53.make.すまほってなに?2
だいぶ期間があいてしまいました。
「ケイ、おいてった・・・」
悲しそうな顔をした少女を横に、ニードは途方に暮れた。
朝からこの調子だ。朝起きたら、ケイとセンが書き置きを残して居なくなった。
きっと、ケイの暴走だろう。新しい開発品を胸にどこかへ飛び出したんだとわかるくらいには知った仲だ。
だが、いつ帰ってくるかは見当もつかない。
「アルちゃん、朝も昼もごはん食べてないでしょ? お腹空かない?」
もう時刻は夜の20時。もう宿の晩御飯の時間をとうに越している。
いつもなら19時にはお腹すいたと賑やかに走り回るのに、今日はずっと街の門の前で動かない白髪の少女を、ニードは迎えにきた。
「・・・はあ。」
声をかけても返事は無く、小さくため息をついてニードは頬に手を当てる。
『エルフの里に行ってくる。すぐ帰るからアルをよろしく。』
伝言はたったこれだけ。追いかけようにも、ニードはエルフの里はおとぎ話で出てくる程度しか、情報がない。
アルだってきっと通った道とは言え、ここで待ってるということは、あまり道には明るくないのだろう。
何より、センのあの速度だ。下手に動いては、行き違いになってしまう。
「ニード、ケイ、いつかえってくる?」
悲しげなその瞳に嘘はつけない。けれどニードだって、帰りを知ってるわけでもない。
「ケイは・・・。うん、アルちゃんが元気でいればそのうち帰ってくるよ。」
そう言って、見上げる少女の頭を撫でた。
「・・・・・・うん」
早く帰ってきて。
そう思いながらニードは空を見上げた。
きらり、と空が光った。その光は尾を持っているかのようにすらりと光を伸ばし、消えた。
「・・・光?」
空には月と輝く星しかない。動くものなんて、初めて見た。
驚いて空をじっと見つめると、ニードの頭上で、再度光が伸びる。
「アルちゃん!!空見て!!」
「・・・なーに?」
間伸びしたように呟いて、アルも空を見上げた。
少し離れた背後で、老人の囁きが聞こえた。
「ドラゴンの尾じゃな。立て続けとは珍しい。」
「ドラゴンの尾?」
ニードが問いかけると、老人は笑った。
「何じゃ、若いもんは空を見ないんかい。 おとぎ話にも出てくるだろう。あれはドラゴンじゃ。」
ドラゴンは、世界を旅する魔物だ。
ドラゴンの街を滅ぼしたというお話は絵本にもなっており、それなりに有名だ。
「・・・それって本当ですか?」
そんな話、初めて聞いた。地域性だろうか。
ニードの表情にでた疑問に、老人は笑った。
「嘘じゃよ。そんなもん、空に浮かんでるわけないじゃろ。そういう言い伝えじゃ。」
老人は楽しそうに笑ったまま、ヒラヒラと手を振って背を向けた。
「・・・・・・ドラゴン?」
アルが今も流れる光を見上げる。輝く瞳に勝機を見出して、ニードはしゃがんで問いかけた。
「アルちゃん、ケイが帰ってくるまで図書館で調べてみる?」
「じ、よめない・・・」
「じゃあ教えるよ。こっちにおいで。」
にこりと笑って、ニードはアルの手を握った。
*
「ただいまー」
「・・・っ!! ケイ!!」
ケイがため息と言葉を合わせて吐き出したような挨拶をして宿の部屋に入ると、アルが飛びついてきた。
その小さい体を抱き上げて、白い髪を撫でながらお留守番を労う。
嬉しそうにするアルを眺めて、ケイは心が浮き立つのを感じた。
別に待たせたことに後悔があるわけじゃない。けれど、ここまで心待ちにしていてくれたことが嬉しかった。
「いい子にしてたか?」
「ある、じかけるようになったよ!!」
まだ汚くてなんて書いてあるか判断しづらい文字を見せつけるアルを適当にあしらって、脇に置く。
机にどんと置かれた大量の書物に挟まれたニードに声をかける。
「すごいな、どうしたんだ、これ?」
「アルちゃんのお手伝い。空を走る光の正体を調べてるの」
