと涙月は見学参加者だ。

 夜は学生出歩き禁止だから日中の見学となる。


「不参加の生徒はホテルと隣接しているショッピングモールを自由に使っていただいて構いませんが先に言ったように異性の部屋に入るのは厳禁ですよー」


 このタイミングで上がるのは「ちいっ」と言ういくつもの声。……オレではない。


「明後日は天文台見学不参加組による火山見学です。

 これまた不参加組はホテルとモールにてすごしてくださいねー。羽目は外しすぎないようにー」


 因みに見学を同日に行わないのは見学組に同伴する教師陣を少なくし、彼らにもホテルで休養をとってもらう為である。


「で、最終日である明々後日の午前はパペットウォーリア前哨・学校別代表決定戦になりまーす。

 参加者は予定時刻までに指定場所に集まってくださいねー。

 見学もしないって不参加組はホテルですよー」


 これにオレも涙月も参加する。

 ここで敗けたら意味がない。必ず突破しなければ。


「午後になったらバスとアーミースワローで帰国になりまーす。

 ハワイとさよならするのでお土産はそれまでに買っておいてくださいねー」


 オレの場合土産は火山見学組が行っている間に買うのが良いだろう。荷物になるとあれだからと今日はあんまり買ってないし。

 さて、何を買おうかな。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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