6.understand.道の終わり
やっと目的のない巡行は終わりですね。
ケイくんお疲れ様でした。
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あれ以来、たまに集団で襲ってくるスライムが出てくるようになった。
そいつらと戦闘を繰り広げつつ、ひたすら道なりに歩き続けた。
単体では弱すぎてなかなか上がらないレベルもこの規模で現れるとかなり上がりやすい。
レベルもそこそこ上がってきたし、いいこと尽くめだが、こうも連日現れると如何せん疲れる。今までなぜ出て来なかったのか謎だ。
あまりの連続戦闘に疲れ果てた時、魔法を使うという手を思いついたのはケイの頭の回転が遅いのか、それとも追い詰められた窮鼠か。
水で押し流したり火で炙るのは核を潰すのに時間がかかるし、何より魔石の回収効率が悪いので諦めた。
一番勝手がいいのは羊飼いのように追い立ててスライムを集め、土魔法で逃げられないように壁で固め、そこに雷魔法を落とすことだ。
雷魔法を強めに落とすと1匹と余さず魔石に変わるが、加減を少しでも間違えると魔石まで破裂してしまう。
効率を考えると弱めに落として残りを剣で刈り取るのが一番だ。
あとは光魔法を使って夜に歩くこともできた。
夜は星が綺麗で、一晩で幾度も流れ星を見たが、次の日、目が覚めるとスライムに運ばれていたのには驚いた。
即刻殲滅してみせたはいいものの寝不足のまま歩くのはかなりしんどいので今まで通り、日が暮れたら大人しく寝ることにした。
ここ最近では言葉を発することもほとんどなくなって、気分はずっと絶不調だ。
変化といえば、カバンはどんな時でも離さないようになったことくらいだ。
鞄をかけた上からパーカーを羽織ると剣を振る邪魔にならないと気付いて以来、パーカーも脱いでない。
何も変わらない景色とたまに曲がったり途切れたりする道に違和感を覚えたのはいつの話か。
スライムの動きも、少しずつ速くなってきてるような気もする。
敵が強くなるのは終盤と相場が決まっている。この道ももうすぐ終わるのだろうか。
そう考えると、長かったこの道にも少し愛着が湧いてきた。
久しぶりに気分がいい。
鼻歌で月光を歌いながら道を歩いていると、またスライムの大群があらわれた。
今回はオレンジスライムが4割くらいいる。
「身体強化!!ラッキー!!」
オレンジスライムの魔石は、足で砕くと身体強化の効果を得られる。
普通は5分、高は10分、最高は20分となかなかに長時間持続だ。
効果は足や剣の素振りが早くなったり、体が軽くなってジャンプ力が上がったりと、なかなかに使える代物だった。
オレンジの魔石を使ってたらそのうち『身体強化』も使えるようになんないかな。
スライムの大群を、こないだ覚えた雷と土の魔法で一撃に伏せた。
と、同時にレベルが上がったのを感じて、魔石を拾いながら《ステータス》を開く。
もはやリセマラ作業にしか感じない自分を自嘲気味に笑いながら《ステータス》を上から順に確認する。
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アズマケイ
Lv.31
HP 302/370
MP 96/200
種族:ヒューマ
職業:剣士
称号:スライムスレイヤー
状態:情緒不安定(鬱)
*スキル*
生活魔法
攻撃魔法(風・水・雷・火・土・光)
鑑定
ブレンド茶
剣技(片手剣)
天読み
体術(足技)
魔力感知
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だいぶマシなステータスになってきたんじゃないだろうか?
