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52.make.すまほってなに?

「ケイ、大丈夫?」

頭上からの声に、ケイは目を覚ました。

やけに体が硬いと思ったら、机で突っ伏して寝ていたようだ。

バキボキとなる身体をほぐしながら、くしゃくしゃになって涎で汚れた羊皮紙を丸めて捨てて、ケイは視界に入ったタブレットを手に取った。

いつものようにスイッチを入れて時間を確かめようとしたところで、何も表示されない画面に首を傾げてから、ここは異世界だと認識する。

神に渡されたのは、ケイが日本で使っていたのと同じモデルだ。勘違いもするだろう。

「あ〜・・・? えっと、今何時?」

仕方なく、ニードに聞いた。

首を回らしたけど、視界は書類で埋まっている。これでは時計なんて探せない。

「もうお昼だよ。 ちなみに机に向かってもう2日目。宿も更新する時間だよ」

コーヒーを差し出されて、ケイは一口飲む。

そういや腹減ったな。そんなことを思いながら、アルはなにしてるかなとぼんやり考えた。

「・・・そろそろ動くか。」

2日も経っていたなんて気が付かなかった。

たまに飯の差し入れが届いたが、時間なんて、気にしてなかった。

思ったより集中できていたようだ。おかげで今は何にも頭が回らない。とりあえず飯食ったらちゃんとベットで寝よう。

ラファエルにスマホを見せられて、ケイは躍起になっていた。

内部の構想はなんとか形にしたが、外装含め、中身も改良していかないと動かないのは目に見えている。

ここから先はニードに手伝ってもらうしかないだろう。

「ねえ、ケイ。そろそろ教えてよ。今度は何作ってるの?」

「スマホを作りたいんだ」

コーヒーを片手に呟いたニードに、ケイは答えた。

「すまほ?」

「離れていても通信できる機械」

「・・・つうしん?」

だめだ、根本から通じない。

「・・・・・・伝書鳩、はわかるか?」

「ああ、緊急用にすぐに連絡を取るやつかな。もっとすごいアーティファクトがギルドにもあるよ。

・・・まって、それを作るの?」

口に運びかけたカップを置いて、ニードが立ち上がった。

「今度のそれは、すごく、すごく大変なことになるよ」

「大変って?」

まだ頭が追いつかない。ニードの百面相を眺めながら、ケイはもう一口飲んだ。

「それ、量産したら、危ないかも。」

「・・・なんで?」

「ケイの知識や技術を狙う奴が出てくるかもってこと!!」


大変だ、後ろ盾が必要だ。


そうつぶやいて上の空になってしまったニードを放置して、ケイはとりあえず試作品の図案を見た。

手に収まるサイズのそれは、魔法陣を幾重にも重ねた上で縮小しないといけない。

「神経使う作業になりそう・・・」

ケイにとって、スマホができるかできないか、の方が、何よりも大事だった。

「・・・とりあえず、ご飯買ってくるね。ケイは宿の延長、どうするか考えて。」

「はいよ」

ニードが出ていった後はケイなりに急いで着替え、宿の更新をして、ベッドに倒れ込んだ。

「だめだ、眠い・・・。」

腹が減ってるけど、もう睡魔が限界だった。

飯が来るのを待つはずが、ケイはそのまま眠った。









朝が来て、ケイは目を覚ました。

隣ではニードがぐっすりだ。

多分昨日から置かれている包みを開けると、中身は少しぱさついたサンドイッチだった。冷めてもいいようにだろう。

ニードの気遣いを感じるそれを咥えて、ケイは自分で積み上げた書類に目を通す。

「あー。ここダメだな、やっぱ頭回ってなかったんだなぁ」

そんなことを呟きながら、斜線を引いて書き込んでいく。

電気がない世界だから、この世界にあるもので応用する。

あの世界になくてこの世界にあるものは、もちろん、魔力だろう。子供でもわかることだ。

じゃあ、他には? 何が違う?

