40.transition.お買い物2
『ここがボムだよ』
「ありがとな、案内してもらって。」
『気にしないで。一人で行かせる方が怖いもの。』
にこりと笑うニードに案内されてやってきたのは屋台のおじさんにおすすめされた雑貨屋だ。
「なんか、今までの店と違うな?」
店は白黒でシンプルな外見をしていた。
カラフルな店や宿を見てきた後だからか、だいぶ大人しく見えるが、こっちの方が好みだ。
大通りだから、人通りもいいし立地的にも恵まれてそうな割に、外からは人が入ってるようには見えないのはなぜだろう。
『知る人ぞ知るって感じの店だからね』
「へえ。 ・・・・・・結構、物が多いな」
陳列されている品を見ながらケイは呟いた。
今まで見てきた店は整然とした店が多かったから、今回の店はなんだか落ち着く。
一昔前の駄菓子屋さんのような、ごちゃっとしたイメージだ。
『何を買うの?』
「野宿に必要なものが欲しいなぁ。
ほら、昨日めちゃくちゃ汚れてたじゃん? あんな格好で歩き回るのは嫌なんだ」
そう呟きながら、店を物色する。欲しいのは色々あるが財布と相談するのも忘れてはならない。
『なるほどね』
そう言って、ニードは適当に商品を見てケイのカゴに放り込む。
『これでどう?』
カゴに入ったのはタオルとブラシ、剃刀にボトルタイプの石鹸2本、あとヘアオイル。
「ヘアオイルなんて売ってるんだ」
『ケイ、身だしなみ整えるなら必要だよ。 ボサボサは良くないからね』
「へい」
適当な返事をして髪を触る。
昨日宿で髭は剃ったが、移動の1ヶ月半でかなり伸びたしボサボサだ。これはさすがに手入れをしないといけない。
・・・・・・里にあったらカンディアやジェイドの髪もサラサラを通り越してツルツルになるだろうか。
お土産に欲しいな。
「これ、3本くらいお土産に買いたい」
『ヘアオイルなんて、どこにでも売ってるよ。 どうせお土産にするなら専門店で買ったら?』
「そんなところもあるんだ。今度連れてってよ」
『いいよ』
《ケイ、ホシイモノアッタ》
頭に響いた水滴の声に、足元を見る。アルがピョンと飛び跳ねた。
こっち、と呼ばれて、2人はついていく。
お菓子コーナーで立ち止まったアルはキラキラと目を輝かせて《オイシソウナノ》と呟いた。
それはけったいなほどカラフルで、まるで外国のお菓子のように、食べ物には見えない。
どちらかと言うと魔石に似ている。
「なにこれ?」
『宝石アメだね、美味しいやつだよ』
「2個までだぞ」
《ヤッター》
ケイも少し気になったのでニードと合わせて4つ、カゴに放り込んだ。
店内をぐるりと回ってめについたのは、魔力で火を付ける小型魔力炉。
値段は大銀貨1枚と少し高いが、雨でも火が消えないし、コンパクトだ。それと、いちいち薪木を組まなくていいのはでかい。
あとテントにも惹かれたが夜営には不向きだろう。
あれこれ物色してるうちにニードが興味津々に夜営や旅のことを聞いてきた。
『旅って、どんな感じなの? まだ野宿とかしたことないんだ。』
「んーー。 寝るのがしんどい。
何日も歩きっぱはもちろん辛いけど、でも一番辛いのはちゃんと寝れないことだな」
『やっぱり座ったまま寝るの?』
キラキラ」とした目で見上げてくるニードに苦笑いしつつ答えた。
「アルと交代で夜を明かす感じかな。でも寝た気がしなくてしんどいよ。早く個室で寝たい・・・」
『疲れたんだねぇ』
「森は夜行性の獣が多いから、一番狙われやすいしね。」
『マハウルフとか?』
「マハウルフは群れでくるし、ゴブリンもそうだな、油断できない。」
そんなことを話しながら、ケイはふとアルを見つめた。
なんだかんだアルも、ニードとは仲良くなれてる気がする。
ニジニジと柱にしがみつくアルをひっぺがしてゲンコツを作るケイ。
「こら、棚に登るな。」
《ダッテ》
「抱っこするか?」
《ウン!!》
話しは終わり、辺りを見回してニードが聞いてくる。
『欲しいもの、もうない?』
もう一度せまい店内をぐるりと回ってから、ケイは頷いた。
「もう大丈夫だ」
お礼にと、ニードの買い物もケイがまとめて支払う。
「ありがとさん」
店主の物静かなじいさんにお礼を言って2人と1匹は店を出た。
*
雑貨屋で買ったヘアピンを頭につけて、ケイはため息をついた。
視界が開けたようでいい感じだ。前髪が邪魔だったからすごく落ち着くが、ニードに変な目で見られた。
・・・似合わないのだろうか。何も言わないから、よしとしよう。
「今日はたくさん買ったねぇ」
「そうだな、まだカバン入るし、重いなら俺持つけど?」
「本当? ありがとう。」
小さな、でもぎっしりと詰まった紙袋を手渡してニコニコと笑うニード。
後ろでは買ったばかりの飴を受け取ったアルがまた飛び跳ねていた。
もう外は夕暮れで、買い物客だろうか。人も少し様相が変わり、昼間とは違った忙しなさになってきている。
公園のベンチで少し休もうか、別のお店に行こうか、悩ましいところだな。
「7時までまだ時間あるな・・・。 どうする?」
『魔道具店に行ってみない?』
「お、いいね。 俺も思いついたことがあって行きたいと思ってた」
『そう? こっちにおすすめの店があるよ』
