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39.transition.お買い物

宿を出て、大通りに向かってケイは歩いていた。

教会を中心に放射状に道が伸び、何本もあるそこそこ大きな街だ。

迷子になるわけがない。

とはいえ、ケイは方向音痴だ。もし迷子になったら教会を目指せばいいのだ。

それにどの道に入るかくらいはなんとなく覚えている。

教会といえば、なんで図書館と教会は別の建物なんだろうな。

「ま、どうでもいいか。 そういや、雨季が終わったら祭りなんだっけ?」

そんなことを呟きながら、ふと空を見上げた。

空には大きな鳥が数羽飛び、白い雲があって、スキルを使わなくても雨は降りそうもないことはわかった。

「そろそろ服とか新調したいな」

今日着てる服はジェイドにもらったものだ。

ジェイドとの体格の差でゆったりして着られているが着心地はガサガサしていて、少し痒い。

足りないものもいくつかあったが、ケイもアルも、無いなら無いで困るタイプでもないのであまり必要性はないだろう。

「おう、昨日の兄ちゃんじゃねえか!!」

道を何度か間違えて、やっとたどり着いた屋台で、そう出迎えてくれたのは昨日の屋台の店主。

「昨日のやつ、4つください」

そう言って、ケイは財布代わりの革袋から大銅貨を取り出す。

「おう、毎度あり!!」

「ありがとう〜」

適当に返事をして、ふと気にして声をかけた。

「あ、聞きたいんだけど、歯ブラシとか雑貨ってどこで買える? この街初めてなんだ。」

「おう、じゃあ3番通りの店が品揃え良くておすすめだぞ」

「3番・・・? なんて店?」

「二つ隣の大通りだ。店はボム、だ。」

「ボム・・・わかった、ありがと。 じゃあまた来る。」

大きな笑い声に見送られて、ケイは歩き出す。

さっき宿でたらふく食べたけど、抱えている包みからいい匂いがして、口によだれがたまる。

1つくらい食べていいかな、なんて邪な気持ちが出てきたけど、アルのことを思い出して、振り払った。

「いやいや、1人で大人しく待ってんだ。ちゃんと労わなきゃ。」

ケイはカバンにしまってまた歩き出す。

「道をまっすぐ行って・・・そこが門だよな?  ・・・アル連れて歩くのはめんどくさそうだし、先に雑貨屋行くか。」

ケイは大きな道を外れて路地を歩く。


「3番通り・・・どこから行くんだろう。

 どっかに看板あるかな。」



案の定、すぐ迷子になった。





どこかの路地で迷子になっていたケイは泣きながら呟いた。

「ありがとう、お前がいてくれて助かった・・・」

ギュッと袖をつかんで、ケイは涙を拭く。

「ケイ、泣かないで、そんな大したことじゃないよ。

 僕だって初めてこの街に来たときは迷子になったことあるから。」

「うぅ・・・・・にーどぉ・・・・・・。」

ぐすん、と鼻をすすって、ケイは前を向く。

向かってるのは門。

迷子になって、宿に帰ることも教会にたどり着くこともできずにいたところ、門に向かったニードがひとりで待つアルを見つけてケイを探しに来たのだ。

時刻はもう昼を過ぎた頃。

ケイが宿を出たのはまだ店も開ききってない朝の頃だったのでずいぶん彷徨った事になる。

どっちに行けばいいのかも分からず座り込んでいたところ、アルとニードの念話での索敵で何とか救出された。

「アル、怒ってるかな?」

「大丈夫だよ、アルちゃん、ケイは方向音痴って理解してたから。・・・ほら、もう着くよ」

ようやく路地から抜けて、ケイは簡単の声を漏らす。

ケイには未だ西も東もわからないけど、久しぶりの明るい道路と人混みに感動した。

「おお、シャバだ・・・」

「ただの大通り。 大袈裟だよ・・・」

呆れた声のニードが頼もしく思えた。




門について、ケイは土下座せん勢いでアルに謝った。

「遅くなってすまん!!」

《ゴハンタベタイ》

「・・・怒ってないか?」

不安になりつつケイは聞くが、アルはあっけらかんとした態度だった。

妙に引っかかるが、怒ってないなら良しとしよう。

「とりあえず、飯だ」

《マッテマシタ!!》

誰かの真似だろうか。

以前よりノリが良くなってるのは門の衛兵さんに構って貰えてるからだろうか?

