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魔族の落ちこぼれ少年は魔王を目指す  作者: 美山 鳥
第1章
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episode4 最終試験

 キン!…キン!…キン!


 金属同士が激しくぶつかり合う音が草原に響く。


 「へへっ。ちったぁマシな動きになってきたじゃねぇかよ」


 リバスの振るうハンティングナイフを受け止めながらベデューは笑みをこぼす。


 「まだまだぁ!」


 ハンティングナイフによる斬撃や刺突に加え、両足・左手を使った打撃、頭突きなど攻撃のバリエーションも増え、ハンティングナイフに自らの魔力をまとわせて投げる遠距離攻撃までも修得しつつあった。


 「リバスよ。おめぇの稽古をつけてやるようになって2ヶ月くれぇ経つか……」


 リバスの攻撃を受け止めつつベデューが話しかける。


 「なんだよ、急に」


 攻撃の手を緩めずに答える。


 「小童だったおめぇも基本は身についてきたみてぇだ…な!」


 ベデューはロングソードを横に一閃する。リバスは後方へ宙返りしてかわし、ベデューの追撃を警戒して着地と同時にさらに後退する。


 「いい反応だ」


 ベデューは満足げな表情を見せ、ロングソードを構え直す。


 (何をする気だ?)


 ベデューの動きに細心の注意を払いつつ、ジリジリと間合いを詰める。


 (消えた!?)


 視界にとらえていたはずのベデューの姿が一瞬にして消える。


 「どこ見てんだ?」


 背後から聞こえた声に振り返る間もなく、首筋のロングソードの刃がピタリと当てられる。


 「さすがに反応できなかったようだな?」


 リバスの首筋からロングソードを離し、ベデューは悪戯っぽく笑う。


 「な、なんなんだよ、今のは!?」


 リバスは驚きを隠せないでいる。


 「いいだろう。ネタばらしといこうか。今のはスキル《俊足》だ」


 「スキル……魔術とは違うものなのか?」


 問い返すリバスにベデューは頷く。


 「戦闘をするやつは、主に魔術タイプとスキルタイプに大別できんだよ。魔術は精神によって適性が決まってくる。つまり、おめぇが放出系の魔術を使えねぇのはそこらへんが原因なんだろうぜ」


 「スキルは違うのか?」


 「スキルは肉体によって適性が決まる。てことはだ、放出系魔術が使えねぇやつでも、スキルなら使える可能性があるってことだ」


 ベデューの説明にリバスはくいつく。


 「俺にもスキルが使えるのか!?」


 「さぁな。そいつはやってみねぇとわからねぇさ。だが、挑戦する価値ならあるんじゃねぇか?」


 「ああ! やりたい!!」


 ベデューは興奮気味のリバスを制止する。


 「まぁ、待てよ。そもそも魔族には魔術タイプが多く、スキルタイプは人間に多い傾向にある。また、両方の適性がない者もいれば、どちらも使える万能タイプなんてのもいやがる。おめぇの場合、魔術タイプじゃねぇのは確実だから、あとはスキルに適性があるかどうか…だ。スキルにも適性がなかった場合、どれだけ修行をしようがスキルを修得できねぇ。そいつを頭に入れておけ」


 「わかった……」


 緊張した面持ちで答えるリバス。


 「よし。んじゃ、始めるぞ!」


 かくして、ベデューによるリバスへのスキル修行が始まるのであった……。



 「ただいま……」


 スキル修行を開始して1ヶ月。


 リバスは疲れきった様子で帰宅した。いつものように狩ってきた獲物をパライナに渡し、ベッドに身を投げ出す。


 「リバス、随分と疲れてるみたいだけど大丈夫なのかい?」


 パライナが心配して訊く。


 「これくらい平気だよ」


 上半身を起こして答える。


 「この頃、毎日じゃない。お兄ちゃん、わたしたちに隠れて何かしてるんじゃないの?」


 ロネムがリバスに詰め寄る。


 「何もしてないよ。平気だって言ってるだろ」


 リバスはあくまでも何もないと言い張る。


 「リバスがそう言うのなら信じようじゃないか。それに、俺の目から見てもリバスは確実に成長している。俺がかつて修行していた時も同じような時期があった。父として息子の成長を見守っていたいというのが正直な思いだ」


 「父さん……」


 ガネッツの思いを受け、リバスは目頭が熱くなる。


 (俺はいつか父さんみたいな立派な戦士になって家族を守ってみせる!)


