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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第01話「「「ちっちぇ――!」」」

AI(エイ) ray(レイ)」開幕です。

よろしくお願いします。

 剣を振る。

 八つの人魂で作られた火炎の剣を。

 小さなパートナーを肩に乗せて、ただひたすらに剣を振る。

 オレの『アエル』は小さな蛇。戦えるとは思えない。

 だからオレ自身が強くなるしかなく。

 アイテムである火炎の剣を扱えれば、いつの日かあの人に手が届くと信じて。

 いや違う。

 超えられると信じて。


「○○さん」

「…………」

「今日オレは、貴方を超える!」



「ち――」

「ちっ――」

「「「ちっちぇ――!」」」






 オレは、姉と妹に挟まって生まれてきた。


「よーちゃーん」


 長男だ。それはもう大切に育てられた。


「おやつだよー」


 姉妹の読むものを一緒に読み、姉妹の食べるものを一緒に食べ、姉妹の見るものを一緒に見てきた。

『サイバーコンタクト』を手に入れてからもメールのやり取りをしたり、一緒に映像作品を観たりした。


「よーちゃんこのHP(ホームページ)見た?」


 そう言って姉はウィンドウをオレにスライドさせてくる。

『サイバーコンタクト』 ―― 一時はスマホとタブレットに追い越されたPC業界の逆襲の一手。

 目に入れるコンタクトタイプのPCだ。

 素晴らしいレベルのXRクロスリアリティ機能を持ち、とりわけMR複合現実の威力は凄まじい。

 オレはコンタクトをスリープモードから復帰させるべく目の横をトントンと二度つついた。

 左目に出てくるホログラム。コンタクトをつけていなくても見えるホログラムで、『この子起動させてますよ』と言う合図だ。

 オレの起動ホログラムの形は桜色の日輪。柄はネットから自由にダウンロードできるが、オレは母国・日本と繋がりがあるこれを気に入っている。

 姉の寄越したウィンドウを見てみると、そこには『輝き煌めけ! パペットウォーリア日本代表決定戦参加者募集中!』と言う字が飛び交っていて。


「……オレには関係ないよ」


 でも、本音は別。

 剣だって振り続けている。

 本当は出たい。超えたい人がいる。絶対に超えたい人が。

 あの人を超える!

 と吠えてみたい。


「そ~言うなって。わたしはよーちゃんのパペット好きだよ?」


 そりゃ簡単に弟妹のパペットに対して嫌いとは言えない。いづらくなるし。

『サイバーパペット』 ―― ある日開発されたサイバーコンタクト人形化ソフト。ファイル・閲覧履歴・メール等などコンタクトに入っている全てをスキャンしそのデータからオリジナルアバター『パペット』を造り上げるソフトだ。


「わたしのこの子も好きだけどね」


 むぎゅ~と彼女が抱きしめるのはパペット『ねうねう』。白い小型のライガー。全パペット共通だが、内側からほんのり光っている。

 パペットは絶対にかぶらないと言われる容姿・たまにかぶる能力・かぶり大いにありえる戦闘力を持っていて、いくつかのキーワードを与えると様々なアイテムも生成してくれる。メールの受信や送信・写真撮影・映像撮影などお仕事もしてくれる為とても立派。

 のだが――






「ち――」

「ちっ――」

「「「ちっちぇ――!」」」






 このソフトが出始めた頃、学校でパペット化が流行った。

 クラスメイトは殆どが自分のパペットをかっこいー&可愛いーと評していたが、このオレ『(ヨイ)』のパペットを見た時、一瞬皆がかちーんと固まった。

 アップで見ると、申し分ない。なぜなら――

 八つの首を持ち、山をも超える巨体を持つと言われるヤマタノオロチだったからだ。

 白い腹、黒い鎧のような鱗を持つ非常に異常にかっこ良いパペットだった。






「「「あはははははは」」」






 それが、手乗りサイズでなければ……。

 男子には笑われ、女子にはよーちゃんはこっち組だねぇと頭を撫でられた。

 オレの……オレの少女趣味がこんな形で世に出るとは……。


「でもわたしは知っているわよ。

 よーちゃんが努力しているって。

 体の動かし方、パペットとの交流、アイテムの扱い、勉強だって欠かしていないでしょう。

 貴方はあまりそう言うの人に見せない子だけど、実は知ってます」


 見られていたのか。ちょっと恥ずかしいな。


「ちょっとだけやってみよう?

 ほらよーちゃん、パス教えるからわたしの作ったコロシアムにおいで」

「ん~……ちょっとだけだよ?」

「はい」

「あ! あたしもやるー!」


 と、学校から帰ってきた妹を加えて、オレたちは姉の部屋に入っていった。

 なぜ? 真ん中にあるテーブルをずらせばここが一番広いからだ。


「いっくよー」

「ん」

「はーい」


 MR複合現実を起動させる姉。

 おお?

