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36.Begins.道連れ3*


図書館の広いエントランスに入ると、ケイはため息をついた。ここでもシャンデリアが眩しい。

日本ではほとんどお目にかかったことがないのに、ここに来てもう2個目だ。

街に入ってから、どこもそうだが、とても綺麗だ。 ・・・本当、どっかで着替えたい。泥だらけで申し訳ない。

濃い色のガラスドアの前に立ってみたが、開かない。

・・・なんでだろ。

辺りを見渡して、壁ぎわの小窓とた小さな机に置かれた札を見る。『初めての人はこちらを』と書かれた札。

なるほど、許可がないと開かないのか。

札の前に置かれた小さなベルを見て、ああ、とケイはうなずいて、机のベルに触れた。

鳴らしてみる。チーンと呑気な音がして少し面白かった。ファンタジックな街並みと機械的なその音がやけにミスマッチだ。

「・・・すみませーん」

声を出す必要はなさそうだけど、なんとなく声に出して再度呼ぶ。

「はーい」

しばらくして、小窓が開いて顔を覗かせたのは愛想の良さそうなおばちゃんだ。

初めて来たことを伝えると、笑顔で大銀貨を要求された。

「入館証は大銀貨5枚、もし館外で読みたいなら、本の貸し出し許可証は追加大銀貨10枚だよ。

 教会図書館ならどこの街でも読めるからお得よ。」

「・・・たっか。 」

ケイは思わず呻いた。さっきから呻いてばかりだ。今日は呻く日なのだろうか。

許可証がないと、スライムと読むために持ち出しができない。

 ・・・それなら今は財布に余裕のあることを安堵すべきか。

「いや、うん・・・貸し出しもお願いします。」

「ギルドカード、ちょうだいしますね」

ここは割り切って払うことにした。

そう言われて、流石に小窓越しにやり取りとなると届かないのでケイはいそいそとプレートを紐から外しておばちゃんに差し出す。

よくわからないけど、ギルドカードはどこでも使うものっぽい。

この先、何度も他人に渡す場面があるなら組紐以外のところにつけるべきだろうか。

・・・エルフの里のプレートはあまり出さないほうがいいらしいし。

そんなことを考えていたら、おばちゃんにプレートを返された。

「はい、登録終わり。これをそこにかざすと、ドアが開くよ」

ドアにつけられた丸い石を指差しておばちゃんは笑う。

お礼を言って、ケイはギルドカードを受け取ると早速ドアに移動して石にかざした。

すると、まるで自動ドアのようにスルスルとドアがあき、ケイはようやく図書館に入った。

所狭しと並んだ本の量も圧巻だが、空を飛びながら本を手に取る人にケイは驚きの声をあげた。

「まじかよ、リアルハリポタ感ある・・・」

感動だ。こんなのってありかよ。

小窓の向こう側はカウンターだったようだ。カウンターから出てきたおばちゃんが愛想よく説明してくれる。

「こっちが戸棚、あっちが書き物スペースね。わからないことがあったらそっちの職員に聞いて。」

興奮しているケイに慣れた態度でおばちゃんは簡単に指差しで言ってカウンターの中に戻ろうとするのをケイは慌てて引き留めた。

「ありがとう。 早速で悪いけど、テイミングを覚えたいんだけど、魔術教本ってどこにある?」

「あら、魔道士さんだったの。 それなら二階だよ。ちなみに魔導書は貸し出し不可だからね。」

「え、まじすか」

「高いものだから、貸して却ってこないと困るのよ」

「そりゃそうか」

そう言って、ため息をつくケイ。

そりゃ、金貨が飛ぶような本が大銀貨10枚で貸してもらえるわけがない。

ちなみに金貨1枚は大銀貨100枚だ。


「魔術教本はこっちよ」

おばちゃんについて、ケイは落ち込みつつ階段を登った。

ま、仕方ないか。どちらにしてもすでに払ってしまったのだし、魔導書以外も読めばいいのだ。

持ち出し防止だという油膜のようなものを通りぬけて、ケイより背の高い本棚を3つ、通り過ぎた。

その時、スッと目の前を本が飛んでいって、本棚に収まる。

「・・・なんだこれ」

驚きで固まるとおばちゃんがクスクスと笑った。

