第114話「いや~この子が突然飛び込んできてねぇ」
おいでませ。
☆――☆
「う――――――――み――――――――――――――!」
「あ! コリス準備運動!」
「う――――――――み――――――――――――――!」
「涙月まで!」
この五分前、オアフ島に着くなりアーミースワローを飛び出した二人を追って来てみると、二人は突然服を脱ぎだした。下に水着を着ているとは知らず慌てるオレを尻目に二人は早速ビーチへと繰り出したのである。て言うか水着着てるなら着てると教えといて欲しい。てっきりヌーディストにでもなったのかと。
オレは建物の隅っこで水着に着替えてビーチにシートやパラソルを開いてから遊ぶ二人を眺めお姉ちゃんたちが合流してくるのを待った。
あ、そうそう。村子さんと卵姫さんはここにある魔法処女会施設に出向いている。コリスは報告には向かないと置いて行かれてしまったのだった。本人はなんか思うよりも遊べる事に喜んでいたが。
「よーちゃーん」
「あ、お姉ちゃん」
オレたちの代わりにホテルにチェックインをしてくれていた姉と前野兄妹がここで合流。既に水着だ。姉とは言え、ビキニが眩しい。
「バトルお疲れさまでした。差し入れです」
と、お弁当を差し出してくれる繭。
「ありがと………ございます」
「? 今の間は?」
「いえ……」
服を着ている時にはわからなかったが『あたし、脱いだら凄いんです』と言う奴だった。
「目がエロ~い」
「エロイで~す」
「痛いです」
涙月とコリスに両頬をつねられた。海水の滴る体からはほんのり塩の匂いが。
「ほらよー君海行くよ」
「の前に腹ごしらえしたい。コリスも結構動いたでしょ?」
「そうですね考えてみたらお腹ペコリンですでも考えなかったら一週間ぐらい平気かも?」
「そんなわけありません」
と言うわけで涙月と繭とお姉ちゃんの持って来てくれたお弁当を皆で平らげて全員で海に飛び込んでいった。
午後は自由時間だから海で二・三時間遊んで水着のままで許される近くのモールまで出かけてショッピングと軽食を楽しんだ。
そう言えば幽化さんも乗っていたはずだけどどこに行ったのやら。
「おっと」
ちょっとキョロキョロとしていると、涙月のそんな声が聞こえた。顔を向けてみると女の子が涙月の胸に顔を埋めていた。
「何やってんの?」
「いや~この子が突然飛び込んできてねぇ」
「ぷはっ」
その問題の女の子が胸から顔を離した。髪をショートカットにしたボーイッシュな子で、幼い顔から小学中学年に見える。
「失礼しました。ちょっと余所見してたもので。ごめんなさい」
言いながら頭を下げる。綺麗に曲げられた腰と伸びた下半身と上半身。礼をしなれているのだろう事が伺える。
「それでは。本当にごめんなさい」
「良いって良いって。バイバイ」
少女はもう一度礼をして小走りに去っていった。それは良いのだが。
「涙月」
「うん」
涙月の手の中に赤い折り紙で作られた手裏剣が。少女が涙月に手渡したものだ。
「中になにか書いてあるね。開くよ」
「ん」
折り紙を破かないように解くと、白い面に書いてある文字が見えた。
【本日二十一時、○○ホテル屋上プールまでお越し下さい。パペットバトルにてあたしが勝った場合、お姉さんの【紬―つむぎ―】をくださいね。
日本小学生ウォーリア代表母屋 臣】
「「…………え?」」
☆――☆
「うっぷ」
顔を蒼白にして涙月は口を手で押さえた。
「食べすぎだよ涙月」
大人三人分は食べていた気が。
「いやぁこの後動くかと思ったらその分補給したくなって」
「お腹いっぱいにしすぎちゃ逆効果」
「反省してます。でも多分またやります」
「学習能力欠如!」
