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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第117話「お前の一挙手一投足は全てチェックされている」

おいでませ。

☆――☆


 翌日行われた高校生・社会人の部ではオレたちの知らない高校生が、社会人は幽化(ユウカ)さんの圧勝だった。


『それでは各部門代表四名の皆さま、これからお配りするものをお受け取り下さい!』


 閉会式。

 オレと(オミ)、高校生代表の男性、そして幽化さんはバトルフィールドの中央で横一列に並んでいた。そのオレたちに盆を持ったスタッフが近づいてくる。

 盆に乗っているのは、あれだ。昨日涙月(ルツキ)が受け取ったのと同じ。


『本戦第三戦――つまり世界戦突入である次のバトルより導入される液体状コンピュータ【覇―はたがしら―】であります!』


 会場がざわめいた。

 目を輝かせる人。ハテナマークを浮かべる人。体に異物を入れるのに顔をしかめる人。反応は許容6、拒否4と言ったところか。意外に受け付けない人が多い。


『どうぞお手に!』


 まず臣が動いた。待ってましたとばかりに目を輝かせて小瓶を取り、一気に飲み込んだ。静まり返る会場。ぷはっ、と息を吐き出す臣。そして小瓶を振りかぶって――投げた。コラッ。


「いてぇ!」


 先程から大声で「得体が知れないもんは無理」とか「綺羅星(キラボシ)意味不明」とか喚いていた男の額にぶち当たり、男は後ろに突っ伏した。バトル中でないゆえにシールドがなかったからだ。涙月と同じで体の性能がアップしているらしくとんでもないスピードだった。

 頭貫通するかと思った……。

 小さくざわめいた会場の中で臣は胸を張る。


「ほれ、(ヨイ)兄たちもさっさと飲みなよ」

「あ、ああ、うん」


 オレたち残り三人に小瓶を放ってきた。

 オレはそれのコルクを抜き取り一息に煽り、高校生代表男子は戸惑いながらも飲み込み、幽化さんは極めて冷静に飲み込んだ。


『【覇―はたがしら―】は人体細胞の内ジャンクと呼ばれる細胞を予備CPUとして機能させ通常の人間以上の知力と膂力を発揮させます! 一騎当千! 力の使い方には充分に注意をお願いします! 尚【覇―はたがしら―】は会場表にある綺羅星ショップからお買い求め頂けます!

 では、これにて閉会式を終わります!

 本戦第三戦でお会いしましょう!』

「宵」

「え? うわ⁉」


 会場を後にしようと一歩踏み出したその背後からオレを呼び止めた幽化さん。に、いきなり殴り掛かられた。顔を狙ってきた拳をオレは頭を下げてやり過ごし――幽化さんが伸びきった右腕を曲げ、肘で鼻を狙ってきた。オレは倒れこむようにして両掌でそれを受け止める。と足を払われた。幽化さんは払った右足を高く上げてオレの腹を踏みつけ、少々頭にきたオレは幽化さんのネクタイを握って強引に立ち上がり、逆に斜めになった幽化さんの額に頭突きを喰らわせた。

 突然の喧嘩に臣と高校生代表男子はぽかんと口を開けて硬直していて、残っていたギャラリーも「なんだなんだ」とざわめきだした。


「――て、何するんですかいきなり! 鬼畜か!」


 互の拳を拳で受け止めて一時停止。


「……【覇―はたがしら―】での動きについてこれているようだな」

「え? あ、昨日見たので……」

「見た?」

「えっと――」


 オレは涙月と臣のバトルを話して聞かせた。その臣はオレの後ろでなぜか胸を張っている。


「そうか」

「――で、今の喧嘩の意味は?」

「剣の使い方を覚えろ」

「はい?」


 質問の答えはいずこへ?


「今のお前は体捌きからなっていない。剣を手足のように動かせる術を学べ。仮想災厄ヴァーチャル・カラミティ()られたくなかったらな」

「はぁ……」


 これは一応心配されているのだろうか?


「そんな返事で教師が納得すると思うか?」

「は、はい」

「良し。一つ教えておく。人類置換プログラム、テンタトレス・マリゲニーは始末した」

「へぇ……え?」


 今なんて?


「二度言う必要もないだろう。聞き逃したなら【覇―はたがしら―】のレコーダーを見ろ。

 じゃあな」


 そう言うとざわつく会場を幽化さんは素知らぬ顔で去っていった。


「だ、大丈夫宵兄? 結構手酷く殴られたり蹴られたりしてたけど」

「うん。【覇―はたがしら―】のおかげかな? 思ったより痛くなかった」


 それとも幽化さんが加減してくれたから?

 ふと視線をそらしてみると、高校生代表男子がこちらを見ていた。


「あ、ごめんなさい驚かせて」

「……彼とはお知り合いだったのですか?」


 静かに、良く耳を向けていないと聞こえない程の声量で高校生代表男子が訊ねてきた。


「はい」

「そうですか。仮想災厄ヴァーチャル・カラミティとはなんですか?」


 今一つ感情の動いていない声だ。オレは中学生代表になれた事に今も気持ちが弾んでいるのだけど、彼にはそう言う類の昂ぶりもないみたいで。

 さて、仮想災厄ヴァーチャル・カラミティについて話して良いものか……。


「貴方が仮想災厄ヴァーチャル・カラミティとやらと事を構えているのなら、同じウォーリアであるオレも戦うのでは?」


 それは――どうだろう? 仮想災厄ヴァーチャル・カラミティは【紬―つむぎ―】所有者十三人を狙っていたはずだけど、【覇―はたがしら―】が仮想災厄ヴァーチャル・カラミティにとって厄介な存在なら彼も狙われるかも知れない。

 良し。


「臣、君も聞いて」

「? うん」






「アマリリスに標識をつけた十三人……」

「んな話パパから聞いてないんだけど!」


 静かに呟く高校生代表男子となぜかオレに向かって怒る臣。親父さんに向けて欲しい。


「わかりました。協力できるなら協力します。オレが役立つようなら使ってください。邪魔になるようなら自爆装置としてでも使ってください」


 事もなげにとんでもない事を言い出した。


「じば――なんでそんな話に」

「オレは人の役に立てればそれで良いですから」

「そ――」

坂鳥(サカドリ)!」


 それで良いのか? と問おうとした時客席から大声が上がった。坂鳥――確かこの青年の名前がそんな感じだった。坂鳥(サカドリ) 大数(タイスウ)さん。


「来い! 戻って【覇―はたがしら―】の研究をするぞ!」

「はい。父さん。それでは」


 一礼して、大数さんは去っていった。


「なんか変な兄ちゃんだったね」

「うん」


 ん? 父親がなんで彼を苗字で呼んだんだろう?

 と思っていたら。


「【覇―はたがしら―】はお前にマッチしたか?」

「問題ありません」


 合流した二人の会話が集音機能に届いてくる。


「そうか。坂鳥、お前は自分の立場をわかっているな?」

「はい。オレは実験動物です」

「そうだ。初めてゼロから生まれた人工人間だ。お前の役目は戦いではない。このバトルはあくまでお前の性能テストだ。仮想災厄ヴァーチャル・カラミティなどに構う必要はない」


 人工人間!


「聞いていらしたのですか」

「お前の一挙手一投足は全てチェックされている。

 良いな? 余計な問題に首を突っ込むな」

「はい」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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