表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
12/334

第12話「ロボットの脚は効果的に使わないとね!」

いらっしゃいませ。

☆――☆


「お~」


 アトミックとの一戦を終えて、オレたちの乗るアーミースワローは一路ハワイを目指して進む。終えてって言うかバトル中も進んでたんだけどまあ良いとして。

 ではどうして涙月(ルツキ)が「お~」なんて声を上げたかと言うと。


「よー君」

「どれがおいしいんだろうってのはNGでよろしく」

「……っち」

「舌打った!」

「冗談だよ冗談。

 いくら私でもこの光景を見てお刺身優先じゃないって」


 涙月やオレ、それに他の皆が見惚れる光景。

 それは――海。

 海である。

 海上のではない。海中のだ。

 アーミースワローに乗って海上を走っていたオレたちだが、今はそのアーミースワローと共に海中に没しているのだ。

 水圧用強化ガラスができた時点で構想があった海中トンネル。エナジートンネルの完成で現実身を帯びた海中トンネル。

 その人の夢の一つが完成されたのはアーミースワローの完成とほぼ同時期。オレが産まれる前の話だ。

 何度か通った路だが、何度見ても凄いな、海中の姿ってのは。

 そこに生きる魚たちはもちろん、ときおり見える沈没船、海底の大地、そして空から降り注ぐ陽光。

 全てが神秘。

 たま~にサメがこちらを見つけて突撃をかましてくるがエナジートンネルの発するエネルギーがやんわりとそれを和らげて。そうするとバツが悪そうにサメは離れて行く。その様子がちょっとだけおかしくて笑いが漏れる。

 一方でイルカがアーミースワローと競争するように寄り添って来たり。そうなるとアーミースワローはわざとスピードを落とす。全開で走るとあっと言う間にイルカを置き去りにしてしまう為である。イルカはトンネルの周りを回ったりイルカ同士でじゃれ合ってみたり。

