29.joint.共同作業3
「呼吸戻りません!!」
シリカがクラークの体に触れて現状確認をする。
ジェイドの手慣れた心肺蘇生でも、そう簡単には上手くはいかないものだ。・・・そりゃそうか。
ケイが駆けつけてから、もう5分は経ってる。そろそろやばい。
確か、心肺停止からの蘇生成功確率は5分で・・・えっと。
わかんないけど、とにかくやばいのはわかった!! どうしよう!! でもジェイドがいるし大丈夫かな!?
「おじいさま!! まだ僕とエンジュ・・・どちらが次期長か決めてないんですから・・・ 死んではダメですよ!!」
シリカが人工呼吸をしながら、合間に声をかける。クラークの反応はない。
・・・ってか、普通にシリカが次期長だと思ってた。
いや、そんなことより。 他にどうすれば・・・
ケイも、汗を拭うジェイドと代わりながら、心臓マッサージをしつつ必死に考える。
心臓マッサージの次は人工呼吸。
その次は? なんだっけ、焦った頭で必死に考えるが、出てこない。最後に救命措置を習ったのは4年前だ。
・・・・・・・・・・・・なんて習ったんだっけ?
・・・やばい、心臓マッサージを褒められたことしか覚えてない!!
「シリカ、ショックボルトだ!!」
考え込んでいたケイの耳にジェイドの声が届いて、ハッとする。そんなことより今心臓マッサージを止めたら蘇生できない。 ・・・1、2、3、4、5、・・・・・・。
「すみません、まだ・・・威力の操作が、できません!!」
「弱い、ところから、やるだけ、だろう!?」
ショックボルト・・・?
あ、そうだ、AED!!! なんで忘れてたんだろう、もっと早く思い出せばよかった。
電気ショックなら、ショックボルトは知らんが、雷魔法で代用できる。それなら俺でもできる!!
「俺がやる!!」
言い合いを始めたジェイドとシリカを遮って、そう言い、ジェイドと心臓マッサージを入れ替わって、ケイは立ち上がった。
ジェイドの邪魔にならないようにタイミングを見ながら慎重にクラークの服を剥ぐ。
クラークの金属製のピアスと首に下げられたプレートも外す。金属が体に触れていると火傷するからだ。
外したそれらはシリカに渡した。
「カンディア、よく見とけ!!」
ジェイドが声を上げた。
色々と疲れ切った顔のカンディアが、深呼吸してキッと力強い目でこちらを見た。
この里にいる、魔法を使える薬師は今のところカンディアだけだ。
ジェイドにできない分、カンディアに覚えさせたいのだろう。
ケイも、震える手を膝にバシリと打ち付けて、気合いをいれる。
「カンディア!! アズマ先生の初授業だ!! よく見とけよ!!」
それっぽいことをなんとなく口に出して、後半ジェイドとかぶったな、なんて思いながら、ケイは目を閉じて魔力を練る。
雷魔法なら、草原で散々ぶっ放した。
色々と遊んでたから威力の調節もできる。間違いなく、ケイの一番得意な魔法だ。
ケイの周りで小さなスパークがいくつか弾けた。
焦げないよう、かつ、クラークの体を打つ。そんなイメージでいいか。
ジェイドとシリカが両手を離したのを見届けてから、ケイはクラークの体の中心を穿つように魔法を放つ。
「ジジイ!!戻ってこい!! ・・・《ショックボルト》!!」
ショックボルトなんて使ったことないけど。
と思いながら、自分の魔法の使い方が教える者向きでないことを少し悩みつつ魔法を放った。
ビシャン、と小さな雷の音がして、クラークの体がびくんと動いた。
2秒待ってから、シリカが呼気を確認する。
「・・・戻りません!!」
「もう一度だ!!」
ジェイドが心臓マッサージを再開するのを見ながら、カンディアに説明しつつ、もう一度丁寧に魔力を練る。
「雷はシビアだ。雷撃と言っても力には波がある。一番波の大きなところが相手に当たるよう、発動と力加減の調節をするんだ。」
さっきより少しだけ強くする。この「少し」が難しい。草原では何度も魔石を割ってしまった。
「はい!!」
カンディアの返事を聞いて、ジェイドに合図する。
サッと二人が動く。
「 《ショックボルト》!!」
今度はさっきよりも強めの音がして、クラークの体が数センチ、跳ねた。
