47.give.教会の石碑
「アル、ニードが仲間になりたいって。」
朝、朝食前に部屋に入るなりそう言ってケイはベッドに座った。
アルのボサボサの髪をいじるフェルは嫌そうな顔をしたけど、元々は俺の部屋だ。
「いいよ!!」
即答に苦笑いして、ケイは話をする。
「一応、"上司"には許可取ったんだけど、アルは、ニードのことどう思ってる?」
「いいひと!! やさしい!!」
あまり、有益な話し合いにはならなさそうだ。
「じゃあ、返事しとくな」
「朝からなんの話かと思えば。朝食の席じゃダメだったの?」
フェルが苦言を漏らす。
「別に、早い方がいいだろ」
「一言で終わるならどちらでも変わりないじゃない」
「アルが嫌がったら気まずいだろ」
「この子の意見はそこまで大事なの? この子とどう言う関係? 親子・・・いえ、兄弟じゃないでしょう?」
「パートナーだよ。こう見えて強いんだ。蔑ろにはできない。」
「ふうん・・・。」
怪しまれてるけど、あまり詮索されても話せることはない。
「そろそろ飯いくか」
「ごはん!! いくー!!」
ポニーテイルになったアルの頭を撫でて、ケイは立ち上がった。
*
朝食後、食堂で1人、アリアが来るのを待っていたケイに、声がかかった。
「ケイ、誰か待ってるの?」
「おう、ニード。出かけるのか?」
「うん。パーティメンバーが今日戻ってくるんだ。話つけてくるよ」
「そうか。気をつけて。」
「ケイも迷子にならないようにね」
「大丈夫だよ」
笑い合って、ニードが席を立つ。そこまで送ろう。
出口まで見送り、ケイはため息をついた。
「にしても、何時に来るのか聞いとけば良かった」
女将に出されたお茶を飲みながら、ケイはぼやく。もう冷えている。
なんだかんだ、小一時間待っている。そろそろ辛抱の限界だ。
「あんた、暇なら手伝っておくれよ」
女将の言葉に、ケイは立ち上がる。
「いいよ、なにするん?」
「テーブル拭いといて」
「はいよー。」
差し出された布巾で、手短のところから拭いていく。
「誰を待ってるんだい?」
カウンターから声がかかる。
「んー。今回の仕事の協力者、ってところかな。」
「へえ。美人かい?」
「まあ、そうだね・・・ってなんで女だってわかった?」
「勘だね。わざわざ部屋で待たないでここにいるんだもの。」
「そっか、部屋で待ってても良かったんだ」
今更、気づいてハッとする。
「なんだい、想い人じゃないのか」
呆れと落胆を滲ませて女将がため息をついた。
「悪かったね」
「いい人はいないのかい? 見た目と違って、もういい歳なんだろう?」
「一言余計だ。 ・・・まあ、いないけど、探してもないよ。」
「独身でいいのかい?」
「そーゆーわけじゃないけどさ、今は今で手一杯っつーか。」
しつこい汚れを拭き取りながら、ケイはつぶやいた。
「自分のこと、しっかりしてからじゃないと、誰に対しても失礼だろ?」
「そうかい」
「拭き終わったぞ」
カウンター越しに布巾を投げて、ケイはため息をついた。
「ありがとさん。お礼に夕食は大盛りにしてあげるね」
「ありがと」
まだこない。
一旦部屋に戻ろうか、そう考えたところで、声がかかった。
「ケイ。いくわよ」
聞き慣れた、凛と透き通る声だ。
振り返って、おう、と声を返した。
「あら、かなりの美人さんじゃない。」
女将が笑った。
*
「教会っていつもこんな厳重なのか?」
3回もボディチェックをされてようやく中に入る頃、ケイはゲンナリとしていた。
豪華な調度品が並ぶ廊下を進みながらケイはこそっと話しかけた。
「そうね。」
そっけない会話のまま、廊下を進むアリア。
長い赤髪と澄ました顔はいつも神の家で見ていた通りだ。
違うのは薄く化粧しているところと服装。
服装はドレスのような、でもかなり生地が少なく、動きやすい服装。
腰には剣舞をするための着飾った宝剣らしき剣を差している。