 何とも平和な光景だ。

 あ、トンネルから出てしまった。

 皆から少し名残惜しむ声が上がる。

 しかしそんな彼ら彼女らを送り出すようにイルカが海上に現れ飛び跳ねて。

 ここからアーミースワローは速度を上げていく為イルカは後方に行ってしまう。つられて乗客もアーミースワローの後方に移動する。中にはイルカに手を振る子供もいたりして。

 そんなイルカたちがとうとう見えなくなった。

 代わりと言ってはなんだが空を行く鳥たちが現れた。

 とは言え鳥たちもアーミースワローにはついて行けずあっと言う間に後方へ。

 全ての動物たちを超えて、アーミースワローは前進する。


「ハワイまであと三十分か」


 とはオレの呟き。

 旅と言うものは現地を楽しむ他に道中だって楽しめるものだ。

 だから乗車時間が終わってしまうのが少し寂しい。

 けれど。


「よー君、ゲームしよう」


 涙月にぐいぐい腕を引っ張られて寂しさを味わう時間は強制終了。

 オレと涙月はゲームコーナーへと向かった。

 そこではパッと見アニメに出てくるロボットのコックピットにも似たカプセルがいくつも並んでいて。

 予約の行列ができていたからオレたちも予約チケットを取って順番待ち。


「涙月」

「うん」


 程なくして出番となった。

 オレたちは円形に並んでいるカプセルの内二つに乗り込む。

 衝撃を和らげる特別な座席に身をゆだね、カプセルの蓋を閉めて、いくつか触ってみる。

 操縦桿は左右に一つずつ。

 座席の前方を囲むようにキーボードパネルがあって、これはコマンド入力に使用される。


「良し、行くか」


 カプセルの起動ボタンを押すと全体がディスプレイとなって『戦場』の様子を映した。

 宇宙である。

 まだ敵は出てきていないゆえに遠くに星の光が見えるだけのシンプルな宇宙空間だ。

 そこでまずチュートリアルを受けるかどうかの質問が表示されたからオレはNOを選択。

 このカプセルゲームは地上にもあって何度も経験済みだから。

 チュートリアルをスキップすると今度は初期値からスタートするか否かの選択肢が。ここでもNOを選択し、パスワードを入力する。

 すると育ててきた愛機である幾種かの人型ロボットが表示されて。

 その中から今日の気分にあった機体を選び、それと合体。これでロボットに乗り込んだ事になる。

 お次は拠点となるスペースシップ(戦艦)の選択だ。

 これは二隻あるうちのどちらを選んでも良いのだが……参加人数が少ない方にしてみようか。

 スペースシップ選択完了。

 ここで味方となるユーザーの名前と戦績が一覧表示される。


「涙月は――いないか」


 どうやらチームが別れてしまったらしい。こんな事もままある。

 で、あるならば。

 バトルスタートまでのカウントダウンが始まった。

 10から始まって9.8――……0。

 一斉にユーザーの乗り込んだロボットがスペースシップから放たれた。

 いろんな人のやる気に満ちた声が聞こえてくる。

 それもいろんな言語でだ。インターネットを通じて世界中と繋がっているから。

 同時翻訳されて日本語で表示されるのだけれどほとんど読んでいる暇はなし。だから音声通訳に切り替えた。

 オレたちは右に左に上に下にと思い思いの場所に飛んで行き、母艦を守るユーザー・敵艦を攻めるユーザーとに分かれ、ゲームは着実に進行する。

 オレは攻めの一人だ。

 右手にレーザーの剣を、左手にレーザー銃を装備した近・中距離型に育てたから。勿論遠距離型の機体も持ってはいるのだが基本は前線で戦うタイプである。

 だから敵艦に向かって飛んで行き――会敵。


「ん?」


 いくら何でも敵機が溢れるエリアに突っ込んで行ったりはできないので敵艦へのルートをちゃんと計算し飛んでいたのだがそんなオレを狙い撃ちするかのような敵一機が進行方向を塞いでいた。

 あちらさんも隙を生まない布陣で来るのは当然だが……。


「いや、あの機体!」


 ズームして見えた機体の形、カラー。

 あれは――


「いっくぜ!」

「涙月かい!」


 成程ね、何度も遊んだ彼女ならオレのやり方熟知していて当然か。

 その涙月の機体は超がつく程の近距離型。

 ロボットが両手に握るのは――戦斧だ。刃がYの字に三枚もついている巨大で黒い戦斧が二つ。

 あれを一撃でも喰らえばあっさり両断されるだろう。

 だが。そんな機体だからこその弱点もある。


「近づかせ――ない!」


 まずはオレの一手。左の銃からレーザーを撃つ。射出された青い光線は涙月の機体に迫り、


「喰らうかい!」


戦斧によって弾かれた。

 が、弾いたせいで機体の勢いは緩んだ。

 彼女が機体をずらして避けなかった理由は一つ。巨大な戦斧二つを振るう為にステータスのほとんどをパワーに振り分けているのだ。

 だから素早く動けない。

 それこそが涙月の機体の弱点。

 オレはレーザーを連射する。まずは涙月の動きを止めるのだ。


「自分の弱点くらい知ってるよ!」

「え」


 なんと、涙月が推進力を逆噴射。自ら動きを止めてしまった。

 そこに振り注ぐレーザーの雨は全て戦斧でガードして。

 こっちの銃のエネルギーが尽きるまでガードに徹する気か? それまで戦斧の強度ならもてると言う判断だろうか?

 しかし、それは違った。


「!」


 突然だ。左右から飛来してきた小型隕石の群れにオレは慌てて上に回避させられる。

 何だ? 偶然?

 そんなわけがない。

 飛来してくる隕石は全てマークして安全な道を通っていたはずだ。

 ならば。


「私が! 飛びながら細工したの!」

「やっぱりか!」


 涙月に向けていたレーザーが途切れてしまった。その間に涙月は手近な隕石に寄り、戦斧でそれを破砕する。破砕して、こちらに撃ち出してくる。

 単純にして効果的な攻撃だ。

 武器でも何でもない石の塊だけれどそいつが百・千・万ともなれば立派な投石として機能する。

 超近距離型でありながら中距離もイケるとは。


「でもやっぱり!」


 隕石群を避けるだけで手一杯のオレへ涙月が迫る。


「せっかくの機体だもんね! 近接しなきゃそんそん!」

「くっそ!」


 戦斧が――オレの機体の両肩を切り落とした。これでオレは武器を失った。


「ってのは嘘で」

「へ?」


 なんと。切り落とされた両腕が飛行形態に変化したではないか。


「オレは! パペットだけじゃなくてちゃんとこのゲームでもレベルの更新と改良を進めてたんだよね!」


 少し前までオレの機体はあくまで一個のロボットであった。

 が、その機体を使いこなせるようになった時一抹の不安を感じた。オレの状態を突破してくる機体が出てくるのでは?

