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5.resign.カバン盗人

5話です。 まだまだ歩きます。




少し前から緑と青以外のスライムを見かけるようになった。

よく考えたらこの広大な草原にスライムが2種類なわけない。


「・・・おらよっ、と。」

ケイは目の前に出現したスライムの核を『蹴り飛ばし』で砕き、イエロースライムが驚いた顔をしたまま溶けていくのを無表情で見つめた。

全て消えた後にその場に残ったスライムの魔石をケイは《鑑定》する。

________

土の魔石

品質:高

土魔法を扱う魔物がまれに落とす。

魔物の魔力の純度によって品質が変わる。

________


「まあまあか。」

ケイはつぶやいて、魔石を拾ってカバンの中の「革袋・土(高)」に入れる。

《鑑定》を使い始めてから、スライムの種類を知ったし、物に名前をつけられることも知った。

緑はグリーンスライム。青はブルースライム。 他にイエロースライム、レッドスライムもいた。

色ごとに使える魔法が決まってるみたいで、非常にわかりやすい。

魔石にも、品質があることを知った。

低、普通、高、最高があるらしい。

少し大きめのスライムはほとんどが最高品質の魔石と、たまに魔石以外も落とす。

一番多いのは革袋で、次点でボロい剣。他にも穴のあいた手袋とか落としていく。

今まで集めたやつも一つずつ《鑑定》してそれぞれ品質と属性違いに皮袋に分けていれてカバンにしまっている。


魔石で一番多いのは高の水、次に風の普通だった。

生憎、いまだに低品質の魔石はまだ一度も見つけられていない。ここまで高品質な魔石が揃ってるんだから今更いらんけど。

レッドスライムから取れる火の魔石はほんのりと暖かくて、冷える夜の日にぴったりだった。

カイロの代わりになるし、雨の時は魔石を踏んだり叩きつけて割ると雨雲がパッと消える。きっとこの雨もなんらかの魔法なんだろう。少し離れると雨の範囲から逃げられるから滅多に使わないが。

《鑑定》を使うようになって、スライム狩りに精が出たし、レッドスライムを見つけた時は少し遠くても狩るようにしてたら、称号も変わってしまった。



________

アズマケイ(25)

Lv.23

HP 194/320

MP 63/160

種族:ヒューマ

職業:剣士

称号:スライムスレイヤー

状態:情緒不安定(現実逃避)


*スキル*

生活魔法

鑑定

ブレンド茶

居合い

天読み

急所突き

蹴り飛ばし

魔力感知


________



ステータスを出してレベルが上がったのを確認して、MPの無駄使いをしないようにサッと閉じる。

ぼんやりと空を見て麦茶を飲んで休憩してからまた歩き出す。

いまだに道の端は見えない。

レベル20を超えた頃から、レベルが上がるのを感じ取ることができるようになった。

魔力が研ぎ澄まされるような、体の疲労もほんの少し回復するような感覚だ。

同時に、HPが上がった分だけ回復する。

きっと限界値が増えるから疲労が軽減されるのだろう。


何日もスライム倒しながら歩いてるとスキルなんて使わなくても感覚的に核の場所がわかるようになってきたし

見辛かった緑のスライムの核も見えるようになってきた。


もう歩き始めて何日、なんて数えるのももうやめた。人とすれ違うなんて期待ももうない。

パンは残り1本。食べないで麦茶だけで過ごす日だって、なんとかやってこれた。

MPだって寝れば回復する。例え疲労が嵩んで回復速度が遅くなったって、パンを食べて1日休めば減った分も巻き戻せたし、パーカーをしっかり被っておけば攻撃が通らないことも知った。


