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魔族の落ちこぼれ少年は魔王を目指す  作者: 美山 鳥
第1章
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episode1 魔族の落ちこぼれ少年

『魔王様は元最弱モンスター』のスピンオフ作品です。

本編をご覧になってない方でも問題なく読んでいただける内容です。


更新は毎週土曜日0時を予定しております。


どうか、よろしくお願いします。


感想・ご意見等もいただけると嬉しいです。

気に入っていただければ、ブクマもお願いします。

 「エヘヘヘ…」


 魔族の少年リバスは、久々に大物を狩れてご満悦であった。背負った獲物の重さが誇らしく感じられ、足取りは軽い。


 (みんな、喜んでくれるかな…)


 両親や妹の喜ぶ顔を思い浮かべて帰路を急ぐリバスの前を人影が立ちはだかる。


 「…ワッズ……」


 現れたのは、リバスが暮らしている集落を支配地としている魔王ゼンバラルの息子ワッズであった。


 当然、ゼンバラルの支配地域はリバスのいる集落だけではなかったが、どういうわけか、ワッズはよく来訪してはリバスにからんでくる。当然ながら、リバス自身も迷惑に思っているのだが、逆らえば家族や周りの者に危害がおよんでしまう。


 「はん! 落ちこぼれが生意気にも狩りをしてきたのか。おまえなんかがどうやってその獲物を狩ったんだ? 答えろよ、なぁ?」


 ワッズが見下したような冷たい視線を投げかけながら訊いてくる。


 「どうって…。俺は普通に狩りをしただけさ」


 リバスが正直に答える。


 「ふーん……」


 ワッズは足元に落ちていた小石を拾い上げると手の中で転がし始める。


 「嘘はついていないだろうな?」


 ワッズが確認してくる。リバスは黙って首肯した。その直後だった。ワッズは拾い上げた小石をリバスに投げつけた。


 「うっ!…」


 小石はリバスのこめかみに当たり、赤い血が流れて地面へ滴る。


 「嘘ついてんじゃねぇよ。おまえみたいな落ちこぼれがまともな獲物を狩れるわけがないだろうが」


 「そんなこと言われても、俺は嘘なんかついていない。本当のことなんだ」


 リバスは真っ向から反論する。


 「けっ……。信じられるかよ、バーカ! ワッズ様に嘘をついた罰として、そいつは没収だ」


 ワッズはリバスのところまでやってくると背中の獲物を奪い取った。


 「そんな! ちょっと待てよ!」


 リバスは抗議するが、それがワッズの怒りをかうことになった。


 「ごちゃごちゃとうるせぇんだよ!!」


 リバスは腹を蹴りあげられて地面に倒れた。ワッズはそこを何度も踏みつけた。


 「魔術もろくに使えない落ちこぼれの分際でワッズ様に逆らってんじゃねぇぞ」


 頭を踏みつけたまま唾を吐く。


 リバスは怒りや憎しみ、悲しみを胸の内の抑え込んで、あふれる涙を懸命に堪える。また、ワッズが言ったとおり、魔術を修得できない自分が許せなかった。


 「ああ、そうだ。おまえに一ついいことを教えてやるよ。いいか、この世界は強い者はあらゆる物を手にいれることができる。そして、おまえみたいに弱いやつは常に奪われるだけなんだぜ。これがこの世界の仕組みってもんさ。覚えておくんだな」


 ワッズは高笑いをあげて去っていく。リバスは遠ざかっていく後ろ姿を恨めしい思いで睨み、拳を固く握りしめ、歯を食いしばっていた……。



 リバスは、ワッズによって獲物を奪われて収穫もないままに帰宅しなければならなかった。


 「お兄ちゃん、ケガしてるじゃない!」


 こめかみから血を流して帰ってきたリバスを見て、妹のロネムが傷薬を手に駆け寄ってくる。


 「いいよ。こんな傷、大したことない」


 リバスは素っ気なく答える。


 「もう、そんな事言っちゃって……。ちゃんと治療しないとダメだよ!」


 「うるさいな。平気だって言ってるだろ」


 ロネムが心配するのも迷惑そうにリバスはあくまでも治療を拒否する。


 「しょうがないわね。ロネム、もういいからそれはしまっておきなさい」


 「はーい…」


 母パライナに言われ、不満そうにしながらもロネムは傷薬を元のあった場所にしまう。


 「それで、狩りの成果はどうだったの?」


 パライナの質問にリバスは俯く。


 「そう……。ご苦労様でしたね。さぁ、ご飯にしましょう」



 パライナが用意してくれていた夕食が食卓に並ぶ。といっても、握り飯2つがのせられた皿が4つのみである。


 「ごめん…」


 リバスは謝り、自分の不甲斐なさに失望する。


 「リバスは何も悪くはない。それを言うならば、おまえたちの父親である俺がしっかりせねばならぬのだ……」


 父ガネッツが低い声で言う。かつてのガネッツは優秀な戦士であった。しかし、魔王ゼンバラルが他の魔王の領地を奪取するための遠征に同行し、生死にかかわるようなひどいケガを負った。幸いにも一命はとりとめたのだが、体は重度の麻痺が残ってしまった。


