表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/53

37.My name.ゴハンとアル

路地を入って数回曲がった先はまた大通りでした。

「ほえー。」

目の前に高い建物が見えて、思わず見上げる。なんの建物だろう。

緑のきれいな屋根に、クリーム色のきれいな外壁だ。こんな家に住んでみたい。

ボーッとしていると、ここ、と言うようにニードがケイの袖を引っ張った。

ニードが指を差すので、ケイは顔を下げる。

「ここ?」

おしゃれな雰囲気に店内に入るのが躊躇われて、窓に近寄って覗き込むと中はモダンな雰囲気だった。

中で食べたい気もするが、まだ服が泥だらけなままなので今回はやめておこう。

ふと視線を下げると、ドアのそばに貼られたチラシが目に入った。・・・求人か。

アイスのデザインが書かれていてかなり美味しそうだ。

『アイスクリームの店だよ。このチラシ、僕がデザインしたんだ』

隣で楽しそうに話すニードをチラッと見る。小柄で華奢。いかにも手先が器用そうだ。

「へー、 洒落た店だな。 絵も上手いし。」

『味も美味しいよ』

ふふふ、と笑うニード。

外に展示されたアイスの模型は、どっちかといえばシャーベットに近いだろうか。

カラフルで、いろいろな種類がある。

『どれにする?』

ニードが楽しそうにそう書かれた羊皮紙を揺らすのでケイも楽しくなってきた。

「うーん。 白いのと、ピンクにやつにしようかな。 ニードは?」

そう問いかけると、ピッと指を出した。

「緑のやつ?」

うなずくニード。緑はなんか食欲が沸かなかったから避けたけど、美味しいのだろうか。

店内に入って、ケイはウインドウケースの中を指差して注文する。

「これとこれを二つずつ、あとこれ、ください」

そう言って、笑顔の店員に声をかけた。

「毎度あり!!」

スライム用のものだけカップに入れてもらい、受け取ったそれをカバンに入れ、コーンに乗せられたアイスを手に持って二人は歩きながら食べた。

「思ったより普通の味だ・・・」

白いのは普通のアイスクリーム味だった。食感は予想の通り、アイスというよりシャーベットに近い。

ピンクのアイスはニード曰く、花の味らしいがケイにはピンとこない味だった。でも美味しい。

流石のニードもアイスを手に持ったまま片手で文字を書くことはできないので2人は無言で食べた。

早々に食べ終わった後のコーンをかじりながら、ケイはため息をつく。

「スライムになんて言い訳しよう」

まだ食べていて返事のないニードに、つい愚痴をこぼした。

「あいつ、飯にうるさいんだよ。 町に入ったら先に持ってこいって言われてたのに、こんな遅くなってどう言い訳するか・・・」

「僕が謝るよ」

「え? あ、おう・・・?」

もぐもぐしながらニードが言う。

喋らない奴が不意に喋るとびっくりする。変な返事を返して、顔を上げるともう門の前だった。

