第130話「エレクトロンの王子さまゼイル・セイン選手! v.s. 綺羅星のお姫さま母屋 臣選手!」
おいでませ。
『さあ世界戦バトル二日目! 昨日は十戦行われ五人が勝ち抜きました!
今日も同じく十戦! まずはこのカード!
エレクトロンの王子さまゼイル・セイン選手! v.s. 綺羅星のお姫さま母屋 臣選手!
まさかの好カード! サイバー業界の二大大手バトルです!
企業は綺羅星が一歩リードと言う所ですがしかしエレクトロンは夢を操ると言う新機種を用意していると言う噂も!
ではバトルではどうでしょうか⁉ 非常に楽しみですね!
両選手入場!』
通路の出入り口がスライドして、会場の両端から二人が入ってきた。【seal―シール―】を纏った二人の雰囲気は小学生ながらもウォーリアのそれでいてどこか勇敢な戦士に見える。
『バトルフィールドを選定します!』
ルーレットが現れて針が回り始めて――止まる。
『黄金都市に決定! 何と相応しいフィールドでしょう! ナノマシン収斂スタート!』
ナノマシンが集まって、金色の建築物が構成されていく。円柱が幾つも並んでいて水路が太陽の紋章になるように通っている。
『眩しい! 何と言う光の都市でしょう! あ、失礼! 両選手フィールドへお上がり下さい!』
フィールドへと足を進める二人。
『改めまして紹介します!
ゼイル・セイン選手Lv91! パペット・ソルLv97!
母屋 臣選手Lv95! パペット・至宝の果実Lv95!
両天秤釣り合うと言ったところでしょうか⁉
ん! 時間が近づいてまいりました! カウントダウンを開始します!
10
9
8
3
2
1
0! バトルスタート!』
「至宝の果実」
早速初手でパペットを顕現する臣。白く輝く葉と幹を持った巨大樹。黄金のリンゴが生っている枝の先。黄金の通路にしっかりと根を張り黄金都市に良く似合うシンボルに見えた。
そう言えば至宝の果実は移動できるのだろうか?
「至宝の果実、住み着いて」
臣の言葉に輝きを強くする至宝の果実。根も枝も幹も伸び太くなり、黄金都市を飲み込んでいく。
成程、移動せずに広範囲を自分のテリトリーに変えるのか。
一方でゼイルは――
「ソル」
こちらも開始位置から動かずにパペット顕現。
半透明で少女の形をしていて、足がなかった。ゴーストだ。電子メーカーであるエレクトロンの孫が正反対にいる霊的存在をパペットに持つとは。普段機械に囲まれている反動だろうか?
「ソル、憑依」
ソルと呼ばれた少女が床に溶けていく。薄く青い発光が広がっていき、黄金都市が青い都市へと色を変えていく。
「ソルのジョーカーさ。ソルは憑依した物体を霊光に変えていく」
「ん?」
根を伸ばしていた至宝の果実の動きが止まった。行先が青い光に変わったからだ。
「そして霊光はボクのイメージで自由に動かせるんだ」
「――⁉」
都市の円柱が伸びた。先端が尖って至宝の果実の根を穿っていく。
「至宝の果実! 絡め取って!」
枝が伸びて円柱を縛り上げる。しかし円柱から更に棘が伸びて枝を串刺しにしていき、
「円柱だけじゃないぞ」
通路からも棘が伸びて次から次に至宝の果実を刺していく。
「勿論棘だけでもない」
臣の真下に穴が空いて、
「うわ!」
底の見えない中に臣が落下する。至宝の果実は枝を伸ばしてマスターユーザーを助けようとするも穴から網が出現して枝を絡め取る。その上で穴が塞がって完全にパペットとマスターユーザーは分断された。
「パペット、降参するんだ。マスターはこのままだと窒息死するぞ」
『窒息? それなら心配ない』
「なんだって?」
「心配ないって言ったのよ!」
「――!」
ゼイルの真下から至宝の果実の根が伸びて両腕を拘束する。
「じゃん!」
根が開けた穴から臣が飛び出し、腕に根を巻いた状態でゼイルの腹を殴りつけた。
「ぐ……う!」
「あたし自身には自殺を無効化できるんだよね!」
「ソル!」
黄金都市が液状になり巨大な波が臣とゼイルを飲み込んだ。
「水中自殺も効かないって!」
「そうかよ!」
