28.joint.共同作業2*
お待たせしました。なんとか復帰できそうです。
*
スライムとのMPの修行を始めて、2週間ほど経ったが、いまだにドレインの習得には至っていない。
この技は自分のMPよりも増えてしまうので少しでも限度を超えると魔力酔いを起こす。
これはなかなかキツいが、日に日に増やせるMPが変わっていき、強くなっていくのを実感できて、悪くない。
問題があるとしたら、魔力を吸い取られるのが嫌で逃げ出すスライムを捕まえるのがしんどいと言うことだけだ。
そんなこんなで今日も逃げられて、ケイは諦めの境地にいた。
日に日に逃げ方が上手くなるスライムを追いかけるのもしんどくなって、ケイはジェイドの仕事部屋に向かっていた。
これならもう普通にレベル上げしてMPを増やしたほうがいいんじゃないの?って最近は思う。
ラファエルはダメって言うから仕方なくやってるけど、そろそろ面倒だ。
お茶を持ってジェイドの仕事部屋に入ると、ジェイドに呆れた顔を向けられる。
「仕事中なんだが?」
まあ、いつものことだ。
二人で茶を飲みながら、雑談にふける。
茶を一口飲んで、ジェイドが疲れた様子のケイを見て、再度、呆れた顔をする。
「・・・また逃げられたのか」
「あいつ早すぎるよ、だんだん逃げる先も予測がつかなくなって、もう人様じゃ捕まえられない」
「まあ、腐っても魔物、と言うことだろう」
「スライムは腐ってねーよ!」
「・・・お前の沸点の判断は難しい。」
ジェイドは相変わらず、薬研でゴリゴリやっている。
いつも思うが、何が楽しいんだろうか。
・・・いや、ケイも日本では仕事が楽しくてやっていたわけではない。
ジェイドも『混ざり物』と言っていたし、選択肢がないという可能性もあっただろう。・・・詮索はよくない。
風呂で話し合って以来、なんだかジェイドの態度が軟化して、以前よりも仲良くなってきた気がする。
だからつい、踏み込み過ぎてしまう。気をつけないと。
そう考えていたら、ジェイドがため息をついた。
「まあ、あの魔物はやたら賢いからな。 仕方ないだろう。」
ジェイドが薬を取り出したので、ケイもタバコを吸おうと二人は窓辺に並んだ。
煙を吐き出して、ボーッと外を眺める。時間は昼をとうに過ぎている。
まだ飯にするには早い時間だけど、もうキッチンではカンディアが夕飯の準備をしていた。
スライム捜索で昼飯を食い逃したので、かなり腹が減ってる。
時間のやりくりがとてもうまい子だ。・・・つまみ食いも許してくれないだろうか。
考え事をしていたら、ジェイドが徐に切り出した。
「逃げられないよう、ここでやったらどうだ?」
「・・・確かに、ジェイドがいたら逃げ出そうなんて気も起きねぇわな。 でも、お前の邪魔にならないか?」
「構わない。 ・・・お前らがずっと居座ると考えたら効率的だ。 時間も、もうそれほどないだろう?」
「そんな俺ら邪魔なの? まあ、ジェイドがいいなら、そうしようかな。」
「それにお前に限界がきたら俺がすぐに対処する。・・・効率的だろう?」
企むような顔で笑うジェイドの顔を見て、ケイはハッとした。
「・・・まさか、俺らを実験台にするつもりか!?」
「・・・・・・賃料とでも思え。」
「うっ・・・」
飯代も、寝床も、家事も無料と思えば、このくらいはまだ許容範囲だろうか。訓練も早く終わるなら一石二鳥だろう。
ラファエルの仕事も、ケイの修行と魔力の引き出し訓練、他にも魔物の襲撃が2度あった。
なんだかんだでもう期限まで3ヶ月を切ったし、ルワンダまで移動するのに1ヶ月かかると言う。
そう考えると、本当に時間がない。
「そう言われちゃあ仕方ないか・・・。 じゃあ、任せる」
