49.give.新しい仲間2
門から出て、肩にアルを乗せてケイは伸びをした。
アルを肩車してるのはアルが門で走り回って一悶着起こしたからだ。
街は塀に囲まれていたから、ここまで広い道は久しぶりだ。空気がなんとなく美味しい。
隣ではリュックを肩にかけたニードが深呼吸している。
「街から出るだけでワクワクするよね。このルワンダは一番森に近いから、他の街より塀が高いんだ。」
珍しくハイテンションのニードが言う。
「そうか?」
「トラガならこっちだよ」
さっき出てきた街のすぐそば、案内板を見てニードが言った。
「トラガは前に行ったことあるし、ケイは方向音痴だから、先導は僕に任せて」
「わかった」
別に街の外で迷子になったことはないのだけど、楽しそうだからこのままでいいだろう。
「にしても、やっぱり外はいいね」
「そうだな、塀に囲まれてたから解放感が違う。」
「自由に話せるのもいいね」
街道沿いだから、魔物も少ない。トラガまでは3、4日。比較的安全な道だろう。
スキップしかねない雰囲気にケイは小言を挟む。
「ニード、この道が比較的安全とはいえ、警戒は大事だぞ」
「わかってるよ、この道は初めてじゃないんだ。大丈夫。」
口を尖らすニード。首には黒いリボンが巻かれている。リボンがよく似合ってる、と言うのはダメだろうか。
ケイは目線を逸らして、呟く。
「アル、そろそろ自分で歩いてくれ・・・魔物が出たらどうするんだ」
幼女とはいえ、肩に乗せているのはだいぶ疲れる。
「やーだ、もっとたかい、たのしい」
飴を咥えながらなので語彙がとんでもないことになってるが、楽しいらしい。
でもケイの体力も無尽蔵ではないので強めに拒否をする。
「やだ。そこの木までな」
「・・・あい」
*
「ついた、降りろ・・・はあ。」
しばらく歩いたところ、大きな木の前でアルを下ろす。ついでに休憩だ。
座り込んで、息を整える。この世界の気候は夏だろうか。暑い。
「ケイ!! 魔物!!」
背後でニードが叫んだ。
「クソ、休みたかったのに!! アル、下がって援護!! 俺が前に出る!!」
敵は小型のウルフが2体だ。木を囲むように現れた。待ち伏せか?
魔物の相手は人と付き合うよりも慣れてる。
剣を引き抜いて、ケイは低く構えた。
飛びかかってきた1体を正面から蹴り飛ばして、剣で引き裂く。が、失敗する。
「ちっ」
舌打ちをしてから間合いを測る。グルル、と唸られても、もう怖くない。
こないだのような手に汗握る戦いは苦手なのでこのくらいでいい。
もう1体はケイの斜め前でアルの風魔法で切り刻まれた。
「ケイ、僕も援護するよ!!」
言葉と同時、魔法陣のスクロールを開くニード。
「やれるか!?」
突っ込んできた最後の1体をニードの前に蹴り飛ばす。
「スクロールはこう使うんだよ」
まるで見本のように紙を広げたニード。
魔力が紙に流れて光ると、小さな炎が現れた。
それは渦を巻くように大きくなっていく。
「《輝け、フレアバースト》」
炎が燃え上がって、スクロールが燃え尽きたと同時、ウルフに向かって火が飛んだ。
炎の向こう、ウルフの悲鳴と唸り声が響く。
魔法で作られた炎は眩く輝いて燃え上がる。
火が燃え尽きて、消えると出てきたのはいい感じに丸焼きになったウルフだ。
アルが叫んだ。
「毛皮は大事にしなきゃダメなんだよ!!」
「ええ!? ご、ごめん!!」
ニードの初デビュー戦は戦略的に少し頼りないかな、って感じだ。
「せっかくだ、ここで飯休みにしよう。」
戦闘の緊張を散らすため息を吐いて、ケイはそういった。
*
「戦闘に慣れてないから、ごめん・・・。」
ウルフを丸焦げにしたことを反省してるのだろう。
「飯にちょうどいい焼き加減だしいいよ、次は風か水魔法でなんとかしてくれ」
「うん・・・」
「いいやきかげん!!」
なんだかんだ、アルはお腹いっぱいに食べられたらご機嫌だ、さっきニードに怒ったのも、もう忘れている。
大きな木のそば、焚き火を組んで休憩する。
切り分けたウルフをそれぞれ好みに焼き上げてから食した。残った生のウルフはアルに取られる前にカバンにつめた。
「なあ、そのスクロールってどんな効果があるんだ? 普通の魔法と違うのか?」
気になって、聞いてみる。
「うん、詠唱時間が短縮されるんだよ。さっきも一言だけだったでしょ?