しゅわわと体内に溶けていくケバブもどきが一体どこに仕舞われているのか気になるところだが、アルが美味しいと食べるのならいいだろう。ケバブ安いし。

「・・・・・・じゃあ、とりあえずスティグマつけとくか。」

4つとも食べ終わったのを確認してから、ケイはあくびをしながら呟いた。

『疲れてるね』

「そりゃ、あんだけ歩き回ったんだから・・・」

《ハヤク、マチ ハイリタイ!!》

飛び跳ねるスライムを横目に、ニードと最終確認だ。

「ここはゆっくり描くんだよな」

『そう、間違えそうなところは確認しながら。 気をつけてね』

ペンで昨日教わった水の紋様をなぞりつつ、間違えそうなところをエアで描きながら、ケイはポツリと呟いた。

「これも魔法で書けないかな?」

「・・・え?」

「ものは試しだ。 《コピーアンドペースト》」

隣で跳ねてるアルに向けてぴっと指を差すと、手元の紙に書かれた魔法陣がスイっと浮いて移動した。

「え、え、えええ!?!?」

《イタイ!! ナニコレ!!》

ニードの驚いた声とアルの悲鳴が重なった。

魔法陣はアルのスライムボディに張り付いて、スッと消え、残ったのは目元に十字のスティグマだけ。

「お、案外できるもんだな」

呑気なのは、ケイだけだった。










大通りにある小さな公園でケイとニードはため息をついた。

アルは何が珍しいのか・・・いや、全部だろう。あちこち動き回って収拾つかないくらい跳ね回っていた。

「疲れた・・・」

「そうだね・・・」

アルが街に入ってからのはしゃぎっぷりには心底疲れた。


街並みに飛び跳ね、人とぶつかっては飛び跳ね、とにかく跳ね回っていた。

屋台に突進しかけたときは、ケイ1人では捕まえられなかっただろう。

「・・・リードが欲しい。」

『リード、どこにつけるの?』

周りの人を気にして文字に切り替えたニードと笑い合って、ため息をついた。

二人の時は15分程度なのに、アルを連れてここまでくるのに1時間だ、疲れて当然だろう。

少し元気が出たところで女将の声がした。

「おや、連れの魔物はこの子かい?」

道路側から近づいてきた女将に聞かれ、ケイが頷くと、アルが元気に答える。

《アルだよ!!》

「おやおや、元気な子だね」

《オナカスイタ!!》

「もう夜だしな」

「今日の献立は魚の煮付けだよ!!」

《ニツケッテナニ?》

アルを撫でながら、そう言う女将の胆力に少し驚いた。

ニードも衛兵も、はじめは驚いていたのに。

「夜は何時に帰るんだい?」

女将は買い物だろうか。たくましい腕で荷物を抱え直してケイを見た。

「ん・・・。 少し観光して、アルが落ち着いたら買い物して、それから帰るよ」

『6時くらいには疲れて大人しくなるんじゃない?』

そうあってくれ、と言う心の声が聞こえそうなほど疲れた顔のニード。

「・・・すまんな、道案内がいないと宿にすら帰れんのだ・・・・・・。」

『大丈夫だよ』

「じゃ、余裕を持って7時くらいかな。よろしく。」

「あいよ。 お登りさんはカモにされやすいから気をつけるんだよ。」

「ありがと」


女将と別れて、ケイはグッと伸びをして立ち上がった。

アルは公園の噴水で遊び始めたので回収に行かないと。

「・・・いいなぁ」

ポツリとつぶやきが聞こえた気がして振り返ったが、子供の騒ぐ声で何も聞き取れなかった。

「ニード? どした?」

「なんでもないよ。 そろそろ行こうか。日が暮れちゃう。」

「・・・? ああ。」










ニードが選んだ服を数点、腕にかけて、ケイはため息をついた。

「着心地のいい服が欲しい。さらさらのやつ。高くてもここに妥協はしたくない。」

「それならこっちの魔加工シルクかな。冒険者向けで耐久性も欲しいし、ちょうどいいかも。 ・・・でも高いよ?」

「値段は・・・そうだな、服1枚大銀貨出せる。 ・・・・って、これ、大銀貨2枚だ」

手触りは合格だ。 でも値札を見てケイはため息をついた。

値札の数字は、グレーで2と白で5と書かれている。

グレーの数字は大銀貨の枚数を表してるから、予算オーバーだ。