ケイが頭の中で時間と訓練を天秤にかけてる間にジェイドは仕事に戻っていた。
ケイもタバコを消して、ジェイドの隣に座り込んで、話をする。
「つっても、テッツァの薬は効果が出るまでそこそこ時間があるだろ? そんな限界までやるっつっても、変わらないんじゃねーの?」
「俺は魔力の操作だけは得意だ。 やり方さえ見れば効率的な方法も助言できるし、カンディアとは違う薬も扱える。」
「さすがジェイド・・・」
ニヤリ、と笑うジェイドにケイは感嘆の声を漏らして、合掌する。
「・・・だから、早くスライムを捕まえてこい」
ジェイドはいつものように呆れた顔に戻ってそう言い、ケイを部屋から蹴り出した。
*
「スライムの行き先ってもなぁ・・・」
まずは洞窟だろうか。次点で滝壺。
でも、もうだいぶ逃げ慣れてきたスライムだ。好きなところに移動するとすぐにバレる事はもう学んでる。
昨日はいなかったし、昨日の今日で、洞窟にはさすがにいないだろう。まあ、通りすがりにでも一回行ってみるか。
「でも他に行くところ・・・」
そういえば、スライムはいつも何してるんだろう?
組み手の時は回復係としていつもそばにいたけど、ケイが力尽きて寝てる時とか、どうしてるんだろう。
診療所ではいつもカンディアについて回るから、カンディアといつも一緒にいると思っていたが、そうでもないみたいだ。
ジェイドが不機嫌そうに「寝る時は少しドアを開けておけ、毎回ドアを開けるためだけに呼ばれるのは不愉快だ」とか言ってたから、多分どっか出歩いてるのは明白なんだけど・・・。
そんなことを考えてたら、思い出の広場に出た。
子供の騒ぐ声に、カンディアの事件を思い出す。少し離れたところで、ボールで遊んでる子供を見つけた。
「あ・・・。あいつらに聞いてみようか」
そう思って近づいたら、目があった途端に蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
「ヒューマだ!!逃げろーー!!!」
「殴られるぞ!!」
「えっ!? いや、なんで!?」
まるで危険人物扱いじゃないか。確かにそう言われるようなことをしてしまったので否定のしようがない。
地味にショックだ。
一人だけ、とんでもないスピードで去っていく後ろ姿を見て、なんとなくカンディアをいじめてたやつかな、と思う。
残されたボールを拾って、どうしようかな、と思案していると、後ろから声をかけられた。
「ケイさん? どうしたの・・・ん、ですか?」
振り向くと、見覚えのある少年だった。
「おお、エレファ。久しぶり。母親の病気はどうなった?」
にこやかに返事を返す。逃げられないよう、内心ヒヤヒヤだ。
「ケイさんのおかげで、もうよくなりました。今日も仕事に行ってます。」
そう言って笑うエレファに、少し癒された。さっき走り去っていった少年らに見せつけてやりたい。
「そのボール、ヨシマのですね。 拾ったの・・・ですか?」
「ん、聞きたいことあったんだけど、その前になんか、逃げられちゃって・・・。」
笑いながら、ケイは片手で頭をかいた。そういやそろそろ髪も切りたいな。
忙しくしてたし、毎日風呂に入って髭も剃ってるから気にはならなくなったせいか、なんだかんだでまだ一度も切ってない。
「聞きたいこと? 僕でよかったら、聞く・・・聞きますよ!!」
エレファの元気な声にケイは笑った。
敬語に慣れていないのか、たまに噛みながら話してくれる姿が微笑ましい。
「スライムを探してるんだ。大事な仕事があるのに、いつも逃げられちゃって。」
「スライムって?」
「白くてぷにぷにの球体の形をした魔物なんだけど・・・。」
「ああ、いつも里の中フラフラしてる子ですね!!」
「え? あいつ、いつもふらついてんの?」
