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35.Begins.道連れ2

「だから、ごめんって・・・」

《ヤダ!!》

「いやだじゃなくて、ダメなの、規則なの・・・ 俺も頑張ってすぐ入れるようにするから・・・」

《ナンデ、ボクダケ、ソト!! ヤダ!!》

目を閉じて、ブンブンと頭を振るスライム。仕草は可愛いが、そろそろ疲れた。

テイミングのスキルを持ってないとスライムをパートナーと言っても通じない。

かと言ってケイだけ入国するのはスライムが断じて許してくれない。

説得を始めて1時間。ずっと一方通行だ。



「俺がうかつだったのは認めるけど、今日だけは我慢してくれ、すぐ魔術本借りて戻ってくるから。 な?」

スライムに土下座する人間というのも珍しいだろう。そうだろう。

・・・・・・わかってるから、複数人でそんなにガン見してこないでくれ衛兵さん。

こうなったらもう、・・・飯を貢ぐしかない。

グッと軽い財布を握り締めて、ケイはため息をついた。

財布の中身は以前ジェイドの仕事を手伝った時の報酬しか入ってないので、かなり寂しい。

ここにくるまでに仕留めた魔物の素材をギルドで売れば工面できるだろうか。

 ・・・できると信じよう。

「なあ、スライム、わがまま言わないでくれ・・・。 街に入らないとうまい飯も宿も取れないんだぞ?」

《ヤワラカイベッド・・・オイシイモノ・・・》

微かな手応えを感じて、ケイはダメ押しとばかりに都合の良さそうな言葉を並べる。

「そうだ。 うまいもの、食べたいだろ? 何も外でずっと待ってろって言ってるわけじゃないんだ。

 スキル覚えて一緒に入れるように手続きするだけなんだ。」

《サキニ、オイシイモノ、モッテキテ!!》

これだけは譲れない!!とでも言うように、スライムが睨む。

「・・・わかった。 まずギルドに行って、換金してくる。多分、入国税だけスカンピンなんだ。その後持ってくるな」

《・・・・・・ワカッタ》

スライムから刺すように睨まれながら、ケイはそそくさと門を潜って衛兵に声をかけた。

「お待たせ、あいつは外で待ってる」

「・・・そうか。そう簡単にスキルは覚えれないけど、まあ、がんばれ」

「おう」

「入国税は身分証のないやつは大人で大銀貨2枚。魔物と子供はそれぞれ1枚だ。」

「はいはい」

財布代わりの革袋から大銀貨を取り出すと、衛兵に不思議そうな顔をされた。

「ん? お前、成人してるのか?」

「え? うん。 ・・・あれ? 成人って何歳からだっけ?」

「15からだ」

「じゃあしてる。はい。」

正直、身分証もないから偽るのは簡単だけど、日本人の感覚なケイは人を騙すのは少々心苦しい。

ギルドで身分証を作った後、なんて言われるかを想像してしまったのもあるが。


素直に大銀貨を差し出して清算を済ませ、手の中の財布を改めて見る。

その中身の少なさにため息がでた。

今払った金で、財布の中身は銀貨2枚と、銅貨と大銅貨が数枚になった。

「どっちにしろこの所持金ではスライムは入れなかったんだな・・・」


ジェイドから教えてもらった金の単位はギル。でもほとんどの人は貨幣の通称で呼ぶらしい。

相場はよくわかってないが、シリカが言うには、レガラシアの王都では一食が銅貨1枚。

ちなみに今着ている服一式が大銅貨一枚で買えるらしい。ルワンダではもう少し安くなるだろう。

他にも金貨、中金貨、大金貨があるが、一般人は普段使わないしお目にかかれないらしい。

「さて。ギルドってどこ?」

「この道をまっすぐ行って、右手の水色の建物だ。でかいから、すぐわかるだろうよ」

「ありがとう。 ・・・スライム、大人しく待ってろよ」

《ゴハン・・・ハヤク》

門の向こう側、スライムに声をかけると、突き刺すようなキツイ目をしていたのですぐそらす。



・・・まずはギルドだ。

言われた通りに、ケイは門から出て街を進む。


街の外は大きな壁がドーンと立ってる感じがしたけど、中に入ればなかなかに活気がある。

思ってたよりも雑多としていて街中は面白い。観光地に来た気分でケイは辺りを見渡した。

カンディアのようなケモミミが意外と多い。普通の人もいる。服装は女性がワンピース系の服を着てる人がいるくらいで、エルフの里とあまり大差はない。ケイが汚い装いだからだろうか。行き交う人々が輝いて見えた。

