第137話「オレのフィールドだぜ、宵?」
おいでませ。
響く爆発音。ドームを破らんと筒が炸裂しているのだ。
都市が軋んで揺れる。おまけとばかりに潜水艦の外装が光り各所からレーザーが射出された。レーザーの先端はカーブを描いて一点に集中し、ドームが赤く変色する。
どうする⁉ ここシェルターあるのかな⁉
都市を駆け回ってみると非常用のカプセルボートが見つかった。が、小さい。とても海中に放り出されてアトミックと戦えるとは思えない。
ならば。
オレは再び都市を駆けて地下へと続く道を探す。目指すはここと海底を止める支柱。切り離すか壊すかして都市を浮上させる!
「させないって!」
「――⁉」
アトミックの声に上を見るといつの間にかドレッドノートがドームから距離を取っているではないか。
「離脱?」
『いやあれは――』
『突進してくるね』
「とっし――」
「行くぞ!」
ドレッドノートがゆっくり進み出し、数秒の内に最速に達した。ドームとドレッドノートがぶつかる。轟く豪音。ドレッドノートはレーザーで弱っているところに突撃していて、ヒビが――入った。
「――!」
初めちょろちょろ後どっさり。ヒビから入り込んだ水は水圧に押されてあっと言う間に巨大な穴を開けてしまった。
「わっ!」
海水が落ちてくる。流されないようにと宙に逃げるが恐らく海水はすぐにでも都市内部を埋め尽くす。
ならば少しでも空気のあるうちにドレッドノートを討つ。
「咆哮!」
右手から出る炎のブレス。ドレッドノートに直撃する――と言うところで、その姿が消えた。
中から現れたアトミックの横を炎が通り過ぎて――
「『ウォーリアネーム! 【眺め楽しみ鯨の唄】!』」
オレは彼の同化を待たず水圧に負けて崩れていくビルを駆け上がる。斜めに崩れていくビルの黒に近いガラスが割れて、それでもオレは駆け、或いは飛び続ける。海水の勢いが弱いところを目指して。
逆にアトミックは落ちるように猛スピードでオレを目指している。オレはアエルに飛行能力があるから速く飛べるがドレッドノートは潜水艦である。前に見た通りなら飛行能力はない。それを考えるとオレに追いつく――アトミックが瓦礫に頭から突っ込んだ。
……うわぁ。
「プッはー!」
瓦礫の中から飛び出てくるアトミック。【seal―シール―】で保護され【覇―はたがしら―】で細胞が優秀になっているとは言え傷一つなしとは……。
「この状態のオレはね、ドレッドノートの強固な外壁防御能力を持ってるのさ!」
「咆哮!」
炎がアトミックを包み込む。彼は微動だにせず炎を受け入れて、
「あっつー!」
横に飛び出した。あ、効くんだ。
「さ、流石にブレスはきつかったかな?」
「咆哮!」
「あーちょっと待てって!」
アトミックはちょろちょろと動き回りながら咆哮を回避しつつ腕に足に胴にと機械状のパーツに取り付かれていく。恐らくはドレッドノートの攻撃能力の顕現。
「行くぞ!」
両腕のパーツからレーザーが放たれる。オレは黒い鱗の盾でそれを受け止め、横に流す。良し、受け止められる。
「ならこれは⁉」
上に向けて腕を伸ばすアトミック。その先は落ちてくる海水。すると海水がぴたりと止まって、ぐちゃりと曲がって、巨大なドリルになった。
「GO!」
水のドリルが飛行。オレはそれを盾で受け止めて、ドリルがバラバラの水になった。軽い?
と思ったら海水は飛び散るうちに幾百のドリルを象って四方からオレを攻め立てる。全部防ぐのは無理!
ドリルがオレの全身を刺突して行く。
「ぐぅ!」
けれども一つ一つは小さいサイズだからか精々一ミリ程体にめり込む程度。しかしこれが長く続けば致命傷になるのは明らかで、ヒットポイントも着実に減りつつある。
「傷が浅いか。ならこれはどうかな?」
「――?」
ドリルがぴたりと止まって水球になり、糸の如くに細く水が放出された。
絶対にまずい!
「『闇王』!」
オレの移動に使われる数秒の時間を奪って放水の輪の中から外へと逃げる。放水された海水はいとも容易くビルを切り裂いた。ダイヤすら切る水のカッター。あれはまともに喰らうわけにはいかない。
「え⁉」
オレの体が外に出たのに驚いたのだろう。アトミックの動きが一瞬止まった。
今だ!
「――!」
アトミックの下から『獣王』が飛び出し彼を牙で強く噛んだ。『獣王』から感じられる手応えは――鈍い。失敗している!
「あっぶないな!」
良く見るとアトミックの体を海水が覆っている。しかも牙が当たっている点は氷になってさえいる。
アトミックが『獣王』を蹴りつける。更に彼は『獣王』の口内にミサイルを何発も打ち込んだ。
『――っか』
力なく倒れる『獣王』。オレはすかさず『獣王』と同化し彼の傷を受け入れる。左腕からの流血。『電王』のジョーカーを発動させて傷ついた腕の時間軸を分離、無事な時間軸から腕を召喚する。
海水はもう都市の半分程度を埋め尽くしていて、とうとうドームが全壊した。
「オレのフィールドだぜ、宵?」
「…………」
二人共倒れたビルの上に立ったまま海水に飲み込まれてしまう。
『獣王』、ジョーカー発動。空気の泡の時間を固定してその中にオレは入った。予備に他の泡も凍結。これで呼吸はなんとかなる。のは良いとしてだ。
「この海水全てが! オレの武器庫さ!」
「わ!」
急に後ろに飛ばされた。いやこれは――海流。滅茶苦茶に海水が流れている。右に振られ左に振られ、酔いそうになる。なんとか攻撃に転じなければ。
ん? 海流?
オレは一つ思い出して目を閉じる。
初めてやる。集中して、繊細にスイッチを入れる。
「――?」
海中に投げ出されてもアトミックは呼吸ができるし自由に動ける。ただ今、海流を操っていた集中を少し解いて異変に目を細めた。
「海流が?」
彼の意図とは違う動きを見せた。
ヤマタノオロチ伝説の元は氾濫した河だったはずだ。ならばアエルにも洪水を起こす能力があるはずだ。
「いっけ――――!」
「――⁉」
海中を洪水が進み、アトミックを飲み込んだ。
「まっだまだ!」
負けじとアトミックも海流を操る。二つの力は拮抗しあい、ぴたりと止まる。
「「…………」」
海流が止まって、オレたちは一瞬どちらも固まった。惚けているのではない。気を抜くと向こうの力に押し切られてしまうから動けないのだ。
この状態で次の手を、何か。
「ん?」
止まっている二人の中央で水が僅かに渦を巻いた。渦はどんどんと大きくなって、二人を巻き込む巨大な竜巻となる。
「こ――!」
「――の!」
渦の外はどうなっているかわからない。ならば。オレは渦の中へと入っていった。予想通りそこは空洞になっていてアトミックも同じく海水で足場を作って姿を見せた。
「3!」
「え?」
突然のオレのカウントダウンにアトミックが怪訝な表情を現す。
「2!」
攻撃が来る。そうアトミックは思ったのだろう。腕がすぐにレーザーを撃てるようにとオレに向けて伸ばされ、足からは魚雷を撃てるようにと身構えた。
「1!」
ごくんとアトミックが唾を飲む。
「0!」
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