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43.receive.祭りの始まり


「あっち、いきたい!!」

「待って、走るな。」

ぐいぐい引っ張るアルとそれに釣られて暴れるポニーテイル。引っ張られすぎて腕がちぎれそうだ。

子供ってこんなものなのだろうか? 

ここまでハイテンションで振り回してくるタイプは付き合ったことのないタイプだ。

使役魔物は返品の効かないペットのようなものなのに、もう挫折しそうだ。


買ったばかりのワンピースに着替え、店員さんのサービスでポニテにしてもらったアル。

2人は手を繋いで教会広場に出ると、3番通りを探す。

人混みに紛れないよう、離れないよう、ぐっと手を握って、ケイは看板を見上げて足を踏み出した。

アルの服を買ったのは4番通り。そこからから出て、今は教会広場。ちなみに宿は2番通りだ。

もし迷子になってもここまでくれば、宿も大通りだから迷わず帰れるだろう。


そろそろ、ケイのこの街に来た本当の目的である例の少女のことが気になってきた。

そこから先のことはまだ聞いてないが、きっと変わらずめんどくさいのだろう。


「明日から祭りが始まるんだもんな・・・」

ケイの戦いも、これからだ。

せめて、目的地が路地でなかったらここまでの不安はなかったのに。


ぽつりとつぶやいたケイにアルが反応した。

「どうしたの? やなことあった?」

困った顔をして見上げる赤い瞳に、不安そうに握りしめた手。

そんな仕草はまるで子供じゃないか。ケイはアルを抱き上げた。


「なんもないよ。ここからは人も増えるし抱っこな。」

「うん!!」

さっきまでの困り顔は、高くなった視界に目を奪われて、取って代わって笑顔になる。楽しそうだ。


ニードが言うには3番通りが全面フレアマーケットになってるそう。

明後日は、教会広場が舞台になって祭りが始まる。


どんな祭りなのかは知らないし興味もないが、ここまで人が多いといやになるな。

そんなことを考えながら、ケイは抱きかかえたアルの指差す方、人集りの方へ。


ケイは3番通りに足を向けた。







「ケイ、あれ!! あれほしい!!」

3番通りに入ってすぐ、出店や露店が現れた。

ぐっと腕を伸ばして、テンションMAXでそう叫ぶアル。手だけじゃなく足もばたつかせて、体の動く限りにぶんぶん振り回して少し痛い。この調子では、抱き上げていて正解だったようだ。


「そうなんでも買ってらんないぞ?」

あまりに騒ぐのでとりあえず見にいく。果実にストローを差して飲むジュースの出店だ。

「ほしい〜〜!!!!」

木の実はなんとなくココナッツに似てる。美味しそうだ。

「これほしい」

興奮してぐっと掴まれた肩が痛い。幼女の体をしていても中身は魔物だとなんとなく思った。

値段は銅貨2枚で、そう高くない。

仕方ない。買うか。

「わかったから。 痛い、やめろ。」

少し怒った声を出すとアルは大人しく力を緩めた。


「いらっしゃい、飲むかい?」

露店のおじさんに銅貨を渡す。

おじさんは受け取ったお金をカゴに放り込むと、ヘタの部分をガリガリと削って薄皮にストローを刺す。

「はいよ」

受け取ったアルがお礼を言って、ケイは先に行く。

「美味しいか?」

「うん!!」

「そーか、次行くぞ。」

「毎度あり〜」

人が多い。ぶつからないよう、露店に寄ってるせいか人が少なめの道の真ん中を歩く。

「植木鉢な〜。どうせならオシャレなやつが欲しいよな?」

抱えるようにしてジュースを飲むアル。

「ん!これにいれる!」

一気に飲み干して、アルが木の実を掲げた。

「え? それ?」

「だめ?」

「いや、いいけど。 土・・・は宿の庭でもらうか。」

「つち?」

「うん、種は土に埋めて水やりしないと芽は出ないんだぞ」

当たり前のことだけど。

「わかった!! うめる!!」

元気なアルを撫でてから、飲み干した木の実をカバンにしまって、ケイは歩き出す。


出店はなかなかに種類があった。

以前も食べたクレープだかケバブだかの屋台や水飴、小物の店や射的の店なんかもあった。

服装こそみんな普段着だが、まるで夏祭りだ。

「腹へったな」

「ごはん!!あれがいい!!」


ぴっと指を指すのでそちらに向かう。アルが選んだのは、お好み焼き風の串だ。

らっしゃい、とやる気のなさそうなおじさん。


きっと匂いで選んだんだろう。反対側の道にもいい匂いが漂ってきていたし。

異世界にもお好み焼きに類するものがあることに驚きだが、「あの神の世界だもんな」と、なんとか納得する。

アルを抱えている腕をいれ替えて屋台を覗き込む。

値札には茶色の文字で2と書かれていた。銅貨2枚か。


前に行ったケバブもどきが1枚と考えるとちょっと割高な気がする。祭りだし、こんなものか?