「光なー。」
「そう、一昨日の夜に光を見たんだ。通りすがりのおじいさんが言うにはドラゴンだって。」
「・・・空を走る光? ドラゴン?」
首を傾げて、ケイは問い返した。
「不思議だったよ。何本も線みたいに光って消えるの。」
軽の脳裏を過ぎったのは流星群だ。
「それって・・・」
そこまで口にして、ハッとする。
「ケイも気になる?」
嬉しそうなニードとアルの顔を見比べて、少し考えた後、ふっ、とため息を吐いた。
「・・・そうだな、わかったら教えてくれ。」
「うん!!」
ニードの膝に座って本を片手に質問しながら読み進めるアルをもう一度撫でて、ニードに飯食ってくると言伝をした。
時刻は昼過ぎ。2人はすでに食べていたので、夕飯が入る程度に軽く済まそう。
部屋の戸を閉めて、歩きながらケイは自分の顎に手を当てた。
少し伸びた髭を触りながら、さっきの話を考える。
夜に空を走る光と言ったら流れ星だろう。それがたくさんとなると流星群。
この世界の星の様子は詳しくないが、太陽が昇って月が下りるのなら地球とほとんど同じだろう。
でもドラゴンってなんだ? よく分からないなりに理屈をつけたって話は昔からある。ましてやここは異世界だ。ドラゴンが実際にいる可能性すらあるだろう。もしかしたらそう言う伝承みたいなものだろうか。
少し考えて、ふと歩みが止まっていることに気がついて前を見て、目的地にたどり着いたことに気がついた。
「・・・ま、別に言わなくてもいいか。」
アルもニードも楽しそうだし。
そうつぶやいて、ケイは獣型の使役獣が入れられている小屋の扉を開けた。
「片付け終わった?」
割り当てられたスペースに貰ったばかりの馬車を仕舞う人影に声をかけて、ケイはタバコを取り出して咥えた。
「・・・ここで火を使うな。牧草が燃えるだろう。」
嫌そうに眉間に皺を寄せたセンが呟く。
「そんくらいわかってるよ。火はつけない。・・・もう行けるだろ?」
そう声をかけて、ケイとセンは宿を出る。
「何を買いに行くんだ?」
そう聞くセンに、ケイは顎に手を当てて考える。
「荷物はカバンに入れるとして・・・。 新しい服、かな。」
センもニードも着たきり雀で、着替えを持っているのはケイとアルだけだ。
いつもお世話になっているしお礼の代わりに服を買いに行こう。
「いつもカラフルな服だが、主はおしゃれが好きなのか?」
「その方が安いんだよ」
怪訝そうなセンの視線に、ケイは笑った。
着心地の良い服って、ここの世界は高いんだよな。
予算がなくて適当に買ったものを着ているから、予算が潤沢にある今、ケイも新しいものを買おうかと悩む。
「どの店に行くんだ?」
そう聞かれて、意気揚々と踏み出していた足が止まる。
飯を食うついでに街を散策しようと出てきたはいいが、店なんて知らない。
どこに行けば良いのやら。
「うーん? まあ、歩いてりゃ見つかるさ。そうそう、ウインドウショッピングだ。」
「・・・そうか。」
ケイにとっては適度に歩く方がなんとなく危ない気がするが、仕方ないだろう。
地球にいた時だって、散歩で思いもよらない発見があったりしたものだ。
「まずはどこから行くか。」
この町の地図を鞄から取り出して、2人で覗き込む。
宿でもらった簡易的な地図だ。観光用ではないから、どこに何があるかは分からないが、最低限必要物資が揃う店と主要な施設は書いてある。
「図書館がここで、これが今泊まってる宿な。」
「目の前のこれだろう? 文字は読めんが、そのくらいわかる。」
建物の形を見比べて指を差すセン。
とりあえず・・・うん、腹減ったな。
ぐうと腹の音を鳴らしたケイに、線の視線が重なる。
「どっか店入るか。」
「そうだな。腹が減った。」
「あそこはどうだ? いい匂いがする。」
近場のレストランらしき店に入ると、ケイはすんなり通れたのにのちに続くセンが入れない。