「お、にいちゃんおかえり。スキルは見つかったか?」

「いや、とりあえず昼飯だよ」

衛兵に顔を覚えられていたらしい。返事をしてスライムの居場所を聞く。

「今からか? ずいぶん遅いな。 ・・・あいつは外にいるぞ。そこまでだったら通行税免除してやる」

豪快に笑う衛兵にお礼を述べて、ケイとニードは門を潜った。

門を出てすぐ、声をかける前にスライムが振り向いた。

芝生の上でもう一人の衛兵と遊んでいたらしい。ケイが挨拶すると門の方に戻っていった。

なんだかんだ、暇はしてなかったらしい。

《ケイ、オソイ!!》

「ごめん・・・ 飯持ってきたよ。何してた?」

《オシャベリ、シテタ》

『魔物と喋れるの?』

羊皮紙を片手に、ニードが驚いた顔をする。

「スライム、コイツはさっき友達になったニードだ。挨拶しろ」

《ニード、ヨロシク!!》

「!?!?!?!? 頭に!?」

なんか、面白い反応してる。

混乱してる中、さらに構うのもかわいそうなので、とりあえずスライムの飯を出す。

「これ、ニードが教えてくれたんだ、うまいぞ」

《ケイ、サキニタベタ、ズルイ》

「そんな睨むなよ・・・ たくさん買ってきたんだ」

ケバブもどきの袋を開けて、わざと3つだけ並べる。

スライムはすぐにぴょんとケバブに飛び乗って消化し始めた。

《オイシイ!!》

「それはよかった」

『この子はなんて魔物なの? 頭の中に・・・』

羊皮紙に書き込まれた文字に、ふと思いついたことがあった。

こんなにたくさん話すとなると、羊皮紙は高くつくだろう。

「スライムって魔物だよ。

 話遮って悪いんだけど、書いて消せる魔導具ってないの? そんなポンポン使ったら羊皮紙高いだろ?」

ニードがペンを差し出すのでケイはそれを受け取った。

「なにこれ」

『このペン、魔力をインクにしてる魔導具なんだ。魔力液に浸すと無地に戻る。 使い回しできるから大丈夫だよ』

使い込まれた革が巻かれていて、その先は細かい模様が彫られ、ガラスペンのような細工だった。

ペン先には確かにインクはついてない。

ニードから借りた羊皮紙に魔力を通してペン先をつけると黒い文字が出来上がった。

ニードの文字は淡い茶色。文字の色が違うのは魔力の差だろうか。

綺麗だな、と思いながらニードにペンと羊皮紙を返す。

「へえ。ペンが魔道具だったのか。 ・・・なあ、魔道具に詳しいのか? さっき調べてたよな」

『詳しくはないけど、アーティファクトについて調べてるんだ』

「あーて、ふぁくと?」

聞き覚えのない単語を反芻してニードを見上げる。

『古の魔導具、一般的にアーティファクトって呼ばれてるんだ。

 神の作った魔導具って言われていて、今の技術じゃ再現できないんだよ』

「へー」

『・・・ケイはギフト持ち?』

唐突な言葉に、固まる。

「・・・ギフトって?」

『加護持ちかどうかってこと。 ケイもなにかの加護があるの?