「呼吸 戻り、ません!!」
シリカが涙目になる。
「まだだ!!もう一度!!」
ジェイドが怒鳴った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何度目か、ようやくクラークは自発呼吸をした。
慎重に威力をあげたせいか、いつもより疲労が強い。
「なんとか呼吸と脈拍は戻ったが・・・」
自発的な呼吸はできるようになったが、いまだ意識が戻らない。
峠は超えたが、あまり安心できる状態じゃないのは確かだ。
しばらくは診療所に入院ということになった。
夜になって、スライムも起き出した。
スライムの聖魔法で軽く治癒して、そのままクラークのそばで、スライムはまた眠った。
スライムの魔力が殆ど空だったのは、最近調子の悪い長に回復魔法をかけていたから、らしい。
呼吸も安定し、ひとまずは大丈夫そうだ。昏睡していた時と違い、問題が起きたらすぐ知らせるようにスライムに言いつけてあるから、とりあえずは安心だ。
「ともかく、助かってよかってです。 ・・・この先、どうなることかと。」
シリカがリビングでお茶を飲みながら呟いた。
カンディアはエレファを家まで送ってから、今日は疲れたようで早々に部屋に戻ってしまった。
ジェイドの作った適当な飯を3人で食ったあと、診療所のリビングで茶を飲みながら休憩だ。
「体調が悪いなら、診察に行ったんだが・・・隠されるとこちらも困る。」
「長は・・・あまりよそ者が好きじゃないから。・・・こちらの落ち度です。」
シリカが濁したのを、ジェイドは鼻で笑って答える。
「混ざり物とは言え、腕には自信がある。それだけでも買ってもらいたいものだな」
ジェイドとシリカの話を聞きながら、ケイも茶を飲む。
・・・空気が悪い。切実にスライム成分が欲しい。
「そういや、シリカとエンジュって夫婦だよな? 俺、てっきりシリカが時期長だと思ってたんだが。」
一応、ことも落ち着いたので、気になってたことを聞いてみる。
「・・・元々の長は、今の長の奥様だったんですよ。
カイヤ様は素晴らしい人でしたが・・・ 20年前に魔力症で亡くなりました。」
シリカが苦笑いしながら言った。
「本来、その代の長の身内から既婚者を選び、その二人の中から長を選ぶのがしきたりでしたが・・・
父と母はあまり内政向きの人じゃなくて、里の外ばかり行ってました。結果、戦死です。
ですから、僕も混ざり物・・・エルフ以外の人との交流が欲しいと思っていたんです。
・・・・・・隠すから、余計に狙われるんだと・・・そう、思って、いたんですが・・・
でも、長はエンジュのような保守派の方がいいみたいですね。」
そう言って、色々説明してくれた。
シリカの母はジェイドの師の姉だったそうだ。
外ばかりに出たがり、内政にはみじんも興味のない人だった。旦那さんも外で見つけてきた人だったらしい。
体質のせいで赤子の頃に、師に引き取られたジェイドとシリカはつまり、義理の従兄弟だとか。
シリカが結婚相手を保守派の中から選んだのも、長候補として残るための手段だったそうだ。
エンジュと結婚するのは嫌ではなかったが、想い合った関係ではなかった。
そう言って、シリカは下を向いた。
「まさか、体調を崩されていたのを隠されるなんて。 ・・・ここまで信用されていないとは、思ってもみませんでした。」
そう落ち込むシリカ。
「・・・ま、仕方ないことだろう。退院したらしばらく通う。 ・・・説得は任せたぞ。」
そう言って、ジェイドは立ち上がって、ケイを見た。
じっと見つめられて、居心地が悪い。なんでこっち見てんだろうか。
話の流れ的に、ケイも説得に混ざらないといけないんだろうか。
・・・・・・いや、確かこの流れは・・・。
「・・・・・・風呂に行こう?」
「よく分かったな」
満足そうに鼻を鳴らすジェイド。なんかムカつく。
「はいはい・・・。 シリカも風呂行くか? あったまるぞ。」
「フロとは・・・? ジェイドが率先して動くなんて、ちょっと興味がありますね。」
そう言って、シリカが笑ったものだから、ケイは残りの茶を飲み干した。
*
