22.combat.組紐と襲撃2*
どうでもいい話ですが、筆者は「2」が好きなので今回の「22話」に、むふふと思いながら書きました。
内容には特に関係ありませんです。
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《トモダチナノ、ケンカ、ダメ》
スライムの言葉に、ジェイドが『お前のせいか』と言わんばかりにこちらを睨む。その視線に、ケイはびくりとした。
ケイにとってはサウザンドウルフよりもジェイドが怖い。
「だから、俺も知らないって・・・」
言い訳して、視線を逸らす。
スライムは甲斐甲斐しくもケイの水魔法で濡れた狼の毛皮を風魔法で乾かしていて、仲の良さがうかがえる。
さっきまで殺し合っていたとは思えないほど、大きな狼は無防備にゴロンと横になっているが、少し開いた口から見える犬歯がデカすぎて、正直怖い。ジェイドはケイから視線を外し、無言のままスライムと完全に近所の人懐っこい犬みたいになったサウザンドウルフを睨んだ。
やっとジェイドの視線から解放されたケイはサウザンドウルフを手懐けてるらしいスライムに、思わず呆れた声を出す。
「で、これはどう言うことだよ?」
スライムは誇らしそうな顔をして、《キノウ、トモダチニナッタ》と言う。
「・・・・・・・・・・・・。」
ケイは黙ったままのジェイドを見る。
「なぁ、こんな魔物、里にいるのってやっぱ変だよな?」
ケイが怖々と聞くと、ジェイドは目を伏せて、考えるように腕を組んでから口を開いた。
「いや。 ・・・・・・確か、ここは元々いざって時に逃げ出せるよう、里の外に繋がってる抜け道がある。長いこと使ってなかったし、魔物が住み着いてもおかしくはない。少なくとも俺の父の世代からここを使った記録はないな。」
「じゃあスライムのせいじゃないじゃん!!監督不行届も甚だしいよ!?」
ケイが叫ぶとジェイドがまた睨みを利かせる。ケイの喉からヒゥッと情けない声が漏れた。
いつも怖いが、戦闘モードのジェイドは普段の10倍くらい怖い。とんでもなく怖い。漏らしそうだ。
「とりあえず、こいつの処分は後回しだ。 ・・・ヒトを襲わないよう、ペット共々言い含めさせろ。俺は外の戦闘に合流する。」
そう言ってジェイドは立ち上がった。視線が逸れて、ケイは再度、ほっと息をつく。
こいつ、全部押し付ける気だ。そう思ったけど、正直それどころではないのはわかっているつもりなので、素直に頷く。
あれ? と、ふと思いつくことがあった。
ケイはもう一度《鑑定》を使う。
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サウザンドウルフ
Lv.52
HP 1220/1500
MP 149/420
種族:ウルフ
称号:ウルフの王
状態:リラックス
*スキル*
攻撃魔法(風・火・水・光)
念話
群れを作るマハウルフの統率を行う者の中でも稀に現れる秀でた存在。
その発生条件や生態は解明されていない。
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・・・マハウルフの統率者ってことは、このマハウルフの襲撃もやめさせれるんじゃない?