そういうケイも、他所行きの格好に着替えている。
今回教会に入る名目は「剣舞を捧げる」らしく、それに準じた格好だ。
ヒラヒラした袖の長い上着に、足元はすっきりしている。
剣に軽く触れようとして、袖が邪魔になる。これでちゃんと動けるのだろうか。
「動きにくいな」
「黙ってなさい」
相変わらず、愛想のない。
「つきました。こちらです」
案内してくれたシスターのような服の女が下がって一礼する。
中に入って、アリアが手に持っていた捧げ物をシスターに渡した。
「ありがとう、ここまででいいわ」
アリアが目配せをするのでケイも腰から剣を引き抜いてそれっぽい動きを見せる。
予行練習だ。
剣舞の動きは神の家で少し習った。
軽く打ち合いをして、確かめる。
手本通りに動けたことに満足して剣を鞘に戻すと、少し屈伸する。
「では通路の奥にいますから、終わりましたら声を。」
「わかったわ」
2、3言話してシスターが出ていく。
ふう、とため息をつく。やっと監視の目がなくなった。
「では、早く終わらせなさい。」
ここに来たのは、剣舞を披露するためじゃない。
石碑に結界を埋めるためだ。
「あいよ」
ケイは広いホールをずんずんと進んで、中央にある着飾られた石碑に触れた。
一度振り返るとアリアに睨まれた。
「時間があると思ってるの? 人が来る前に早く終わらせなさい。」
「わかってるよ」
ふう、と深呼吸して、ケイは魔法を発動した。
「何?」
背後、何かの気配に包まれて、アリアが腰の剣を引き抜いた。
「どうした?」
「敵よ。邪魔はさせないから、続けなさい!!」
背後で剣のぶつかる音がする。
気配を探るが、人らしい気配ではない。ってことは魔物?
でもこんなところに?
「おい、アリア、大丈夫か?」
声をかけたが、返事はない。
魔法陣の線をひきながら背後を見る。
光る何かが邪魔するようにこちらに向かってきた。
「うわ、何こいつら!!」
ケイに触れる寸前、アリアの剣が腹部を差し貫いて、その光の魔物は散るように消えた。
「うわわ・・・」
「くっ。 数が多いわ!! 早くしなさい!!」
「わ、わかった」
短く告げられて、ケイは正面を見た。
背後で剣を弾く音が響く。
意図せず剣舞の披露となってしまった。
早く終わらせないと。
結界の魔法陣の構成は簡単だ。簡単だけど、強い。
12個の魔法陣を繋ぐための穴を開けて最後に繋ぐのだ。
3人の神が司る水と火、そして光で構成する魔法陣。
ただ光の帯をなぞって繋げるだけの簡単なお仕事。
「今終わった・・・って、アリア!?」
縁を書き終わるところでケイは背中から押し倒された。敵に押し負けたアリアだ。
咄嗟に剣を抜いて間に入って応戦する。
「く、ぅ・・・。 ああもう!! 数が多い!! 魔法陣は大丈夫!?」
「ああ、終わった!!」
「屋内戦闘だと肝に銘じなさい!!」
「え!? どゆこと!?」
「本当にバカね!! 水と火は避けて援護なさい!!」
「・・・あいよ!!」
そういうことか。もっとわかりやすく教えてほしい。
火と水がダメってことは、このステージに残るものがダメなんだろう。
確かに、剣舞してたはずなのに水浸しでどこか焦げてるとか笑えないだろう。
じゃあもう風くらいしか持ち玉が無い。
「《ウィンドウカッター》!!」
光る鎧野郎を3体ぶち抜くと魔法と共に消えていく。
反対側から来たもう一体は剣で横なぎに払った。
それにしてもおかしい。
魔物でも体は残るはずだ。なんなんだ、こいつら。
次々と雪崩れるように襲われて、ケイは必死に抵抗する。
*
「最後の1匹、うらあああ!!」
剣舞用の剣はほとんど殴るくらいしか用途がない。
それでもなんとか倒せたのはアリアとの木剣を使った修行の成果だろう。
アリアの最後の一撃で、光る鎧おばけは、まるでRPGゲームのように光になって消えた。
鎧も、体も、跡形も残ってない。
結局、こいつらはなんなんだ?