波が大型のシャークに変わり臣の四肢に噛み付く。
「イルミネイト!」
「――⁉」
黄金の実が輝いて液状シャークが蒸発する。
「ならこれは⁉」
都市が固形化して巨大な腕になる。その手で臣を掴んで握り潰そうとするも。
「リストカット!」
巨腕が切られて力なく崩れ、
「拳銃自殺!」
ゼイルの周囲に拳銃がサークル状に出現する。
「撃て!」
一斉に発砲されてゼイルは穴だらけに――ならなかった。
「あれ?」
パラパラと落ちるゼイルの皮膚。いや、皮膚に擬態していた都市の一部。
「くぅ、いつの間にそんなもん」
「お前が落ちた時に決まってんだろ。ついでに!」
都市の一部が多数のパチンコ玉に変わり、
「同じ状態に置かれたらどうする⁉」
パチンコ玉は拳銃の時と同じく一斉に超速で臣に迫り、
「効かないって言ったでしょう!」
「お前自身にはだろ!」
「え? あ!」
確かに臣の体には効かなかった。だけど【seal―シール―】が剥ぎ取られてしまい、そこに都市が変化した鎖が伸びてきた。先端に釘をつけた鎖だ。
「『ウォーリアネーム! 【産めよ増せよ万葉の光】!』」
同化した皮膚と翼に弾かれる鎖。ならばとばかりに鎖は臣を拘束するが、
「エッチ!」
「ええ⁉」
臣の思わぬ言葉に鎖が緩んだ。臣は鎖を握り、
「入水自殺!」
鎖を錆びつかせ力をソル全体に広げていく。
「『ウォーリアネーム! 【浄霊されし雨は潮騒に】!』」
都市からソルを分離させて自らと同化。
「お?」
ゼイルの頭上に黒い輪が浮かび、背には蝙蝠のそれに似た翼が生えた。
「どっこが浄霊⁉ 悪霊に堕ちてんじゃん!」
「……認めたくないけどな、これって人の性悪説が正しいって事なんじゃないか?」
ん?
その説明にオレは疑問を浮かべた。
性悪説ってそんな感じだったっけ?
ゼイルが手の中に小さな羽をいくつも生み出す。
「ビーコンダウン」
羽が打ち出されて臣の体にぺたりと張り付き。
「何これ?」
羽が黒く燃えて、臣の体が崩折れる。
「……力が――」
「力じゃない。そいつは霊力を吸い取るんだ。魂なんて物が本当にあるのかは知らないけどさ」
「感電自殺!」
ゼイルの体に電気が奔る。
「人間の体なら死んでたかも知れないけどさ! 悪魔は人の上位種だ! 効かない!」
「くっそ……」
「悪い――いや悪いとは思わないぜ、これがバトルだ」
ゼイルの翼が巨大になり臣を包む。そこに翼から放たれた黒い雷撃が臣を襲い、
「――あ!」
彼女の意識を刈り取った。
『勝者ゼイル選手です!』
「あの雷撃は霊力を麻痺させるもので、霊力は休めば回復するからこのまま寝かせとけば良いさ」
担架で救急エリアに運ばれていった臣を取り囲むオレたちとゼイル。ゼイルはそれだけ言うと苦しげに表情を歪めて出ていこうとした。
「なんでそんな表情?」
「……ボク、本性が悪魔って事だろ? あんまあの姿にはなりたくなかったんだ」
憎々し気に。
「性悪説を勘違いしているよゼイル」
「え?」
「良く誤解されるんだけどさ、性悪説は『生まれながらに人は悪である』は半分正解。その後に『成長によって善行を学ぶ』って続くんだ」
ゼイルが目を見開いた。
「性善説は逆だね。だから結局人は善も悪も手に入れるのさ。ゼイルが本性悪ってわけじゃないよ」
実際会ってもそんな風には感じないし。
「……じゃあなんで姿は悪魔なんだ?」
「仮想災厄――についての情報が記録されているんじゃないかな?」
「してるけど」
「君はそれを、仮想災厄のやる事を悪行だと判断している。違う?」
ゼイルは視線をオレから外し、
「……違わない」
そう応えた。それはつまりエレクトロンが、家族が悪行を成していると考えている証明だ。
「仮想災厄を倒そう。一緒に」
オレは手をゼイルに向かって伸ばす。
「……お祖父さんに進言してみるよ。っつか恥ずかしいなあんた」
握り返す手はなかったが、少し彼は笑っていた。
お読みいただきありがとうございます。
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