第142話「『星章』⁉」
おいでませ。
小宇宙がパペットってチートか。いや【COSMOS】もだけど。ん? 待てよ?
「涙月下がって!」
オレの叫びに応じて涙月はバックステップですぐに離れる。
【COSMOS】を再起動させ、フリアエに何百発ものミサイルを浴びせる。
「おう容赦ないねよー君」
「だから使いたくなかったんだけどちょっと確かめたい事があって」
黒煙を上げる爆心地。もし膂力が上がっていなければ爆風だけでも吹き飛ばされていただろう。
中心にいたフリアエは――
「ふぅ、酷いな」
オレの黒鱗をボール状にいくつも出現させて爆砕の力を防いでいた。やっぱりだ。
「【COSMOS】はフリアエの宇宙には存在しない、だね?」
「うん」
意外や意外。あっさりと認めてきた。
「だからさ」
フリアエの目が細められる。
「貰おうかな、それ」
「あげないけど」
「力尽くで奪うさ!」
――⁉
目の前が真っ暗闇に覆われた。いや所々に光点がある。光点の色は様々で、輝きの強さも様々だった。
宇宙――、と呼ばれる空間だ。
どう考えても呼吸不可能なので【COSMOS】で体の周囲に地球大気圏要素を瞬時に纏った。おかげで無事だが、右に手を伸ばしても左に手を伸ばしても壁はなく、足もプランと浮いている。
けれど宇宙空間に飛ばされたにしては少し違う感じがする。
「よー君無事ー?」
涙月の声が聞こえる。後ろから、だろうか?
「涙月! フリアエは?」
「消えちゃったよ。君に真っ黒な布をかぶせて」
「布?」
ここはその中なのか。
「丸っこくなってるけど、確かに布だったよ? そっちどんな状況?」
「こっちは――」
そこまで言った時こちらに迫って来る何かを感じた。顔をそちらに向けると目の前が何かに塞がれて。
「――嘘っ」
岩石だ。全長一キロメートルはありそうな岩石が超高速で迫ってきたのだ。勿論それに反応できる程の動きはできずオレは黒鱗で直撃を避けた。が、重い。飛翔がほとんど役に立っていない。しかも足元が覚束ないせいで踏ん張れず勢いそのままに背後に飛ばされる。
「こ――の! え?」
今度は背後から岩石が飛んできた。オレはもう一つ黒鱗を出して岩石の直撃を避ける。左右から掛かる圧力に骨が、筋肉が、神経が悲鳴を上げている。
「――アアア!」
アエルの飛行飛翔能力を最大にして岩石からの脱出を試みる。黒鱗が当たっている岩石の表面にヒビが入り徐々に岩石が砕けていく。
抜けられる。
と思って体を動かしたのに。
「――!」
目が焼かれるような超超高熱が行先で放たれた。
極小の太陽。それに先を塞がれる。
極小とは言えど大きさは十メートル程あり、感じる熱に肌まで溶けてしまいそうだ。
「咆哮!」
消しされるとは思えないが、それとは別に飛翔の勢いを殺す必要があった。
咆哮の炎は極小太陽に飛び込み、その表面をなぞって数瞬だけ極小太陽の炎を押し留める。
同時に体は止まり、熱で溶ける岩石を避けながら飛翔方向を変えて脱出する。
すると極小太陽は急激に収縮し、爆発した。
「うぁ⁉」
吹き飛ばされ――今度は逆に吸い込まれる感覚。極小太陽が消えたそこにブラックホールがあった。
まずい!
右腕が吸い込まれ、手の先から白い灰になって消えていく。
「く――そ……【COSMOS】!」
オレはホワイトホールを作り出しブラックホールにぶつけた。二つの穴は歪んでぐるぐると回転しながら混ざり合い、静かに消えていく。
「あーあ、右手が」
「――⁉」
灰になって消えた指先に背中から伸びてきた手に触れられた。
すぐに青銅の剣で肩ごしに突く。
「おっと」
しかし剣はフリアエに容易く掴み取られてしまい。
「邪魔なものから――ゆっくり消そうかな! ジョーカー!」
黒いもやが広がった。
なに⁉
剣の顕現が解けていく――違う。本当に消されていく⁉
「――――アアアア!」
叫び、青銅の剣に咆哮の炎を纏わせる。
微弱ながらに発光するオレの体。
「気合⁉ 『星章』⁉」
『セイショウ』とやらが何かはわからないが、フリアエは目を瞠り、黒いもやの出力を強めた。
「アアアアア!」
「オオオオオ!」
光ともやがせめぎ合って同時に消滅。
「才能⁉ 【COSMOS】のせいか⁉ 教えられてもいないのに『星章』でダークマターを消すなんて!」
「よー君避けて!」
「「――⁉」」
涙月の声が終わると宇宙が渦を巻いた。ブラックホールではない。渦は尖ってどんどん大きくなっていく。
そうかこれは!
「どこに避ければ良いんだよ⁉」
オレは叫んでみるも渦の肥大化は止まらずただ防御にのみ意識を向けた。
その途端渦が宇宙を壊し光が降り注ぐ。
「――っちっ!」
舌打つフリアエ。しかし渦に巻き込まれながらもオレに向けて大量のダークマターを放ってきた。だが遅い。
壊れる宇宙。光が降り注ぎ――気づけば景色は元いた場所に戻っていた。
「共鳴!」
「⁉」
フリアエの声に振り向くと涙月のランスがフリアエを突き刺す寸前で。
「涙月!」
「か・ま・う・か!」
共鳴状態にある体などお構いなしに涙月はフリアエの胸の中心をランスで突き刺し、
「開放!」
ランスに吸収したフリアエのアイテムである布の――宇宙の力をフリアエの体の内に解き放った。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!」
圧倒的な存在に内側から壊されるフリアエ。涙月の体にもフリアエと同じくヒビが入っていく。
「涙月!」
「だいじょうブイ!」
ランスを抜いて、自らの腹に突き立てる。
涙月の体を蝕む力がランスに吸収され、傷までも吸い込み、ランスを地面に突き立てた。開放された力が道路を壊し、マンションやアパート・ショップまでも破壊し、倒壊させる。
周囲一帯を飲み込んだ力はゆっくりと消えて行き、フリアエの核とウァサの核・それと銃が転がった。
「よー君、傷吸収するよ」
「うん……ありがとう」
「? なんで光ってんの?」
「え?」
言われて体を見る。あ、ほんとに少し光っている。色は――――ピンクだった。桜色と表現しておこう。
「『セイショウ』とか言ってたけど……」
以前幽化さんがいずれわかると言っていた力、だよね?
「? ふむ」
つんつん、と指で光を突く涙月。
「生暖かい……死後直後のようだ」
「やめてください」
「ま、とりあえず傷を――どした右手⁉」
ああ、先っぽ消えてたっけ。痛みないから忘れてたけど。
「ごめん。説明するから、治してくれる?」
「……そだね。まず治そう。堕天させられた人たちも治してあげないと」
核二つと銃が光に包まれ消えていった事に気づいたのは堕天を治して一息ついた後だった。
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