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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第129話「『ケンカ両成敗』。はい二人共握手して謝って」

おいでませ。

「…………」


 むっつりとした表情を浮かばせる少年。眉根はつり上がっていて口元はへの字になっている。せっかく天気は快晴だと言うのにちっとも気分が晴れないと言った様相だ。


「…………」


 こちらもこちらで面白くなさそうに憮然とした表情の(オミ)。目を細めて手に持ったスプーンでパフェの頂上に乗っている苺をつんつんとつついている。


「……うん、美味しい」


 オレはメロンソーダに乗った丸っこいアイスをスプーンで掬いとって口に運ぶ。拒絶したくなるほど暑い夏の日差しに対して口の中がひんやりと冷たく気持ち良い。


「つ・ぎ・は・ど・れ・に・し・よ・う・か・な?」


 五分程前に運ばれてきたパンケーキをあっと言う間に食べ終え涙月(ルツキ)は次を頼むべくメニューを広げる。


(ヨイ)兄……涙月姉、何とかしてよ」


 オレたちにジト目をくれる臣。何とかしたいのだけど拗ねた子供のあやし方は知らなかったりする。


「えっと、ゼイル――君?」


 それでも懸命に声をかけるオレ。偉い。


「……君はいらない。いやそれより、ボクを呼び出すのに迷子アナウンスとかやめてくれよどんだけ恥ずかしかったかわかる? ねえ?」


 不満を口にするエレクトロンCEOのお孫さん。少年にしては斜に構えていて、美しく整った端正な顔が不機嫌に歪んでいる。


「エレクトロンにも尋ねたんだけど、ああ云う風に呼び出せば良いって言われたんだ。提案したのはこっちだけど」

「ちょ⁉ は⁉ 本社に連絡入れたの⁉ やめてよ何考えてんだよ!」

「君が大会に登録していた番号にもかけてみたよ。そしたらダミーだった。登録情報に嘘を混ぜるのは規約違反だよ?」

「それは――」

「だから連絡取れるところに取っただけさ。嫌なら最初から嘘なんてつかなければ良かったんだよ」

「…………」


 っち、とこちらに聞こえるほどの舌打ちをするゼイル。きっと下手にオレを刺激したら登録情報の嘘を運営に報告されるとでも思ったのだろう。


「報告しても良いんだけどね」


 にや~と笑う臣。その企みはアナウンスの前にも提案されたがなぜゼイルが嘘をついたのか理由を確かめる必要があったから却下した。だからこの臣の発言はただの嫌味である。


「なんで嘘ついたのかな? お姉さんにドンと話してごらん」

「……父さんとお祖父さんに内緒で出てるからだよ」

「内緒? なぜにだい?」

「だって言ったらどうせ『エレクトロンから支援受けてるんだろ?』って言われるのが目に見えてるじゃん。そっちの――」


 臣を目線で示す。


「――奴は親のコネを最大限に生かしてるみたいだけどさ」

「ちょっと! 失礼言わないでくれる⁉ あたし自力で勝ち残ってんだけど!」


 ない胸を張りながら。


「一度もアドバイス貰ったりしてないんだな?」

「アドバイス――は貰ってるけど」


 後半、凄く小声で。


「そら見た事か。開発した人間のアドバイスなんてパペットの弱点利点教えて貰ってるようなもんだろ。だから気に食わないんだよ」

「それは潔癖すぎじゃないかな? 綺羅星(キラボシ)の人だって対戦相手のパペットについて100%解析してるわけじゃないだろうし、誰だって周りの人からのアドバイスは少なからず受け取ってるはずだよ。臣が関係者の子供だからってこの子だけに厳しくするのは違うと思うよ。それとも君は生まれてこの方一度もアドバイスを受けていないの?」

「それは……違うけど……」

「ね? 皆同じ追い風向かい風は受けてるもんだよ。その上でバトルは正々堂々行えば良いのさ」


 うんうん、と首を縦に振っている臣。


「だけど臣も手を出したのはまずかったね」

「うええ?」


 臣はいきなりオレからのパンチを受けて変な声を上げた。スプーンが苺の下にあるクリームに突き刺さる。


「日本には便利な言葉があります。『ケンカ両成敗』。はい二人共握手して謝って」

「…………」

「…………」


 手を出そうとしない二人。オレと涙月は目を合わせて、


「ちょ――」

「い~や~だ~!」


オレはゼイルの手を、涙月は臣の手を取って強引に動かしてテーブルの上でくっつけた。


「む、無理やりの握手なんて効果ないだろ⁉」

「そうだよそうだよ!」

「あ、意見あったね」

「「あ!」」


 隙有り、とばかりに手を握らせる。これにはある目的があるのだけど上手く気づいてくれるだろうか?


「…………」

「…………」


 手を(無理やり)握ったまま硬直する二人。

 気づいたみたいだ。臣の手が小さく、ゼイルの手が大きい事に。


「……殴ったのは悪かったよ」

「ん……あたしも」


 決して目を合わせずに、だが二人の中には確かに謝罪する言葉が浮かんだらしく。


「じゃ、バトルはクリーンな気持ちで行おう。

 二人のバトルはいつ?」


 ちょっと気分が晴れて、オレ。


「「明日、初っ端」」






 で、一日目が終了し問題の明日こと今日。


「宵ー涙月ーこっちこっち」


 会場の外で手を振るララ。大声で呼ばれてちょっと気恥ずかしい気持ちになりながらもオレと涙月はそっちに寄っていく。ララと一緒にゾーイとコリスもいた。三人はもうオレたちの分のチケットも取ってくれていて、お金を払ってそれを受け取った。あ、しかも中々良い席だ。


「あ、ポップコーンもうなくなっちゃった」

「それ昨日もやったよね?」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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