50.give.新しい仲間3
「ここか・・・」
1時間と少し街道を歩き、その後森に入って30分。歩き続けて、ようやく石碑に辿り着いた。
石碑は森の一部のように木の根っこに埋もれていた。
予想では、戦闘になるので結界を貼るのはアリアと合流してからなので、また明日だ。
「とりあえず掃除と周りの探索だな」
「はーい」
アルとニードの返事を聞いて、ケイは早速掃除に取り掛かる。
あちこち走り回って枯れ葉を集めるアルを尻目に、ケイは魔法を練った。
ケイは掃除どころか家事全般、好きじゃないが、やればなんでもできるけど、やりたくない。
いつか金持ちになったら家政婦を雇いたい、この世界では普通にメイドっていうのかな。
メイド、いいな。
旦那様とか言われんのかな。
ちょっと想像して少し恥ずかしくなる。
そんなくだらないことを考えてる時、ニードに声をかけられてケイは咳払いをして振り返った。
「ケイ、この枯葉、どうしよう?」
「あー、後で燃やすからそっち置いといて」
風魔法で枯葉をあっちこっちに飛ばしてるアルを叱りつけて、石碑の掃除を命令する。
涙目で石碑をタオルで擦るアルを横目に、ケイは石碑にまとわりつくように生えてる木を風魔法で切り刻む。
ある程度綺麗になって戦闘に支障ないところまで開墾したところで、一息つく。
「ここまで落ち葉があるなら芋持ってくればよかったな」
季節的には夏だが、この辺りはまるで秋かってくらいに落ち葉が落ちていた。
このまま戦闘になったら、ケイは落ち葉で足を滑らせる自信がある。
「燃やすねー」
詠唱魔法でニードが燃やしていく。
魔法で後押しされるこの世界ではじっくり焼くのは肉だけなので、枯葉はすぐに燃え尽きた。
「スッキリしたね」
「ちょっと木の断面が不恰好だけど、まあこんなもんだろ」
まとわりついていた木はなかなかの太さで、除去というには大方残ってるが、まあ、邪魔にならなければいいだろう。
石碑はその名の通り素材が石なので魔法がなければ輝くということはない。
だけど、ピカピカになった石碑を見ると誇らしく思う。
「これが石碑かあ。こんなのがあったなんて、今まで知らなかったなぁ。」
「森の奥だしな」
「そうだね。 神様って、こういうとこに住んでるのかな? それともふかふかのベッドとかあるのかな?」
ニコニコと話すニードにこたつに入って伸びをするラファエルを思い出す。
本当のことは言えなくて、ケイはなんとなく黙った。
「でも、おいしいものはこっちの方が多いと僕は思うんだよ。ケイの世界はどうだった?」
「そうかもな。俺の住んでたとこの飯、今度機会があったら作ってやるよ」
「やった、楽しみにしてるね」
「ケイ、おなかすいたー」
「そうだな、帰るか。」
喚くアルに飴を差し出して、ケイたちは帰路に着いた。
久しぶりに、ハンバーグが食べたくなったので次に飯当番になった時はハンバーグにしようと決めた。
*
「やっぱベッドはいいな!!」
ベッドに寝転んでケイは大声を出した。
「今日のご飯もおいしかったね」
野宿に次いで、往復4時間。疲れた。
「借り馬車とか欲しいな。」
「かりばしゃ?」
「そう、必要な時だけ借りれる馬車みたいなの、欲しいよな。その街の周辺だけで使えるならわざわざ買うまでもないって人多そうじゃない?」
「でも盗まれたりしたら?」
「そこよなぁ。」
取り止めのない話をしながら、ケイはウトウトとし始めた。
アルはもう眠ってしまった。
「ケイ、もう眠いでしょ」
「うん」
「あかり、消すね」
「ありがと」
「明日は何時から出るの?」
「まだ決まってない、これから決める」
「夢の中で?」
「・・・そう。」
打とうとしながらケイは呪文を唱えた。
眠るように目を閉じる。
「遅いわよ」
目を開けると、アリアが髪をいじりながら文句を言った。
「すまん」
こたつはもう撤去されたテーブルについて、ケイはコーヒーを出されるのを待った。
「で、明日は何時?」
「10時ごろ、迎えをよこすわ。」
「わかった」
「新しい仲間はどうなの?」
「戦闘力は微妙。でも雑務は優秀だよ」
「いいわね」
「・・・そうか?」
「何かに特化してるのも才能だけれど、雑務ができる部下ほど重宝するものはないわ。味方なら尚更ね。」
アリアはそう言うと立ち上がって、庭に出た。
今日は天気がいい。ここの天気は神の気分で変わるので今日は機嫌がいいのだろう。
ケイは一口飲んでからアリアの後を追った。
