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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第146話「ちょっと痛いだろうけど気絶させるだけだから!」

おいでませ。

「ん?」


 何かに弾き飛ばされていたゼイルの体を横たわらせてその上に獣が脚を下ろしていた。黒い毛並み、白い爪、銀河色に輝く炎のような鬣。普通のそれよりも一回り大きくどこか幻想的な体躯。(ヨイ)の姉のパペット『ねうねう』だ。

 ねうねうは(オミ)が近づいたのを認めると足を退かせてどこかへと行ってしまった。


「誰だか知らないけどサンキューです!」


 絞首刑のロープを顕現してゼイルを縛り上げる。しかし。


「ソル――ジョーカー」


 ロープが霊光に変わり解けていく。


「厄介な力!」


 それだけではない。真っ黒な十字架が建てられゼイルのお化け空間へと周囲が変貌する。

 一帯に魔力が満ちた証拠である。

 ゼイルは闇色の戦斧を顕現すると臣に向かって打ち下ろす。


至宝の果実(アップル)!」


 四方八方から根が伸びてきて臣を包み戦斧からガードする。戦斧の斬撃が根を襲い、断罪し、通り過ぎていく。斬撃の跡は都市に無残に残り、臣の張った根の大部分を切り裂いた。


「あっぶな……」


 紙一重で無事だった臣。咄嗟に顔を庇った腕は浅く斬られていたが痛がっている余裕はない。


「よっくも乙女の柔肌を~~~~~――⁉」


 お化け屋敷の影から杭が伸びる。臣を貫かんと襲い掛かり、一方でゼイルを乗せて空高く登っていって。


石抱(イシダキ)!」

「――!」


 ゼイルが無理に座らせられ、膝の上に石版が載せられる。影の杭から落ちるゼイル。ゼイルは地面を闇色の水に変えて落下のダメージを防ぎ、すぐに地面をボロボロの木の床(元アスファルト)に戻して浮上する。石は膝に載せられたままだ。が、それも杭によって砕かれる。


「振り子!」


 三日月型の刃がロープによって垂らされ、ゼイルの侵入を拒むある種の結界が臣を守り、


「電気椅子!」


で以てゼイルを封じる。


「ちょっと痛いだろうけど気絶させるだけだから!」

「――アアアアアアアアアア!」


 電気椅子に電流が通される。電圧は勿論抑えているが人が気絶するには充分な威力だ。

 かくんと力なく首を折るゼイル。


「ゼイル! あんたソルの力で霊界とか具現できない⁉」


 ゼイルの襟を乱暴に掴んで叫ぶ臣。それが彼の意識を覚醒させ、

「……やった事……ないな」

「やって! プセウドテイだけを霊界送りにすんの!」

「霊界送り……」


オウム返しに言うゼイル。そうして理解しようとしているのだ。


「悪霊退散とも言う!」

「……無茶な……」

「無茶でもや――」


 その時背後で轟音がした。臣が振り返った先でオレの体がレーザーに打ち抜かれていて。


「アトミック⁉」

「――――――――――はっ! はぁ!」


 大きく乱れた呼吸。息を吸って吐き出すオレ。


「何したん⁉」

「ドレッドノートを体内のプセウドテイに潜水させて……撃ってやった……」


 グッと親指を立てる。手は震えていて自身にもダメージがある事を臣に告げる。

 だがこれで。


「ほら! あとはあんただけだよ! 自分で何とかして!」

「……くっそ……オオオオオオオオオオオ!」


 雄叫びを上げるゼイル。体が霊光に包まれて、彼の周囲に闇色の十字架が現れては消え、現れては消える。


「――あ!」


 臣がそれに気づいた。ゼイルの体が透けていく。


「ダメダメ! あんたまで逝く!」

「この――――――――!」

「……臣」

「え?」


 ゼイルに集中していた臣の肩にオレは弱った手を置いた。


「お前、手伝ってやるんだ……オレじゃゼイルまで撃っちまう」

「手伝うって?」

「処刑具でプセウドテイとゼイルを少しでも剥がすんだ」

「やった事ないよ!」

「それをゼイルにもやらせてるんだろ? 臣だけ逃げて良いのか?」


 オレを肩越しに見る臣の表情がムッと歪んだ。少しプライドを刺激されたらしい。臣はゼイルの方に向き直ると、


「やってやろうじゃん」


不敵にも笑った。


「処刑人の剣!」


 臣の手にエクセキューショナーズソードが握られる。彼女はそれをゼイルの首に一度当てると、離して振りかぶる。扱い慣れていないせいか不格好な剣の握り方だが、今だけは失敗できない。確実にプセウドテイの首だけを切る。ちょっとでも良いからゼイルの力が流し込まれる為の隙間を作る。


「せーの!」


 ひと思いに臣はエクセキューショナーズソードを振り下ろした。

 刀身がゼイルの首に当たり、殆ど衝撃を感じさせない手応えでするりと抜ける。


「…………」


 怖くてゼイルから剣へと外していた視線をゼイルの首に向け直す臣。

 首は切れて――いなかった。

 ゼイルの叫びが止まっている。うまくいったのだろうか?


「――――アアアアアアアアアアアア!」


 繰り返されるゼイルの叫び。これは苦しんでいるものではない。気合だ。

 一つ大きな闇色の十字架がゼイルの心臓を貫いて――ゼイルが呼吸を荒くした。体から霊光が溢れる。闇色の十字架は霊光に変わり、ゼイルへと降り注ぐ。

 ゼイルが俯いていた顔を上げて、汗だらけの顔に弱々しく笑みを浮かべた。


「どうだ……追い出してやった……ぞ」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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