 それからは、リバスが狩りに出ることでどうにか生計をたてることができてはいるが、貧困生活を余儀なくされている。


 父は魔王ゼンバラルが一目置くほどの戦士だった。それなのに息子の自分は魔術のひとつも使えない。それが悔しく、情けなく、リバスの心を締め付けていた。


 「誰が悪いわけでもないわ。それに、そんなことを言っても何も始まらないじゃない。さあ、食事にするわよ。それに、今日は何も獲れなくても明日は大物を狩れるかもしれないしね! 前向きに頑張りましょうよ」


 パライナは気持ちが沈む家族を励ます。


 「うん。俺、明日こそ大物を狩ってみせるよ!」


 「それは嬉しいんだけど、あまり無茶するんじゃないよ」


 「大丈夫だって! きっとうまくやってみせるからさ」


 心配しているパライナにリバスは大物を狩ることを宣言する。


 「そんなこと言って、またケガしてもしらないんだからね」


 「ちぇっ、ロネムはうるさいんだよ」


 「うるさいとはなによ! 心配してあげてるんでしょ!」


 「はん! 妹に心配されるほど落ちぶれちゃいないよ」


 「はいはい、兄妹ゲンカなんてしないで食べるわよ」


 パライナはリバスとロネムの口喧嘩を仲裁し、一家は食事を始めた。



 集落近くに広がる草原。背の高い草の陰で身を屈めてリバスは獲物を狙っていた。見つめる先には野ウサギがいる。まだ、リバスには気づいていないようだ。


 (絶対にしとめてやる!)


 リバスは右手でハンティングナイフの柄を強く握る。野ウサギに気づかれないよう、慎重にゆっくりと距離をつめていく。


 (よし、ここからなら!)


 リバスは草の中から躍り出た。それに気づいて野ウサギはまさしく脱兎の如く逃げる。


 「逃がすかぁぁ!」


 リバスは叫び、全速力で野ウサギを追う。しかし、相手も必死だ。なかなか追いつくことができない。


 「ファイアーボール!」


 リバスは魔力を左手に集めてかざすが、何も起こらない。


 (くそっ、やっぱり無理か!)


 防御系の魔術ならばある程度は使える。なのに、敵を攻撃する放出系の魔術となるとまるでうまくいかないのである。


 魔術でしとめることを早々に諦め、ひたすら野ウサギを追う。



 どれだけ追い続けたのか。ついに野ウサギを追い詰めることに成功した。乱れた呼吸を整え、右手のハンティングナイフを油断なく構えながら慎重に距離を縮めていく。最近はまともな獲物を狩れておらず、食事も質素な物ばかりであった。昨日は久々の大物を狩ることができたというのにワッズに強奪されてしまったのだ。リバスは、今日こそ家族が喜ぶような成果をあげなければと強く願っていた。


 (俺だって魔族の勇敢なる戦士ガネッツの息子なんだ。野ウサギくらい狩ってみせる!)


 リバスは一気に野ウサギとの距離を縮める。太陽の光を反射するハンティングナイフが野ウサギにむかって振り下ろされた。


 「なっ!?」


 それまで身を屈めたまま動かなかった野ウサギが跳ね上がり、リバスの頭上を飛び越えていく。


 (諦めてたまるか!)


 リバスは振り返り様にハンティングナイフを横に一閃する。しかし、手応えはなく、虚しく空を斬るのみだ。


 その間に着地した野ウサギは一目散に退散する。すぐにでも追いかけたいところなのだが、体に力が入らない。ここ最近はまともな食事を摂っていないため体力が落ちているのだ。


 (ちくしょう!)


 悔しさがこみ上げてくる。だが、遠ざかっていく野ウサギを追う体力が残されていない。どうして自分はこうもダメなんだろうか。家族にまともな食事を摂らせることもできないのかと自責の念が少年の胸中に渦巻いた。


 口惜しそうに見送るリバスは、逃走している野ウサギの進行方向に壮年の魔族がロングソードを手に立っていることに気づく。いつからそこにいたのか。獲物を追うことに夢中で気づかなかったのだろうか。そんな考えが脳裏をよぎる。


 (あんなやつ、集落にはいないはずだぞ。だとしたら、流れ者か?)