「やるわよ」
そんな掛け声と共に、ケイは吹き飛ばされた。
小一時間の鍛錬を終えて、アリアは神の家を出ていく。
ケイはようやく一息ついて、コーヒーを飲む。もう冷めている。
「お疲れ様」
ニコニコとラファエルに声をかけられて、ケイはありがとうと返した。
「珍しい」
「は?」
「ケイくんがお礼を言うなんて」
「人のことなんだと思ってんだ」
「ふふ。ケイくんが素直なの、久しぶりだから、嬉しいな」
「・・・・・・。」
不機嫌そうに眉を寄せて、ケイは唸った。
「あ、そうそう、そろそろ着くからね」
「・・・何が?」
「里に狼住み着いてたでしょ?」
「そんなこともあったな」
そうつぶやいて、思い出す。
アルが問題ばかり起こしてた頃、アルは狼と友達になった。
おとなしいが言うことは聞かないし野放しにするには強大すぎて里中でどうするか困っていたのも記憶に新しい。
「もうすぐ着くよ」
「だからなんの話だよ」
キョトンとする神に舌打ちをするケイ。
「ああ、言い忘れてたね。あの子、ケイの仲間になるから」
「はぁ? あんなでかいの無理だわ」
「もうでかくないよ。父様の力でフェンリルに進化したよ」
「フェンリル・・・?」
厨二的な名前に、聞き覚えがあった。よくゲームにも登場していたはずだ。
確か火魔法が得意な魔物。
そう考えてたら、ラファエルが心を読んだ。
「残念。今回は父様の魔力の影響が強くて風と水が得意だよ。足代わりに使ってあげて。」
「あいつ言うこと聞かないじゃん」
「聞くように調教してよ」
「めんどくせ・・・でも足ができるのはいいな。今狼高騰してるし。」
コーヒーを啜りながら、ケイは唸る。
どう言うことを聞かせるか、悩みどころだ。
「まあ、いいんじゃない? 気長にやってよ」
「・・・あいよ」
「そろそろ来るって、いつぐらい? 宿、3日分しか取ってないけど」
「うん、そのくらいには着くよ」
「速いんだな」
「神の加護があるからね」
「ふーん。そろそろ帰るわ。俺も明日に備えないと・・・」
「はーい。次はもっとゆっくりしてってね」
「はいはい」
*
「おはよう」
「はよ・・・」
寝足りない。
寝ぼけた顔のまま、アルと並んで歯を磨くケイ。ニードはもう準備を終わらせていた。
「今日の時間決まった?」
「10時・・・」
「どこに行けばいい?」
「ここ・・・、迎えに来る」
「わかった」
「あと仲間ができる」
「・・・仲間?」
口に含んだ水をペッと吐いて、ようやく目が覚めてきた。
「そう、神の使い。狼だ。」
「狼・・・よかった。僕はお払い箱かと思ったよ」
「ニード、マイナス思考はやめろよ」
じっとりと睨んで、ケイは続ける。
「ニードはニードにしかできないことがある。誇っていいんだ。もう大事な仲間だ。」
「ケイ・・・。ありがとう。」
見つめあって、少し恥ずかしくなった。
振り切るようにケイは「さて、飯だ。」と手を打って踵を返した。
「ごはん・・・」
歯磨きが終わっても、珍しくまだぼーっとしてるアルを抱えて、ケイたちは食堂に向かった。
「ケイ、まだー?」
あるがジタバタしてるのをぼんやり見る。飯を食べたら眠気が再来してきた。
あくびを噛み殺しながら時計を見る。ラファエルが世界の常識を書き替えてから、時計も変わった。
見やすい、秒針付きの時計だ。
時刻は10時を少し回った頃。隣町から来ると言うのでまあ、このくらいの遅刻は仕方ないだろう。
「もーすぐだよ、待ってろ」
「むー!!」
朝食はゆっくり食べたつもりだったが、まだかなりの時間が余っていた。アルにとっては2時間近く待ってることになる。
ジタバタうるさくても、機嫌が悪くならないだけ、よしとしよう。
*
「きたわよ」
しばらくして、不遜な声が聞こえた。
それにケイは振り向く。
豪奢な赤い髪に、透き通った緑の瞳。
「遅い」
「ケイのくせにうるさいわね」
「えっと、初めまして」
憎まれ口を利いてると、横からニードが声を上げた。
「あら。あなたがニード? 初めまして、アリアよ」
「ニードです、ケイがいつもお世話になってます」
「いいわね、あなた。その心構え、いいわ」
「え?」
「いくわよ、このあと用事があるの。私は忙しいのよ」
「へいへい」
いつものことだ。ケイは席を立って、2人を連れてアリアの馬車に乗り込んだ。
*
石碑のそばで馬車を止めて、ケイは伸びをする。
「こんなに早いんだ。馬車欲しいね。 ・・・あ、でももうすぐ狼が仲間になるんだっけ?」