いつものように路地を歩くニードについて回り、ケイはため息をついた。
「・・・帰り道わかんねえ」
「僕がわかるから大丈夫だよ、はぐれないでね」
「へい」
クネクネと路地を曲がって、着いたお店はツタが張っていて廃屋のような怖い印象だ。
「・・・ここ?」
「そうだよ、入ろっか?」
「おう。 ・・・なんか怖いな」
「大丈夫だよ、僕注文してる物があるから先に適当に見てて。」
「わかった」
カランコロン、とドアベルが鳴って2人と1匹は中に入った。
「らっしゃい。お、ニード坊ちゃん、もう入荷してんぞ。」
寡黙そうな老人にそう言われて、ニードが奥に歩いていくのでケイは近場から物色していくことにする。
《ケイ、ココ、マリョク、タクサンアルネ》
そう言われて魔力感知を使う。
「ん? ・・・そういやそうだな。」
確かに魔力が滞留している。なんとなく、居心地が悪い。
まるで湿度の高い部屋のようだ。
「室内で魔法を使うと溜まりやすいのか?」
「ようわかったな」
奥から出てきた老人に答えられて少し驚く。
「いや、うん・・・」
「換気するとこじゃったんだ」
そう言って杖を振ると、ギッと音がして、ケイの後ろの窓が開いた。
「魔法ってそんなこともできるんだな。もっとこう、火とか水とかの操作系だと思ってたよ」
「そうじゃな、間違っておらんよ。これは風魔法じゃ」
「へえ。」
「お前さんは何か欲しい物でもあるのか?」
「ん・・・。 作りたい物があるけど、何が必要かわかってないんだ。考え中。」
「そうかい。よく見てってくれ。」
「へい」
そう言って店の奥に消える老人。
ケイも辺りを見渡して物色する。作りたいのは子供の頃によく遊んでいた「お絵かきボード」だ。
磁石のついたボタンで消したりして何度でもかけるシンプルな作りのやつ。
あれなら紙がなくても描き放題だし、どうせなら魔力で作りたい。
棚に置かれた石を手に持ってとりあえず鑑定。
「まずはマラカイト鉱石だな」
マラカイト鉱石は魔力を吸収する石だ。磁石がわりになるかも。
「でも確か、掘るのが難しいんだよな?
・・・・・・まあ、なんとかなるか。」
魔力の粉を閉じ込めておく薄い仕切り版が欲しい。でもこの透明な板だと透けてしまうな。何を使ってみようか。
アルにも手伝ってもらって、いいものを探す。
「さて次!! 砂鉄の代わりになるものは・・・?」
・・・
真剣に悩みすぎていたようだ。いきなり肩を叩かれて、びっくりした。
「・・・ニード。もういいのか?」
『うん。 いいのあった?』
「いや、まだ悩み中。」
『そろそろ時間だよ』
「もうそんな時間か・・・今回は諦めようかな」
『何がしたいの?』
「紙の代わりになって、好きな時に消せてかけるやつ」
『前に言ってたやつ?』
「そう。作ろうかと思って。」
『どんなのが必要なの? 』
そう聞かれて、お絵かきボードを簡単に説明する。
「それは・・・」
つい、驚きで声に出すニード。そこまでのものではないような。
「ま、今回は諦めるよ。材料もわからないし。」
『欲しい。作ってよ、ケイ。時間のことなら僕が謝るから。』
「え? お、おう。」
腕を掴んで食い気味のニードに若干引きつつケイは答えた。
「いいもんあったかい」
「いや、なんとなく浮かんでるけど、材料がわからないんだ」
「手伝うぞい」
店主の老人も参加してきて、ケイたちが宿に帰れたのは8時過ぎだった。
*
「ふぅ・・・」
《オフロスキー!!》
ザバザバと泳ぐアルの頭をつかんで沈めて、ケイは伸びをする。
「気持ちいいねぇ・・・」
迷子事件から、結構時間がたってるような気がしたが、まだ半日だ。
走り回ったり買い物したりでニードもケイも汗だくで。風呂が骨身に染みる思いだ。
「今日は迷惑かけた」
「気にしないで。 ケイは明日、何するの?」
「明日は今日買ったもの片付けて、部屋が空いたらとりあえずゴロゴロするかな。」
「今日買ったやつはいつ作るの?」
「そんな楽しみなのか?」
「そりゃね。だって、くれるんでしょ?」
「う、まあ、上手くできたらあげようとは思ってたけど。」
「ありがとう。にしてもケイは不思議だね」
「どこが?」
「うん、だって、まず魔法の使い方が不思議でしょ?」
「うぅ・・・」
「次に不思議な魔物。」
「・・・・・・。」
「最後に常識外れな方向音痴!!」
「そこは関係ないだろ!?」
「あはは。 まあ、冗談だよ」
笑いながら、少し眠そうなアルを頭に乗せてケイは欠伸した。
ケイも眠くなってきた。
1人でこんな世界に迷い込んだ。
アルと2人になって、ジェイドやカンディアと知り合い、旅が始まった。
なんだかんだ、馴染めているだろうか。
不安しかなかったのに、今では明日が楽しみになっている。
「そろそろ出ようか」
ニードに肩を叩かれて、ハッとする。少し寝ていたようだ。
「そうだな」
風呂から上がって、ニードとエールを飲んだ。アルはジュース。
夜の食堂では、いろんな人が騒ぎ、飲んで、笑い声が響いていた。
楽しい、毎日になるといい。もう帰りたいなんて思わないくらい楽しめたらいい。
あの人を生き返らせたいのは本音だけど、それが正しいことだとは思っていない。
ただ、縋らないと生きていけなかったのだ。




