第102話「う――」「ひょーかしら」
おいでませ。
「侍大将!」
「顔をそらすかしら!」
顔に触れたのは、わたしの手。口に当てられた手から霊力の砲弾が打ち出される。
『がは!』
面頬を砕かれ、口の中にまで及んだ砲弾によろける侍大将。乗り手がバランスを崩した事で馬も足をもつれさせて少し暴れる。
「え」
暴れる馬の足がわたしに向き、その腹を蹴り上げ――
「ツィオーネ!」
腹にぶつかるはずだった蹴撃をツィオーネが体を張って庇った。庇ってくれた。
草原に倒れるツィオーネ。途端に目を潤すわたし。ツィオーネの体を抱き起こしながら、
「ごめんねごめんね」
と涙を零す。
『……今のは勝負の一撃ではござらん。一撃拙者に与えるが良い』
わたしは首を横に振って。
「今のはわたしのミスです……」
『しかし――』
「侍大将の――」
「言う通りかしら」
「あんな予期しない一撃なんて――」
「こっちも不服かしら」
それでもわたしは首を縦には振らずに。どちらも公正な勝負を望んでいるからこその違いだった。
わたしはツィオーネを一度消してメディカルモードで待機。これであとは時間が何とかしてくれる。涙を腕で拭って改めて立ち上がる。
「……それではこちらも――」
「パペットなしでいこうかしら」
侍大将が消える。
「それじゃ何もできないんでは?」
「そうでも――」
「ないかしら」
ゆっくりと腕を横に上げる双子。掌は下に。その先にある草が伸びてくる。
「――!」
わたしに向かって伸びてくる。横っ飛びでわたしはそれを回避し、地面に手をついて霊力を流す。霊力は地面を伝って双子の下まで達し、
「「――!」」
爆発した。
「う――」
「ひょーかしら」
間の抜けた声を上げつつも双子は体を回転させて着地する。勿論草を伸ばしてクッションにするのを忘れない。だが吹き飛ばされた時に少し足を痛めてしまったようで綺麗な着地ではなく倒れそうになるのを伸ばした草で固定する。
「隙ありです!」
米粒程度の霊球を無数に作り撃ち出すわたし。
「隙なんて――」
「ないかしら」
霊球の軌道を伸ばした草で塞ぎ、霊球の威力を削いで消していく。草は伸びた先で曲がってわたしを追う。わたしは霊力の翼を背負って空を飛ぶ。それを追撃する緑の草。わたしが腕を振ると三日月型の霊力が飛んで草を切る。
「向こうの方が――」
「速いかしら」
わたしは全身に霊力の光を纏い、落下のエネルギーを利用して双子に蹴打を放った。
「でも防御は――」
「こっちが上かしら」
「え⁉」
土が盛り上がり、何重もの壁になって双子をガードする。わたしの蹴打は壁の幾つかを破壊するけれど双子の手前で止まって逆に土に潰されてしまい。
「でぇい!」
全身に纏っていた霊力を拡散させてわたしは土を散らし。双子に向き直るけれどそこに彼女たちは居らず、草が天に向かって伸びていた。先を見ると双子が空高くに陣取っていて、草原の草が一斉に伸びてわたしに四方八方から迫りくる。
「それなら!」
「「――⁉」」
わたしの小さな体全身が輝いた。奥の手の全身高位霊力化。わたしは力強く地面を蹴って飛び上がる。
「「――あ!」」
砲弾となって飛んできたわたしに吹き飛ばされて双子が草から落ちる。けどすぐに草が伸びてきて――わたしが方向転換して双子を再び弾き飛ばす。草が伸びて――三度わたしに飛ばされる。草が追いついていない。双子は何度もボーリングのピンのように弾かれ、地面に落ちた。
「いった~~」
「いかしら~~」
二人の間に着地してわたしは、
「金縛り!」
「「――!」」
霊力を二人に憑依させて動きを封じた。
「これは――」
「あらら、かしら」
「終わりです!」
わたしは地面に霊力を通し動きを封じたままの二人を十字架に固定。十字のクロスした部位が伸びてきて双子を串刺しにする。
「「……っ!」」
双子は残った力を振り絞って草を伸ばすけれどわたしは再び空に舞う。その手に死神の鎌を持って、二人の首を狩――る、と言う所で侍大将が顕現して鎌を砕いた。
「あ、勝手に――」
「出たかしら」
わたしは侍大将の間合いから離れて、様子を伺う。けれど双子は十字架に張り付けられたまま侍大将に向かって説教を始めてしまった。侍大将は俯いて消えてしまう。
「コリス、あちしたちの――」
「負けかしら」
「え?」
なにゆえの敗北宣言なのか、それがわからずにわたしはピタリと動きを止める。
「パペットなしの勝負――」
「だったかしら」
あ、そうだった。
「でもでも」
「良いの。約束破った――」
「あちしたちの自業自得かしら」
困り顔のわたし。そこに卵姫からの通信が入る。
『こちらは終わりました。そちらは?』
「え、えっと?」
どう状況を説明したものかと迷っていると双子が声を張った。
「あちしたちの――!」
「負けかしら!」
『――そうですか』
「でも」
安堵するかのような卵姫の言葉に、わたしはまだ不満が。
「コリス、今度――」
「どこかで勝負するかしら」
「え?」
困惑に沈めていた顔を上げる。
「次は――」
「パペットありで、かしら」
「それなら――」
「OKかしら?」
ふむ、顎に拳を当てて考え込んで、
「うん!」
わたしは一つ強く頷いた。
『勝者! 西京チームです!』
実況による勝者宣言。ギャラリーが沸くのです。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。