そう思って、ケイはサウザンドウルフに声をかけた。
「なぁ、お前、念話があるんだから話せるよな?」
そう言うと、サウザンドウルフは耳をピクリと動かして、チラ、とケイに視線を動かした。
《よくわかったな》
スライムよりも悠長に話す、低い声だった。
「外で起こってるマハウルフとエルフの騒ぎ、収められるか?」
そう聞くと、ジェイドは興味深げに立ち止まり、サウザンドウルフは、フンと鼻息をこぼして笑った。
《なぜ我がそんなことを? 下界のことなど、我は感知せぬ。》
「スライム、頼んでみてくれるか?」
《エエーー。》
そんなやりとりをしていると、後ろからジェイドが割り込んできた。
「なんとかなるのか? 今回はやたら数が多いらしい。死者が出る前に落ち着くなら、そのほうがいい。」
「頼む、スライム。飯増やすから。」
・・・ジェイドが。そう心で呟くと、スライムが渋々とサウザンドウルフをみた。
何事か話した後、サウザンドウルフがフンと鼻息をこぼした。
《・・・仕方ない、我が姫の頼みならば。》
そう言って、サウザンドウルフは体を起こす。
近くで見ると本当に大きい狼だ。
・・・・・・って、姫って言った? スライムを? 本当に仲がいいんだな・・・。
ケイが呆れながらそう思っていると、サウザンドウルフは洞窟の奥の方へ消えていった。
「俺は戦場の指揮をしてくる。里の奴らがこいつに攻撃して厄介なことになっても困るからな」
そう言って、今度こそジェイドはサウザンドウルフとは反対の、ケイたちが入ってきた方へ走っていった。
ふたりだけになり、シン、と静まった洞窟内で、ケイはスライムに問いかけた。
「スライム、なんでこんな奴が里に住みついてるの、誰にも言わなかったんだ?」
そう聞くとスライムはキョトンとした顔をした。
《ウルフ、ズットココ、スンデル、ッテ・・・ナンデミンナ、シラナイノ?》
「ずっと? いつから?」
《・・・?》
困ったように傾げるスライム。これ以上は聞き出せなさそうだ。
諦めて、ケイは立ち上がる。誰もいなくなった以上、ここにいても仕方ない。
せめて、人のいるところで待とう。・・・いや、決して暗い場所が怖いとかではない。
「スライム、とりあえず里の広場に行こう。」
《ワカッタ!!》
返事だけはいつも立派で、本当に呆れてしまう。
*
里にウルフが住み着いたことによる騒ぎは混迷を極めた。
里の外での戦闘自体は幸い、死者は出ず、怪我人だけで終結し、サウザンドウルフは元の寝ぐらに戻った。
マハウルフの方には被害が出たようだが、サウザンドウルフはその辺りは気にしてないようだった。
・・・・・・話を聞く限り、あの洞窟は今の長が生まれる前から使われていなかったそうだ。
エルフの寿命を考えると、何十年も、と言うより、数百年と言ったほうが正しいだろう。
そんな話を聞きながら、「俺がいる必要あんのかなぁ」と思いつつ、長の家での首脳陣の会議に参加していた。
本当は逃げようとしたのだが、ジェイドの眼光に出席を強いられている。
偉いエルフたちに囲まれて、ケイは少し萎縮していた。
一体、こんな大事な会議に参加して、ケイは何を話せと言うのか。
「今回は役に立ったが、今後も協力的とは限らんだろう」
「スライム? の言うことしか聞かないと言う話ですしな・・・」
「あの洞窟自体、確か・・・立ち入らないよう封鎖してあったはずでは?」
「鍵はつけていなかったのか? 文献では結界があったはずだが・・・」
そう言い合う偉い人たち。
偉い人の前でのジェイドは慇懃な態度で一つずつ答えるのが少し面白い。
「私が入ったときは結界はありませんでした。洗濯場の奥ですから。」
「スライムも結界はなかったと証言しています。時の経過とともに綻んでしまったのかと。」
「森の中ならまだしも、結界がなくても親の手伝いをするような、洗濯に行く子供の中にはわざわざ奥まで行って洞窟に入り込むような子供は今のところいないでしょう」
そう淡々と答えるジェイドを眺めながら、茶を飲んでいたら、急にケイの話題になる。
「スライムに懐いているのであれば『草原の勇者』とともに連れ出してもらうのが良いのでは?」
慌てて挙手をした。全員がこちらを向く。
「ちょ、連れてくのは困る!! あんなでかい獣、この里でも面倒見切れないなら、人の街にすら入れないだろう!?」
ケイがそう言うと、賛成と言う気満々だったお偉いさんが口を出した。
「勇者の連れなら問題ないだろう?」
そう言うお偉いさんにさらに偉い長のクラークが反論した。
「敵がどこに潜んでいるか分からないのだ。目立つのは困るな・・・」
「そ、そうそう!! できるだけ秘密裏に、こっそり世界を回りたいんだ!!」
目立っては、役目が終わった後の処理に困る。
・・・いや、役目が終わったら俺はどうなるんだろう。この世界を去るんだろうか。
ふと考えていると、ジェイドが手を挙げた。視線が集まる。
「どちらにしろ、今回のことで、外の魔物が結界を素通りして里内への進行が可能ということがわかりました。これは直ちに対策が必要では?」
「そうだな、結界を張り直すのが先決じゃ。」
「誰がするんだ? 文献に残っているのか?」
「今まさに魔物がいるのにどう結界を張るんだ?」
「とりあえず結界を張る間、洞窟から出てもらって・・・」
「里内に? 森に? どちらにしてもあんなでかい魔物を放逐するのはリスクが・・・」
どんどんと、「勇者に押し付けよう」と言う話の流れになっている。困った。
まあ、強い連れが1匹増えるのは困ることじゃないが・・・
あの巨体と毛皮があれば、野宿も楽だろう。でも街に入る時とか、人に出会った時、本当にどうすればいいんだ?