「どれにする? ソースと醤油だってよ」

「ソースってなに?」

「んー。なんか甘酸っぱいやつ。今の匂いがそうなんじゃないの?」

「どっちもたべたい!!」

「知ってるのか。島国の調味料だ。・・・いくつ買う?」

両手を掲げるアルを抱え直して、小銭を入れた皮袋を取り出す。中には大銅貨が数枚だ。

「ソースと醤油、2つずつください」

「まいど」

小銭を渡すとすでに焼かれて置いてあった生地を鉄板に乗せて再度焼き始めた。

おじさんは、くるくると回して、生地を串に巻きつける。

ソースと醤油をそれぞれかけると鉄板がじゅわりと音を立てて、あたりに匂いが広がった。

堪えきれず、アルがバタバタと暴れる。

「落ち着け、いい子にしないと飯無しにすんぞ。」

「あい・・・。」


しばらくして焼きあがった生地の巻かれた串の包みを受け取る。

包みをカバンに入れて、カバンに手を伸ばしてずり落ちそうになるアルを抱え直してから、屋台の隅に寄った。

「はやく!はやく!」

急かすアルを花壇の隅に座らせてカバンから出したソース味を渡す。

「あついな。フーフーして食えよ?」

アルにそう言って、ケイも食べ始めた。ケイは醤油だ。


「おいしい!!なんかね、あまいねっ!!」

口にソースをつけてご満悦だ。

「よかったな。醤油もうまいぞ。」

生地の中には刻んだ野菜が入っていて、日本のものとほとんど同じだ。味は出汁醤油みたいでなかなか合う。

「もっと食べたい!!」

「まず口を拭け」

「んー!! しょうゆおいしー!!」








あらかた見たし、疲れてきた。

店はまだまだ続いてるが元々興味ないし、アルを抱えながらでは腕も攣りそうだ。

そろそろ帰りたくなってくる頃合いに、ケイはアルを見た。

「そろそろ腕が疲れてきた。帰ろうか。」

「まだはんぶんも、みてないよ」

不満げなアルの頭を撫でて、ケイはため息をつく。

「うへえ。だってこんな長いと思わなかったし・・・まだ未婚なのに子持ちの辛さを味わいたくなかった。」

「ケイ、ねぶそく?」

「うーん、そうかも。帰りたい。」

「じゃあひとりでみる。ケイかえっていいよ」

「それはダメだ。子供1人は危ない。」

「アル、まものだもん」

「そうだった」


アルはなんだかんだ弁が立つので言い含めるのも骨が折れそうだ。

里でも自由にしてたし、アルなら迷子になる心配もないだろう。

「じゃあ飯の時間までに帰ってこいよ、これ、命令な」

そういうと、スティグマが一瞬光った。

「うん!!」

元気なアルの返事を聞いて、ケイはあと何かいうことあったっけ、と考える。

「あー、宿の場所はわかるか? 名前は?」

「ゆうやみてー!! にばんどーり!! あっち!!」

ぴっと指を差すアル。かわいい。

「えらい。じゃあ変な人に捕まったら『おまわりさーん』って言って逃げるんだぞ。」

「あい!!」

皮袋から出した銅貨を数枚、アルに持たせる。せっかくの祭りに無一文はまずいだろう。

外野ほどつまらないものはない。

「これお小遣いな。使い方わかるか?」

「これ、どうか? ちゃいろのなら、かえるんだよね?」

「俺より賢いな。そう。」

「わかった!! いってきます!!」

元気に走り出すアルを見送って、ケイは2番通りに歩き出した。

スティグマで命令したし、飯時に戻らなかったらその時探しに出ればいい。

この街は里よりでかいけど、祭りの範囲は3番通りだけだし、お供も無しに里を自由に動き回っていたアルだ。きっと大丈夫だろう。


「まだ、ニードは帰ってきてないよな・・・」


疲れたけど、眠くはない。

部屋の準備できてるだろう。そうしたら、魔道具の制作をしようか。


やることがあるっていいな。

まずはどうしようか。

昨日魔道具屋で買った銀粘土が気になってるけど、部屋で火を使うのは難しいだろうか。

今回作るのは消える石板だ。どうやって作るか悩むな。

色々買い込んできたきたから財布は心もとないが、その分時間は潰せそうだ。


「ん、なんかワクワクしてきた」


そう呟いて、ケイは頭の中で魔道具の設計しつつ帰路についた。













「ここどこ・・・」


半ば、べそかきながら、ケイはまた路地裏を歩いていた。