まるでパントマイムをしているような姿にククッと笑ってから声をかけた。
「・・・どうした?」
「・・・魔法がある。」
「魔法?」
首を傾げると、奥の厨房から顔を出した店主が叫んだ。
「お客さん困るよ!! うち、獣人は禁止なんだ。」
「なんだそのシステム。」
確かに、店内には獣人や魔物の姿はない。
魔物と泊まれる宿が少ないのはニードから聞いていたが、ここまで差別されるものだろうか。
ムッとしたが、逆らっても腹の音は収まるわけじゃない。
「次行こうぜ。」
店主に手を挙げて次の店に移動するためにケイは踵を返した。
「獣人禁止なんて所もあるんだな」
「全く、差別も甚だしいぜ。」
店から出て、ケイは馬車の行き来する道を見渡して、途切れた所を駆け足で渡る。
反対側の道を歩き、ずっと考え込んでるようなケイの様子に、センは声をかけた。
「どうした?」
「いや、さっきの魔道具、どんな仕組みなんだろうな。」
「気になるところはそこなのか?」
センの不機嫌そうな言葉に顔を上げたケイは少し黙ってから答えた。
「獣人はちらほら見るから、存在自体を拒否されてるわけではないんだろうけど。あんな特定の生き物を遮断する魔道具まで用意して。・・・どうしてだろうな。」
「そうだな。」
「それに、センは元は魔物だろ? 見た目は獣人でも。どういう仕組みなんだろうなぁ。」
「・・・そんなのはどうでもいいが、腹が減ったぞ。」
そう言い合いながら、片っ端からセンの気になった店(主にいい匂いのする店)に入っていくが、どれも入り口で追い返されてしまう。
ケイも気になる店はあったのだが、ケモ耳にバツのマークがついている貼り紙がしてあって、どれもダメだった。
そうこうしているうちに、結構寂れた方まで来てしまった。
「セン、もうあの居酒屋でダメだったらいつもの屋台に行こうぜ」
「・・・そうだな」
正直、ここまで全部の店で出禁を食らってしまい、あれだけ減っていた腹も、もう消沈気味だ。
センは見た目に反して、あまりメンタルが強い方じゃないのだ。
ぎい、と立て付けの悪いドアを押し開けて先を行くケイについてセンも行こうとしたが、ドアの前で踏みとどまってしまった。
ここらへんで見えない何かに阻まれるのだ。
人間は怖い。センがずっと洞窟にいたのは、幼い頃、1人で遊びに出て、迷い込んだからだ。
そこには、見えない何かがあって、何度もぶつかった。壊すこともできなくて1人、泣いた。
そこの洞窟は見えない壁があちこちにあって、迷路になっていたのだ。
一度大きな出口を見つけたが、複数の生き物の気配を感じて逃げた。
何日も出られずに腹を空かせて歩き回った。草を食べて過ごした。
ようやく出てきた時、両親も知っている獣もいなくなって、時間が随分経っていたことに気がついた。
魔物という性質上、魔素が特別多い土地では食事の必要がない。
体が慣れてくれば快適だが、子供の時分では理解できないものは怖かった。
まるで洞窟は大きな魔物の腹の中なのではと幼いながら考えていたものだ。
道を覚えて好きに出入りできるようになったのはそれから随分経ってからだった。
そして、その見えない壁は結界なのだと知ったのは最近だ。
人間は、何をするかわからない不気味さがある。だから怖いのだ。
もう腹は減っていない。帰ろう、そうケイに声をかけようとした時、背後から声をかけられた。
「入らないなら退いてくれないか?」
そう声をかけられて、センは振り返った。
銀髪の二人組だ。よく似た顔立ちをしている。匂いも似ているから兄弟だろうか?
何を弱気になっている。そう頭を振ってから、考え直した。あれは罠じゃなかった。今回もそうじゃない。怖くない。
「・・・すまない」
一言謝って道を譲って、2人の後に続くように、センも一歩踏み出した。