短略化の魔法陣を組んでおけば魔力の節約もなるよ」
「ほえー。なるほどな。」
「ケイは魔法の詠唱しないし必要ないね」
「そうだな」
「・・・ケイはなんで旅をしてるの?」
「石碑探し。それもこれも神に頼まれてしてることだよ、こないだ話しただろ?」
そう言って、水筒に入れたコーヒーを飲んだ。やっぱり、自分で淹れたコーヒーは美味しい。
「うん、でも、まだ神様が本当にいるとか信じられないや」
「毎食祈ってるのに?」
「それは習慣だから・・・。 でも、そうだね。」
「俺にとっても神がいるのは不思議な気分だ。前の世界は神とか信じてる人少なかったし。」
「そっか・・・・・・。」
「でも葬式は流派とかあったし、生活の一部だと思えばそうなのかもしれない。」
「そうなんだ。」
「もう暗いし、ここで野宿するか。」
話を変えて、ケイはつぶやいた。
「さっき剥がした毛皮使うの?」
「そう。夜は冷えるしな。・・・結界張るか。」
こないだ覚えたばかりの空間操作だ。
魔法で結界を張って、ケイはまた座り込む。
「これで魔物寄ってこなくなるの?」
「そー、認知を歪ませるタイプの結界。・・・なんか説明って疲れるな。」
「何にも知らなくて・・・ごめんね」
「謝らなくていい、仲間になったんだから遠慮するな。」
「ありがとう」
「もう寝よーぜ、アルも寝ちゃったし。」
隣で寝息を立てるアルを撫でながらケイもあくびをする。
「うん、結構歩いたしね」
めんどくさい。心底めんどくさい。
やることがあるのはいいことだ。だけど、めんどくさいと感じる。
仲間が増えたのはいいことだ。結界を作るだけでも接敵するなら、仲間が必要だ。
わかってる。わかってるけど。
「ケイ、街に着いたら家具作らない?」
「・・・家具?」
「そう、考えてたの。生活を楽にする魔道具。」
「俺、家具より携帯つくりたい」
「けい、たい・・・?」
「元の世界にあったんだ。手に収まるサイズの、どこにいても相手と連絡できる機械」
「それ、この世界にもあるよ?」
「まじ?」
「うん。ギルドとかにある。でも大きいんだ。小型化ねぇ・・・。」
「・・・・・・つくりたい」
「・・・じゃあ、次の目標だね」
眠気で朦朧としながら話を続ける。結界があるから見張りもいらない。
里からルワンダまでの道のりを考えて、その簡単さにケイは笑った。
見張りがいらないことが、どれほど楽か。
「おう、明日は・・・。」
「明日? ・・・・・・寝ちゃったか。 おやすみなさい。」
隣で眠るケイの寝顔を見て、ニードも眠った。
*
3日歩いて、やっとついたトラガという町はルワンダより小さいが、ケイからしたらそこそこ大きい町だった。
「迷子になりそうだな」
「はぐれないでね」
ニードの苦笑いを真顔で返す。
門を通り抜けて、ケイは息を吸った。
「なんか、煙たくないか?」
「ここはこんなものだよ。 裏に行けば工場地帯だからね」
「そうなんだ」
街並みや人の行き来はルワンダと変わりない。少し洒落た建物はギルドだろうか。
「まずは宿探しかな?」
「任せていいか? 俺は先にトラガの石碑を見に行くよ」
「・・・僕は一緒に行かなくていいの?」
「今日は下見。 当日は別の仲間も連れて行く予定だから。」
「なるほど・・・」
「そう、じゃあ街の中のこと全部任せるから。」
「ねえケイ、僕もついて行ったら迷惑かな・・・?」
「え?」
軽く下を向くニード。何かいけない方に思考が飛んでる気がする。
「役に立てるかはわからないけど、なんか、1人にされると・・・。」
「ニード、もう仲間だって言っただろ?」
「うん、でも」
「そんなこと言うなら一緒に行こう。」
「わがまま言ってごめん」
「ニード、ケイのことば、わるくてごめんね」
「俺悪いこと言った? ごめんな、別に蔑ろにしたいわけじゃないんだ。」
「・・・うん。こっちこそごめん」
「・・・・・・とりあえず先に宿取るか。」
時刻は昼過ぎ。手分けした方がいいかなと思っただけでこうも揉めるとは思わなかった。
仲間って面倒だな。
「ケイ、この宿おすすめだよ」
少し落ち込みながらも笑顔を作ろうとするニードを見てケイはため息をついた。
「無理しなくていいよ、俺も言い方悪かった。」
「無理なんてしてないよ」
「お互い疲れてんだよ。今日は休もう」
「・・・わかった。ごねてごめん」
入ったのは小ぶりな宿だ。
小さいが、見た限り綺麗に整理清掃されていて居心地が良さそうな宿だ。
「いらっしゃい、宿泊かい?」