「1日に1回は必ず見ますよ」
「うわー・・・。 迷惑かけてない?大丈夫?」
「特に害はありませんよ」
にっこり笑うエレファ。
「それなら、いいんだけど・・・。
で、仕事があるから急いで探してるんだけど、なかなか見つからないんだよね。
・・・ぶっちゃけ、いつも何してんのか知らないし。」
そう言って、ケイはため息をついた。
個人の行動や好きなことは尊重したいが、『神からの命令』に支障が出るのは困る。
ケイがここにいるのはあくまで《勇者》だからだ。
「いや、そう思うなら、別にスライムに頼らなくてもいいんじゃ・・・?」
「・・・ケイさん、どんな仕事かわからないけど・・・『自分一人でできることには限界があって、それを助け合って悪いところは矯正し合うのが仲間だ』って、母ちゃん言ってた。だから、諦めずに探したほうがいいよ!! ・・・あ、です!!」
「エレファ・・・。 そうだよな、諦めるのはまだ早すぎるよな。」
言われて、気がついた。
いつも一人だったから、また一人でやればいいと思ってしまった。
これでは静香の二の舞だろう。
一人では無理だからこそ、ラファエルはスライムと出会える場所に俺を置き去りにしたし、 ・・・何より。
『ケイト、イッショ、ナラ、コワクナイ!』
そう笑ったスライムを連れていくと決めたのは俺だ。
「ありがとう。 ・・・なあ、いつもどこで見るかとか教えてくれないか?」
「はい!!一緒に探しますよ!!」
先導して歩くエレファについてケイも歩きながら、辺りを見渡す。
そういや、里の中も満足に知らないんだよなぁ。
「いつもはこのへんに、いるのを見るんですけど・・・ 今日はいないみたいですね」
少し残念そうなエレファに笑いかける。きっと、役に立ちたいと思ってくれたのだろう。
「いや、そんなすぐに見つかるとは思ってないよ。次のアテもあるんだろ? そっちも行こう。」
「はい!!」
少年は元気だなぁ・・・なんて、思いながら、後ろを歩く。
ふと、足を止めて、男っぽい?エルフと話をする。
「やあ、エレファ。・・・何か探し物かい?」
「こんにちは、シエロさん。白い球体の魔物を見なかった?」
「ああ、さっき長の家の近くにいたよ。また茶でも飲んでるんじゃないのか?」
「え・・・。 なんて図々しい。 ほんと申し訳ない・・・」
ケイが恥ずかしさで蹲ってるうちに、エレファはお礼を言って、歩き出す。
「ケイさん? いきますよー!!」
呼ばれて、立ち上がる。
その瞬間。
《ケイ!! タスケテ!!》
「スライム・・・!? どうした!?」
頭に響いた水滴の声に、ケイは咄嗟に頭を押さえて返事をする。
酷く動揺しているスライムの感情に揺すぶられて、ケイも心臓が早くなる。
《オサ、タオレタ!! ドウシヨウ!!》
「どこにいる!? 今すぐいく!!」
《オサ ノ イエ ノ ウラ!!》
「とりあえずすぐに行くから、・・・医者!! ・・・じゃない、薬師だ、薬師を呼べ!!」
《ワカッタ!!》
念話を終え、会話が聞こえてないせいで呆然としているエレファに向き直る。
「エレファ、長が倒れたらしい。すぐに行きたい。 ・・・悪いが案内してくれるか?」
「え!? あ、はい!! こっちが近道です!!」
慌てて二人は走り出す。
*
さすが里の子と言うべきか、エレファは家と家の隙間を通り、たまに不法侵入しながら裏道を駆使して案内してくれた。
長の家の裏だと言う広い庭に出て、見渡す。
「スライム!!長は!?」
《ココ!!》
声がして、茂みがガサリと揺れた。
苦しげに顔を歪めたまま、微動だにしない長・・・クラークに触れて、呼気を確認する。・・・呼吸なし。
・・・呼吸なし!? やべえ!! 脈は!? 手が震えて確認できない!!