 と同時に残念にも思ったのだ。もう上限か。――と。

 だから機体をごっそり改良したのだ。


「こんな風に!」


 腕だけではない。頭部、胴体、そして脚。全てがばらけて飛行形態に変化する。

 オレは――コックピットは胴体だった攻撃機にあるがコマンド入力で全ての攻撃機を操作可能。

 このコマンドがめちゃくちゃ難しいのだが、こなして見せる。


「ちょ! ちょ! ちょ!」


 一つの機体が小さくなったおかげで隕石群を編むように飛行できるようになった。だから涙月の機体とは一定の距離を保ちながらレーザーを撃つ、撃つ、撃つ。

 けれどもその全てを涙月は戦斧で防ぎきる。

 細かな動きにもコマンド入力が必要だと言うのに器用な。


「なら!」


 攻撃機と攻撃機をレーザーで繋ぐ。繋いで回転しながら涙月の機体へと向かい、その左腕を切り落とした。


「もう一つ!」


 今度は三機の攻撃機をレーザーで繋いでレーザーを網状に。申し訳ないが機体をバラバラに――


「甘い!」


 が、涙月が脚を使って離れていく戦斧を蹴り上げた。


「ロボットの脚は効果的に使わないとね!」


 蹴られた戦斧が網を放っていた攻撃機一機に直撃。壊されてしまう。

 更に。


「うっりゃー!」


 肘打ちでもう一機を撃破。

 いやいや待て待て。いくら何でも格闘でやられるほど貧弱ではないはずだ。

 となると。


「まさか!」

「そのまさか!」


 涙月の機体からいくつかの部品がパージ。

 体のあちらこちらから金属の刃が身を晒したではないか。


「全身刃物!」

「おうよ!」


 急ぎオレは機体を操作する。

 あの全身刃物で突進されたらたまったものじゃない。

 残った攻撃機を全てレーザーで繋ぎ、コーンのように。


「なら私だって!」


 涙月、超回転。


「「いっけー!」」


 オレのコーン状のレーザーと涙月の超回転がぶつかり合う。

 二つの衝撃は閃光をまき散らし拮抗し――コーンと涙月の機体の頭部が砕けた。

 まだだ!

 胴体だった攻撃機の先端に全てのエネルギーを集約。小さな、それでいて頑強なコーンを形成。突貫をかます。

 だが。


「!」


 戦斧の一つが涙月の機体の陰から飛来してきた。

 飛ばしていたのか!

 コーンが弾かれる。

 しかし。


「私の勝ちだね!」


 涙月の超回転は止まっていない。

 コーンは消えた。オレは無防備。に、見えただろう。

 事実、超回転する機体がコックピットごと攻撃機を砕いて。


「あれ?」


 けれど目を疑ったのは涙月。

 そりゃそうだ。だって、コックピットにオレがいなかったのだから。


「よー君は⁉」


 応える声は、ない。

 返事したら居場所がバレるから。

 オレがいなくなったのは単純。攻撃を仕掛ける前に脱出したから。逃げではない、次の攻撃に繋げる為に。

 そんなオレは涙月によって破壊された攻撃機の一つの陰に。

 そこに密やかに移動し、攻撃機の残骸を調査中。

 中破しているがレーザー攻撃は――可能だ。

 一方で涙月はオレを探す為に回転を止めている。

 チャンスは今!


「!」


 撃たれる最大出力のレーザー。

 こちらに向けられる涙月の目。

 レーザーの狙いは涙月のコックピット。

 即座に機体を回転させる涙月。

 レーザーと機体がぶつかって、涙月の機体をボールのように弾き飛ばした。


「くぅ!」


 涙月の超回転が止まる。

 レーザーも撃ち尽くした。この攻撃機のレーザーは。


「げ」


 回転の止まった涙月の機体に戦斧が突き刺さった。涙月が装備していた戦斧だ。

 オレが、別の攻撃機を操り戦斧に衝突させて飛ばした戦斧だ。


「そんなぁ」

「はぁ、勝った」


 残念がる涙月と勝利に安堵するオレ。

 けれどもまあ、オレも動ける機体を失ったしほぼ引き分けなのだが。

 だからオレも涙月もそれぞれの母艦に強制帰還させられて、後は終わるまで見学となったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