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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第107話「成程。愛の力か」

おいでませ。

☆――☆


「おーい、よー君こっちこっち」


 バトル会場からふた駅分ほど移動して、オレとコリスは永久裏会(セレーネ)の施設にたどり着いた。その玄関先で涙月(ルツキ)が待っていて元気良くこちらに手を振っている。


「涙月~」

「コリス~」


 再会を祝してかただのノリか抱きしめ合う二人。あ、コリスどさくさ紛れに涙月の匂いを嗅いでる。


「涙月、お疲れさん。蓼丸(タデマル)姉妹は?」

「う~ん……実は意外な展開になってまして……」

「意外?」

「まあとりあえず中に行こう。私んちじゃないけど」


 涙月に先導され、オレたちは施設に入っていった。

 施設全体は白磁の教会のようでいて、本業は病院だ。主に犯罪被害者を扱っている為精神科も請け負っている。

 中には最低限の広さのエントランスがあって、その分空いたスペースに病室を増やしていた。

 向かった先は電脳処理病棟。主にネット依存患者の精神治療を行う場所で、他にネットトラブル解消も兼ねている。勿論電脳課の許可は貰った上での運営だ。


「お疲れさまでーす」

「でっす」


 気軽に入っていく涙月とコリス。オレは患者以外裏会(セレーネ)シスターと言う状況で少し萎縮気味だ。患者の中には鼻の下を伸ばしている人もいるが、噂通りなら男は早々と転院させられるはず。


「入ります」


 消え入りそうな声で、オレ。そんなオレに浴びせられた第一声は。


「来たか」


 黒い髪をショートにした背の高いシスターからの一言だった。顔立ち良く釣り上がった細い目は美女と言うより美青年を思わせる。


「わたしは(サン)

 早速だが君の【紬―つむぎ―】も貸してほしい。涙月のそれだけではこれを治すには出力が足りない」


 そう言って一歩横に退いてカーテンを開けた。


「はろ~」

「かしら」


 その向こうにいた蓼丸姉妹が緩く手を挙げる。腕はまだ砂嵐状態で、けれど何かの機器に繋がっている。触れるレベルにまでは戻っているのか。


「バトル――」

「お疲れさまかしら」


 と言って笑顔を向けてくれる。自身の状態を考えれば大変なのはそっちだろうに。


「二人も治療お疲れさま」

「あちしたちは――」

「疲れないかしら」


 確かに、疲れているは医者側か。

 オレは蓼丸姉妹の治療に当たっているシスターに頭を下げた。微笑み返されてちょっと気恥ずかしさを感じつつ、二人に繋がっている機器を見た。カードスロットに涙月の物と思われる【紬―つむぎ―】がセットされていて、もう一つスロットが用意されていた。


「そこに君のを挿れて欲しいのだが」


 燦さんがハスキーな声でそう言いながらオレの【紬―つむぎ―】をつつく。


「これじゃないと仮想災厄ヴァーチャル・カラミティに対抗できないからですか?」

「そうだ。涙月の【紬―つむぎ―】を調べてプログラム解析を行ってみたのだが百八の壁があって突破できなかった為機器にプログラムを組めなんだ」


 目を伏せて渋面を作る。


綺羅星(キラボシ)が早く量産してくれれば良いのだが、それを伝えると『【紬―つむぎ―】は現在ある十三機を除いて作る予定はありません』と言われてしまってな」

「え?」


 量産しない? それはつまり……これは次期主力ガジェットではない、と?


「らしいな。だがそいつがいつ出てくるかわからないから現時点では【紬―つむぎ―】を直接機器に繋げるしかない」

「そうですか」


 言いながらオレは【紬―つむぎ―】を耳から外す。それを燦さんに手渡そうと腕を伸ばすと、その手に燦さんの手が触れた。


「貸して欲しいと言っておいてなんだが、これは君の個人情報の塊だ。情報が盗まれると懸念しないのか?」

「涙月がそのへん考えてくれてるだろうし」


 うんうんと涙月が二度首を縦に振った。


「成程。愛の力か」

「「恥ずかしいのですが」」

「そうか? わたしは人前でも主に愛を誓えるぞ?」


 それとこれとは違う気がしないでもないんだけど。


「まあ良い。それなら快く貸してもらおう」


【紬―つむぎ―】を手に取って、手際良くスロットに挿れていく。機器が【紬―つむぎ―】を受け入れ、起動。


「「――っ」」


 蓼丸姉妹が同時に表情を歪めた。痛覚も戻っているのか。


「電気が――」

「来るのかしら」

「我慢してくれ。今腕を戻す」


 砂嵐状の腕に光のラインが浮かび上がり、光量がどんどん増していく。目を開けていられなくなり瞼を閉じた。それと入れ替わって光が一気に強くなり、昔のテレビが切れる時のような音が鳴って光が消えた。

 ゆっくり瞼を上げるとまず驚きを表情に見せている蓼丸姉妹が見えて、その視線を追うと元の人の肌に戻った腕があった。


「成功――」

「したかしら」

「そのようだな」


 いつの間にかサングラスをかけていた燦さんが満足そうに頷いて。


「あーあ、戻されちゃったか!」

「「「――⁉」」」


 突然響いた元気の良い声。キーが高く、少年のものか少女のものか判断に迷いながら首を向けると、医療用ベッドの上に『そいつ』があぐらをかいて座っていた。


「貴様は?」

「人類置換プログラム、テンタトレス・マリゲニー!」

「「「――!」」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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