第140話「正義なんて結局自分の為じゃん?」
おいでませ。
☆――☆
「フリアエ――人類共鳴プログラム」
オレは彼女――いやよくよく見てみると美少年、か? とにかく彼の自己紹介を繰り返す。
以前少しだけ見た仮想災厄だ。薄い水色に輝いて見えるショートにした髪。どこかのゲームにでも出てきそうな独特の赤い衣装。一見して高校生くらいに見えるが容姿と年齢が比例しているとは思えない。
「戦いに来た――で良いのかな?」
「そうだね。ああ言っておくけど【覇―はたがしら―】に吸い込まれている【紬―つむぎ―】を分離させてアマリリスとの繋がりを絶ってくれれば戦わなくて良いよ」
にっこり笑って手を差し出すフリアエ。【紬―つむぎ―】を載せろの合図だ。
「それで君がアマリリスと繋がって仮想災厄として利用するんだろ?」
「うん」
悪気のない表情で。彼は自分の大義が本物だと信じている。いや生まれ持った存在理由と言うべきだろうか? もしオレが戦時下に生まれていたなら戦いを宿命づけられるのと同じに。
それゆえに彼はきっと退かない。
「アマリリスは渡せない」
「どうして? 君たちとアマリリスの間に絆なんてないはずだよね? むしろ怖がらせられた記憶があるんじゃない?」
確かに。最初彼女のパペットが現れた時は素直に怖かった。けどあれはオレの中にあった不可解なものに対する警戒心が働いたのであって嫌う理由にはなっていなかった。
ならば好いているかと言われるならその答えは。
「オレはアマリリスを護るよ」
以前した宣言通りだ。
「はぁ」
バリバリと頭をかくフリアエ。折角の綺麗な髪がボサボサになってしまった。
「どうしてかなぁ? 日本人て甘いよねぇ。面倒事なんか避けて通れば良いのに。正義なんて結局自分の為じゃん? 貴方の為とか本気で思ってるわけじゃないよね?」
「いやそもそもアマリリスの為なんて言ってないし」
護る。これはオレが考え、下した決断だ。
「…………」
「…………」
「はははは」
「へへへへ」
「二人ともキモいよ?」
「「キモ⁉」」
好きな子にキモい言われると結構傷つくんですが。
「まあ良いや。
んじゃ、宵、涙月、二人から【紬―つむぎ―】を貰うって事で」
「「――⁉」」
身構えた瞬間、『そいつ』はいきなりオレたちの背後に現れた。
オレと涙月は左右に分かれて飛び、その真ん中に岩が落ちた。ビルもショップも吹き飛ばして直径十メートルくらいのクレーターができて、
「「「わぁ⁉」」」
吹き飛ばされる無関係の人たち。なるべく人のいない公園を選んだのだが無人とまではいかなかった。
「くっはー!」
男がクレーターの中央に着地。
緑色に輝く綺麗な短髪。緑と色は違うがフリアエに似た衣装。しかしその獰猛な笑い顔は笑うと言うより嗤うに近い感じがした。
いなかった。背後にこんな男はいなかった。
「なんでぇ⁉ 知らなかったのか⁉ 俺らはリアルとサイバー両方に存在できるんだぜ⁉」
つまりネットワークに潜んでいてそこから現れたと。
「ウァサ・イニクィタティス人類堕天プログラム! 混ぜてもらう!」
「悪いね。でも一対二はずるいだろう?」
「そうだね!」
「ん⁉」
ウァサの頭部に向かって蹴打を放つ涙月。けどウァサはそれを右腕で防ぎ、上に弾く。
「女の細い足で俺の筋肉がどうにかなるかよ! ん⁉」
続けてウァサの頭を狙って蹴るオレ。今度は左腕でそれを防いで、
「ガキの細い足でも無理だぜ!」
オレは払われる前に右手を引いた。すると上空に飛ばされていた涙月がぴたりと止まって再び蹴打。
「あんな姿勢からだと⁉」
驚愕しながらもウァサはもう一度右腕で防ぎ、その間にオレは体を地面に横たえウァサの足を払う。
「うぉ⁉」
体勢を崩すウァサ。
「アエル!」
首一つ顕現してウァサを凶暴極まる牙で噛みくだ――くと言うところでアエルの牙が止まっていた。
「パペット、アパリッショナル型生命『メテオラ』!」
牙を止めているパペットは見えない。それもそうだろう。
アパリッショナル型宇宙人と言えば肉体のない意識・或いは魂だけで存在する生命体である。
つまり見えずともいるのだ、そこに。
とは言え――
オレは再び右手を振った。すると涙月が空中でぐにゃりと体を揺らしてメテオラの背後(多分)に向けて拳を突き出した。
「感触有り!」
メテオラは殴打されどこかに外れたのだろう。アエルの口が閉ざされた。
「君ら、繋がってるね?」
静かに近づいたフリアエがオレの右手を掴む。
「見せてもらうよ!」
不思議なエネルギーが右手に流れて、オレの右手と涙月の胴体に繋がっていた炎の綱が姿を見せた。極力熱を抑えた炎だ。
「ウァサ!」
「命令すんな!」
そうがなりながらもウァサは掌を空に掲げ――降ろす。
「「――⁉」」
するとどこからか岩石が出現して炎の綱を千切った。岩石は勢いそのままに道路を叩き、新たなクレーターを作り上げる。
隕石か。
「だけじゃねぇぜ! 『堕天プログラム』!」
ウァサを中心にサークル状の光が広がった。オレや涙月、そして倒れて・或いは逃げていた市民を取り込み、市民たちの背にカラスのそれに似た翼が生えた。
なんだ?
肌は黒く変色し、目は血走って、それでもそれまでの痛みや恐怖を忘れてしっかりとした足取りでオレたちに向かって突進して来るではないか。
「【覇―はたがしら―】で多少耐性はできたみてぇだが! 凌駕凌駕凌駕!」
「よー君! 光から出よう!」
「うん!」
オレたちを光の影響下に巻き込むのではなくあくまで倒すのが目的のようだ。そしてオレたちは市民に手を出せない。
だから光から出るしか道はないのだ。
「させねぇよ! 『ウォーリアネーム! 【天より堕ちる光の最期】!』」
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
「『ウォーリアネーム! 【騎士はここに初冠して】!』」
三人揃っての同化。僅かコンマ数秒早く達成したのは、ウァサ。そのウァサの姿が掻き消えた。
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