ちなみに白は銀貨、茶色は銅貨、黒は大銅貨だ。わかりやすい。

「・・・詰んだ」

「枚数買えば多少は値引きしてくれるから・・・」

ニードのギフトのことを気にして、こそこそと話しながら、ケイとニードは服屋を物色する。

どれも色味が薄くてオーガニック感が出ている。風土だろうか。

「・・・おっと。 アル!! 走るな!!」

足元を走り抜けた球体を踏みそうになって、咄嗟に命令する。

《ゴメンナサイ》

アルにはすでにスティグマで『商品に触るな』と命令してあるので、これで安心だ。今はニードに捕まって、楽しそうにあちこちキョロキョロしている。

「気にいるものはあったかい?」

奥から店主のおじさんに声をかけられて、ケイはハッとして顔を上げる。

「あ、いや、欲しいのはあったんですけど・・・ ちょっと、高くて。」

手に持っていた魔加工シルクを見せる。

「ああ、今シルクがなかなか手に入らなくてね、値上がりしてるんだ。

 ・・・・・・少し派手でね、売れ残りがあるからそっち見てくかい? もちろん、品質に変わりないよ」

「まじ? みたい!!」



・・・・・・



何点か見せてもらったが、鑑定しても品質は変わりなかったのに、4枚の服と同じ素材のズボン3枚を合わせて大銀貨10枚と銀貨5枚に負けてくれたので遠慮なく買った。

ついでに定価で白シャツも買った。派手と思われる格好のままでは入れない場面もあるだろう。

社会人だしTPOは弁えなくては。

そこそこの出費だが、魔加工で耐久性もあるので野宿でも使えるし、しばらくはこれでいいだろう。

現代日本から来たケイの感覚からしたら、店主の「派手」は、柄シャツと大差なく、お洒落の範囲内だ。

無地でも色の濃いものは好まれないのだろうか。ケイの今日着ている赤の服と同じような服も売れ残っていた。

ともかく、ケイにとってはあまり派手とは思えなかったのでとても満足だった。

お会計の時、アルも物欲しそうにしていたので、大銅貨1枚の黄色のリボンを買って頭に巻いてあげた。

色のチョイスはニードだ。 ・・・うん、かわいい。









『ボムに行きたいの?』

カバンに買った服を詰め込んで、店から少し離れたところの、カフェで一休みだ。

時刻は夕暮れ間近。店はそこそこ賑わっていて酒の提供もあった。

結構喉が渇いたのでケイとニードはビールとナッツに、アルはオレンジジュースとケーキ。

次の目的地はカバブの屋台のおっさんに聞いた、3番通りにあるボムという店。

野宿でも最低限身繕いができるセットが欲しい。汚いまま街を歩くのは結構恥ずかしかったのだ。

「そう、お勧めされたから。」

『雑貨屋だね、僕も欲しかったものあったからちょうどいいや』

「んー、あ。 あと行きたいところない? 付き合ってもらったお礼もしたいし」

『じゃあケーキ食べていい? そろそろご飯だけど、小腹すいちゃって。』

「いいよ。 なんか、ニードに飯しか奢ってない気がする」

『そういえばそうだね』

クスクスと笑い合って、ケイは店員さんにロールケーキを2つ追加で頼んで席にもどる。

「にしてもだいぶ疲れたな。」

『うん、アルちゃん元気すぎる・・・』

「付き合わせて悪いな」

『水臭いなぁ』

会話の途中でアルの分のケーキが届いた。

いつものことながら、アルはケーキもひとのみだ。しゅわっと消えた瞬間。

《オイシイーーー!!》

頭の中に絶叫が響いて2人して耳を押さえた。

頭に響くのだから、耳を押さえても意味がないからなんともいえないが、とりあえずアルは叱っておいた。

しばらくしてケイとニードのケーキも届いた。

彷徨っていたせいで昼を抜いたのでお腹は空いてたが、ビールにケーキは合わない。

ケイの残したケーキをアルの中に消えていくのを酔った頭でぼんやり見送る。

嬉しそうに目を細めるアルをじっと眺めて、ふともう数ヶ月一緒にいるんだな、なんて思った。





ニードもケーキとナッツを完食したので、

ケイは「そろそろいくか」と声をかけて立ち上がった。




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