オレたち二人は宿泊ホテルを出て、少女・母屋 臣に指定されたホテルへと夜道を歩いていた。まだまだ人の行き来が多く、ホテルの部屋にも明かりが見える。右手に見える海は真っ黒で飲み込まれそうな気がして少し体が冷えた。
呼び出されたのは涙月だけだが観客がいてはダメとも書かれていなかったから大丈夫だろう。
「あ、ここだここ」
オレの服の袖を引っ張って合図する涙月。足を止めてホテルを見上げる。
「高層!」
「ふぉ~あの子一人で泊まってんかな?」
「親御さんと一緒じゃない? 保護者なしじゃダメだよ。多分」
「あそっか。
んじゃ、入りますか」
二重になっている自動ドアを抜けて、エントランスへ。日本語も堪能だった受付に事情を話すと「伺っております」と通してくれた。
エレベーターに乗って屋上へ。
着いてみると母屋 臣はまだ来ておらず、雲の形をしたプールに人影はなかった。夜とはいえ利用している宿泊客がいそうなものだけど。
「本日貸切だって」
「え?」
涙月の指さす先を見てみると確かにその旨を報せるボードが立っていた。
「ひょっとして母屋 臣って子、お金持ち?」
「よー君、お金に惹かれちゃダメだよ?」
「涙月もね。玉の輿狙っちゃダメだよ?」
金の切れ目は何とやらである。が、それを除いても。
「…………」
「…………」
「よーするに二人一緒にいたいって?」
「「すぁ⁉」」
いつの間に接近したのか、水着を着た母屋 臣がすぐ後ろにいた。昼に涙月にぶつかった子で間違いない。水着……セパレートだけど、隠す胸がないと思われる体つきだ。いや小学生の胸だから膨らんでいる方が珍しいのかもだが。
「さて、【紬―つむぎ―】はちゃんと持ってきたみたいね」
自信満々に笑う母屋 臣。涙月の耳に飾られている【紬―つむぎ―】を下から見上げて。
「あたしの申し出は受けてくれたでOK?」
「NO!」
「へ?」
即答に間の抜けた声を上げる母屋 臣。
「バトルは別に良いんだけど、これは譲ってもらったものだからあげらんないの」
「……こっちも事情があるんだけど」
心底困ってます、そんな表情。
「NOです」
「ちょっと待って、事情って何?」
オレを横目で見て、母屋 臣は顔をそらした。
「お兄さんはちゃんとパパに選ばれてるから、無関係」
「パパ?」
「綺羅星母屋代表取締役会長」
「「――!」」
綺羅星トップの――ご令嬢⁉
思わずオレたちは目を瞠って母屋 臣をじっくりと眺めた。母屋 臣は頬を朱くして胸と下腹部を腕で隠す。いやそんな目では見ていない。
「代表取締役会長の子ならお父さんにお願いできないの?」
「ちっちっちっ」
指を左右に振りながら、母屋 臣。
「そう言うズルは良くないなぁお兄さん。や、コネが仕事で優位に働くのは知ってるよ? でもこう言う場合は別じゃん? ちゃんと選ばれたかったの。たかったんだけどパパったらあたしを頭脳と運動能力を測る公式な大会に出てない実力を示せてないからってくれなかったのよね。
んじゃどうするかって言うと、あたしの方が他のウォーリアより上って証明してみせるしかないじゃん? で、イレギュラーに【紬―つむぎ―】を持ってるのってお姉さんしかいないじゃん? だからバトルしようってなるわけ。
ほら正当な理由」
正当……か?
一息に言って喉が渇いたのか、母屋 臣は持っていた水筒から飲み物を摂る。
「んでも、さっき言った通りこれはあげられないよ。ごめんだけど」
「ん~~~~~~~~~~」
口の下に梅干のように皺を寄せた。
「それじゃ、バトル中奪っちゃおう」
「スト――――――――――――――プ!」
「「「わぁ⁉」」」
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