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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第125話【ユメたちが来る】

おいでませ。

「アマリリス! 皆貴女の身を案じている! 先程も言ったがぼくと来てくれないかい⁉」


 パランに抱かれて横になっているアマリリスの瞼は閉じられていて、氷柱(ツララ)さんの声に応える様子はない。いやひょっとしたら聞こえてすらいないのかも。


「ダメか。やはり標識をつけた人でなければ」

「寄っばれてないけどじゃじゃジャジャーン!」

「「「うわぁ⁉」」」


 四人の前に二人の少女が突然現れた。

 一人は虹色に輝く光の翼を背に持つ天使の少女。もう一人は頭部にナイフに似た角を二本持つ鬼の少女だ。


「誰?」

「アマリリスさんのお友達エルエルです」

「同じく火球」


 エルエルはスカートを少し摘んで礼をする。火球は小山程の胸を張った。


「起こそうと思えば起こせるはずですわ。以前アマリリスさんとパペットには紐をつけましたから。皆さま繋がっているはずです」

「たーだ、やる気があるならね。アマリリスを抱えるって事は仮想災厄ヴァーチャル・カラミティを敵に回すって事だから」


 わかっているとも。自ら望み踏み込んだ道だ。


「それは重々承知してますよ」

「ふうん。んじゃ、まず下の連中をなんとかしないとね」

「下?」


 火球に言われて見てみると様々なパペットが浮上してくるところ。


「しびれを切らせましたか」

「ララ、君は下がって」

「何言ってんのよ。ワタシも戦う――」


 意志を示そうとするララの口をゾーイが手で塞いで。


「一国の姫が市民を焚きつけるのは良くない。考えてみてくれ。民主主義とは多数決だ。この場合どっちの数が多い?」

「貴方もひ――王子でしょうに。

 例え少数でもワタシは容易く切り捨てるのは嫌いよ。なぜそう言う意見に達したか、それを理解しなきゃ。

 でここに至るまでの道順を考えて、拝金主義者の彼らは間違ってると思うけど、異論反論は?」


 コリスたちは顔を見合わせ、全員同時にやれやれと首を横に振る。


「ちょっと! まるでワタシがわがまま言ってるみたいじゃない!」

「その通りだと思うが。だが、今は良い。今はララに賛成だ。『吟子(ギンコ)』」

『ん。いるよここに』


 ゾーイの前に跪く医師が一人。ゾーイの人型パペット『吟子』。


「『プロースト』!」


 ララの前にパペット『プロースト』が顕現――していない。


「? プリンセス?」

「うん?」

「パペットは?」

「いるわよここに」


 そう言って横に手を挙げるが、何も見えない。


「この子は『掟』の塊なの。目には見えないパペット。例えば――そうね、プロースト、彼らがワタシの百メートル以内に近づいたらパペットの首を落として」

『――御意』

「「「――⁉」」」


 言葉通りに浮上していたパペットたちの首があっさりと落ちた。パペットに乗って、或いは手を引かれていたユーザーが落下していく。


「おお~~」

「これはまた……強力なジョーカーですね」

「ジョーカーじゃないわよ。これは通常使用」

「……末恐ろしい力ですね」


 そうかしら? と首を傾げるララ。


「おーい!」

「――あ! (ヨイ)涙月(ルツキ)です! あれ? 増えてる?」


 増えたのは人数だ。オレと涙月、お姉ちゃんに前野兄妹。

 オレたちはアエルの力で宙を泳ぎ、光の翼で風を受け羽ばたいている。


「アマリリスは?」


【覇―はたがしら―】の集音、望遠機能で微かに状況は掴めていたが、直接聞いて確認したい。


「これからよ」


 ララが応えて自由の女神像に――アマリリスに顔を向ける。視線の先にパランとアマリリスがいる。


「……やっと逢えた」

「嬉しそうだねよー君」

「――うん」


 叱ると以前決意したがそんな気持ちは吹き飛んでいた。

 ある意味で待ち焦がれた出逢い。オレは体温のなかったパペット・パランに触れられた最初の出逢いを思い出す。あれは一方的な接触だったが今度は向こうから現れ、こちらから逢いに来た。

 これが最初だ。


「アマリリス――起きて!」


 言葉が音になって空気を走り、アマリリスを包み、耳に入り、中枢へと潜り込む。


【――――】


 赤いワンピースを着て、アマリリスの花を頭に飾った少女アマリリスが目を――開けた。


「「――⁉」」


 アマリリスが目を開けた瞬間、オレと涙月が同時に頭を押さえた。


「痛っ」


 頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。自然、理法、科学、生物の誕生と死、世界の誕生。あらゆる情報が圧倒的なほどに脳にインプットされていく。


【――――】


 アマリリスが小さな口を開いては閉じる。何かを言っているのに全く理解できない。


「やっぱり十三人揃わないと難しそうね」


 と、火球。気を落とした様子はない。恐らく予想済みの事態だったのだろう。


「一旦離れましょ」

「待って……まだ……」


 オレは弱々しく言葉を口にする。体が情報に負けて熱を帯びていく。視界が混濁して汗が吹き出る。


「氷柱のジョーカーで十三人の脳波を転送しリンクしろ」

「――え?」


 知った声だ。渋くて重みのある大人の声。


幽化(ユウカ)さん」


 狼を伴って現れたるは、世界最高のウォーリア、幽化さん。


「貴方――」

「口を開くな」

「うぉう」


 幽化さんに銃を向けられて仰け反るララ。ララは幽化さんを知っている? いや前大会優勝者だから知っていてもおかしくはないのだけど、それとは態度が違う。


「あんたは平気みたいね」


 腰に手を当て、呆れ顔で言う火球。


「氷柱、やれ」


 火球を無視して言う幽化さん。「ちょっとぉ⁉」と火球が不満に口を尖らせるがどこ吹く風。

 幽化さんは氷柱さんを鋭く睨めつける。


「やれ」

「は、はい。

 失礼」


 氷柱さんはオレと涙月の頭に触れ、脳波を解析、【紬―つむぎ―】の痕跡にアクセスして世界中のウォーリアから【紬―つむぎ―】を探し出す。


「――くっ……」


 氷柱さんの体にも相当の負担があるはずだ。一連の作業は【覇―はたがしら―】がやってくれるとは言え使うのは【覇―はたがしら―】と人体と言う二つのCPUなのだから。


「全員補足。繋ぎます」


 ふと、気が楽になった。まるで暖かいお風呂にでも入ったかのような安心感。オレは深い息を吐いて涙月を見る。どうやら涙月も楽になったらしく胸に手を当てて深呼吸を繰り返している。


【――逃げて】

「え――」


 アマリリスの声が聞こえた。微かに囁かれたそれは耳をくすぐる高い声で、外見の割にははっきりとしているものだった。

 逃げる? ここから? それとも誰かから?


【ユメたちが来る】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!


「「「――⁉」」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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