・・・でも顔ぶれや街並みは東洋じみていて、やっぱりここは異世界なんだなってなんとなく思った。

広めの道を馬車が通り、端を歩く人たちに合わせてケイも端に移動する。

しばらく進むと水色の建物が見えた。遠くからでもわかる綺麗で、でかい建物だった。


「意外と文明的・・・?」

門番みたいな人に軽く会釈して入ったギルドは思ったよりも数段綺麗だった。

もっとこう、終末酒場みたいなのをイメージしていたが・・・ 本当、意外と綺麗だ。汚い格好で申し訳ない。

驚きつつ、辺りを見渡す。床はフローリングで艶があ理、壁にはよくわからないツノの生えた動物の頭がかかっていた。

天井にはいい感じのシャンデリアがかかっていて、中は酒場、売店、カウンターに分かれている。

酒場には時間帯のせいか、人気はあまりなかった。

唯一の客はカウンターで金属の鎧っぽい装備を身につけて酒を飲んでいる。

カウンターに弓を立てかけていて、この空間になんだか似合わない。冒険者、というやつだろうか。

キョロキョロしながら、店の奥の『受付』と異世界語で書かれたカウンターに向かうと、ケイは笑顔の男性店員さんに声を掛けた。

「やあ」

「こんにちは!!御用は?」

笑顔で返事を返した青年にケイは素直に申し出る。

「身分証を作りたい」

「ギルドカードの作成は大銀貨2枚です!!」

「うげ・・・」

元気な声に、思ったより高い金額でケイは呻いた。

財布の中はさっき確認した。悲しいことに、何度見たって中身に変わりない。

「手持ち、ないです・・・?」

「えっと、魔物の素材を売ってから払いたいんだけど・・・」

「・・・少々お待ちください。ギルドカードがないと買取できないんです。」

胡散臭い目で見られた。恥ずかしい。

奥に消える店員さんを見送って、ケイは辺りを見渡した。

売店では紙束や瓶に入った、いかにも異世界な薬が売られていた。

色々と物色して待っていたら店員さんが戻ってきた。頭の上で大きく丸を作っている。

上役からOKが出たようだ。よかった。

「素材の確認だけ、先にさせてください。」

「えっと、はい。」

カバンからマハウルフの毛皮を数枚取り出して、カウンターに置くと、店員は驚いた声をあげた。

「マハウルフじゃないですか!!今、魔物が活性化していてマハウルフは貴重なんです。これなら大銀貨12枚分はありますね。」

「やったね。まだあるよ。」

とりあえず、野宿用に使っていた毛皮を数枚残して、素材を全てカウンターに並べるケイ。

あれこれと確かめて店員さんはうなずいた。

「ちょうど素材採集の依頼もあるので、ギルドカードを作ったらそっちも合わせて精算しましょう。

 ・・・まずはこの魔道具に魔力を流して登録してください」

「はい」

差し出された魔道具はまるでATMの掌紋認証のような形状をしていた。

ドキドキしながら、言われた通りに手を向けて魔力を流す。

黒っぽい光が灯り、その端末を操作する店員さん。

「はい、魔力の登録できました。お名前は?」

「アズマ、ケイです、ケイが名前。」

「名前が逆…島国育ちですか?」

「・・・いや、森の出だ。」

ジェイドに言われたように、ケイはそう名乗った。島国があるってことは魚とかあるのかな。

川魚はカンディアがよく撮ってきてくれたけど、久しぶりに海の魚も食べたい。

「・・・はい、年齢は?」

「25」

「・・・お若く見えますね?」

「・・・よく言われる。 でも、疑われても証明はできないよ」

「それもそうですね。」

他にもいくつか質問を繰り返してケイが答え、カタカタと端末を操作して、ケイの言ったことを書き込む店員さん。

「・・・では、登録はこれで終わりです。」

端末からスッと引き抜いたそれを差し出され、受け取る。黒っぽい石のついた、オレンジのプレートだった。

「どこに行ってもプレートなんだな」

「森育ちなら意外でしょうか? 王都のほうに行くと、家の鍵などもプレートなんですよ」

「へえ・・・。」

呟いて、プレートを手に持った。

「これも血を使うの?」

「いえ。さっきの魔力を登録していますから、身分証の使い方は魔力を通して・・・」

プレートに魔力を通すと石が光って、文字が浮かび上がった。