少し得意げになりつつ、《鑑定》で仕分けながら魔石を拾う。
「今回は結構、高品質が多いな・・・」
魔石を残らず集め終わって、また歩き出す。
「あとどんだけ歩けばいいんだろ・・・」
結構。かなり。相当。しんどい。
《天読み》によると、今日は雨の予定もなさそうだ。
天気がいいと喉がよく乾く。空のままだった水筒に《ブレンド茶》を入れて、そのまま上を向いて滝飲みの要領で喉を潤した。最近はさすがに麦茶に飽きてきて、水を飲んだり、スポドリが出せないか試したりしている。
「お・・・?」
しばらく歩いた頃、地平線の彼方まで細く続いてた道が見えなくなった。
オレンジの「力の魔石」を踏み、身体強化した視力でじっと見ると、やはり道は途切れてる。
街は相変わらず見えないが、果てしない道のりがこれで終わると思うと、心持ちが少し軽くなった。
「見えてんのになかなか近づけないってのも辛いもんだな・・・」
新たな発見をしてから3時間ほど歩いただろうか。時計がないからわからないが、そんなもんだろう。
道の終わりはすぐそこだ。一気に飲み干した水筒と一緒に、愚痴もカバンに仕舞い込んで
ケイは早足で目指した。
*
「あ・・・?」
道の終点に着いて、一言目に出たのは、この言葉だった。
「道」の終わりにつくや否や、つい、威圧的な言葉が漏れてしまった。
またか。と思ってしまうのもしかたないだろう。
終点には、白いスライムがいた。
そいつはまるで今空にある雲のようにぽつんとそこにいた。
スライムの真下で道は切れている。
「・・・とりあえず《鑑定》」
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スライム
Lv.1
HP 60/60
MP 50/50
種族:《スライム》
称号:孤高のスライム
状態:睡眠
*スキル*
全攻撃魔法(風・水・雷・火・土・光・闇)
聖魔法
念話
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訝しみながら、スライムを《鑑定》して、少し驚く。
「・・・何だこいつ」
ぶっちゃけ、レベル1なのに他のスライムより圧倒的にステータスが高い。
「聖魔法とか何だよ・・・
しかも、全攻撃魔法が使えるのか。
HPとMPは俺の方が上だけど・・・ レベル1のくせにスキルがこれとかありえねえ。」
今までなら、魔物の名前は色別に分かれていた。
オレンジならオレンジスライムだったし、緑ならグリーンスライムだった。
でもこいつはなんだ? こんな異常ステータスがただのスライムなわけないだろ。
それとも今までのスライムが雑魚だっただけなのだろうか・・・。
「つーか、「状態:睡眠」って・・・寝てんのかよ。
昼間っから寝てるスライムを初めて見た。」
つい、呑気なスライムにクスッと笑いがこみ上げてきた。
ケイは起こさないようにそっと移動して、少し離れた位置でしゃがんだ。
とりあえずは、スライムが起きるのを待つことにしよう。
「だーーーっ!! いつまで寝てんだよ!!」
小一時間、半透明な白いスライムを眺めて過ごしたけれど、待ちきれなくなって、ケイは叫んだ。
思ったのだ。「道も途切れて。道標も失った。この状況で待ってる意味あんの?」って。
とりあえず、いつ戦闘になってもいいように剣を引き抜いて構えながら、スライムの背中?を剣の鞘で突く。
「・・・・・・zzz」
「・・・・・・図太い系のスライムか・・・?
・・・・・・・・・おーい!!」
無反応なので声もかけた。
するとスライムはぷるり、と動くと、まさに「もぞもぞ」といった風にこちらを向いた。
「・・・・・・」
「あ・・・」
スライムの眠そうな目を見て、綺麗だ、と思った。
白いスライムの目は真っ赤なルビーのような目だった。きらりと光って、白によく映える。
付き合って2年の記念で元カノに贈った、誕生石のルビーを取り付けたプラチナの指輪をふと思い出した。
じっと見つめていると、スライムはいきなり飛んだ。
垂直跳びに20センチくらい飛んで、そのまま固まる。
「・・・・・?!?!?!」
「え、っと。 おはよう・・・?」
明らかに動揺してるのが見て取れるスライムにとりあえず話しかけてみる。
いきなりのジャンピングに思わず剣を構えたが、攻撃が来ないのでとりあえず剣を鞘にしまう。
いざとなれば《居合い》で両断してやる、そう思って見つめ返した。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
お互い、黙ったままだと何だか気まずい空気になってしまう。
「え、っと、俺、道に迷ってて・・・ 街ってどっちに行けばいいか、知らない?」
ただの魔物に聞いても詮ないことだが、ケイも少し動揺してるのだ。
答えるはずないか。と諦めようとした時、頭の中に声が響いた。
《マチッテ・・・ナニ?》
驚いて、頭を押さえるケイ。
スライムはじっとこちらを見たままだ。
「・・・・・・・・・。」
何も言わないままのケイにじれたのか、白いスライムはポヨンと一歩近づいた。
反対にケイは一歩下がった。
「・・・・・・・・・。」
スライムのさっきまでいた足元には丸く草のなくなった地面が見えた。
あぁ、この長い道はこいつの歩いた道か。頭の隅でそんなことを思う。
再度、頭に響く。
《マチッテ、ナニ? アナタ、ダレ?》
フリーズしてた頭が動き出す。ケイはしどろもどろになりながらようやく答えた。
「俺は、ケイ。よろしく・・・ 街は、えっと、人がいっぱいいるところなんだけど・・・」
スライムはくりくりした目でこちらを見る。心なしか、さっきよりも輝いて見える。
《ケイ!! ヨロシクッテ、ナニ? ヒトッテ、ナニ? 》
ポヨンポヨンと近づいてくるスライムから距離を取ろうとして、足が縺れる。
転んだケイの前にスライムがやってきて言う。
《ダイジョウブ?》
「えぇ・・・なにこれ、なにこの状況。訳わかんない・・・。」
《ボクハ、スライム。 アナタハ、ケイ!! ウレシイ!!》
ぴょんぴょんと跳ねるスライム。
敵対心がないのはよくわかった。
ケイは緊張の糸が切れてしまって、尻餅をついたまま項垂れる。
もう頭の中がスライムだらけでカオスだった。
*
と。思いきや???