 リバスは初めて見るその剣士の動向を見つめる。


 剣士は腰のロングソードの一太刀で野ウサギを絶命させた。


 「へっ、チョロいもんだ」


 剣士はしとめた野ウサギの死体を拾うとリバスを一瞥するが、何も話すことなく背中を向ける。


 「おい、待てよ、おっさん!」


 リバスはその背中に向かって声をかける。剣士は立ち止まるが振り返らない。


 「なんだ、小童?」


 「そいつは俺の獲物だ」


 「ほぉ? だがな、小童。俺がこの野ウサギをしとめなければ逃げられてたろうが。ならば、これは俺の物だ。どうしても納得ができんのなら力ずくでくることだ。もっとも、小童ごときにやられるような俺じゃねぇがな」


 「なんだと!」


 リバスはハンティングナイフを手に跳躍し、頭上から剣士を攻撃する。


 「おいおい、そんなの当たるかよ」


 剣士は苦もなく避ける。


 「やぁぁぁぁ!」


 続け様にハンティングナイフを二度三度と振り抜く。剣士は軽やかにリバスの攻撃を避け続ける。


 「どうした? もしかして、その程度か?」


 「うるさい!」


 リバスはハンティングナイフをがむしゃら振りかざす。だが、何度攻撃しようとかすりもしなかった。



 「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


 剣士は目の前で四つん這いになって息を切らす少年を見下ろしている。


 「くそっ、どうして当たらないんだよ!?」


 リバスは地面に拳を叩きつけた。


 「あたりめぇだろうが。そんな素人丸出しの攻撃なんぞくらうかよ。小童、魔術は使わんのか? 遠慮は要らねぇぞ」


 (ちくしょう……。使えるものなら使っているさ!)


 リバスは奥歯を噛みしめる。


 「ん? まさか魔術が使えねぇのか? ……クハハハハハ!」


 剣士は豪快な笑い声をあげる。


 「そうか、そうか。おめぇ、いわゆる落ちこぼれ組ってわけかい!」


 「黙れぇ!」


 リバスは怒りを爆発させて剣士に斬りかかった。しかし、またしてもあっさりとかわされてしまう。


 「悪ぃ、悪ぃ。べつにバカにしたつもりじゃねぇんだ。…俺も同じだ」


 「え?」


 リバスには剣士の言葉を信じられなかった。目の前の剣士は集落にいるだれよりも強いように感じる。にもかかわらず、自らを落ちこぼれ組だと言っているのだ。


 「本当…なのか?…」


 「あぁん? 嘘をついてどうするってんだよ」


 剣士は怪訝な顔をする。


 (魔術の才能を持ってなくてもこんなに強くなれるのか!?)


 リバスは衝撃を受けて立ち尽くす。


 「まぁ、いいや。勝負は俺の勝ちってことで問題ないよな」


 剣士は戦利品の野ウサギを持って立ち去ろうとする。


 「おっさん!」


 「なんだぁ? まだやるつもりか?」


 うんざりした表情で振り返った剣士は目を見張る。先ほどまでの敵意ではなく切望を込めた視線を向けてくる少年の姿があった。


 「頼む! 俺に修行をつけてくれ!!」


 「なぜ強くなりたい?」


 剣士は問う。


 「俺は父さんみたいに、家族を守れるくらいに強くなりたいんだ。力がなきゃ奪われるばかりだ…」


 「親父さんみたいにだと?」


 「俺の父さんは魔王ゼンバラルに仕えていたガネッツっていう戦士なんだ。けど、戦闘で負傷して今は戦えない。だから、俺は強くならなきゃいけないんだ!!」


 ガネッツの名に剣士は反応した。


 「ほぉ。ガネッツといやぁ、魔王ゼンバラルの右腕じゃねぇか。そんじゃあ、強くなったら親父さんの跡を継いで魔王ゼンバラルに仕えるってのかい?」


 新たにされた質問にリバスは黙る。


 「どうした?」


 剣士は回答を促す。


 「魔王ゼンバラルには仕えない」


 「ならば、力を手にして何をする?」


 「家族を守りたいだけだって言ってるじゃないか」


 (この小童は使えるかもしれねぇな)


 剣士は口角をあげる。


 「いいだろう。特別に鍛えてやる。だが、今日のところはこれを持って帰ることだ」


 剣士は野ウサギをリバスのほうへ放り投げる。


 「いいのか?」


 野ウサギを受け取ったリバスが訊く。


 「ああ、かまわねぇ。俺は暫くはここらでいるからよ、明日から通ってきな」


 「わかった、おっさん!」


 「おいおい、だれがおっさんだ、だれが! 俺なはベデューって名があるんだぜ、小童」


 「だったら、俺だって小童じゃない。リバスだ」


 リバスは負けじと言い返す。


 「へっ、おもしろいじゃねぇかよ。修行が厳しいからって根をあげるんじゃねぇぜ?」


 「望むところだ。やってやる!」


 リバスはベデューにはっきりと答えた。

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