 床は空に変わり、壁は消え、ずっと向こうに浮島の客席が出現。


「どう? お姉ちゃん特製スカイコロシアム」

「観客がぬいぐるみなのはこれ如何に?」

「わっほ可愛い」


 渋るオレの横ではしゃぐ妹。まあ……喜んでるなら……良いんだけど……。


「ちーちゃんはちょっと見ててね?」

「はーい」


 とてとてと小さな脚を動かし離れていって、妹は何もない空中にぽすんと座る。

 あ、ベッドがある位置か。


「よーちゃん、パペット出して」

「うん」


 オレはオロチ――『アエル』を起動させる。

 ……本人に(本パペットに)悪気はないのはわかるけど……小さく火を吐く姿はやはり笑えるところがある。

 ああ、もっと男らしいもの見とけば良かった……。


「わたしはよーちゃんにもこれができると思う。

 おいでねうねう」


 姉はねうねうを抱き上げると、優しくキスをした。

 ……羨ましい……え? いや? そんなの思ってないよ? お姉ちゃんだもん。

 それより!

 姉にキスされたねうねうの姿が煌々と閃光を放ち始めた。

 まるで太陽を見ているような眩しさ。妹も「きゃー」とか言いながら目を手で覆っている。

 ねうねうの姿が一瞬解け、銀河が溢れた。


「――……!」


 黒い毛並み、白い爪、銀河色に輝くねうねう特有の炎のたてがみ。

 普通のライガーよりも一回り大きい体躯。


「これがねうねうの『限界突破スタイル』。

 通常のレベル制限はLv99。でも希にLv100に行く個体がある。噂レベルでは知っているでしょう? けれど噂じゃない。

 わたしのねうねうのようによーちゃんのアエルもきっと行ける。わたしはそう信じてる。

 と言うわけで――」


 レベルを上げるには単純にパペットを構成しているサイバーコンタクト内の情報を更新すれば良い。ただし、一度取り込んだ情報はどんなに都合が悪いものでも消せず、それゆえにオレのようにパペットが気に入らなくてもデリートはできない。一コンタクトに一パペットなのも変えられない理由になっている。

 オレのアエル、結構新規ファイル作ったんだけどなぁ。

 ちょっとは成長している。だって前は蝶ネクタイとかなかったし。

 なんで成長がそんなとこに現れるのか……。


「一番良いのは、バトルでの『戦いの記録』。それで一気に戦士の方向に持っていけるよね?

 だから――かかっておいで!」

「かかってと言われても――」

「男の子はグチグチ言わない! ほら行くよ!」


 ねうねうが大きく息を吸った。

 あ、やばい。

 オレはアエルを肩に乗せたまま横を向き、一足飛びに逃げようと――

 して、壁にぶつかった。

 そうだった……部屋だったここ……。


「逃げちゃダメだよ! 受け止めなさい!」

「でも――」


 ねうねうの息を吸う音が消えた。

 来る!

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッオ!

 ねうねうの雄叫び。それとほぼ同時に雄叫びの届いた範囲の空間が削られた。

 くっそ!


「アエ――!」


 その名を呼ぶ前にアエルは前に出た。

 小さな体で叫び、オレを護るように八つの首を大きく広げ――ねうねうの叫びを引き受けた。

 パペットは一度『殺されれば』二度と復帰できない。卵に戻り、また新しいパペットとして同じ姿で、Lv1からリスタートだ。記録と言う名の記憶を失くして。

 ダメだ……。

 そうダメだ。同じ姿でもそれは別物なのだから。一緒に過ごしたメモリーも、会話したメモリーも全て消えてしまう。

 それだけは……ダメだ!

 オレはアエルを抱きとめると、後ろを向いた。


「――!」


 背中に走る衝撃。痛みはない。ただ激しいエフェクトが吹き荒れる。

 オレのライフを表示している数字がどんどん減っていき、オレは事実上死を迎え――

 アエルが腕から離れて肩に乗っかった。

 八つの口を広げ、一気にねうねうの音を――喰い始めた。


「え? えええええ?」


 呆気にとられる姉。

 その間にアエルは雄叫びを全て喰い尽くし――Lv47だったものが一気に100に持ち上がる。


「おっき……」


 ぼんやりとつぶやくオレ。

 大きい、何が? Lv100のアエルの姿がだ。

 全身が確認できない。大きな黒い鎧がずっと彼方まで伸びているのはわかるが。

 妹はさっきから動画を撮っている。後で観せてもらおう。


「たーいむ!」


 姉は思わずタイムをかける。

 ねうねうの叫び声がライガーの雄叫びから猫の小さな鳴き声に変わって、


「負け!」


姉の敗北宣言でバトルは幕を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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