正直な話、もう疲れたとか諦めたいとか、そう思うこともなくなってきた。

多少あった異世界への期待も無くなった。

まだ歩ける、なんとかなる。そう思ってただ歩くことだけに必死だった。

いつ食料が尽きて死ぬのかとか、考えないようにとにかく必死だった。

そんなふうに心を殺して歩き続けた。

自分なりに頑張った方だと思った。

そうしたらきっと、報われるんだって思ってた。


それは慢心だったと、やっと気づいた。

自分が強く、上達していったのだとしたら、敵だって上手の技を出してくるに決まってる。

新しいスライムがまた出てくることなんてことも、考えてもいなかった。


ケイは去っていくスライムの背を追いかけることもできず、

ただ茫然と、黒の鞄を引きずって逃げる"オレンジ色"のスライムを見つめた。


「ま・・・じかよ・・・・・・」






「この・・・っ!! なんでこんなに多いんだよ!!」

蹴り飛ばし、剣を振って、ケイはスライムの核を次々砕いていく。


珍しく雨が2.3日降ってない日だった。いつものように歩き疲れて休んでる時にそれは来た。

応戦しきれないと踏んでとカバンと剣を担いで逃げ出したけど、四方八方から異世界にきて初日のあの大群を優に超えるスライムが続々と現れた。

追いかけられ、囲まれて、ケイは諦めてカバンを離れたところに投げて奮戦した。緑のスライムは風魔法でスライムを飛ばしてきて、ケイはとにかく切り飛ばして応戦した。

魔石で足元が見えなくなるくらい戦った時、ふと目に入ったのは動く黒い物体。

それはよく見たら自分のカバンで、それを引っ張るのはやたら動きの速いオレンジ色のスライムだった。

「っ!!・・・《鑑定》!!」


________

オレンジスライム

Lv.5

HP 20/30

MP 10/20

種族:スライム

称号:疾風のスライム

状態:興奮


*スキル*

身体強化

速度上昇

________


あの速さは『速度上昇』のスキルか。


「くっそ!! なんで俺ばっかりこんな目に!!」

嘆きとともにケイはまとわりつくスライムを殴り飛ばしてオレンジスライムの後を追って走った。

オレンジのスライムはひたすらに早かった。自転車並みの速さで駆ける姿はまさに『疾風』。

でもMPが切れたら遅くなるはずだ。この広い草原で見失う方がおかしい。ケイはひたすら追いかける。

息が切れてようが喉が乾いてようが関係ない。カバンがなくなったら食料もなくなる。そうしたらもうおしまいだ。

「ぜってぇぶち○す!!」

走って走って、10分くらい追い回した。距離は離れていくがもうすぐMPも切れるだろう。

その時はきた。

いきなり目に見えて遅くなったスライムを一気に距離を詰めて剣を振り下ろす。

目掛けて振り下ろしたのはちょうど核のあった場所。ピンポイントに叩き割ると、ブシャ!!と、オレンジの飛沫がはじけ飛んだ。


その場に残ったオレンジの魔石を拾い上げたカバンに突っ込んで肩にかける。

頬を涙が伝うのを感じた。


項垂れるように蹲み込んで、とうとう泣いた。

人に会うまでは決して泣くまいと思っていた。

ここまで、本当に本当に必死に歩いてきたけれど、もう限界だった。

「ふ・・・うぅ・・・うぇ・・・・・・」

情けない声で泣いてる自覚はあった。

でももう、奮い立たせるほどの元気なんてなかった。

かなり後ろには大量のスライムが犇いていた。

まるで殺意を向けているかのように、一目散にこちらに駆けてきている。


涙を流しながら、嗚咽を必死に飲み込んで、ケイはもう一度、剣を振り上げた。

グリーンスライムの風魔法で先に飛ばされて、ケイの前に落ちたったブルースライムをなぎ払う。

前が見えないほど涙が止まらなくて、でも剣は的確に核を砕いた。

続々と追いついてきたあまりにしつこいスライムに涙と怒声を浴びせ、切りつけ、踏みつけて短剣を投げて

次々と核を割る。

斜めに切り上げて、ずるりと半身が溶ける前にケイは核を割っている。


「俺が何したってんだよ!!クソ野郎!!!」

その言葉の矛先は神か、スライムか。それとも先の見えない道のりか。

誰に向けたのか、もう自分でもわからなかった。ただただ悔しくて、やり切れなかった。


剣を横にふれば漏れなく核に当たり、貫けば3匹がスライム串になる。

体に掛かったスライムの飛沫が消える前に次を切り飛ばした。

スライムの魔法なんて、パーカーの防御力の前には関係なかった。

恨みを吐きながら、次々殺していく。足元では魔石が踏みつけられて破れる。

風が起き、雨が降ったかと思えば次の瞬間晴れる。

何もかもがどうでもよかった。

全身にスライムの飛沫を浴びて、それが乾く頃、もう一度ケイは泣いた。

カバンを背負ったまま、ケイは蹲み込んでまた泣いた。



散々泣いて、剣を振り回して怨嗟を垂れ流して喚いて、疲れて蹲って、泣き疲れて。

カバンを抱えて蹲ったままケイは眠った。

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