まるで《ステータス》みたいだ。内容は名前や年齢が出る。

他にも、ギルドに預けてある貨幣の枚数や、所持しているタリスマンなどが表示されるそうだ。

タリスマンは、許可証らしい。日本のゲーム知識とはちょっと違ってて面白い。

ケイはまだ無一文なので特に書いてない。

他にもギルドランクや細かい説明を受けた後、ケイはプレートを首紐に通した。









「では、残ってるクエストを確認してきます。」

「あ、俺も見たい」

そう言ってカウンターを出た店員さんの後ろについて歩く。

「依頼は、このボードに張り出します。気になったものがあればカウンターに持ってきてくださいね」

ケイの持ってる素材に合う依頼書を剥がしていく店員さん。

それを横目に、ケイもボードを見た。コルクボードのような大きい板に、色々な依頼書が貼られていた。

『E・ペット探し』と言った簡単なものや、『C・ゴブリン討伐』、『A・護衛依頼』と言ったクエストっぽいものまで様々だ。

右が討伐系、左が採集系と大体で分けられている。ボードの上に行くほど適正ランクが上がるようだ。

「あ、これもあります」

そう言って、ケイは少し背伸びをしてテッツァ採集の紙を剥がして渡す。

「・・・結構、奥の方から来たんですね?」

不思議なものを見る目をする店員さん。ダメだっただろうか。

「・・・奥?」

「テッツァは森の奥の方にしか生えないんです。取れる時期もありますし・・・

 何より品質が重要なんで、持ってきても受け取れなかったりとかで、なかなか依頼が剥がせないんですよ」

「へ、へぇ・・・」

どきりとしながらケイはうなずいた。このカバンのことはバレないようにしないと。

「さて、清算しましょうか」

そう言って、カウンターに戻って毛皮や牙、追加で出したテッツァの品質を確認する男。

「これも剥ぎ取りが綺麗だし、ヒビや破れも少なくて品質がいいですね。」

「ありがとう」

ソワソワしながら鑑定結果を待つケイ。いくらになるんだろう。楽しみ半分、不安半分だ。

束にした羊皮紙に書き込みをして、店員さんはふう、とため息をついた。

毛皮の束をカウンターの下に片付けて、布のかかったトレーとコインケースを出した。

一枚ずつ、貨幣をトレーに並べる店員さん。まるで買取査定だ。いや、査定に違いないんだけど。

「まず依頼報酬が大銀貨25枚に銀貨5枚。」

「おお!!」

歓喜の声を上げるケイ。ひとまず当面の宿とスライムのご飯はゲットできそうだ。

「次に素材報酬が大銀貨20枚、銀貨30枚です」

「おおおお!!!!」

グッと手を握るケイ。

「かなり太っ腹じゃない?」

「テッツァが大銀貨10枚なのとマハウルフが20枚・・・この辺りがでかいですね、一度の清算でここまでの支払いは久しぶりです」

そう言いながら最後の一枚をトレーに並べる笑顔の店員さん。二人で数を数えてケイはつい手を差し出した。

握手をしてから合計45枚の大銀貨と35枚の銀貨を革袋に入れる。

ずっしりとした革袋に頬擦りしたいのを抑えて、いそいそとカバンにしまう。銅貨で飯が食えるなら、数日分の宿も銀貨2、3枚で足りるだろう。懐がホクホクだ。

「次にギルドランクの方が・・・」

そんなケイを微笑ましそうに見ていた彼は咳払いをしてからカウンターに並んだ依頼書に依頼達成のスタンプを押す。

鳥っぽいロゴだ。かっこいい。

「プレートをここに。」

そう言われて、ケイは服の下からプレートを出して、さっきとは違う魔道具に差し出す。

紐が短かったようで、届かない。少し前屈みになった。

「採集が3枚。Eランクの討伐が5枚ですね。 ・・・はい。登録終わりです。

 次のランクアップまでは討伐依頼なら5件、採集は10件ですよー」

店員さんが操作をするとポーンと音がしてプレートの石が一瞬、赤く光った。

「ありがとう」

組紐を長くするべきだろうか。そんなことを考えながら、ケイは服の中にしまう。

ギルドランクの登録はEからなので、次はDだ。

採集依頼はランクにかかわらず好きなのを取れるが、討伐依頼を受けるにはそれ以上のランクが必要になる。

さっき説明されたことだ。

「ちなみに宿は決まってますか?」

書類を整えながら、男が言う。

「いや、まだなんだ。魔物と泊まれる所ってあるかな」