ケイは1人、アルと別れてすぐ、マーケットの出口はステージで誰かが歌っていて、かなり混み合っていた。

3番通りの隣は2番通りだ。

隣の大通りなら迷子になる前に着くだろうと、近道のつもりで路地に入った。結果はこの有様だ。


「でも仕方ないじゃん・・・俺、方向音痴だもん、GPSがない地図は読めないんだもん、現代っ子なめんな・・・」


ぐすん、と泣き真似してため息をつく。ふと顔を上げると、軒下に下げられたビールジョッキの形の看板が見えた。

「飲み屋か・・・って、まだやってないな。くそー。」

1杯飲みながら道を聞きたかったが、まだ昼だ。開いてる訳が無い。

「どうしよっかな。」

つぶやいて、カバンを漁って水筒を出す。

喉を潤して、ケイはまた歩き出した。

頭の中ではさっきから魔道具のことを考えていたから、どこからきたのか、道を覚えていない。

そこがきっと方向音痴たる所以なのだろうけど、ケイは気がつかない。


それから4つほど路地を曲がってうろうろしていた時、ケイの耳に悲鳴と怒鳴り声が聞こえた。


「・・・・・・子供の声?」


隣の路地だ。すぐに動いて様子を伺う。

荷物の陰からちらっと覗くと、フードを目深にかぶった幼い子供を捕まえようと追いかける2人の男が見えた。

誘拐だろうか。明らかに、同伴者ではない。

男たちの見た目はゴロツキに相応しいいでたちでガタイがいいが、アリアやジェイドの動きを見てきたケイからすれば、自分が動けるかは置いておいて、奴らの動きは素人にしか見えない。

剣もあるし、魔法もあるし、子供1人くらい助けることはできると思う。


「・・・あのくらいなら、勝てるけど。 ・・・正当防衛になるかな?」

けれど、揉め事はあまり好きではないし、巻き込まれたくはない。

何より今日はアルを抱えて祭りを見て、さらに路地を歩き回って疲れてるからラファエルからの指示があるまで動きたくないのが本音だ。


「離してっ!!」


腕を掴まれた子供が甲高く叫んだ。大きくその身を揺らして、もがく。



その瞬間、ケイは動いた。体が勝手に動いたのだ。仕方ない。諦めて助けることにしよう。

ケイはすぐに剣を引き抜いて、剣の腹で横なぎに子供の手を掴む男の腹に叩きつけた。

男たちが声をかける暇もなく、子供の手を引っ張って後ろに庇い、グフッと声を漏らす男1と、「なんだテメェ!!」と怒鳴る男2。

「悪いけど、おいたは見過ごせないので。」

短く答えて、ケイはまた剣を構えた。

「あなた、守ってくれるの?」

後ろからの声に、牽制しながら背後の子供を見た。

フードの奥の目と視線があって気がついた。歳のころは10歳前後だろうか。

印象的なグレイの瞳に形のいい鼻と唇はモデルかってくらいかわいい。

そして、背が低く、華奢な体つきはどう見ても少女だ。

「ちょっとだけな」

あまりジロジロ見てる場合じゃない。ケイは適当に返す。

「お金は払うわ。お願い。行きたいところがあるの!! 連れてって!!」

この状況でさらに望むか!? 生きて帰れることに感謝しろ!!

「ごめん、そこまでは面倒見きれな、い!!」


突っ込んできた男2の短剣をタイミングを合わせて蹴り上げて、勢いそのままに男の頭に剣を振り落とした。

アヒルみたいな声を漏らして倒れた男を見て、ケイは男1に回し蹴りをした。

「へ、当たんねーよ」

男1が腹のダメージから回復したようだ。羨ましい贅肉だな。

「じゃあ、これで終わり。 《痺れろ》」


視線を外して、剣をしまいながらケイは魔法を詠唱。男は黒焦げになって倒れた。


戦いが終わり、背後を振り返る。

「大丈夫か?」

「ありがとう、助かったわ。 ついでに休めるところに案内してくれる? 走って疲れたわ。」


「ってかお前誰だよ。さっきまでのピンチにしては胆力ありすぎだろ。」


「そうね。 襲撃は慣れてるから。 名前はフェル、と呼んでくれるかしら。

 あなたの名前は? 」


妖艶に微笑んで、彼女はフードを払った。

現れたのは、太陽を反射して煌めいた。


路地裏の出会い。


その子供は金髪だったのだ。


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