シリカにジェイドの着替えを貸して、3人で沐浴場に移動する。相変わらず、星が綺麗だ。
・・・そう言えば、里に来てから雨が降ったことがないな。なんでだろう。
体を洗った後、ケイはいつものように隅っこだけ湯にする魔法を使う。いつもより少し範囲を広げるから、少しだけ時間がかかる。
「早くしろ」
急かすジェイドを睨みつつ、ケイは注ぐ魔力を少し増やす。
「・・・へぇ、湯にしたものに浸かるんですか。」
珍しげにケイの手元を覗き込むシリカ。その体は意外と筋肉があって、背は低いが男らしくてかっこいい。
着痩せするタイプの細マッチョな高身長のジェイドとはカッコよさでは比較にはならないが。
まだまだ筋肉の足りない己を見下ろして、少し羨ましげに男二人の全裸を眺めてから、湖をかき混ぜて、ちょうどいい温度になったことを確認する。
ケイが頷くと、ジェイドが断りもなく一番乗りする。 ・・・まあ、いつものことだ。
その後に続いてケイも入る。シリカが躊躇いながら、後に続いた。
ケイが肩まで浸かって、ジェイドが岩肌にもたれて寛ぎだすと、シリカもようやく足を伸ばした。
「ハァ・・・あったまりますね、これはいい・・・」
「だろう? お前も覚えるといい。・・・湯にしたら呼べ。」
「・・・お前、実は俺がいなくなった後のお湯張り要員探してんの?」
ケイが呆れたため息をつくと、ジェイドはフンと鼻を鳴らした。
「湯に入るのは体にいい。長も入ればいいんだ。」
「うん、我が家でもやろうかな・・・。 この複合魔法はどんなふうに使うの?」
着々と風呂好きが増えているのはお風呂大好き日本人として喜ばしいことだが、ジェイドの態度を見ると、なんだか釈然としない。
シリカに感覚的に使ってるからよくわからないけど、なんとなく説明しつつ、湯を楽しんだ。
相変わらず、15分もするとジェイドが眠そうになってきたので上がった。
ジェイドがのぼせやすいのか、シリカはまだ物足りなさそうにしていたが、診療所に戻ってくると、すぐ疲れた顔になった。
湯は疲労回復の効果があるが、疲れすぎてると眠くなる。つまりは、そう言うことだろう。
今日はケイの部屋の一つ隣にシリカも泊まる。その間が長の寝てる部屋だ。
ふらつきながら頭を押さえるジェイドを寝室に運んで、スライムの様子を見に行って、ついでに長の顔色と呼吸を確かめる。
・・・・・・うん、大丈夫そうだ。
シリカと頷き合って、そっと部屋を後にした。
ドアの前でシリカと別れてケイは一人、部屋に戻った。
・・・やっぱりスライムがいないと寂しいな。
そんなことを考えてるうちに、ケイもだいぶ疲れていたのか、すぐ眠った。
*
目が覚めて、ケイはため息をつく。
隣にスライムがいない事にも、もう慣れた。 ・・・慣れたはずだ。
スライムは魔物で、中身は子供のようなものだ。ペットでもなければ、思い通りになる人形でもない。
言葉がわかるだけ、いいものだ。そう思い直さないといけない。
「んーー・・・。 よっ、と。」
ケイは思考に区切りをつけると、あくびをしてからベッドを立ち上がって、時計を見た。
6時半くらいだろうか。そろそろカンディアが起こしに来るはず・・・と考えていたら、部屋をノックされた。
「はーい」
「おはよう、ケイにい。 ・・・今日は寝起きいいね?」
相変わらずにこやかなカンディアに、ケイはキャビネットから服を選びながら、返事をする。
「ん、まあ、たまにはね。」
「そろそろご飯だよ。 ・・・ご飯の前に、シリカさんと長のところ見てきてくれる?」
「いいけど、なんかあった?」
「んーん。ちょっとね、あの二人、苦手なんだ。」
そう言って、彼女は苦笑いしながら、いつもの癖で帽子に触れる。
・・・そう言うことか。
混ざり物関係で嫌な目にもあったし、シリカはともかく、長とはあまり関わりたいものではないだろう。
「分かった」
納得して、そう返事をする。
カンディアが出ていくのを見送って、ケイは自前のTシャツとジーパン、黒のパーカーに着替えた。
カバンを持って外に出る。
隣の部屋をノックしてから入ると、シリカがいた。
「おはよう、早起きだな。」
「いつも5時には起きてますから。」