「ではとりあえず、彼の者はスライム君に一任しよう。その管理はケイ殿、頼めるか?」
そう言われてしまう。拒否したいが、できる雰囲気でもない。
ここは・・・
「いや、この里で俺はジェイドの診療所に厄介になってる身の上ですので・・・ジェイドが管理したほうが良いと思います!!」
秘儀、責任の押し付け!!
咳の多いお偉いさんを見てそう言うと、彼は困ったように視線を泳がした。
「んむ・・・、確かにそれは・・・」
「診療所に獣がいるのは色々とまずいのでは?」
「ワシの孫が喘息持ちでな・・・それは困るな。」
「ではどうすれば・・・」
また振り出しに戻る。
*
外が真っ暗になってから、会議は終わった。
とりあえず、ジェイドの意外なほどの口のうまさであの巨躯の獣が診療所に送られることは阻止できたが・・・
結局、なんの進展もないままお開きになった。
診療所に戻ると、晩飯が並べられており、カンディアはもう食べ終えたようでいなかった。
先に沐浴に行くと言うジェイドについていく。
「人に責任を押し付けるのは良くないと思うんだよ」
「人に押し付けようとして、どの口が言う」
「だって、あのでかいウルフが住み着いたのはそもそもこの里の杜撰な管理のせいだろ?」
「・・・まあそうだな。」
「スライムがたまたま見つけて、たまたま仲良しになっただけで、こっちにはなんの落ち度もないじゃん。むしろ気付いてくれてありがとうじゃないの?」
「・・・それもそうだな。これまで気づかずにそこにいて、共存してたんだからな・・・。」
そんな話をしながら、いつものベンチに服を置いて、体に冷たい湖の水を流す。
なんだかんだ二日ぶりの風呂に少しテンションが上がる。
いつものように温めた湖に浸かりながら、ケイとジェイドはくだらないことを言い合いながら湯を楽しんだ。
困ったことに、あの洞窟以外にあんなでかい獣を置いておくスペースは無い。
・・・が、あの洞窟はいずれにしても塞いでおかないと、いつか魔物の侵入を許しかねない。八方塞がりだった。
「どうしたもんかねぇ」
そう思いながら、そういえば、スライムがいない。
今度は一緒に入ると息巻いていたのはなんだったのか。
「ハァ・・・」
「湯っていいよな」
「・・・・・・そうだな」
少し顔色が赤くなってきたジェイドとともに、のぼせないうちに湯から上がって、帰路に着く。
遅い夕食を食べながら、どこのどいつのサボり癖がひどいとか、今日の戦闘は久しぶりだったからか、作戦がザルだったとか、くだらない話をした。やっぱこう言う時間は大事だな、なんて思う。
「そういや、カンディアは?」
話が途切れた時、気になっていたことを聞いてみる。
ジェイドは目を閉じて、お得意の魔力感知で、言外のケイが欲しかった答えもすぐに出した。
「・・・部屋だろう。お前のペットも一緒だな。本でも読んでるんじゃないか?」
「ペットじゃねぇっつうの。」
特に意味があったわけではないが、部屋のある方のドアの方を見た。
基本的に、この家ではランプや蝋燭は必要以上に使わないので昼間以外はほとんど真っ暗だ。
今も魔道具のランプが一つ食卓にあるだけで、薄暗い。
でも、何をしているんだろうか。寝る時間にしてはまだ早い。
「少し、部屋を見てくる。・・・魔物の襲撃もあったし、少し話してくる。」
ソワソワするケイにじれたのか、そう言って、食器を下げるジェイドについて、ケイも台所に移動する。
水瓶の水が少なかったのでついでに水を足しながら、魔法でぬるめの水を出して、ジェイドの食器と合わせて洗う。
いつも食器の片付けはカンディアがやってくれるのだが、こんな夜遅くに食べて、それを任せるのはかわいそうだ。
泡立ちの悪い洗剤を食器用スポンジにつけて、丁寧に洗う。
