第134話「……AIは悪かな?」
おいでませ。
『ぶぁかたれ~~~~~~~~~~!』
「うわぁ⁉」
臣とCG胸像通信していたボク・ゼイル。だったが、ぶん殴られそうになって思わず悲鳴を上げた。
「CGでビビらすなよ!」
『当たるわけないでしょ実体があるわけでもないのに』
半目になって呆れる臣。くぅ、と唸るボク。
『――で、あんた仮想災厄の手下にでもなる気?』
「ならないさ。ただあんな雰囲気でNOなんて言えるか」
そもそもあまり家族に逆らった事がなかったりもする。
『んじゃこれからどうすんのよ?』
「…………」
暫し考える。仮想災厄の味方を演じながら倒せるか? それともお祖父さんに愛想振りまいて一気に『ダートマス』を壊そうか?
「ん?」
『あによ?』
「臣『ダートマス』見たんだろ? なんで壊さなかったんだよ?」
『…………』
今度は臣が黙り込んだ。
『……あんたって女の顔見てないでしょ?』
「は? 今、臣の顔見てるだろ」
臣は右頬を指でさす。
『こっちが腫れているのに気づかないわけ?』
「え?」
言われて胸像をじっと見る。
……わからない。
『もー! ぶたれたのよパパに!』
「ぶたれた? ふっ、ふふ。ボクはお父さんに叩かれた事なんてないね」
『威張んな。あんたと違ってこっちは即行動に出たのよ。「ダートマス」蹴飛ばして壊そうと思ったの』
「できたのか?」
『うん蹴った。落ちて壊れた。ただダミーだったのよねアレ』
はぁ、大げさに息を吐き出す。
「な、なんだそうか……そりゃそうか。いきなり本物見せてくれるほど甘くないよな。
で、ぶたれたと」
『極めて冷静にぶたれた。怒っているんじゃなくてシツケ。眼、すっごく優しかった』
その時の情景を思い出したのか臣はぶるっと体を震わせる。
「なんで震えんだよ?」
『怖かったからよ。パパには悪意なんてないの。本当に「ダートマス」の作る世界が正しくて市民の為になると思っていて、ず――――――と上からあたしを見てる。
それが凄く怖かった……』
同列の家族ではなく支配するものの目だったと。
「……そうか」
『……でも諦めないもんねあたし。あたしは人間。人間に上に立って欲しいダメならあたしが上に立てる人間になる』
ふんす。鼻から息が漏れた。
「『ダートマス』を壊して?」
『そうよ』
「……AIは悪かな?」
お祖父さんに言われた言葉を思い出す。
『悪――とは言わないけど……』
「壊して、人の社会が壊れたらどうする?」
『…………』
しまった、そこまでは考えていなかったと言った様子で臣は黙り込む。
「代わりはいないって良く言うだろ? 『ダートマス』の代わりになってくれるまとめ役っていないかな?」
『…………だぁ!』
「うわぁ⁉」
いきなり伸びてきた臣の腕。また殴られるかと思ってボクは思わず身を引いた。
『ビビるなって』
「ビビるわ!」
『楽しくない!』
「……あ?」
子供らしくダダをこねるように。
『「ダートマス」を考えても楽しくない! だから嫌い! あたし子供だもん! 感情任せの子供だもん! だから壊す! 「ダートマス」はダメー!』
腕をクロスさせて、バッテン。
ボクはぽかんと口を開けて数秒が過ぎ、そして笑った。
「臣、バカだろ」
『学校の成績は良いけど?』
「性格だよ性格」
クスクスと笑いながら。
『性格がバカ? 意味わかんない』
「それで良いよ。そうだな、ボクらは子供だもんな。子供らしく動くか」
『うん』
☆――☆
「AI『ダートマス』――」
「うん」
子供らしく動いた結果、オレたちのところに――正確にはオレが泊まっているホテルに――やってきた臣とゼイル。他に知り合いで年上のウォーリアがいないらしい。企業トップ一族なら人脈豊かだろうと思うのだけど意外と信頼する人物は少ないのかな。
因みに今日はパペットウォーリアは休日。小学生の部が終わったから一日休みを挟むのだ。だからオレを含め、涙月・コリス・お姉ちゃん・前野兄妹といつもの面子が揃っている。
「冗っ談!」
なぜか一緒にいるララがベッドから飛び起きながら胸の前で拳を握る。こっちもこっちで他に一緒にいるべき人物はいないのだろうか?
