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2.F❌❌KIN.神様

2話です。物語の進め方で悩んでました。よろしくお願いします。


覚悟を決めて歩き出したは良いものの、見渡す限りの地平線だ。

狐の意を借りたような脆い覚悟なんて、30分も歩いた頃には崩れ、かわりに不安が募って来た。


「ウーサー・・・。 はぁ。 」

昔見た映画の精神統一の呪文を唱えながら、手に持った剣を振る。

街にはどのくらいで着くんだろうか。こんな何にもないとこに置き去りなんて神様も意地の悪い。


今後の計画を色々と浮かべては消してを繰り返していた時、ふと神様のメモを思い出した。

『剣で魔物を倒すと・・・』


いつか魔物・・・スライムとか、この剣で倒すんだろうか。

少し・・・いや。かなり重たい剣の重みがやけに気になる。

「まあ、軽いとなんかこう、うまくささらなさそうだしな・・・」


ただ歩くだけでは考え過ぎてしまうし、何より暇である。

とにかく何はともあれ歩くしかないので足だけは動かすケイ。


「あーるーこー、あーるーーこぉーーー。あああああ!!!! 


・・・・・・・・・・・・歩くの飽きた・・・。」


あのクソ神様め。もはや神って呼ぶのもいやだ。

「あのクソ野郎。 なんでこんな辺鄙な場所に置き去りなんだよ。

 フツーもっと街が近いとか、ちょっとしたら可愛い女の子に拾われるとか、なんかあんだろ。」

ぐちぐちと呟きながら、ケイはひたすらに歩く。歩く。あるく。アルク。ARUKU。


ここにあるのは草と空と雲、それを分ける地平線だけだ。

女の子のおの字もなければもふもふもいない。

なんならさっきまでちらちら遠目に見かけていたスライムもいなくなってしまった。

もしかしたら、この世界は草むらしかない世界で、何周も歩いてるのではないか?なんて考えが過ぎった。

もう2時間も歩いてる。

「歩くだけなのが暇すぎる。走るか。」

何度目かになるため息を吐きつつ、走って、疲れて、また歩いた。

剣を振るのも、持つのさえ面倒になって剣も肩からかけているし、男がなんとやらももう忘れている。


何時間も歩いて、喉が渇いたな〜

って水筒を取り出して、学生の頃から愛用している手に馴染むその水筒の、その軽さに驚いた。

持つだけで中身がわかるのは10年も使ってたら身につく物だろう。



「・・・あ。」


ケイはやっと、とっくの昔にカラになった水筒のことに思い当たる。

「え、やばいじゃん・・・」

さっきと同じ、青空と同じくらい真っ青な顔になる。

今度の空はかなり歩いたことと、たまに風が強めに吹くこともあり、少し大きめの雲が出てきて、全く同じわけではないが。


焦りつつ蓋を開けたが、カラの水筒は何度見てもカラである。

わずか一滴だけ滴る麦茶をぺろりとなめた後、ため息をついた。

さっきまでの余裕も消え失せ、小学校の頃、運動会で熱中症で倒れたのを思い出した。

いつ自分が脱水症状になるのか、そこそこに乾いていた喉がいやに気になる。


「川でも流れてないと熱中症になりかねんぞ・・・・・・」

いくら目を彷徨わせても見えるのは青と白と緑。川なんて見当たらない。


「歩くしかないか。」

剣があまりに重く感じて、水筒と一緒にカバンにしまう。

中身の重さをほとんど感じないのがただただ救いだった。


「神なんか糞食らえ・・・・・・」

喉の渇きを押し殺すように唸ってケイはひたすら歩いた。







そこからさらに1時間歩いた頃、ケイは喉の渇きと精神的ストレスでついに座り込んでしまった。

もう汗も出なくなり、とにかく暑い。

先ほどからかなり多く厚くなってきた雲で日差しは隠れてはいるが、湿度の孕んだ風が酷く不愉快だ。

緑の大地は空との境界線をまっすぐ引いたまま、目覚めてからとなんの変化もない。


「じいちゃん・・・ ばあちゃん・・・」

ぽつり呟く。

喉はカラカラで、声はかすれた。


時間の感覚もないまま、このまま死ぬんじゃないかと思った時、俯いた頭を叩かれた気がした。

今のケイにはそんなことも気にする余裕なんてない。

顔を上げるのもしんどいのだ。のと同時にどっと幾重にも全身を打たれた。

さすがに驚いて見上げると、目も開けられないほどの強い雨だった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あ、、。 は。  ・・・・あは、あはははは!!!」



