第136話『怒られるかもしれませんが! お二人共元気に遊んでください!』
おいでませ。
☆――☆
さて、夜が明けてオレは冷たい水を顔に浴び、はっきりと目を覚ました。
今日からパペットウォーリア中学生の部本戦第三戦の開始である。
数多くいるウォーリアの中でもオレは特別気合を入れなければいけない。なぜならば。
『さあさあさあさあさ―――――――――――――――あ! 今日から中学生の部です!
あ、わたくし本日の実況を担当します日本からの人にはお馴染みお姉さんです! よろしく!
開幕ファーストバトルのお二人は既にフィールドに姿を見せていらっしゃいますね!
改めてご紹介します!
日本代表天嬢 宵選手! ユーザーLv95、パペットLv100!
V.S.!
イギリス代表アトミック・エナジー選手! ユーザーLv95! パペットLv99!』
なぜならば、まさかの初戦に選ばれているからである。しかもアトミックが相手。
『おお? お二人共笑っておられます! 緊張はないんでしょうか⁉』
勿論あります。体も小刻みに震えているし。
でもそれがなんとも良い感覚となって全身を包んでいる。
断っておくが変態ではない。緊張を勇気に変えてオレは進むのだ。それはきっとアトミックだって同じだろう。
微かに聞こえた「よーくーん!」と言う声に目を向けてみると涙月たちが見えた。「あんたワタシの護衛なんだから負けたら許さないわよー!」と言う声も聞こえた。
……オレは、魔法処女会に入れられたり護衛にされたり一生女難にあって生きるのだろうか……。
『ではバトルフィールドを決定します!』
中央にホログラムのルーレットが浮かび、
『スタート!』
針がくるくると回り始め、
『ストープ!』
止まる。
『海底都市に決定!』
うわっ……よりにもよって向こうのホームみたいなものじゃないか。
アトミックに目を向けると、意外や意外。ほっと胸をなで下ろしていた。やはり彼も緊張していたらしい。
『展開!』
ナノマシンが収斂し、まずフィールド内が高さ一キロメートルに及ぶ海水に包まれた。ガラスがあるわけでもないのにそそり立つその威容は妙な圧迫感を、透き通る程に澄んだ海水は天からの陽光を放ち別の惑星にでも来たかのような錯覚を引き起こす。
次いで海底ができる。岩に珊瑚に海藻に。
その次に海底都市。巨大なガラスのドームに覆われた直径一キロメートルはあると思われる都市。ビルに道路に緑。スノードームを巨大にした感じだがある種の美術品を見ているような気になるほどにデザインに凝っている。
最後に擬似海中生物が海中を泳ぎ、海底を這い出した。
『さあお二人共! ……………………』
ん?
元気の良かった実況が止まった。見るとお姉さんは眉を持ち上げ目を瞑っていて、一気に空気を吸い込んだ。
『怒られるかもしれませんが! お二人共元気に遊んでください!』
遊んでください。そう彼女は言った。
そうだ。ここのところ本気の『戦い』があったけどもこれは真剣な遊び。真剣に、全力で遊ぶ。それがこのパペットウォーリア。
オレは大きく息を吸って、気合いを入れ直してアトミックを見た。海水に阻まれて彼の姿は見えなかったがモニターを見るとそこに映るアトミックは目を大きく見開いて歯を見せて笑っていた。そう言えばイギリスではパペットを軍事利用していると彼は言っていた。それをたった一言で拭われて何か吹っ切れたのかも。
『では! お二人は開戦と同時にフィールドに飛び込んでください!
カウントダウンを始めます!
10
9
8
3
2
1
0! バトルスタート!』
「アエル!」
『おう!』
開始直後にオレはアエルを呼び出して口に含んでもらった。そしてそのまま海中へ。こちらがまともに戦えるように真っ直ぐ海中都市を目指す。
「――⁉」
猛スピードで進んでいたところに突如ぐらつくアエル。
「何⁉」
口の中は真っ暗で何も見えない。
『攻撃を受けた!』
「距離がまだあるはず」
『レーザーだ』
レ――
前回戦った時はそんなもの見せなかった。レーザー砲なんて装備していたのか。
「海水で曲がったり威力が落ちたりする様子は?」
『ないな』
と言う事は。
「(オレを咥えている)覇王を除いて咆哮! レーザーを逆流するように!」
『『『お任せ!』』』
直後に大音量の轟音が響いた。咆哮を放ったのだろう。
「どう?」
『海水の影響を受けて威力と軌道を殺がれるな。当たった気配はない』
「そう……それじゃレーザーをかわしつつ予定通り都市へ!」
アエルはこれまで以上に急いでくれたらしく、しかもその後はレーザーにも当たらず海底都市の外壁にまで辿り着いた。
『宵、人間サイズの扉しかない』
「うん、それじゃここで――『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
八色の炎龍が天に昇り、一匹一匹がオレに向かって降りてくる。炎の全てがオレの中に吸い込まれ、左腕に黒鱗の巨盾が、右手に青銅の剣が装備される。額には桜色の目が輝いた。
とは言え海中で息ができるわけではなく、オレは急いで扉に向かう。扉には取っ手もなければ鍵穴もない。青い光のカーテン――それが扉だった。
念には念を入れて近くに沈んでいた石を持ち上げて扉に投げてみるがゆっくりと吸い込まれるだけで害がある様子はなかった。
良し行こう。
手を触れると中から引っ張られる感触があって石と同じくゆっくり吸い込まれて。
「おっと」
扉の真ん中あたりに触れたせいで中空に放り出された。都市の中には正常な重力があって床に落下したが何とか足の裏で着地。体の性能が上がっているからか痛みはない。
「良し」
通路を駆けて都市内部へと移動する。一分とかからず通路は終わって、
「お~」
ビル街の端っこに身を踊らせた。
都市に人の気配はなく、ただ車やバイク・自転車などが停まるべきところに停められている。適当なところに放置されていないところを見るにこれを設計した人は几帳面で真面目な人なのだろう。
では、やってくるだろうアトミックをどこで迎え撃つか。
「よ――――――――――――――い!」
「うわぁ⁉」
都市に響いた声に思わず耳を手で閉ざす。声のした方、つまり上を見ると黒く巨大な物体がドームのすぐ傍に。
アトミックのパペット、潜水艦『ドレッドノート』だ。
「悪いね! 弱点を突かせてもらうよ!」
弱点?
ドレッドノートの下部に穴があいて――無数の筒が落とされた。
まさか――
「まずい!」
お読みいただきありがとうございます。
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