簡単な救命措置は車の免許を取る時や学校、節を見て何度もやったが、実際の現場に出会したのは初めてだ。
「おい、なんでこんなことに!?」
《ワカンナイ キュウニ タオレチャッタ・・・》
しょんぼりとするスライム。その後ろではエレファがオロオロとしている。
「とりあえず、呼んだんだな?」
《ディア ヨンダ!!スグキテ クレルッ・・》
「は!? なんで見習い呼んでんだよバカ!!」
「ハァ、ハァ、見習いですけど・・・多少は、できますよ!!」
後ろからカンディアの声。
場所を変わって確認する。さすが、手際がいい。
「呼気なし、脈拍弱まってます!! ・・・さすがにこれから先はわかりません!!」
「やっぱダメじゃねーか!! ・・・スライム、ジェイドを呼べ!!すぐ!!」
《ゴメンナサ、マリョ・・・》
スライムがデロリと溶ける。その姿が、いつもの魔力枯渇と似ていて、背筋がスッと冷えた。
「は!? ・・・・・・《鑑定》!!」
___________
スライム
Lv.34
HP 501/663
MP 2/703
種族:《スライム》
称号:勇者のパートナー
状態:魔力枯渇
*スキル*
全攻撃魔法
聖魔法
念話
魔力操作
___________
「どこでこんなに使ったんだよ・・・・・・!!!!」
ケイは歯軋りして、やるせ無い気持ちで地面を殴る。
ドレインの練習の時でもまだ半分くらいはあったはずだ。念話だけでここまで得るとは思えない。
どうする!?!?
頭の中がぐるぐると回る。とりあえずジェイドを呼ばないと。
「エレファ、足は早いか!?」
「え、あ、すごく遅いです!!」
「じゃあ今から速くなれ!!」
カバンからオレンジの魔石を取り出してエレファに踏ませる。身体強化の魔石だ。
「これで、ジェイドを呼んでこい!!」
「・・・はい!!」
風のように走っていくエレファを見送り、スライムを邪魔にならないところに移動させる。
「・・・脈拍さらに低下!! 心肺蘇生に入ります!!」
カンディアが声を上げ、人工呼吸の姿勢に入る。・・・・・・まて、それはまずい。人の命よりもダメだ。
ケモミミ幼女のファーストキスがジジイとかダメだ。
「カンディア、変われ。 俺が・・・やる!!」
覚悟を決める。ジジイがファーストキスよりマシだ。そう言い聞かせて、頭に教官の説明を思い出す。
確か、心臓マッサージ30回、その後、気道確保。その後だ。よし、その前にジェイドが来ることを願おう。
胸の上を強く押し込む。1、2、3、4、5、・・・・・・
「ケイにい、上手・・・」
「これっでも、は、クラスでっ、一番うまいって、言われたんだよ!!」
20、21、22、・・・・・・ 30。間に合わなかった。仕方ない。
クラークの顎を掴んで首を伸ばし、気道確保。鼻を押さえ、ふーーーっと1秒かけて、息を吹き込む。
「脈拍戻りません!!」
腕を掴んで、カンディアが言う。
「クッソ!!」
胸を強く押し込んで、数える。1、2、3、4、5、・・・・・・
何度か繰り返した頃、エレファが息も絶え絶えに駆け込んでくる。
後ろにジェイドと、シリカもいた。
「ジェイドさん呼んできました!!」
「状況説明!!」
エレファがその場に倒れ込み、シリカがカンディアと入れ替わり、脈拍を確認する。こちらもなれた手つきだ。
ジェイドはケイの隣に来たので、人工呼吸の合間に場所を変わる。
心臓マッサージはなかなかに疲れる。息を整えながら、ぶっ倒れたままのエレファをよくやったと撫でる。
やはり、ジェイドの動きは段違いに早い。シリカも介護で慣れているんだろう。
これで間に合わなかったらスライムやカンディアも己の力不足を恨むかもしれない。
じいさん、助かってくれ・・・。
*
久しびりのスライムのステータスです。2度目でしょうか。
難しい話は苦手なのでケイ君の軽い雰囲気に助けられていますね。
おや?と思っても、優しい目で見てください。