そう言って、ベッド脇の椅子から立ち上がろうとするシリカを止めて、長の枕元で眠るスライムに声をかける。
「スライム、飯の時間だぞ」
《・・・オハヨウ ・・・・・・ゴハン?》
「そうだ、カンディアが待ってるぞ」
眠そうな赤い瞳がこちらを向いて、2秒。
すぐに覚醒して、部屋を飛び出していった。
「・・・長はまだ目を覚まさないか?」
「はい。 呼吸も問題なく、スライムちゃんからは夜間も異常なしとのことです。」
「・・・ただ寝てるだけだといいけど。」
そう言って、頭を触る。 ・・・あ、寝癖直し忘れてた。
「ケイさん、昨日はありがとうございました」
頭を下げるシリカに、ケイは笑った。
「礼ならジジイが目を覚ましてからにしてくれよ」
「そうですが、そうではなく。」
茶化して軽い空気にしたかったが、ダメだったようだ。
「他になんかあったか?」
そう聞くと、シリカは苦笑いしながら話し始めた。
「ここしばらく、ジェイドとあまり良い関係ではなかったのです。ケイさんが間に入ってくれて、助かりました。」
「ふーん・・・なんか原因でも?」
そう聞くと、シリカは語り始めた。
「ジェイドがここにきたのは20年前です。
私は母と父が戦死し、それをクォーツ様・・・ジェイドの師匠が慰めてくれていたのです。
夜に眠らないジェイドに子守のつもりか、彼は赤子に医学書を夜通し読むのですよ。それがあまりにかわいそうで、私はクォーツ様と変わりばんこに冒険譚を話して聞かせました。クォーツ様が大事にする子供。はじめはそんな認識でした。
・・・ジェイドが赤子の頃は私もおしめを変えたのですよ?」
笑いながら話すシリカ。
目線は長を見ていて、シリカがどんな顔をしているのか、その後ろに立っているケイには、わからない。
長くなりそうな雰囲気を感じて、ケイは壁にもたれた。
・・・飯に遅れたら怒ろう。
「私には、兄がいたんです。 歳の離れた兄で、とても優しく、賢い兄でした。
・・・エルフは長寿で、子供がなかなかできないのは知ってますか?」
ケイは考えて、聞いたことないな、と首を振った。
「長寿なのは知ってるけど、子供は知らん」
「・・・エルフで100歳離れているのは、ヒューマで言う10歳違うのと同じくらいの感覚なんです。」
「それはまた、人からしたら気の遠い話だな。」
「はい。・・・カイヤおばあ様が亡くなって、兄は内政の調整のために里を出ました。
ですから、あまりその辺りの事情は詳しくないのですが。」
「・・・それで?」
相槌を打ちながら、ケイは時計を見た。
・・・これ、なんの話だろう。
お腹すいた。
「兄は、外で獣人の女性と恋に落ちました。 長い話し合いの末、兄は廃嫡を望み里を出ました。時期長に内定していて、兄は優秀だっただけに、それはもう、里は混乱の坩堝でした。」
どっかで聞いた話だな、と思いながら、ケイはうなずいた。
「兄の穴埋めとして、クォーツ様が中継ぎの内政につき、まだ幼かった私はその補佐として政治の仕方を学んでいたのです。」
「シリカはそんとき何歳だったの?」
「100歳くらいだったかと。」
「エルフの100歳って、まだ子供なの?」
「・・・子供ではありませんが、里の中を見れば幼い方でした。」
「なるほどねぇ」
よくわからないが、ケイはとりあえず話を進めるためにうなずいた。
シリカが120歳超えなことに驚いたが、顔に出さないように気を付ける。
「クォーツ様は優秀な薬師で、よく里の外でも診療をしていました。 そんな折、子供を連れてきたのです。
ハーフエルフの子供を。 ・・・獣人とエルフの混血をこの里に入れることに私は反対しました。
この閉鎖的な里で、しかも欠陥持ち。まともに育つわけがないと。
けれど、里がようやく落ち着いた頃でもあり、長も許可を出し、この里で面倒を見ることになったのです。
・・・今では、あの時、なぜ長が許可を出したのか、わかる気がします。」
察しの悪いケイでも、今の話が誰の話か分かった気がした。
次期長を選ばないクラークと、里の中で誰よりも優秀なジェイド。
長がどうしたいと考えていたのか、ケイにもなんとなく分かった。
・・・でもあいつ、確か、ハーフエルフの父って言ってなかったっけ?
