第11話「義務は楽しさ有限だって教えてあげる」
いらっしゃいませ。
☆――☆
甲高く鋭い風切り音を出してスワローはあっと言う間に後ろから前へと進んでいく。
これで揺れがないのだから凄まじい。
「……はぁ」
そんな快適空間で汗を流してベンチに座り込む男が一人。ええオレです。
「シャワー浴びておいで、よー君」
「……うん」
「はて、なぜ私をジト目で見ているのかな?」
「高良が皆を扇動していたからです」
率先してやるとは。味方してくれると思ってたのに。
「ねーねー、涙月で良いよ」
話題が変わってしまった。
「……良いけど……涙月」
「……リピート?」
ジーンと感極まっている。こっちが恥ずかしい。
「涙月」
「……おおぅ」
「何悶えてんの。
オレシャワー行くよ?」
「おぅ行ってこい!」
このアーミースワローには有料ルームの他にカプセルホテルのようなフリーの寝床と十個のシャワールームが設置されている。
運動施設があるからだが、たまにスワロー内を家として使っている宿なしの客が利用したりもある。
「良かった空いてる」
オレは適当なシャワールームに入ろうとしたのだが――
「ヘイ」
「は?」
突然金髪白人の少年に声をかけられた。
「見てたよ見てたよバトルロイヤル!
見事な五十人抜きだったね」
サイバーコンタクトと【紬―つむぎ―】には同時翻訳発音システムが組み込まれている。
その為昨今では授業で外国語を学ぶ機会はなくなり、教室などに通い趣味で習うようになっている。
「……五十一人目で負けたけどね」
「じゅーぶんさ」
「あの……ところで――」
「何?」
「せめて下くらい隠しませんか」
その白人の少年はシャワーあがりたてだったのか、湯気をホカホカと昇らせながら全裸であった。
見たくなかったものが~。
「AHAHAHAHA。ごめんごめん」
と言って星条旗がデザインされたパンツを穿く。
「アメリカの人?」
「いやイギリスの人」
じゃなぜ星条旗?
「あのさ、君がシャワー終わったらオレと一戦やろうよ」
「一戦?」
「バトルさ。ベッドで」
「ベ――」
思わず一歩後ずさり。
「AHAHA冗談冗談。
バトル、OK?」
断る理由は特にないし――
「OK」
あ、シャワー浴びた後に汗かいたら無意味かな?
「シャワーの前にしてもらって良い?」
「良いよ」
こちらの気持ちを察してくれたのか、快諾してくれた。
「んじゃ」
「行こうか」
「って、服着て!」
「と言うわけで帰ってきたわけで」
「よー君もついにイギリスデビューですか。
あの人――えーと、名前なんてーの?」
フィールドの逆側にいるイギリス少年をちょいと指差し。
そう言えば名前聞いてなかった。
『では天嬢 宵選手&アトミック・エナジー選手のバトルです。
お二方どうぞ!』
「行ってくるよ、涙月」
「…………」
お? 固まっているぞ?
「涙月?」
「よー君、びっくりだぜ」
「何が?」
「あやつイギリス中学生トップだぜい」
「……嘘……」
イギリスと言えばサイバーコンタクト製作販売最大手のおひざ元。ユーザー数は日本よりも多いと聞く。
そこの中学生トップ……。
『天嬢選手ー?』
「あ、はい今行きます!」
「気ィつけてねー」
「うん」
イギリス中学生ナンバー1、か。とすると『中学生パペットウォーリア』に出てくる可能性高いな。
「名前聞いて怖気づかれるかと思ったよ」
「もっと凄くて性格悪い人がプチ師匠みたいになってるから度胸は付いたよ」
「そっか。でも――」
アトミックの雰囲気が変わった。おどけていたものが狩人のものへと。狩人会った事ないけど。
「ドレッドノート」
「――!」
二人の下から潜水艦が浮き上がってきた。
大きく、黒い。
Lv94。
ユーザーLv76。
対するオレたちは、
パペットLv89。
ユーザーLv78。
同レベルと見て問題ないだろう。それなら――いや、そうでなくとも。
「へぇ、宵、笑えるんだね、こう言う状況でも」
「え?」
ちょっと意外な事を言われた。
笑う? だってそりゃ――
「楽しいでしょ? バトル」
「楽しい?」
意外そうな顔をされた。
「そうだよ。楽しさ無限大。違うの?」
「……どうだろう?
イギリスではパペットの軍事利用が行われていてね、オレもそう言った人たちに結構世話になってるから負けるとやばいんだ。
だから、オレは勝利が義務なんだ」
それはきっと楽しくない。
これ、パペットを作るソフトは元々一人ぼっちの子供を救う為に作られている。
だから楽しさが優先されるはずなのに。
「アトミック、『パペットウォーリア』には出る?」
「ああ」
「オレも出るよ。ちょっと前までは嫌だったんだけれど、今は違う。
自分の力を試したい。自分の意思で精一杯楽しみたい」
そして挑むのだ。
幽化さんに。
挑み、勝つのだ。
「アトミックと戦うなら、倒すよ。
そして義務は楽しさ有限だって教えてあげる」
「……そう。周りにいる軍人さんたちにも届くと良いんだけどね」
――バトルスタート――
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