初め、そのスポンジは硬くてびっくりしたが、水につけると驚くぐらい柔らかくなった。これも不思議植物だろうか。
皿と湯飲みを洗い終わって、ケイがタオルで拭いていると、ジェイドが戻ってきた。
「スライムと本を読みながら寝落ちしてた。ま、襲撃もあったし、疲れただろう。今日は一緒に寝るそうだ。
・・・俺は仕事に戻る。お前はどうする?」
そう聞かれて、戸惑う。 いつもスライムと寝ていたから、一人だと思うと途端に手持ち無沙汰だ。
もう、夜も遅い時間とは言っても、急いで寝るほどでもない。明日もこれと言った予定があるわけでもないし、ケイ自身、昼まで寝ていたから、すぐに寝るのはなんだかなぁ。何かやること・・・そういえば、今日しようと思っていた、はじめの予定を思い出した。
「組み手しない?」
「俺は仕事だと言っただろう」
そうなると・・・
「んーー。 ・・・そういや途中で放り出してきたし、組紐の続きでもしようかな」
「賢明だな」
「ほっとけ」
二人はティーセットを持ってジェイドの仕事部屋に移動した。
*
深夜という時間になって、ケイの組紐は完成した。
日本の時と同じく、夜の方が集中できるのか、黙々と作業ができた。
隣では相変わらず薬研でゴリゴリと薬草をすりつぶしていた。
正直、サウザンドウルフとの戦闘もあったし、MPが目減りしていて、眠気がひどい。
「これにプレートを通して・・・結んで完成?」
組紐の後処理をジェイドにしてもらい、長い紐ができ上がった。
複雑に編まれた紐は濃淡のついた赤と青で綺麗だ。
プレートを通して、ジェイドに渡す。自然と解けないよう、少し特殊な編み方をしてもらい、輪にしてもらって首にかけた。
「これで完成だ」
首に下げてみるとなんだかかっこいいアクセサリーのようだ。
「ほう、、意外にいい感じだな!!」
楽しげに眺めて言うケイに、ジェイドは鼻で笑った。
「途中ミスってるな。まあ、お前にしてはよくできた方だ。」
「初めてだし、まあ首から下げてりゃそんなんわかんねぇよ」
ケイも小さな綻びを見つけ、笑いながら、答える。
コツコツとこんなにも長時間集中して何かを成し遂げたことはないので少し誇らしく思った。
一仕事終えた後の一服をする。
薬を吸うジェイドと窓辺で並んで煙を吐き出しながら、ふと気になって聞いてみた。
「組紐も終わったし俺はそろそろ寝るけど・・・お前は寝ないのか?」
この里に来て、ジェイドが寝ているところを、まだ沐浴でのぼせた時の一回しか見てない。
「俺は寝ない」
「は? まだ仕事すんの? ワーカーホリックなの?」
「そんな言葉は知らん。 ・・・ユグドラシルの葉の効果で、寝なくても疲れは取れるんだ。体調不良も治る。」
「まじかよ、少しくらいは寝ないのか? ・・・寝ないのって、精神的に疲れないか?」
「寝るよりも、やるべき仕事と勉強がある。・・・俺は人より寿命が短いんだ。時間を無駄にする方が間違いだと思うな。」
「なるほどなぁ・・・」
「寝るならさっさとでてけ。 ・・・明日の夕方以降なら相手してやる。」
「まじ!?」
フ、と煙を吐き出して答えるが、ジェイドからの返事はない。
ケイもさっさと吸い殻を片付ける。 ジェイドは薬草を棚から出したりと動き出してしまった。
「わかった。ありがと。・・・じゃ、おやすみ」
「ああ。」
タバコの火を消して、短いやり取りの後、ケイは自室に戻った。
ベッドに座って、ケイはため息をついた。
「・・・おやすみ」
誰も返事はしないと思ったけれど、つい、言ってしまう。
一人で寝るのが寂しいなんて、慣れとは怖いな。
そう思いながら、なんだかいつもより寒いなぁ、と感じながら、ケイは布団にくるまった。