 リバスは明日からも休むことなく続く修行の日々を乗りきることを改めて決意した。



 スキル修行を初めて3ヶ月……。


 リバスはいつもの草原で緊張を隠せないでいた。


 「覚悟はいいか?」


 ベデューは古代文字が記された羊皮紙を手に確認する。


 「ああ。いつでもいい」


 ハンティングナイフを抜き、臨戦態勢をとる。


 「これが最終試験だ。しくじれば命の保証はしねぇぜ」


 言ってから、羊皮紙に自らの血を染み込ませて魔力を流す。それを足元に盛られた土の塊に落とす。


 羊皮紙が張り付いた土はみるみる形を変化させて巨人型ゴーレムとなった。


 「先手必勝!」


 叫び、リバスはゴーレムに向かって駆け出す。


 「グゥォォォォッ!」


 ゴーレムは言葉かどうかすらあやしい声を発して殴りかかってくる。


 リバスは軽く跳躍してかわすと、ゴーレムの腕を踏み台にしてさらに高く跳ぶ。


 「いけぇぇ!」


 両手でしっかりと握りしめたハンティングナイフをゴーレムの脳天に突き立てる。はっきりとした手応えを感じ、リバスは勝利を確信した。


 (へっ! ゴーレムなんて俺の敵じゃないね!)


 ゴーレムの脳天に突き刺さったハンティングナイフを抜き、地面へと飛び降りる。


 「こんな弱っちいやつが最終試験の相手じゃ拍子抜けだ。ほかにいないのか?」


 リバスは胸の前で腕を組んで観戦しているベデューに言う。が、ベデューは何も答えない。


 「ちぇっ、無視かよ…」


 リバスがつまらなそうに唇をとがらせた直後、激しい衝撃に襲われ、勢いよく吹っ飛ばされてしまう。


 地面で何度も激しくバウンドし、ようやく止まった。


 「痛ぅっ!」


 リバスは痛みを堪えて立ち上がり、状況を確認する。


 (やろう……。まだ活動を停止していなかったのか!)


 リバスの攻撃はゴーレムに対してそれほどダメージを与えていないようだ。それにひきかえ、ゴーレムの平手打ちをまともに受けたリバスはダメージが大きい。


 「バカ野郎! 油断するからそうなるんだ!」


 ベデューが怒鳴る。


 「こんなもん、大したことない!」


 リバスは再びハンティングナイフを構えてゴーレムに立ち向かっていく。


 「ゴォォォン!」


 ゴーレムの拳が唸りをあげる。リバスはそれを軽快にかわして背中に回り込み、ハンティングナイフで斬りつける。


 「グォォッ!」


 ゴーレムはリバスの斬撃を受けた直後だというのに、すかさず殴りかかってきた。


 「ちっ!」


 間一髪のところでゴーレムの反撃をかわす。


 (そうか。前に、父さんがゴーレムには痛覚や感情が存在しないというようなことを話していたことがある)


 リバスは父に教えられたことを思い出し、ゴーレムから距離をとる。


 (よぉし、それでいい。闇雲に攻撃をし続けねぇで状況を見極めることは重要だ。だが、ゴーレムを侮らねぇほうがいいぜ…)


 ゴーレムとの戦いを見守るベデューは、リバスが冷静に立ち回っていることにひとまずは安堵する。


 リバスはスキル《俊足》でゴーレムを翻弄し、その体をハンティングナイフで斬りつけていく。


 (ダメだ。決定的なダメージを与えることができない。何か手はないのか!?)


 リバスは攻略の糸口を模索して、ゴーレムを観察する。


 (怪しいのは額に張り付いている羊皮紙だよな!)


 駆け出したリバスはゴーレムの腕を足場にして額の羊皮紙を狙う。だが、ゴーレムは太い腕

を盾にしてハンティングナイフを弾く。


 (こいつ、魔力を使って防御してるのか!? まさか戦闘中に学習している?)


 「ガァァァァッ!」


 ゴーレムは奇声を発して突進してくる。しかし、素早さではリバスに分がある。ひらりと避けると跳躍し、額の羊皮紙目掛けてハンティングナイフを振りかざす。


 ガキィッ


 ハンティングナイフはまたしてもゴーレムの腕によって弾かれてしまう。


 「ゴォォォッ」


 ゴーレムはまだ着地できていないリバスに巨大な腕を振り下ろす。


 「ぐがっ……」


 リバスも身体硬質化魔術ハード・ボディで防御を固めるが、それでもゴーレムの一撃は相当なダメージを与えてくる。


 体を地面に激しく叩きつけられ、凄まじい衝撃に息が詰まる。


 「ゴワァァァッ」


 ゴーレムは倒れているリバスを踏み殺そうと巨大な足を上げる。


 「なめるなぁ!」


 リバスは《俊足》を使った。


 ドシーン!!


 地響きを立ててゴーレムの足が草原を踏みしめる。


 「お返しだ!」


 回避に間に合ったリバスは《剛力》を使ってゴーレムのアキレス腱を斬る。やはり、痛覚はないらしく無反応だ。しかし、リバスは諦めない。《剛力》を発動させたまま、連続して斬りつけていく。


 「ゴガァァァァッ」


 ゴーレムがリバスを蹴り飛ばそうを足を振る。


 「くっ!」


 ガードしてダメージを抑え、同時にゴーレムとの距離をあけ、ハンティングナイフを構える。


 「うぉぉぉぉっ」


 リバスは《俊足》を使って、ゴーレムの左腕を駆け上がる。


 「グワァァァァッ」


 ゴーレムは蚊でも叩くかのような仕草で右手で自らの左腕を叩く。だが、リバスはさらに加速して一気に肩まで駆け抜けた。目標である額の羊皮紙はすぐそこだ。


 「ゴヌァァァァァ」


 危険を感じたゴーレムはリバスを振り落とそうと暴れだす。


 「ちぃっ!」


 リバスはゴーレムの肩を蹴って宙を舞う。


 「ガァァァァッ」


 ゴーレムは空中のリバスを両手の掌で押し潰そうと左右の腕を広げる。


 (まずい!)