魔力について、この世界について、もっと知っていく必要がある。

「図書館か、それとも・・・」

ボソリとつぶやいて、ケイは席を立った。




「ここか? 主。」

低い声で呼ばれて、ケイは意識を取り戻した。

「はっ・・・。死んだかと思った。」

「『なるだけ急ぎで』と言ったのは主だろう?」

呆れたような目でセンが言う。いつの間にか、主と呼ばれ出している。こそばゆいが、今重要なのはそこじゃない。

見渡す限りの深い森に、ケイはため息をついた。

「ああ、ありがとう」

着替えるのも忘れて、ケイはアルの部屋で眠るセンを叩き起こした。

獣姿になったセンに跨って、意識があったのは何秒だったろうか。

来たのはエルフの森。隠れ里だ。


「聞きたいことがあるときはwiki、だよな」

初対面の時と同じ、表情の抜け落ちたエルフ、いや、トレントか。

彼女らに迎え入れられて、ケイとセンは里に入っていく。

那智滝も目じゃないって位の滝も相変わらずで、まるで時間が止まったかのように感じる。

センの話では、ここまでくるのに丸1日かかったわけだが、気合を入れればこの距離が1日で踏破できるということがわかって、ケイは少し心の余裕を取り戻す。

ニードには書き置きを残してきたからアルの世話ぐらい、あいつならなんとかするだろ。

里に入ってしばらく歩く。人の気配は少ないが、通り過ぎようとする知り合いを1人見つけた。

「お、カンディアだ。」

洗濯物を抱えていることから、洗濯の時間だったのだろう。いつものルーティーンだ。

「え、ケイにい!? 」

驚いた顔でこちらを見るカンディアに、ケイは笑顔で声をかけた。

「よお。元気か?」

「元気だよ!! なんでここにいるの!?」

相変わらず帽子を目深に被って、カンディアは笑った。

おおはしゃぎだ。

「ジェイドに会いにきた。 あとシリカ。」

「ジェイにいは今診察で長の家に居るよ。」

「・・・まだ長は健在か?」

少し期待して声をかけたが、カンディアは首を振った。

「・・・クラーク様はケイにいがいなくなってすぐあの空を渡ったけど、いい報告もあるんだよ」

「いい報告?」

「まだ里のみんなに報告できてないから内緒だけど・・・。 エンジュさんが妊娠したの」

「へえ、いいじゃん」

確か、エルフは子供ができづらいんだったか。いい報告だ。

「安定期に入ったらジェイにいから報告があるから、ケイにい、喋っちゃだめだよ」

「はいよ」

「それで、道はわかるの?」

「わかるわけないだろ?」

ケイが笑うと、その後ろ、褐色の獣人に目を向けてカンディアが言う。

「ウルフさん、案内してあげてね」

「任された、そして俺の名前はセンだ。」

ケイの迷子癖を知ってるカンディアが道先案内人を指定して、センが答えて、ケイは笑った。

「セン、いい名前。改めてよろしくね」

息ができると言うのは、こう言う気分だろう。知り合いばかりの環境に、ケイが軽いため息をつく。

カンディアは、よいしょ、と呟くと、洗濯物を抱え直して、笑顔で囁くように呟いた。

「エレファが1人で店番して待ってるから、早く帰らないと。またね。」

駆けていくカンディアを見送って、ケイとセンは長の家に向かう。

揃って歩きながら、ケイはなんとなしに話を振る。

「お前、顔見知りだったんだな、誰って聞かれるかと思ったぞ」

「人の姿になった時、ジェイドが側にいた。神から託されたと。」

「ふうん。」

「他にも生活をしてみて知ったことはたくさんある。視野が狭いとはこう言うことかと気がついたぞ」

「そうなん。狼って人間より視野広いと思ってたぞ」

「そう言う意味じゃないが?」

「冗談だろ・・・」

そうつぶやいて、なんだか負けた気がして悔しく思う。

何が、と言うことでもないけれど。


悶々と考えながら、ケイは道を曲がった。

「主、そっちじゃないぞ」

呆れた声に、ケイはため息をついた。










「お前・・・。 こんなところで何をしている」

呆れた顔のジェイドは、それはもう見慣れたものだ。

診療用バックを肩にかけて、こちらを見下すようにみるジェイドは相変わらずだった。

「まあまあ。エンジュはどうだった?」

「・・・可もなく不可もなくだ。」

「そっか」

「で、なんのようだ? お前が無意味にここに来ることなんてないだろう」

「聞きたいことがあって」

「・・・仕事の合間でいいか?」

そんな話をしながら、3人は診療所に向かった。





「魔力ってそもそもなんだ?」

ジェイドの仕事部屋に入って、単刀直入に聞いたケイに、ジェイドが白けた目を向ける。

「本を読め、そんなことを聞きにこんなところまできたのか」

「載ってる本探すより聞いた方が早いと思って。 どうせジェイドはそこらの本より詳しいだろ?」

悪びれずに答えるケイをじっと見たあと、ため息をついて答えた。

「魔素、と呼ばれる粒子の総称だ。塊になったり慣れた者なら流れが目に見えることもあるが、普通は見えない。」

「できれば魔力とか魔素?、を区別するシステムが作りたいんだけど。 ジェイド、分かる?」

「魔素はいくつか種類がある。これは俺が見つけた法則だから他所の本には書いてないが・・・。

 魔素が混ざった状態の魔力を、生き物は生まれる瞬間に体に取り入れる。これを大っぴらに魔力と呼んでいる。」


「それくらいは分かるよ。人それぞれ魔力が違うっていう理由が知りたい。」

「・・・成長に従って変質し、大人になる頃にはその配合は固定される。人それぞれで魔力の質が違うのはそのせいだ。その魔素を解析すればより分けるシステムくらい作れるんじゃないか?」

「んー。魔力の質が変わるなら、子供じゃその場凌ぎでずっとは扱えないのか・・・」

ぶつぶつ呟きながら、ケイは思考をまとめる。

「じゃあ、大人ならこのままの魔力で使えるんだな?」

「お前の考えることはわからん。好きに研究しろ。」

「ありがと、大体把握したわ。」

魔力は人それぞれ違う。それは、人の体の中で魔力が成長するからだ。





「そろそろ帰るわ」

夕食を食べながらそう切り出したケイに、カンディアが驚いた声を上げる。

「え、もう? 今日来たばっかりじゃない」

「トラガに仲間がいるし。」

「そっか・・・」

「次は全員で来ていい?」

「構わないが・・・ そんなにいるのか?」

「いや、俺とニードとアルとセン。」

呆れたため息をついたジェイドと反対に、カンディアが笑う。

「仲間が増えたんだね」

「ニードな、頭はいいんだけど戦闘力は弱いんだ。これから敵も強くなるし、どうにか戦力の底上げがしたい」

お茶を飲みながら、そんなことを呟く。

「お前、補助魔法を覚えたらどうだ?」

「補助? 何それ」

今度はジェイドが笑った。

「本を読め。今日俺が言ったことも、本の知識とそれに付随する実践の賜物だ」


『欲しい成果があるなら、他人に期待するな』


最後にそういったジェイドは研究者の顔だった。









帰り際、トルマに会った。

なんでも国交とまでいかなくとも、エルフの里と人間の村で手紙や物流が始まり、運送屋として忙しいらしい。

トルマに貰ったホロ付きの荷台をセンにくくりつけて走るとまるで空を飛んでるようだと思ったが、あまりの速さで車輪が浮いていた。外を見なければ、という但し書きがつくが、今度は快適な旅のままの帰路だった。

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