 僕はたしか「僕に構うな」って言ったはずなのに。

 それを聞いて、その後もこうやって話せてるの、おかしいなって今気づいた。』


つい、渋い顔をしてしまう。なんて答えるべきだろう。


『加護と加護は反発するから、加護持ちには僕の『言葉』は通じないんだ。

 ・・・誰にも言わないよ。そうそうわかることじゃないし』

そう書いて、笑うニード。


「・・・実はそう。じゃあ、もう普通に喋れば?」

『・・・ケイは大丈夫でも、もし周りの人に何かあったら不安だから、これからも羊皮紙に書くよ』

ニードはへへっと笑って、スライムをツンツンと突く。ケイもつい笑った。

《ニード、ヤ!!》

すでに食べ切っていて、弾むように逃げるスライムを追いかけていくニードを眺めて、ケイは考えた。

別に隠すことではないのかもしれない、そう思ってしまう。

 ・・・いい子そうだし。

でも黙ってると決めたのなら、バレるまではそっとしておこうか。

今ごまかしたばかりのに、無理に話しても混乱してしまうだろうし。

そう思いつつ、ケイは残していたケバブもどきを差し出す。

飛びつくようにまた食べ始めるスライム。もう、スライムの機嫌も直ったようだ。

「なあ、スライム。 お前の名前、何にする? 白いからシロとかは?」

そう声をかけて、ふと浮かんできた名前をそのまま投げてみた。

《ナマエッテ、ナニ?》

「俺のケイとか、ニードとか。

 ヒューマとか、エルフとかとは違う、固有名詞っていうの? スライムって種族名じゃん?」

少しわかりにくいだろうか。説明は苦手だ。

『シロは安直じゃない?』

苦い顔のニード。

「そう? わかりやすいほうがと思ったけど。」

『赤い瞳だから、ルビーやガーネットは?』

「んーー。」

困った顔のスライムを挟んで、二人で話しあう。

「俺がいた森は結構、石の名前って多いんだよね。ジェイドとかルチルとか・・・ガネットってやつもいたな。」

『おしゃれだね』

「そう、でも大衆に染まって欲しくないと、俺は思う!!」

グッと拳を握るケイに、ニードは呆れたため息をついた。心なしか、その後に書かれた文字もやる気がない。

『大衆って。 シロよりマシだと思うけどな・・・』

《スライムジャ、ダメ?》

「・・・ダメだろ。 他にスライムでてきたらスライムかぶりしちゃうぞ。」

『スライムちゃん、名前は、自分だけの宝物なんだよ。僕はもっと大事にしてもらえる名前がいいと思うな』

「あ、ごめんコイツ文字読めないんだ。」

そう言って、ケイが読み上げる。

《ナマエ、ホシイ!!》

俄然やる気になったようだ。気に入る名前を探そうと2人と1匹は頭を捻った。





『白と赤・・・キャンディ!!』

「食いもんじゃねーか」

『ところでこの子、女の子? 男の子?』

《???》

「・・・姫は? ウルフがそう呼んでただろ。 多分同じ魔物がそう呼ぶなら女だな。」

『姫はダメだよ。 お金持ちと勘違いされちゃう。 誘拐されたらどうするの?』

「魔物だぞ? あるわけ。 ・・・うーーん。」

『この国だと、女の子には歌にまつわる名前が多いよ。アリアとか、エリーゼとか。』

「スライムっぽさがないなぁ。」

しろ。赤。白。あか。水滴の声。

「しずく・・・」

ポロリと溢れた言葉をニードが拾った。

『いいじゃん!!』

「いや、ダメだ。」

《・・・シズク?》

『なんで? いいと思うけど』

「いや・・・知り合いに似た名前がいるから。 ・・・間違えたらかわいそうだ」

脳裏に浮かぶのは一音違いの元カノの顔だ。

少し言いずらそうにしたケイにニードが察したようで話題を変えた。

『・・・じゃあなんだろ。水つながりでアクアは?』

「アクアーーー!! 確かにスライムっぽいけど、咄嗟の時なんか言い辛くない?」

『叫ぶ前提?』

クスクスと笑うニード。ケイもつられて笑った。

「・・・あーあ。 スライムもなんか考えろよ、お前の名前だろ?」

《ボク、ミズジャナイ・・・》

ぷくっと膨れるスライム。かわいい。

「じゃあ雲!!」

《ヤ!!》

『キュート!!』

「いやいや、そのまま可愛いはドキュンだぞ!?」

《ボクカワイイヨ!!》


話がまとまらない。


他に色々と案は浮かんだけれど、誰かが否定する攻防が続いた。











「じゃあもうアルビノ」

話し始めてからもう数時間。明るかった空も帳を下ろし始め、眠たくなってきたケイはそう呟いた。

『アルビノ? って何?』

「医学用語で色素のない者、アルビノ・・・大体白っぽい肌で、目が赤くなるんだ。

 ・・・で、アルビノからとって『アル』。 どう?」

