第123話「そのままカエルみてえに潰れな!」
おいでませ。
アエリアエとUFO――エイリアンクラフトが同化して光の翼を背に纏う。
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
「――!」
オレの握る青銅の剣をアエリアエの腕が受け止めた。剣は腕に喰い込んでいて、アエリアエは口角を上げる。
「宵! 宵! 宵! アマリリスに標識をつけたお前! やっぱ立ち塞がるかよ!」
「この場合立ち塞がっているのはお前だろ!」
「どっちでも良いさ! 殺るんだな⁉」
「涙月! 皆は今の内にアマリリスを!」
「オレを無視すんじゃねぇよ!」
強引に腕を開きオレを後方に飛ばすアエリアエ。オレはアエルの浮遊を使って――残念ながら光の翼は同化状態を表すただの装飾である。ただパペットの九割以上は浮遊・飛行能力を持っているから同化状態なら人の体でそれが可能だ――再び切りつける。しかし今度は指一つで防がれてしまう。
さっきは斬れたのに!
「もうその剣に対する壁は作らせてもらった! 効かねぇよ!」
攻撃が通じるのは一度だけ⁉ なら一気に攻め落とす!
「咆哮!」
「――⁉」
左手から放たれたアエルのブレスがアエリアエを包み崩壊させていく。
「ぐ――この……! オオオオオオオオ!」
ブレスから何かが飛び出した。数は六つ。人の大きさ程の小型のUFOだ。それは素早く動いてオレの左腕の周りに位置を取って回転を始めた。円のこぎりになったそいつは左腕を切りつける。
「――っつ!」
鮮血が散る。すぐに体内の【覇―はたがしら―】が治療を始めてくれるが一度走った痛みは消えず、オレは思わずブレスを止めて左腕を右手で握り締めた。
「く――はぁ!」
大きく吐き出された息の音に目を上げるとアエリアエが全身を焼かれながらそれでも立っていて。
「……殺す」
オレを睨みつけるアエリアエ。オレも負けじと睨み返し、下で起こっている事態を見逃した。
「――痛……」
涙月と、コリスと、ララとゾーイが凍った一面の中に倒れ込んでいたのだ。
「悪いな、アマリリスは俺たちの天敵。捕獲させて頂く」
「涙月⁉ 皆!」
まずいまずい、このままでは皆が!
「はっ、プラエスティギアトレス。お前も来たかよ」
「来るとも。お前一人では心許ない」
「……っち」
舌を打つアエリアエ。同時にプラエスティギアトレスに向けて唾を放つ。しかし唾は途中で凍りついて地面に落ちた。
「宵、涙月、標識をつけた【紬―つむぎ―】の所有者。どうやら【覇―はたがしら―】の中にはそれがまだ残っているようだ。
俺は『人類救世プログラム』プラエスティギアトレス」
「人類――救済?」
救うって?
「気にするな、俺たちの言う救世と人間の言う救世が同じなわけはない」
「そりゃそうだ!」
よっこいしょ! と言いながら涙月が勢い良く体を起こした。倒れていたうちに治療は完了したらしい。コリスたちも順次体を起こし始める。
「コリス、ララ、ゾーイ、こいつは私が相手すっからお先にどうぞ!」
「しかし君一人に任せるわけには――」
「行きましょララさんゾーイさん!」
「え? ちょっと」
二人の手を引いてコリスはプラエスティギアトレスの横を通り過ぎた。コリスは振り返り、涙月に歯を見せた笑顔を向ける。
「三人を通したのは私に集中してくれるからかな?」
「標識を壊すのが俺の役目だ。集中と言えるか」
「そっか。『ウォーリアネーム【騎士はここに初冠して】』」
「パペット『ビースト』顕現」
武装する涙月と、パペット――十二体の星座獣を顕現するプラエスティギアトレス。
「んな? 十二体とはどう言う」
「これで一つだ。俺の星座獣は精神を共有している。
そして、『ウォーリアネーム【おひつじ おうし そのつぎに ならぶは ふたご かにのやど くるえる しし と おとめご に かたむく てんびん はう さそり ゆみもつ いて に やぎ さけび みずがめ のみずに うお ぞすむ】』」
長い。
長いネームをすらっと唱えてプラエスティギアトレスはパペットと同化した。背に光の翼、両手の甲・両足・胸・額・両目・両耳朶・首・そして舌に星座の紋章が浮かぶ。
「行くぞ、涙月」
「いつでもOK」
その上でオレたちも。
「俺らも行くぜ、宵」
「今度こそ」
倒す。いつまでも幽化さんに任せているわけにはいかない。
四人は同時に、駆けた。
「――!」
青銅の剣を以て斬りつけてみたがアエリアエの右手に握られてしまい。
「壁ができるって言ったろ!」
「そうだね!」
剣のレベルを一つ落とし木剣へ。そのまま振り抜き剣を握る右手を斬り裂いた。
「ぐぅ!」
壁ができる前に!