「それじゃワタシたち王室なんて飾りじゃない」
人の社会はAIが統治していて、その下に王室・政治家がいる事になる。確かにララが憤慨するのもわかる。わかるのだが。
「そもそも父と母は知らないのだろうか?」
「え?」
ララの横に腰掛けるゾーイがララを見上げる。足の間に腕を挟んでいてちょっと可愛い。
男の子を演じているはずだけど仕草の所々に女の子が出るらしい。
「私たちは王位継承の際に知らされる事柄が多いだろう? これもそれに含まれる可能性がある」
「じゃ、知っててAIの下にいるっての?」
「そこで、AIの統治は是か否か? と言う話になるのでは?」
そこにはきっと自分たちでは及ばない判断があったのだろう。
「んで是になってるわけね」
「恐らく。まあ連絡を取ればわかるだろう。私がやる」
言って目を動かし始める。ゾーイは手でなく脳波で【覇―はたがしら―】を操作するタイプか。オレはどうしても手が動いてしまうのだけど、時代遅れかな?
なんとなく皆言葉を控えてキーンと言う音が耳に響く。ゾーイの話す声が聞こえてくれば緊張も取れたかも知れないがどうもメールを打っているっぽい。そうか、親御さんは仕事中かも知れないのだから通話を遠慮しているのか。
「――……」
ゾーイの表情に変化があった。いつも厳しい顔を――或いは真面目一直線の顔を――していたのだけど、それが曇った。
「関わるな、だ」
ふむ。それは心配ゆえか、それとも冷たくあしらわれているのか。
息をゆっくりと吐くララ。
「ワタシも連絡取るわ」
ゾーイに続くララ。彼女は手で操作を始めた。
オレもやってみようか。そう思ってオレは幽化さんに連絡を入れてみる。一つ二つとコール音が鳴って――結局幽化さんは出てくれなかった。しかし代わりにメールが一通届いた。幽化さんからだ。
【件名・お友達ではないクソガキへ】
……非道い。
【本文・諸々の真実が知りたいなら覗かれるような経路は使うな。勝ち抜いて世界中の電脳課を出し抜け。
それともう一つ。“メルのゆりかご”について調べろ。アマリリスについて少しはわかるだろう】
メル――アマリリスの産まれた削除データのたどり着く場所。メルのゆりかごとはただのメルとは違うのか?
「こっちもダメ」
目を閉じてひらひらと手を振って、ララ。
「王位継承を待て、だってさ」
「……メルのゆりかごってのに覚えは?」
「え?」
「幽化さんからのメールにあった。それについても知らされてない?」
顔を見合わせるララとゾーイ。
「それなら、幼生アマリリスのいた場所だろう」
「知ってるの⁉」
思わぬところから答え発掘。
「以前アマリリスと接触した後、親に聞いたのだ。新しい情報ではないだろうと伝えなかったのだが……アマリリスには母がいるのを知っているか?」
「「「――⁉」」」
オレたちは一様に目を瞠った。
AIアマリリスの母。一人で産まれたのではないのか?
「それがアマリリスのパペット『パラン』だ」
「パランが――母親?」
「産まれたのはアマリリスの方が先よ。アマリリスに気づいた電脳課がね、最初削除じゃなくて保護しようとしたの。
でも当時のアマリリスはとても不確実な存在ですぐに消えそうになった。その為にあの子の周りの余計なものを削除してアマリリスに危害の及ばない空間を作った。そこに――メルのゆりかごに母親の性質を持つAIを放って空間と同化させたの。
それがパランよ」
……初耳だ。パランはアマリリスが作ったものとばかり思っていた。ではパランはアマリリスを守っているだけだろうか? だと良いのだけど。
「――でよー君、『ダートマス』どうする?」
「そもそもオレがどうこうして良いAIとは思えないんだけど……」
一般人であるオレが世界を揺るがす。それはただのイタズラではすまない。間違いなく、事件だ。
「よー君、男の子なら目指そうぜ主人公」
「なんの?」
「人生の」
「恥ずかしいっ」
けれどロマンはあるな。
「ラッキースケベ体質みたいだし!」
「「意義有り!」」
オレとララの声が重なってしまった。
「あれは事故だ!」
「でも責任はとってもらうから!」
「責――⁉」
ざわめく一同。
責任⁉ それはまさか例のアレですか⁉
ララはオレをビシッと指差して、
「天嬢 宵! 貴方は暫くの間、ワタシ、王女レア・キーピングタッチの嘱託護衛とします! 拒否は却下!」
「嫌です!」
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