「本は自動で戻るのよ」

「すげえ、まじで魔法の国だ」

「ふふっ。・・・っと、この辺り・・・そう、これこれ。」

おばちゃんは慣れた歩みで本棚の隙間を通り、3冊の本を手にとった。

「テイミングは魔物飼育の管轄だから・・・この本が読みやすいんじゃないかしら。そして基礎の魔術教本が2冊。どっちに書いてあるかはわからないから読んで確かめて。」

そう言って、歩きながら、説明してくれた。

「読みにくかったり、わからないことがあったらこのあたりにある簡単なものを読んでみて。

 ・・・好きなところに座って読んでね。」

机のあるスペースに着くと、おばちゃんは階段を降りていった。


「ハッ。 入館料を確かめるだけなのに本まで借りてしまった。」

スライムがなんというか。そう思いながらも、ケイは手短にある椅子に座った。

わざわざ返すより、今ざっと目を通した方が効率的だろう。

まずは魔術基礎と書かれた本を開く。

ふむふむ。全くわからん。テイミングはどこだろう。

適当にペラペラとめくる。

魔術の基礎というからには何か書いてあるかと思ったが、魔力の流れを見るとかそんなことばかりだった。

これなら別に今更、読まなくてもすでにエルフの里でやってきた。


「テイミング・・・テイミング・・・」

ボソボソと呟きながら、2冊目を手に取る。

なかなかに分厚い本だと思ったけど、羊皮紙だからか、日本の本より一枚が厚いので内容はかなり薄かった。

「お、これか。」

ようやく見つけたテイミングの文字に、ケイはカバンから紙と鉛筆を出す。

「・・・大人しくなるまで適度にボコった魔物に、スティグマを埋め込んで、言うことを聞かせるのがテイミングのきほん・・・スティグマってなんだよ」

異世界語は問題なく読めるが、書いてある内容はよくわからない。

とりあえず書き出して、スライムと読もう。










1時間ほど書いて、ようやく終わる。内容がよくわからないから、全部丸写しいていたら思ったより時間がかかった。

「それにしてもスティグマってなんだろう・・・」

呟きながら、伸びをして、ケイは机に突っ伏した。

使い方の説明はあったけど、スティグマ自体の説明はなかった。他の本を探すべきだろうか。

気になることが消えないままでは先に進めないのは、ケイの悪い癖だ。

天張りのガラス越し、ため息をついたケイの足下に一枚の紙が降ってきたのが見える。

「ん・・・?」

拾って見た。紙にはよくわからない記号が多い。なんだろう。『古の魔道具』と書かれていた。

「・・・? 何これ。」

「それ・・・」

声がして、見上げると柔らかそうなクリーム色の髪の毛の少年がいた。

ローブを羽織ってたからさっきは髪の毛まではわからなかったけど、その薄い黄色の目と顔つきは見覚えがあった。

「あ、君。さっき絡まれてた子だ。」

「・・・え?」

「あ、ごめん。これ君の?」

「・・・・・・。」

少年は何も言わず、紙に何かを書いて、こちらに見せた。

『ありがとう』

「口で言えばいいのに・・・」

『喋らないようにしてるんだ』

「なんで?」

『僕の声には強制力があるんだ。』

「うーん? そういや、さっき図書館の前で絡まれてたのって、なんかしたの? 男たちがさーっとどっかいったの、すごい気になって。」

困った顔の少年が、再度、紙に書き込んで、こちらに見せた。

『ギフトの効果だよ』

「・・・ギフト?」

そう書いてある紙を見せて、少年はケイの隣の椅子に座った。ギフト?強制力? 意味がわからない。

『ギフト持ちを見るのは初めて?』

「・・・うーん?」

唸って、ケイは《鑑定》と心で呟く。

使ってから、バレないかとハッとしたが、ニードはぴくりともしない。

やっぱりエルフの里の魔力感知は異常なだけだったようだ。



________



ニード・ライオス

Lv.25

HP 152/168

MP 180/200

種族:ヒューマ

職業:魔術師

称号:魔術の名家・二男、《言霊の加護》



________




魔術の名門、ってすごいな。Lvの割に、MPが少し高い気がする。これも血統か?