木剣で乱撃しアエリアエの全身を斬りつける。しかし徐々に傷は浅くなっていき。遂には壁によってかすり傷も負わせられなくなった。
なら回復前に。
「牙!」
「うぉぉ⁉」
アエルの牙の力を集結させアエリアエの全身を噛み砕く。
「は……」
落ちていくアエリアエ。だが、
「――!」
鋭い眼光がオレを射抜いた。何かする気だ。
「ジョーカー! 重力操作!」
「!」
アエリアエの全身が渦状の重力波に包まれて影響がオレにまで及んだ。オレの体は右に左にと振られ平衡感覚を失っていく。その横をアエリアエが通りすぎ、遥か上空に。
揺られるオレを高みから見下ろしてアエリアエは両腕を天に掲げた。手の先には巨大な重力の塊が。
「へしゃげて潰れな!」
一思いに重力塊を振り落とした。
まずい。体は重力に拘束されている。避けようがない。ジョーカーで――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!
「「――⁉」」
重力塊が空間を削る一撃を横から受けて消え去った。
今のは――ねうねうの雄叫びだ。
「よーちゃん!」
「お姉ちゃん」
黒い毛並み、白い爪、銀河色に輝く炎のような鬣。普通のライガーよりも一回り大きい体躯を備えたライガー『ねうねう』と共に彼女がやってきて、
「『ウォーリアネーム! 【王の下に黒南風集いて】!』」
ねうねうと同化した。光の翼を纏いて立つ。
「邪魔だぜ女!」
重力の風が吹き荒れる。しかしお姉ちゃんはライガーの爪で大気をしっかりと踏みしめて留まり、手の先にも爪を作ってアエリアエに向かって一息に駆けた。
「――!」
アエリアエの首を爪が刻み、舌を打ったアエリアエは両手を使って次々にと繰り出される爪を捌き始めた。
――? 壁はどうした?
「弟がやられてる時に気づいたみてぇだな!」
「ええ! 貴方の壁はレベルを変えるだけで無効化できる!」
「だけどよ!」
アエリアエが両腕を右から左に振った。そこに重力の壁ができて爪がそれに阻まれる。
「触れさせなきゃ良いって話だよな!」
「防げるのならね」
「ん⁉」
ねうねうのものである炎の鬣がアエリアエの全身を包んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」
「ただの炎じゃないから!」
その鬣は宇宙空間の塊だ。それに包まれてしまったアエリアエは。
「くそぉぉぉ!」
重力波をデタラメに放って炎を散らした。
「……けど、簡単に治せるとは思えないわね」
「お前を凌ぐくらいなら何とかなるだろうさ」
全身の血液を沸騰させてそれでもアエリアエは倒れない。代わりにお姉ちゃんが体をふらりと揺らして、
「どうした力尽きたか⁉」
その瞬間お姉ちゃんの横を光が通り過ぎた。
「⁉」
アエルのLv落ちの咆哮を受けてアエリアエの右腕が吹き飛んで。
「くそ!」
「「――!」」
アエリアエの撃った強重力波にオレとお姉ちゃんは地上へと落とされて体を大地に縫い付けられる。
「そのままカエルみてえに潰れな!」
「『冥王』!」
「なん⁉」
『冥王』の紫の時間崩壊が広がり、重力を消し去ってアエリアエに伸びる。
「喰らうかよ!」
重力が吹き荒れて力が届かない。更にアエリアエは重力嵐に飛び込んで右に左にと動きながらこちらに迫って来る。
アエリアエは左手に小規模の重力塊を作り、直接それをオレに叩き込もうとする。
「この!」
オレは『獣王』の時間凍結の炎を右腕に纏わせ重力塊を殴りつける。迸る閃光。ねうねうの雄叫びがアエリアエの腕を引き裂いて、彼の体を多面体のガラスが包み、時間ごと凍結される。
「くぅぅ⁉」
それでもアエリアエの意識を奪えず時間凍結に抗い続ける。だけど。
「「オオオ!」」
アエルの牙とねうねうの爪に胴体を切り裂かれ核が顕になった。オレはそれに手を伸ばし牙を以て砕こうとした――のに。
「「――!」」
核の前方にて放たれた光に目を閉じて動きを止めた。
なんだこの光⁉
まるで地上の太陽。熱こそ持っていないが光はあまりに強烈。
その光の中から、一人の女性が現れた。
黒く長い髪、黒と紫のドレス。腕に弾倉を巻きつけて手には装飾された銃が握られ、銃口をオレに向けた。
ダメだ!
潜在的な恐怖を感じてオレは黒鱗の盾を前方に展開し、黒い女性が引き金を引いた。
「――⁉」
その瞬間黒鱗を飛び越えて細い光の剣――いや十字架がオレの胸を穿った。
「よーちゃん!」
お姉ちゃんは倒れるオレを支えて、同時に黒い女性がアエリアエの核を両手で包み込んで――口に咥えて飲み込んだ。
一筋の涙を零して――女性は光の中へと姿を消した。
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