第128話「うあ。あたしこう言う注目……ぞくぞくする」
おいでませ。
☆――☆
『皆さま! 予想外予定外緊急事態! な出来事がありました! が! ウォーリアの皆さま観客の皆さまが戻りつつありますのでこれより十分後、バトルをリスタートする運びとなりました!』
「聞こえたよー君⁉」
「勿論!」
会場へと足を戻している途中、会場からアナウンスが届いてきた。足を――と言うかそれぞれパペットに乗って移動しているのだが。
「いや~楽ちんだねぇ」
涙月に、
「体が超なまりそうです!」
コリスに、
「やだ太ったらどうしよう」
ララに、
「どの道私のところに嫁ぐのだろう?」
ゾーイと。
「もーだからその話は――」
一難去って気が緩んだのか皆口から出る言葉が軽い。
結構『ヤバい』状況なんだけどね。
「大丈夫だよ、よー君」
「涙月」
「他のクラスメイトも信じてほしいな」
「……他の」
アマリリス以外の、と言う意味だが他と言われてオレのパペット、アエルをバカにし続けた同級生を思い出す。ああ言った同級生もいるんだよなあ。
なんて考えていると後ろから頭を叩かれた。それも二人に。
「何すんの? 涙月にララ」
「ポジティブに行こうぜ」
「アマリリス以外も信じなさいよね」
「……ごもっともです」
「上向いてたら私のキスに当たるかもよ」
と、ウィンクする涙月。
「そうそうワタシの――当たらないからね⁉」
ノリそうになるララだったがとどまった。
二人のやり取りを見て嘆息する。どうやら前を見て生きるしかオレにはないらしい。
『バトルリスタートまで一分! マレーシア代表ハフィス選手v.s.オランダ代表フィロメナ選手! 両選手は既に控えております! 皆さま声援を!
おおっと残り十五秒! カウントダウンを開始します!
10
9
8
3
2
1
0! バトルスタ――――ト!』
☆――☆
『バトル終了! 勝者フィロメナ選手!』
「…………ラスト一分しか見られなかった……」
観客席にある通路出入口で。オレは後ろにいる女性陣を見る。ジロリとだ。その視線から女性陣は目をそらす。
順調に進んでいれば確実に間に合ったはずだが、街頭モニターに映し出されたアメリカミュージシャンのPVに魅入っていたのだ。男に魅入っていたわけではないから一つ安心だが余所の国のミュージシャンに詳しくないオレは先に行こうとした。
が、「女を置いていくの?」「冷たいと嫌われるわよ」「レイプされたらどうするのだ?」「わたしの保護者は宵では?」等と言われて行かせてもらえなかった。て言うかオレはコリスの保護者ではないのだが。
「ま、臣じゃなかったしOK!」
ぐっ! と涙月は親指一本おっ立てる。
「そう言えば臣はどうしてたんだろう? てっきりあの子の性格ならアマリリスのところに向かってると思ったんだけど」
「電話にも出ないんだよねぇ。もっかいかけてみようか」
言いながら手を動かす涙月。眼球に直接映されるモニターを操作しているのだ。暫くコール音が鳴る中待つ涙月。自然と顔が上を向いているのがちょっと可愛い。
「あ、出た。臣? 涙月ですよぉ。
え? ……うん、マジっすか。わかった。今から行くから。ん」
通話を切ってこちらを向く。
「よー君緊急事態」
「うん?」
「臣、対戦相手に泣かされたって」
「は?」
「殴られた?」
「そうなんだよ宵兄! 酷いと思わない⁉」
「お、おお」
会場の外で合流するなり凄い勢いで愚痴を聞かされその後ようやく何があったのか説明されたのだが、それもそれで「殴られた」→「泣かされたー!」と訴えるだけでそこに至るまでの経緯については何も教えてもらえなかった。
「女の頭殴るとか! 殴るとか! どう言う神経してんのさ⁉ 酷いと思わない涙月姉⁉」
「お、おお」
できれば声のボリュームを落としてほしい。会場外とはいえ道行く人々が見てるから。
「で、誰が相手でどんな経緯?」
臣の頭を撫でながら、涙月。
「くそったれなガキンチョ」
「もうちょい詳しく」
くそったれなガキンチョなら割といます。
「……エレクトロンのトップの孫」
「「……マジか」」
何とまさかのライバル企業。
「そいつが言うわけ! 親の金でネンゴロしてるだけの奴がバトルになんて出るなとかどうせ独りじゃ何もできないとかさ! だからぶってやったわけ! あ」
思わず口を滑らせた臣。急ぎ口を閉ざすがもう遅い。
「ぶちましたか」
オレの指摘に臣は、
「あ~いや~かる~くほっぺをちょいと」
バツが悪そうに軽く手を動かす。
「で殴られたと」
「……はい」
どこかへと視線を彷徨わせる臣。先に手を出しちゃったか……それはどっちが悪いとは一概に言えないかな? 悪く言われたのは相手に非があるけど。
「エレクトロンCEOのお孫さんって男の子だったよね?」
そう、涙月の言う通りに男の子であるはず。臣と大して変わらない年齢だったと思う。
「うん。あたしの二つ上で宵兄の目線くらいの背丈」
「……オレが小さいわけじゃないけど?」
「「いや小さい方かと」」
「ハモらないでくれる?」
小さいには小さいなりの良さがあるんですよ。
「なんて言うの? プライドの塊って言うか。綺羅星に一歩先行かれてるのが不満みたい」
それ抜きにしてもアマリリスと仮想災厄で衝突してるからなぁ。
でも子供まで対立する必要はないと思うが。あれはあれ、これはこれ。
「臣、君はアマリリスと仮想災厄を――」
「知ってるよ」
頷き一つ。
「向こうは知っている感じだった?」
「知ってるんじゃない? 【紬―つむぎ―】の所有者だし」
「ああそう……え? ほんとに?」
「うん」
ライバル企業の孫が持っているとは。なんだかんだで綺羅星を好きなのでは?
顎に手を置いて少し考えてみる。
ん? ひょっとして――
「綺羅星を凄い企業と認めているからのほほんとしている臣が許せなかった?」
「ちょおっと宵兄⁉ あたしのほほん何てしてないけど⁉」
「待った待ったさっきから思ってたけど大声はストップ。周りに見られているから」
「周り?」
涙月に言われて顔ごと視線を右に左にと向ける臣。金髪銀髪の外人さん方が微笑ましいものを見る目でこっちを見ていた。
「うあ。あたしこう言う注目……ぞくぞくする」
「「やめなさい」」
この子将来危ない趣味に走ったりしないだろうね?
「まあなんだ。その子ともう一度会おう。ちゃんと話してバトルまでに二人とも謝る事」
「え~?」
不満そうに顔を歪める臣。子供としては両成敗は受け入れ難いのかも知れない。オレにもあったしそう言う時代。
「私もよー君に賛成。バトルが喧嘩になるの嫌っしょ?」
「それは……うん」
「じゃ、行こう。えっと……………問題の子はどこにいるんだろうよー君?」
「えっとぉ……迷子のアナウンスでも流してもらおうかな?」
お読みいただきありがとうございます。
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