「そうだな」
ニードに適当に相槌を打ちながらあたりを見渡して、ケイはため息をつく。
「昨日掃除したのにな」
「おちば、いっぱい!!」
喜んだアルが枯葉の山に飛び込んだ。
ぼふ、と沈んだアルを放置して、アリアがため息をついた。
「ここから歩くのね?」
「そう遠くないよ、2、3ふんです」
ニードが緊張しながら答えた。
「そう、いくわよ」
アリアが寝転がって笑うアルの手を引いた。
「あら、枯れ葉がついてるわ」
頭についた枯葉を払うアリアをアルは黙って見上げていた。
アリアはなぜか、ドレスのくせに藪を進むのが上手だ。
さっさと進むケイの背中を何の苦もなく付いてくる。
「ついた」
石碑にはすぐについた。
「ぱっぱと終わらせるわよ」
アリアがブンと剣を振って、ニードは少し離れた位置で援護の姿勢に入る。
「いくぞ」
ケイもそれなりに覚悟を決めて、魔法陣を展開した。
*
「ニード!! そっちに行ったぞ」
ケイが叫んだ。
「ファイヤーサークル!!」
ニードの手元でスクロールが燃え尽きて、ケイよりも背の高い炎の輪の中に獣型の魔物が閉じ込められた。
「よくやったわ!!」
そう声をかけて、アリアが火の中に飛び込んだ。
中は火の壁で様子が伺えないが、獣の叫び声がしてアリアの奮戦がうかがえた。
「ケイ!! 援護!!」
その声にケイも火に飛び込もうとして姿勢を変えた時、苦痛のうめき声が聞こえた。
「アル!?」
敵と相対しながらも振り向いたアルが叫ぶ。
「よそ見、すんな!!」
ケイが咄嗟に間に入って獣の牙を弾く。
「ケイ、ごめ・・・」
「謝罪はいい!! 前を見ろ!!」
尻餅をついたアルが起き上がる頃、ニードが放った風魔法で切り裂かれた。
「アル、行けるか?」
アリアが心配で、後ろに声をかけた。
「うん!! もうゆだん、しない!!」
火に飛び込んでいくアルを援護しながら空間に空いた黒い霧を見た。
まだまだ留まることを知らないと言うように、黒い霧は獣を生み出す。
「このままじゃジリ貧か・・・」
額の汗を乱雑に拭って、剣を振った。
「ケイ、スクロールが尽きる!!」
「一旦撤退しろ!!」
荷物置きと休憩場所がわりに結界を張った木陰にニードが駆け込むのを見送って、ケイはため息をついた。
「ため息なんて辛気臭いわよ」
「すまん、でもこの数はどうしようもねえぞ!?」
全滅させて、火をかき消して中から出てきたアリアとアルに背中を預けて、ケイは剣を握り直した。
周りには10体を超える獣が群れている。
「確かに、このままでは押されるわね・・・」
アルもアリアも息が切れ、肩で息をしている。
このままではまずい、そうは思うが打開策など出てこない。
元凶はあの黒い霧だ。あれをどうにかできないか?
そう思うものの、戦闘の合間に切りつけてみても魔法で消し飛ばそうとしてもするりと元に戻ってしまって、かすりもしなかった。
「あの霧、何とかならないか?」
「魔法ならあなたの十八番でしょう?」
「魔法でもダメだった、っこの!!」
獣を魔法で吹き飛ばして、ケイは肩で息を吸う。
「どうみても魔法でできてる物質、よね!! なら、魔力を吐き出し終われば消えるはずよ。
魔力も動力もなしで、いつまでも稼働できるほど、この世界は優しくないわ、よっ!!」
「むつかし、はなし、やだっ!!」
飛びかかってきた獣を中腰のまま蹴り飛ばして、ケイはふとアルをみた。
「アル、後ろ!!」
走ったが、間に合わない!!
「アルちゃん!?」
アリアが大きく目を見開いて、剣を前方に投げた。
*
「待たせた」
そんな声とともに、ごきり、と鈍い音がした。
アルの体を片手で支えて、褐色の男が獣の首を片手でへし折る。
飛びかかってきた獣を尻尾で弾き飛ばして、茶の髪を持つ獣耳の男は冷たい目でケイを見たあと、まるで姫を相手にした騎士のように、アルを優雅におろした。
「迎えにきたぞ、姫。」
「・・・誰?」
アリアが剣を構え直したが、ケイが制した。その呼び方に、覚えがあったのだ。
男の登場で、警戒を強めた獣は様子を伺うように距離を取っている。今のうちに体勢を整えよう、そう思ったのに。
一瞬で全ての獣を消し飛ばした男は、
黒い霧を目の前に、褐色の男は不敵に笑った。
霧をまるでおもちゃを捻り潰す子供のような無邪気さで、握りつぶした。
ばきりとヒビが入って、黒い霧は粉々に消えた。
「この程度で苦戦とは、主人として役不足ではないか?」