『少し捻った感じがあっていいね』

《アル?》

「気に入ったか?」

《ウン!! ボク、アル!!》

嬉しそうに飛び跳ねるスライム改めアル。

「じゃあもう決まり!!」

名前が決まった喜びに跳ね回るスライムと微笑ましいものを見るニード。

反対意見が出ないことにケイはほうっとため息をついて、地べたに寝転んだ。 ・・・とても疲れた。

スライム、じゃなくてアルを腹の上に乗せて、ケイは、はーーっと小さく声にならない声に疲労を乗せて吐き出す。

そんなケイを見下ろして、ニードは羊皮紙を見せてきた。

『じゃあ次はスティグマだね』

「うえ、、まだあったの忘れてた・・・。 もう頭パンパンよ」

『ここまできたらパパっと決めたほうがいいよ』

「じゃあスラ・・・アル、好きなものは?」

《ニク!!》

「はい決まり」

バシリとニードが羊皮紙の束で叩いてきた。冗談なのに。

「ごめんって、じゃあ思い出のあるものは?」

《・・・ソウゲン?》

「それ、俺はあんま思い出したくねぇよ・・・」

『じゃあ、花は?』

「俺は、桜と金木犀が好きだぞ」

そう言ってカバンから羊皮紙を出して描いてみたけど、絵心がなさすぎた。

グチャっとした何か、としか言いようがない。

金木犀のつもりで書いた何かの上に乗って、アルが呟いた。

《ヨンマイノハッパ、『幸運』ッテ、ディアガイッテタ》

「・・・クローバーのことか?」

ハートの形を4つ描いてクローバーを模してみたけど、うまく書けない。

『こう?』

楕円の葉っぱがきれいに並んだ絵だった。

「お、絵うまいな」

『でも、ケイがかけなきゃ意味ないよ、ケイが直接魔法陣に書き込むんだから。』

「まじか・・・」

これを顔にくっつけたスライム・・・じゃないアル。うーん、どうなんだろう。

《コウ?》

アルが地面に掘ったのは十字だった。

「それなら俺でもかけるぞ」

隣に小さく十字を書く。うん、長さを揃えるだけなのがいい。

『クローバーではないけど・・・アルちゃんが考えたものってことで、いいかもね』

《ジャア、コレ!!》

嬉しそうに、にまーっと笑うアル。

「魔法陣ってどう書くんだっけ・・・」

カバンから書き写した羊皮紙の束を出すケイ。内容はまだ半分くらいしかわからない。

『魔法陣は描いたことある?』

「うーん、ないかも。」

結界の魔法陣はガイドがあったから書きやすかったけど、あれで描いたとは言えないだろう。

《マホウジン、ドウスルノ?》

「お前の顔に埋め込むんだよ」

《・・・イタイ?》

『スティグマの刻印は少し火傷したくらいの痛みだから、魔物なら全然余裕だと思うな』

「・・・だってさ。大丈夫だろ」

《・・・ウン》

不安そうなアル。

「とりあえず、練習してみるよ」

そう言って、自前のペンを片手にした時、羊皮紙が見づらいことに気がついて、空を見上げた。

「・・・っと。もうこんな暗いのか」

ずっと外にいたから気がつかなかった。もう空は夕焼けも落ち始めてきている。これではもう書き物はできないだろう。

ニードの文字はなんとなく光ってるから全然気にならなかった。

『そうだね。久しぶりの夕日だよ。もう雨季も終わりかな。』

「もうしばらくは雨とおさらばだな」

《アメ、キライ!! ウキオワルノ、ウレシイ!!》

ニードが小さく呪文を唱えると、ふわりと明るい光が照らした。

「ありがと」

《ニード、スゴイ!!》

「俺だってこのくらいできるぞ」

『・・・それはそうと。 ケイ、宿はもう決めた? 雨季が終わったら祭りがあるから早くしないと宿取れないよ』

「あ、まだだった。どうしよ。 でもアルがまだ入れないからな・・・」

『僕の泊まってるところ、教えようか? 昼前に出た時はそこそこ空いてたから』

「まじ? ありがたい。ついでに魔法陣の書き方教えて」

へらっと笑ってケイが言うと、ニードもふふ、と笑った。

「じゃあ、明日までに魔法陣かけるようにしてくるから、今日だけここで待っててくれるか?」

《オイテクノ・・・?》

不安そうに見上げるアル。昼間のわがままとそぶりが違って、夜に1匹は純粋に嫌なようだ。

・・・ケイも、一人置き去りにされたら泣くかもしれない。

「ごめんな、いい子にしてたらこれあげるよ」

心苦しい思いをしつつ、ケイはカバンからアイスを取り出した。

《ナニコレ》

「アイス。 甘いぞ」

《イイコ、スル!! アマイモノスキ!!》

「よし、偉い!!」

機嫌のいいアルをその場に残し、2人は街の中に入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