「えっと、ケイ、何日泊まるの?」
「うーん、とりあえず3日で。」
ギルドカードを差し出すとアルの方を見て笑った。
「子連れは大変でしょう」
「全くです」
にこりとケイが笑うと「アルはこどもじゃない!!」と騒いだ。
「はいはい、部屋行くぞー」
今回は全員相部屋にした。4つベッドがあって少し高くついたが、ニードだけ別にするよりいいだろう。
落ち込みがちなニードの肩を叩いて3人は宿の主人について階段を上がった。
「宿、すぐ決まったな」
部屋に入りカバンを置いてベッドに倒れ込む。
「祭りが終わったばっかりだから、空いてるんじゃないかな」
「そんなものか」
「・・・これから行くの?」
「んーー。行くか。」
「ケイ、おなかすいた」
「はいはい、昼もまだだったしどっかで買い物してから行くか。」
3日歩きっぱなしでかなり疲れている。
少し休みたかったけど、休んだら休んで動くのがしんどそうだからすぐに行くことにした。
「ここの屋台がおすすめだよ」
門でもらった町の簡単な地図を広げてニードが言う。
「そこ行こうか」
「野営の備品は減ってないし・・・買い出しは大丈夫かな。」
「そんなの、町を出る前でいいよ」
「あ・・・。 いつもの癖で。前のメンバーの時、いつもは戻ったら僕が準備してたんだ」
「・・・そっか。じゃあニードがやりやすいようにしていいよ」
「ありがとう」
「すいませーん」
「らっしゃい、昼飯か?」
昼を過ぎているからか、店主は店の奥にいた。
「たまごサンドを三つずつ、あとオレンジジュースとビール2つください」
「大銅貨12枚」
「カードで」
決済用魔道具がチーンと音を鳴らして精算が終わると店主が卵の生地を焼き始めた。
「たまごさんど、はやくたべたい」
店主の手元をじっと見つめるアルを引っ張り、道路脇に作られたテラス席に座る。
少し手持ち無沙汰なので神にもらった新しい地図を取り出して確認する。
「どこだったかな・・・」
現在地のピンを探して、次に石碑のピンを見つけた。
今回の地図は少し仕様が変わっている。
今度の地図は拡大もできるので便利になった。
現在地が紫でクリアした石碑が赤、まだいってない石碑が青だ。
「・・・っと、ここか。」
広い地図をぐんぐん拡大していって道が出てきたところで止める。
「ケイ、目的地はここ?」
「んー、多分そう。 」
地図といっても森や街道がわかる程度で店の位置まではわからない。
「ここが街だとして・・・。徒歩で2時間くらいかな?」
「地理までわかるのか?」
「この辺りはほとんど地元だからね」
店主からビールを受けとりながらニードが言う。
とりあえず乾杯をして飲み始めた。
「歩き詰めだったからゆっくりできるのはいいね」
「そうだな」
「じゅーすおいしい」
一気飲みしたアルがふう、と息をつく。
こいつもずっと甘味を我慢してたのでおかわりを頼んでやる。
「また2時間歩くのか・・・」
すこしどころではなく億劫だ。
「足が欲しいね」
「馬? 狼?」
「うーん。馬は戦闘になるとたまに逃げるから、今後のこと話考えると狼かな。」
「狼ね・・・」
「でも馬より倍以上食費が嵩むんだ。狼は生肉を食べるから」
「普通に運んでたら腐るな」
「ケイのカバンがあれば大丈夫だよ」
そんな話をしていたら店主がサンドとおかわりのオレンジジュースを運んできた。
「お待ちど。・・・狼は今高騰してるからおすすめしないぞ」
「え?本当に?」
店主のボソリとした呟きにニードが驚いた声を出す。
「どんくらい高いんだ?」
ケイが聞くと戻ろうとしていた足を止めて店主は少しめんどくさそうな顔をしながら答えてくれた。
「昨日の相場で大銀貨50枚ぐらいだ。といっても大きな街の方がもっとするがな」
「げ」
つい嫌な声が漏れる。
「高いな・・・。 僕の知ってる値段は大銀貨35くらいだよ。
それも速度とかブランドとか選ぶともっとしそうだね」
「おいそれと買えねえな」
日本にいた時も犬猫は数十万した。馬や狼もそんな部類だろう。
流石に所持金が金貨とはいえ、全財産の半分近くをポンと出すメンタルは持ち合わせてない。
宿も宿泊日数に限らず前払いだし、所持金は大いに越したことないだろう。
「しばらくは徒歩だな」
「そうだね」
結論が出たところでたまごサンドを食べ始めた。
よく焼いてある卵は火が通り過ぎてめちゃくちゃおいしいものではなかったけど、
ソースがよく絡んでいて、肉と野草ばかりだった道中を考えるとおいしいひと時だった。