長も保守派のわりにやることが・・・うーん。よくわからん。
「・・・それ、あいつは知ってんの?」
遠回しに確認してみる。
「知らないはずです。 ・・・自分が長の血筋だなんて知ったら、あの子はそれを欲するでしょう。
自分を今まで虐げてきた人を押し除ける良い口実です。優秀な人材が不足している今、混血とは言え、きっと私はお払い箱でしょう。
・・・僕はそれに気がついた時、今まで培ってきたものを奪われることが怖くて、嫌で、縋るようにエンジュと結婚した。
愛とか、恋とかどうでも良くて。 ただ、必死で・・・・・・」
いつの間にか口調が変わっているが、気がついてないようだ。
項垂れるように、頭を抱えて下を向いたシリカが、誰かとダブって見えて、ケイは誰だったかな、と考えた。
「あいつはそんな復讐するようなやつじゃないぞ?」
「人の気持ちは移ろいます。この事実を知ったら・・・」
つい、そういってしまう。ジェイドの何を知っているか、俺は知らない。だけど、わかることならある。
何より、元カノと別れたときのことを思い出してしまった。
誰かにダブって見えたのは、自分だった。
「あいつ、よく本を読んでるんだ。」
「本は誰でも・・・」
顔を上げたシリカを強く見つめて、ケイは口にした。
「冒険譚とか大好きで、今でも読んでる。シリカが読み聞かせたのも、覚えてるんじゃないか?
あいつの夢は外を旅することなんだって。
・・・だから、復讐とか、長とか、そんな些事なことかまってらんないと思う。」
そう、言い切り、ケイはもたれていた壁を軽く蹴った。
「シリカがやりたいこと、諦める口実にジェイドをダシにすんなよ」
「僕は・・・諦めたいのでしょうか」
「『やりたいことは、やってからじゃないとわからない』。・・・そうだろ?」
こないだ、言われたことを自分に刻むようにケイは言った。
「・・・その話は、誰にもするなと言っただろう」
嗄れた声がする。寝たままのクラークがシリカに目を向けた。
少し前から目を覚ましていたのにはケイは気がついていたが、とりあえず黙っていた。
「おじい様!!お目覚めに・・・」
シリカが、驚きと困惑と嬉しさとで綯交ぜになった表情で、クラークを見た。
ケイは水さしを差し出して、背を支えると、クラークは咳き込みながら、言った。
「ジェイドは次期長にはしない。カンディアもだ。 お前はもっと励め・・・」
「それは・・・」
シリカが驚いたように呟いた。
そのとき。
ドアを叩く音がして、みんなが沈黙するものだから、ケイは返事をする。
「飯の時間だが・・・長、起きたのか。よかった。」
そう言って、ジェイドが入ってくる。
さっきまで話していたからか、シリカが気まずそうにするので、ケイが対応した。
「診察頼む。 ・・・シリカ、飯行こうぜ」
「・・・はい」
「ああ、カンディアに粥を頼んでくれ」
ジェイドに顎で使われるのは慣れている。
「はいはい」
そう返事をして、ケイはシリカの背を押して外に出た。
出た後に、もう少しクラークとシリカ、話をさせた方が良かったかと思ったけど、あの状況では仕方ないか、と考えを放棄した。
察しのいいジェイドだ、タイミング的にも話の切れ目を狙っていたはずだ。
ジェイドはどこまで聞いていたのだろうか。




