第105話「卵姫さんのパペットならあっさり詰められる距離ですよね?」
おいでませ。
「さて、充分距離をとれたでしょうね」
「充分な距離――と言うより卵姫さんのパペットならあっさり詰められる距離ですよね?」
「貴方のアエルもそうでしょう?」
微笑みを返されて少し身を引いた。
もうすぐ五分になるが適切な距離に移動を終えているのはきっとこっちも向こうも同じだろう。
つまり――
「すぐにバトルは始まります。村子」
「はい」
「壁を」
壁?
「了解。十六夜」
『誘う誘う、凍氷の白』
十六夜から冷気が迸り、オレたちを囲う氷の壁が形成される。厚さは一メートル程、高さは五メートル程だ。ひんやりとした冷たい風が漂ってきて夏の昼間にちょうど良い涼しさを演出している。
「コリス」
「はいです」
コリスはツィオーネのジョーカーであるピンクの鯨を顕現し、宙に浮かせる。囮だ。
「鯨を攻撃されたら宵はすぐにアエルを。氷壁を破られたら霞が特攻をかけてください。わたしは動きが止まった敵に一閃を放ちます」
「「了解」」
そして約束の時間になり、閃光が煌めいた。
「――⁉」
一瞬のレーザー。そいつがあっさりと鯨と氷壁を貫いた。
「アエル!」
「行くぞ鰐鮫!」
オレはアエルの視界を自分に同期させて敵の姿を探る。レーザーが撃たれた方に目を向けると、蛍男子が妙に金属質のある筒状の何かを抱えていた。いや何かと言うか間違いなく。
「ファイア」
と蛍男子の口元が動いた。
筒からレーザーが放たれ、『闇王』の口内を貫く。
あんな武器持っていたか?
「おっらぁ!」
突撃をかました霞の殴打が蛍男子のレーザー砲を砕き、光の粒となって消えた。と思ったら一歩後ろに引いた蛍男子の腕の中にまたレーザー砲が形成される。そうか、ナノマシンでああいった物も作れるんだ。
「まず一人」
「おおお!」
超至近距離からレーザーを撃たれ鰐鮫を纏った霞が吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がる霞はそれでも体勢を立て直し、すぐに攻撃に転じる。ダメージはあるだろうが鰐鮫にヒビが入っただけみたいだ。
「頑丈な強化外装だな!」
「――ぐぅ!」
再びレーザーを受けて弾き飛ばされる霞。それでもまた向かっていく気力と行動力は残っている。
「なら!」
蛍男子は大地を形成しているナノマシンを分解・再構築し、バリスタに似た兵器を二台作る。霞を穿つつもりだ。
「来やがれ!」
「おうとも!」
兵器から巨大な鉄針が射出されて霞に迫って――
「らぁ!」
右腕を一方の鉄針に突き出し、左腕をもう一方に突き出した。爆撃と鏃による防御と攻撃。鉄針は砕け散り、鰐鮫のパーツも砕け散った。
「『サイファー』!」
「『鰐鮫』!」
「「ジョーカー!」」
サイファーが自身のナノマシンと周囲のナノマシンの存在を反転させて黒い球体を造りだし、周りの何もかもを吸い出した。
「バトルが終わったら出してやるからさ!」
黒い球体を霞に向かって撃ちだし、霞は――鰐鮫は黒い球体を組んだ両手で下に叩き落とし消し去った。完全なる飛翔を実現する鰐鮫のジョーカー。その力を球体に与えて操ったのだ。
「な⁉」
「オオオオオ!」
霞の肘鉄が蛍男子の顎に決まり、蛍男子の意識は途絶える。
「良くやったわよ! ほんとあんたがイケメンなら良かったのに!」
「――⁉」
物陰から鶏賢者の奇襲。ガラスの多面体が霞を覆って強力な重力が襲う。
「ぐぅぅぅぅ!」
体に襲いかかる重圧に霞は四つん這いになって耐える。
「わりぃ卵姫!」
『―― 一閃』
斬撃を受けまいと後退する鶏賢者。
「ウェルキエル――ジョーカー発動」
ウェルキエルが手に持ったハート型の盾を掲げ、それがブレるように光る。
「――⁉」
鶏賢者と荒河が胸を押さえ倒れこむ。
心臓を支配するウェルキエル。視認しなければならないと言う条件があるものの決まればこうも強力な力を発揮する。
「だけど!」
家屋の中から声がする。聖女女子・胡々の声だ。
「重複しての攻撃はできない!」
姿を見せる胡々。こちらにも視認と言う条件がある。聖女のランプが一つ消えてウェルキエルの胴体に穴が開いた。
「二重攻撃ができないのは貴女もでしょう?」
「――!」
無数に分離した矢が飛んできて聖女のランプを全て射り壊す。
「『レジナ・チェリ』! ジョーカー発動!」
聖女の目が開かれ、天から光が降ってきた。光に包まれ、弓矢と十六夜が昇華――消されていく。
「『十六夜』、ジョーカー」
『誘い終劇、最早何も映さず』
「――!」
聖女レジナ・チェリの目が破裂する。
「今です、宵」
「『アエル』!」
無事な七つの口が開かれ、放たれた炎のブレスが聖女を焼いた。
『バトル終了! 勝者! 西京チームです!』
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。