「・・・声の強制力って、もしかして言霊の加護のこと?」

『そう、よくわかったね』

「・・・うん、まあ。」

驚いた顔のニード。ステータスを見ましたとは言えず、適当に濁す。


『僕はニード。魔術師。君は?』

「あ、俺はケイだよ。一応剣士かな。よろしく。」

『剣士なのにどうして二階に?』

ちら、とニードが机のケイの本を見た。

「あー。 魔物と旅をしてるんだけど、森育ちで・・・ 街に来るの初めてでさ。

 テイミングがないと魔物は街に入れないってさっき知って。」

『なるほど。祭り目当て? このスキルが欲しいの?』

トントン、ケイの書いた『テイミング』の文字を突くニード。

ニードのきれいな文字を見た後に自分の下手な異世界文字を見るとすごく恥ずかしい。

紙をソッと隠しつつ、ふと浮かんだ提案を口に出した。

「まあ、そう。なあ、ニードって魔術師なんだろ? もしよかったら教えてくれない? とりあえず書き出したはいいけど、意味わかんなくて進まないんだ。」

『少しならいいよ』

「ありがとう!!」

思わず大きな声が出て、ケイは慌てて口をとじた。図書館では静かにしないと。

ニコニコと笑うニードは少年のようでいて、なんだか頼もしく思えた。










『こんなところかな』

たくさんの文字が踊る紙の端、そう書かれて、ケイはハッと顔を上げる。

「あ、ごめん。もうそんな時間経ってたんだな」

『全然。少しは理解できた?』

「おう!! すげーわかりやすくて助かった。とりあえず『使役紋』と『名前』を何にするか考えてみるよ」

使役紋は、使役獣につけるスティグマの総称らしい。ニードがとてもわかりやすく教えてくれた。

スティグマは印や紋って意味で、他にも奴隷につける奴隷紋や犯罪者につける禁錮紋、道具につける管理紋などがあるそうだ。

似たものにいろんな名前があるのはややこしいが、ニードが詳しくて助かった。

そして、使役する際に魔物に名前をつけないといけないと本に書いてある。

そのまま、スライムじゃさすがにかわいそうだろうか。


ちなみにテイミング自体は魔法を使ってポンと終わるものではなくて、まずは捕獲と鎮静、最後に大人しくなった魔物に、言うことに従うよう、命令を強制的に聞かせるため、そして命令違反の罰を与えるための魔法陣を書き込んで、スティグマを肌に染めるらしい。その三つの魔法を合わせて「テイミング」と言うらしい。スライムにはどちらも必要ないだろう。

刺青みたいなものだろうか。 ・・・痛いのはかわいそうだな。

「・・・・・・あ」

そこまで考えて、スライムを置き去りにしていたことを思い出した。

『どうしたの?』

羊皮紙を胸の前に掲げてコテン、と首を傾げるニード。しぐさが女っぽくて可愛い。

「・・・いや、スライムを外に待たせっぱなしだったの忘れてた。すげえ怒ってると思う。」

『もういるの?』

「そう、だから急ぎで覚えたくて。・・・ともかく、助かったよ、ありがとう。 お礼になんかさせてよ」

『じゃあお昼まだだからそれで手を打つよ』

笑顔のニードに「安上がりで助かる」と返して、二人は席を立った。










大通りから1本入ったところ、ケイとニードは昼飯の時間になった。

器用に指差しで注文をしてるところを見ると、本当に普段から喋らないんだなと妙に納得してしまう。

代わりに店主に2個分の金を払って、ケイは思ったよりも腹が減ってることに気がついた。

スライムも腹を空かせてるだろう。多めに買ってかないと。

「はいよ、いつもありがとよ」

屋台のおっちゃんから受け取った包みをニード経由でケイも受け取る。

笑顔で差し出されたこの昼食はまだ中身を知らない。包みを開くと肉汁のいい香り。

中身はピンクぽいソースのかかった肉と野菜を薄い生地で包んだものだった。近いもので言うならクレープか。

ソースがたっぷりなのでこぼれないようにかじった。

「これ、うまいな」

赤身の部分が多く、ソースがよくあっている。なかなかに大味で、うまい。

野菜と肉。包まれた生地に、なんとなくケバブを思い出した。

「うまぁ・・・」

微かに感想をこぼすニード。やっぱり完全に無言とはいかないようだ。

「おっちゃん、これ、4つ追加で」

「おうよ、気に入ってくれたか?」

「ん、うまい!!」

笑顔のおっちゃんに返事をして、最後の一口を咀嚼し終わると、ケイは銅貨を4枚差し出す。

「ありがとよ」

袋に入れられたケバブもどきをカバンにしまう。肉汁がカバンにつかないか心配だが、冷めたらかわいそうだ。

『デザートも買う?』

食べ切ったニードが羊皮紙を破いて差し出してきた。

「え、あるの? スライムの機嫌取りに必要だ、欲しい。」

楽しそうに笑うニード。

コイツについていけば、美味しいものたくさん見つけられそうだ。

道の先を指差して、ニードが歩き出す。

裏路地は迷子になりそうですごく怖い。すぐ大通りに出られるだろうか。

「俺、かなりの方向音痴なんだけど、その店、遠い? 大丈夫?」

『大丈夫、すぐだから』

そう言って、2回ほど曲がった道の先、二つ目の大通りに出た。

「結構広い街なんだな」

『今は祭りで人通りも多いし。 右に道なりにいけば東門に着くから、すぐにわかるよ』

「おお、ありがとう」

二人はそういい、笑い合うと道を歩き出した。

ニードは年下そうだけど、いい子だ。

ケイはあんまり同性の友達がいないので、ただの食べ歩きもなんだか少し嬉しかった。



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