 リバスが現在修得しているのは《剛力》と《俊足》のみである。足場のない空中では《俊足》は使えず、たとえ《剛力》を全開で使ったとしてもゴーレムの腕力を上回ることは今のリバスには不可能だ。かといって、身体硬質化魔術ハード・ボディを使って防御したところで耐えられる可能性は低い。リバスは死がすぐそばにあることを感じる。


 (ここまで、か…)


 ベデューはリバスの死を悟り、静かに両目を閉じる。


 バァァァァァンッ


 派手な音を立ててゴーレムの両手の掌が合わされた。


 (……あいつ、まさかこの土壇場で!?)


 とどめをさされたかに思われたリバスだったが、寸前のところで体を宙に舞い上がった。


 「やった! スキル《飛行》に成功したぞ!!」


 リバスは歓喜した。今まで何度チャレンジしても成功することのなかった《飛行》が、この窮地にあって成功したのだ。


 「これならいける!」


 リバスは全速で滑空し、一直線にゴーレムの額を目指す。


 「ゴガグァァッ」


 ゴーレムは左手で額の羊皮紙を隠し、右腕を振ってリバスの迎撃にあたる。


 「くそっ」


 リバスは羊皮紙への直接攻撃を中止し、一度ゴーレムから離れる。 


 (あれだけ羊皮紙への攻撃を避けるってことは、あそこが弱点ということで間違いないみたいだな。問題はどうやって攻撃を加えるか……)


 リバスは炎系・氷系・風系・雷系といった基本的な攻撃魔術すら使えない。かといって、使い始めたばかりで不慣れな《飛行》では速度も出ず、また縦横無尽に飛び回って翻弄するのも難しい。


 (一か八か…。やってみるしかない!)


 ハンティングナイフに魔力を流し、まとわせる。魔力をまとった物は武器となる。たとえ、小石であったとしても、魔術に長けた者が扱えば恐ろしい威力を発揮するのだ。


 しかし、辛うじて防御に魔力を使える程度の才能しか持ち合わせていないリバスにとっては高度な技といえた。事実、ベデューから教わってはいても《飛行》同様、これまで成功例は一度としてない。


 また、攻撃魔術を使用できないリバスは、武器を投げつけることは大きなリスクを伴うのである。それゆえに失敗するわけにはいかない。


 「ゴグワァァァァッ」


 ゴーレムは弱点である額の羊皮紙を左手で隠しながら、右腕と両足を使ってリバスを攻める。


 (このやろう……)


 それらの攻撃をかわし続けながら、ハンティングナイフに魔力を送る。


 リバスは不意に背中を向けてゴーレムから遠ざかるように走り去る。


 「モガァァァァッ」


 そんなリバス捕まえようとゴーレムの右手が迫る。


 リバスはタイミングを見計らってゴーレムの右手に飛び乗る。そこをリバスを叩き殺そうとゴーレムが左手を掲げた。


 (今だ!)


 素早く身を翻して充分に魔力を帯びたハンティングナイフを投げる。ハンティングナイフは吸い込まれるようにゴーレムの額に張り付いている羊皮紙を貫く。


 「ゴワァァァァァァッ!」


 絶叫をあげてゴーレムの巨体が崩れ落ち、元の土へと戻った。


 「…やった……」


 ゴーレムを倒すことに成功し、リバスはその場に座り込む。


 「やりゃあ、できるじゃねぇかよ」


 ベデューはハンティングナイフを拾い上げ、リバスに手渡す。


 「これで、最終試験は合格ってことなのか?」


 「まぁな。こっからはおめぇ自身で強くなるこったな」


 「……ベデューはこれからもここにいるんだよな?」


 リバスの質問にベデューは沈黙していたが、やがて首を横に振る。


 「前に言ったろうが。俺にはガキの頃からの夢があんだよ」


 「そうか……」


 肩を落とすリバス。


 「そう湿気た顔すんなよ。暫くはこの地にいるさ。まだやり残したこともあるしな」


 「やり残したこと…ってなんだよ?」


 「へへっ。そいつぁ、教えらんねぇな。けど、場合によっちゃ手を借りることもあるかもな。そん時ゃ、よろしく頼むぜ」


 「…ああ!」


 リバスは力強く即答する。


 「じゃあな!」


 言い残して、ベデューは去った。

今回の投稿は予定より遅れてしまいました。

申し訳ありません。

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