第148話「「うっさい爬虫類」」
おいでませ。
「確認。何をしに来おった⁉ この二人の相手はこのクリミナトレスであるはず!」
「やかましい!」
ガン! 頭部を蹴られて轟音が響く。
「痛い。頭を蹴るのやめないか!」
「行こっかコリス」
「あい」
「そこ待てーい!」
「「痛い!」」
マレフィキの標的がわたしたちに移り、頭を蹴られた。ひどい。
「ちょっとこの髪整えるのに毎朝どれだけ早起きしてると思ってんの⁉ わたしくせっ毛なのよ⁉」
「バカなの⁉ アタシだってそうだ!」
「わたしコリスの髪の毛は柔らかいですよぉ」
「「羨ま!」」
「呆れ。結局何をしに来たのだお前は?」
ため息一つ零すクリミナトレス。翼も畳んで寝っ転がりつつ。
「こっちにアタシの標的が逃げてきたのよ」
「じろり。お前だろう逃げてきたのは?」
ひく、とマレフィキの口の端がひくついた。どうやら図星だったらしい。
「な、なんでそう思うのよ?」
「笑い。背中背中」
「背中?」
首を捻るマレフィキ。しかし体が硬くて肩しか見えないようだ。
「嗤い。げらげら」
「ふっ」
「あはははははははは」
「うるさいわねあんたら!」
顔が朱くなっている。まるで人間のような反応。この仮想災厄、話せば通じるんじゃないかな?
「で? 背中がどうしたのよクリミナトレス?」
「読もう。『二十二世紀はにわ・マレフィキ号』と書いてある」
「なんですってぇ⁉」
「大慌て。ちょ――」
「わ~お」
「止まんなさいマルフィキ! ここで脱ぐな!」
上着を脱いで確認しようとするマレフィキ。そのすぐ下にあるお臍があらわになって危うく下乳が見えそうなところで止まった。いつの間にか消えていた衝撃波の壁の向こうから男たちが「ひゅ~」と口笛を鳴らしている。
「み・る・な」
男たちを睨みつけるマレフィキ。睨まれた男たちは素直に視線をそらす。
「?」
全員がそうした事にティアナは疑問の目を向ける。
「ふん。アタシは制圧プログラムよ? 人の心を奪うの」
大胆に笑うマレフィキ。しかし背中の文字がどうしても笑いを誘ってしまう。
「ああもう!」
もう周りの視線なんて関係ない! とばかりに服を脱いで――スポーツブラが見えた。
「ちょっと貴女、見た目十七・八くらいなんだからちゃんとしたブラ着けた方が良いんでないの?」
「…………」
ティアナの台詞にマレフォキは苦い顔になって。
「着けようとしたわよ……ただね……ただ……サイズがなかったのよ……」
「あーぺたんこだから?」
「ぺたんこ言うなー!」
「うっぷ」
脱いだ服をティアナの顔面に叩きつける。
「汗臭!」
「さっきまでバトってたんだからそうなるわよ! 文句ならあんたたちのボスに言いなさい!」
「ボスですかぁ?」
「そうよ神巫よ! あいつを襲ったのよ!」
ぴたっとわたしとティアナの口が止まった。二人は無言で視線を交わし、
「それは、看過できないわね」
「――――へぇ」
細められるティアナとマレフィキの目。
「止まれ。この二人の相手はこのクリミナトレスである」
「「うっさい爬虫類」」
「ショック。はちゅ――⁉」
「『仮想災厄は頭を垂れて』」
「「――⁉」」
耳元で囁かれたかの言葉。クリミナトレスとマレフィキは理解できない強制力に膝をついて額を地面に擦りつける。
「これ……は!」
「はーいコリスにティアナ」
「「神巫!」」
現れたのは艶のある髪を腰まで伸ばしたスラリとした体型の女性。歌手『巫』であり魔法処女会教皇『神巫』その人である。
「神巫~」
胸に飛び込むわたし。ダイブを優しく受け止めてくれる神巫。
「怖かったコリス?」
「うんにゃ」
胸に抱かれたまま顔を横に振るわたし。
「なんだ、助け必要なかったかしら?」
「遊んでたから!」
「複雑。遊んでおったのか⁉」
クリミナトレスは大仰にショックを受ける。
「か・ん・な・ぎ~」
恨めしそうな目を向けるのは額を地面につけたままのマレフィキだ。
「よくも落書きしてくれたわね⁉」
「ふ、スポブラで凄んでも怖くないし」
「ああ忘れてた!」
「あ、ごめんもう服燃やしちゃった」
と、ティアナ。
「あ・ん・た・は~!」
「ほら、着たら? 一応女の子なんだから」
持っていたバッグから自分の予備の服――衣料ナノマシン発生ブレスレットを投げる神巫。
「わたしサイズに調整してるけど」
神巫はパペットを――ハチドリに似た浮遊する小さなマイクを出して『言霊』の呪縛を解いてあげる。
起き上がったマレフィキはいそいそと服を着て。
「……バスト部位が大きいんだけど」
「だってわたしサイズだもの」
そこそこある胸を張って、神巫。
「…………」
自分の胸に手を当てて凝視して、マレフィキ。
「……神巫」
「うん」
「殺す」
「え~?」
いわれなき殺意である。
「やるわよクリミナトレス!」
「驚き。この流れで⁉」
戦う理由はそんなもんで良いらしい。子供ですか。
「コリス、ティアナ」
「「はい!」」
バトル――再開。
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