「さすが魔法使いね、剣の腕はイマイチだけども。」
「はあ、はあ。 お前は魔法使えないのか?」
「最低限は使えるけれど、戦闘には向かないわね」
「そ、っか。・・・疲れた。」
「少し休んでから出ましょう」
「おう・・・。 にしてもこいつらなんだったんだ? まさか石碑の防衛機構とか言わねえよな?」
「知らないわ。念の為、黙っておきましょう。」
「知らないままは怖くないの?」
つい、嫌味っぽくなってしまっただろうか。
「ほら、怖いことってほっとくと考えすぎちゃうじゃん?」
「・・・知りたがることは悪いことではないけれど、安直な答えに縋るのは良くないわ。」
「・・・そうか。」
さらなる嫌味で返されたらどうしようもない。
「そろそろ行きましょう」
「そうだな」
息も整ったし、ここに長居する理由もない。
*
「お疲れ様。」
「おう、今日はありがとう。借りにしといてくれ。」
「・・・そうね、次は私の都合に付き合ってもらうわ。」
「どんなって、もう決まってんの?」
「また夜に話すわ」
「・・・そうか。わかった。」
そう返事をすると、さっと踵を返してしまうアリア。
その背を見送って、ケイはため息をついた。
「もうちょっと愛想良くなんないかな」
「私のこと?」
「うわ、帰ってたのか。フェル。」
「失礼ね、どこにいようが関係ないじゃない。」
朝、アルと出かけたはずのフェルが背後に立っていた。
「アーデルハイド・・・貴族と知り合いなのね。」
アリアの後ろ姿を見ていたのだろう。
「知ってるのか?」
「知ってるわ。私のことも、もう気がついてるんでしょう?」
グレイの瞳を細めてケイを見上げるフェル。
あまり、たくさんのことを知ってると思われるのもまずいだろう。ちょっと濁して答えた。
「まあ、多少はな。」
「では、これをあげるわ」
差し出されたのは銀のブローチだ。樹木のモチーフが刻まれた高そうなエンブレム。
「なんだこれ」
「今は知らなくていいわ。レガラシアに来たらそれを見せれば私に会える。大事に持ってなさい。」
「・・・お前に会いにいくことなんてあるのか?」
「知らないわ。あなた次第よ。」
「ふうん。これ持ってろって、なんかあったのか?」
「今回のお礼よ」
「お礼って。金はもらったぞ?」
「それだけでは正当な報酬ではないわ。祖国に帰ったら改めて返すわよ、それまで貸しにしといて。」
「・・・まあ、そういうならもらっとくよ。 ありがとう」
「祭りも終わったし、明日でお暇するわ。」
「そうか。」
少し言いずらそうにするフェルに問いかけた。
「どうかしたのか?」
「・・・最後に送ってくれる?」
「いいよ、どこだ?」
「冒険者ギルド」
「わかった」
とりあえず、部屋に戻ろうと宿に入る。
「ケイ!! おかえり!!」
食堂でアルを見つける。女将からおやつをもらっていたようだ。
「ただいま。今日はどこ行ってたんだ?」
「おかいもの!!」
もしゃもしゃとカップケーキのようなものを口に頬張って、アルが見せてくれた。
「リボン? 買ってもらったのか?」
見せてくれたのは黒のリボンだ。端にビーズがついていておしゃれだ。
今日はお小遣いを渡していない。買ったのはフェルだろうか。
「女の子だもの、たまにはおしゃれもしなくてはね。」
アルのポニーテイルを結い直しながら黒のリボンと入れ替える。
「髪が白いから黒が良く映えるな」
「でしょう」
みんなして可愛がってもらえてアルは幸せ者だな。
「あれ、みんな集合して、どうしたの?」
今日は背後から話しかけてくる奴が多い日だ。
「おかえり、ニード」
「おかえりなさい!!」
「仲間はどうだった?」
「うん、実は、居ても居なくてもどうでもいいみたいな扱いされちゃったよ」
「は?」
「まあ、街にいるときしか会ってなかったし、あんまりパーティメンバーの意識なかったのかも・・・」
「でもそれは少し、ひどくない?」
「仮にもメンバーでしょう?」
女将やフェルが少し苦言を呈す。
「引き止められるよりマシだよ」
へらりと笑うニード。
まあ、止まってる宿から違うんだ、変だなとは多少思った。
あまり詮索してもいい気はしないだろう。
「じゃ、まあ、これからよろしくな」
「うん!!」
*