つい、歓喜の声が漏れた。雨が汚れていようとなんだろうと、水は水だ。

ケイは口を大きく開けて、雨を飲み込む。

小粒なのがもどかしい。腕についた雨粒さえなめた。

せっかく乾いた服も髪もまたずぶ濡れだけど、喉が潤うならなんでもいい。

腹いっぱいに水が欲しい。ただそう願った。


興奮と飢えにも似た喉の渇きが少し落ち着いた頃、思い出したように慌てて水筒のふたを開けた。

水筒の1/5ほど溜まった頃、分厚く大きい雲はまるで散らすように霧散し、雨もスッと消えた。


不思議なほどにいきなり現れた眩しいほどの太陽と再度対面しながら、雨によって濡れた芝もどうせ全身濡れている、と気にしないまま座りこむ。


ケイはふと自分の掌を見た。

最近は営業とデスクワークばかりで平たくなった爪と細い指先。



「雨・・・水・・・」


ふと、スライムから食らった水攻撃を思い出した。

あれが使えるようになれば、飲めるかどうかは置いておいて、もう水に困らないだろう。

異世界特有のお風呂事情も解決だ。


神様のメモには『魔法は量、質、形をイメージしながら呪文を唱えると発動します。』と書いてあった。

天啓かと思った。


「これで脱水症状にならなくて済む!!」


勢い勇んで、立ち上がり、ふらりとよろけた。

さっきの狂ったような哄笑をつられて思い出して、自分に苦笑いしてしまう。


「ウーサー・・・ よし。」

おまじないをして深呼吸した。

腕を突き出し挑戦しようとして、はて。と呪文を知らないことに気がついた。


「魔法ってどうやるんだ?」


腕を組んで再度思考に戻る。ゲームではなんて言ってたっけ?

物語の中では魔力を練るとか感じるとかやってたけど、俺自身はコントローラーのボタンを押してただけだ。


「呪文・・・ 呪文。 アクア? ウォッシャー? 

 うーん、普通にウォーターとかじゃダメなんだろうか?」


物は試し。

とりあえずやろうと思い、メモ通りに質と量、形を頭に浮かべる。

量は、水筒の残りを満たすくらい。形は扱いやすそうな丸型かな。

水の質・・・は、よくわからない。質ってなんだ。炎なら熱さとか色かな?

よくわからん。とりあえず喉乾いたな。また麦茶飲みたい。

・・・わからんけど、これ思い浮かべなかったらどうなんの?


物は試しだ!!


「《ウォーター》!!」


腕を伸ばして大声を出してみた。

すると少し体から何かが抜ける感覚の後、大きめの茶色の液体が目の前に浮かぶように出現した。

すでに蓋を開けて準備してあった水筒にドキドキしながら下ろすと、茶色の液体は形を崩してバシャッと水筒に流れ込んだ。

水筒から溢れた液体は地面に吸い込まれたが、しっかりと「水」は出た。茶色いけど。


「なんか・・・ 麦茶っぽいの出てきちゃったよ。」


呟いて、水筒を手にとった。匂いを嗅いでみると、

「あ、うちの麦茶の匂いだ・・・」


思ったのとは違うが、とりあえず飲み物はゲットした。

水の予定が、質のところで麦茶を思い浮かべたままだったせいだろう。

とりあえず一口飲むと、かなり薄い、ちょっと苦味のある味が口内に広がって、思わず吐き出した。


「まっず!!うっす!!」


多分、初めに入っていた雨で薄まってしまったのだろう。まさか麦茶が出るとは思わなかったし。

妙な苦味は、雨のせいだろうか。それとも思い浮かべるのが弱かったからか。


さっき雨を直接飲んだ時にそう思わなかったのは喉が乾き過ぎてまずい雨でも飲めたからだろう。

水筒をひっくり返して中身をしっかり捨て、もう一度、真剣に、今度は初めから麦茶を思い浮かべた。

幸い、麦茶なら材料も作り方もわかっている。水筒の内容量だって、今度はぴったりに入れてやる。


《ウォーター》の呪文で普通に麦茶を出した。今度はいつものあの味だった。おいしい。

初めての魔法が麦茶なのがなんとも締まらないが。


「水魔法で麦茶が出てくるのはとりあえず置いといて、これで飲み物には困らなくなったわけだ。」

くくく、と悪役を真似て笑ってみた。

何はともあれ、これで少し生き延びたわけだ。


ケイは今度こそ声の限り生きている喜びを叫んだ。


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