そう聞くと男はぽかんとした顔で問いかけてくる。

「もしかしてケイさんはテイマーですか?」

「いや、これからなる所。魔術教本ってどこで買える?」

立て続けの質問になってしまったが店員は愛想のいい声で答えた。


「魔術教本や魔導書は高いので図書館で借りて読むのがいいですよ。買うと金貨が飛びます」

「金貨・・・」

「図書館も入館料が高いけど、買うよりは安いので。宿はここが安くておすすめです」

そう言ってカウンターの下から出した冊子をめくる。

「ここの大部屋は周りのいびきがうるさいけど鍵付きのボックスもあるので盗難対策できて安いです。

一押しの理由はもともと食堂なので飯がうまいことです。個室もありますけど、今は祭りが近いので空いてるかなぁ・・・?」

「祭りって?」

「赤の祭りですよ。雨季が終わったら毎年やるんです。街が初めてなら知らないか」

そう言って、3つの宿候補と図書館までの道を教えてくれる。

教えてもらってもたどり着けるかわからないけど、少なくとも同じ大通りにある図書館までは行けそうだ。

「・・・と、こんな所ですかね」

「ありがとう。とりあえず図書館に行ってくるよ」

「はい、またよろしくお願いします」

笑顔で別れて、ケイはギルドから出た。












「ああーーー。疲れたー。」

酷く久しぶりに営業用の顔をした。顔が引きつりそうだ。

愛想を良くするのはストレスが貯まる。それ以前に、ケイはそもそも笑うことが苦手だ。ヘラヘラした顔は得意だが。

ギルドを出て、ケイは左に進む。この先に図書館があるはずだ。

「まずは入館料を確認して、それから飯だな。」

ご飯屋さんはさっきから所々に屋台やテイクアウトできそうな店があるから大丈夫だろう。

しばらくここに滞在するから、どこがうまいかリサーチしたいけど、知らない人と会話するのはめんどくさい気もする。

「どうしよっかなー。」

とりあえずは2.3店舗の飯を買ってスライムと分けよう。

それにしても、この街まで歩き通しだったのもあってかなり疲れた。

「今日はもう宿に直行したい・・・。

 でもスライムを野宿させて自分はベッドって、かなり寝つきが悪そうだ・・・」

そう呟いて、別れた時のスライムの刺すような目つきを思い出してケイは頭を振る。

置いてきたら可哀想、というより、1人で寝るのは嫌だ。ホームシックに自覚がある分ちょっと恥ずかしい。

「おっと、ここか。」

大きな教会みたいな鋭い屋根の建物を見つけて、足を止めた。

緑のレンガなんて初めてみたかもしれない。

綺麗に組まれた階段に足をかけて、ケイは怒声にふと見上げた。

「…揉め事はやめて欲しいんだけど。」

そう呟いて、階段を登り切って様子を見る。

背の低い男の子が絡まれてるようだ。

おとなしい子なのだろう、俯いて本を抱きしめたまま何も言わない。

「だからちょっとでいいんだよ、ツケ払ってくれるだけでよぉ」

「図書館通いのおぼっちゃまなんだからそのくらいいいだろうが!」

ニヤニヤした笑い顔の男と血気盛んそうなガタイのいい男。

…困ったな。

ケイは思わず前髪を混ぜた。後回しにして引き返すか、それとも助けるべきだろうか。

少し悩んだ後、ちいさな正義感を前に押し出してケイは声をかけ用とした時、少年が呟いた。

「僕に構うな」

うわ・・・。その言い方はまずいのでは。ケイは思わず顔を抑えてしまった。

それと同時に魔力の揺れを見て、ハッとする。何かの魔法を使ったのだろう。

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

黙ったままの男二人。

「ほら、怒りそうな・・・あれ?」

ポツリと呟いて、ケイは隣を通り過ぎていく男たちを見送った。

「え? ・・・ちょっと、待って」

驚きで声がかすれた。けれど、その声は誰にも届かない。

男はいなくなってたし、少年も図書館に入っていった後だった。


「・・・・・・ま、暴力沙汰にならなかったんだし、いっか。」

よくわからない感情を折りたたんで、ケイも図書館に入ることにした。




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