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12.strange.エルフの隠れ里

スライムとの感動の再会もそこそこに、食事にすると言うのでタオルと石鹸、剃刀を借りて手と顔の汚れと伸びすぎた髭を落とした。この家にはなぜか鏡がないので手探りで切ったら切れ味の良い剃刀で薄く切ってしまった。

顔も手も、以前から食事の前には洗っていたが、何度洗っても垢が取りきれなくて、魔法で水瓶に水を足したほどだ。

石鹸もなかなか泡立たず、思ったよりも汚くて、自分でも驚いた。

顔を洗った後、もう一度、ジェイドに額と剃刀で切った場所に薬を塗ってもらったが、さっきのひどい痛みほどは染みなくて、少しホッとした。


そんなこんなで、昼飯の支度をする2人を後ろの椅子に座って見守りながら、モシャモシャと以前焼いてカバンに仕舞ってあった肉を食べるスライムを膝に乗せて、モニモニとスライムボディを堪能しつつ、ジェイドとカンディアの調理風景を見ながらケイは2人から『草原』とやらの話を聞いていた。

カンディアはジェイドの妹らしい。赤のキャスケット帽がよく似合う、髪の長い、大人しそうな少女だ。料理の手つきはあまり手際がいいとは言えないが、見た目の年齢を考えると、それなりに優秀なのではないかと思う。


なぜここに俺が連れてこられたかというと、ケイとスライムが出てきたあのだだっ広い草原は、エルフの間では神聖な場所として伝えられてるらしい。そんなところから出てきた人間(この世界ではヒューマという種族らしい)は色々な恵みをもたらすと言われている・・・らしい。

「・・・・・・だから、『草原』とそこからの生存者はエルフにとって神様と同じくらい特別なんだよ。」

最後にそう言葉を締めくくったカンディアの頭には出会った時からずっと赤い帽子があって、少し大きいのか、たまに顔まで隠してしまう。その度に位置を直す姿を見ていると、家なんだからとればいいのに。

邪魔じゃないのかな?とケイはふと思った。


「なんでそんな大事にされてるの? つーかその割にジェイドは乱暴だったな。」

「・・・『草原』からやってくるヒューマは、森の奥地にあるはずのここまで、毎回『枝』に気づかれずに入り込んで現れる。エルフたちが見つけた頃には大体死んでるか、死にかけだ。だから、生きてるヒューマはひとまず捕獲・保護する。」

「ああ・・・確かにあの草原を抜けるのはしんどかったな・・・死ぬ目にもあったし。

 でも俺、言っちゃなんだけどなんも持ってねぇよ? 無一文だし。恵みなんてムリだよ。」

「頭も髭もボサボサで金目の物も持ってなさそうなお前に何の期待もしていない。ただの侵入者かと思ったぐらいだしな。俺はただ、村のしきたり、言い伝え通りにお前を村に連れてきただけだ。」

手を拭きながら振り返って言う、相変わらず睨むようなジェイドの視線にちょっとたじろぎながら、厚かましいとは思いつつも、ケイもそれなりに切羽詰ってるので、軽く衣食住の要求してみる。

「そうなんだ。 じゃあなんか宿とか紹介してくれない? 

 こっちにきてから焼いた肉と草しか食べてなくて、現代的な飯に飢えてんだ、あと風呂にも入りたい・・・。」

「ここはお前の思っている以上に閉鎖的な里だ。普通はよそ者は入れない。・・・だがここは薬屋だ。患者用なら寝床もあるからしばらくは貸してやる。

 ・・・・・・額の薬が乾いたら、沐浴とその服を洗濯してこい。お前、臭いぞ。」


辛辣な言葉にケイは少し落ち込みそうになったけど、事実なので仕方ない。


「臭いとか言われても何ヶ月も風呂どころかまともな寝床もなかったんだよ・・・。 なぁ、着替えって幾らくらいする? 物々交換できる?」

俺から出せるものなんて狼の肉と今着てる服ぐらいだけど・・・と内心考えていた。

「俺の古着でいいなら着替えは貸す。手先の器用な知り合いがいるから髪も切って身綺麗にしてこい。」

「お前は神か・・・?」

「あと、体を綺麗にしたらもう一回薬を塗れ。」

感動に打ちひしがれるケイを無視して、ジェイドは台所を離れると、薬の入った小瓶を持ってきてケイに差し出す。

「ありがたいんだけど、もう血止まったしいらないよ。」

ケイは答えながらつい渋い顔をする。あの「染みる」なんて生易しい言葉では表せなほどの痛みを思い出して、額がうずいた。

「あれは傷口に直接塗ったからだ。もう傷は閉じてるだろう? 次は染みないから安心しろ。傷が残ると俺が不快だ。」

態度や仕草は素っ気無いけど、やたら薬を推してくるジェイドに根負けして、小瓶を受け取るケイ。

そのうちに、カンディアによって食卓には色々な料理と焼きたてなのか湯気のたつパンが並べられていく。

「なんだかジェイドは医者みたいだな」

「一応、これでも薬師を生業にしてるからな」

そう言われて、傷にうるさいのはそう言うことか、とケイは相変わらず遅すぎる納得をした。

汚いから、と食事の手伝いを断られて暇なので、片手にスライム、片手にぴったりと封をされた薬を転がしていると、カンディアの声がした。

「食事の支度が出来ましたよ」

ケイはソワソワと2人が席につくのを待って、「いただきます」と言って食べ始めようとすると、ジェイドに止められた。

2人はテーブルに肘を突き、両手を胸の前に合わせて「天と地に座す二柱の神の恵みに感謝を」と言う。

ケイと見様見真似で言葉を繰り返すと、スライムも念話で繰り返した。そもそも手がないからポーズはなしだ。

ケイが言うと食事が始まる。

並べられた食事は野菜のスープに、香草の効いた照り焼きのような肉とパンだった。肉は食べるとやわらかく、淡白な味で、なんとなく鶏肉っぽく感じた。肉の後にパンをかじるとこちらは思ったより固くて、スープとともに口の中でふやかして食べる。野菜のスープにはカブのようなものと葉物が浮いていて、塩と香辛料だけの質素なものだったが、味付けの殆どない食事ばかりだった手前、とても美味しかった。何ヶ月ぶりかの人間らしい食事に少し涙が出た。

「お兄ちゃんは泣き虫なの?」

カンディアに笑われながら、硬いパンを噛み締めていたら恨めしそうなスライムと目があって、肉を一切れ差し出した。

間借りの身で本来食事の必要ないスライムの飯まで強請るわけにはいかないだろう。取り皿をもらって半分こするとにした。

「うまいな!! ・・・にしてもエルフって肉も食べるんだな。草食だと思ってたよ。」

「好んで食べるエルフは少ないが・・・生きてく上でタンパク質はエルフでも重要だ」

「私はお肉大好きだよ」

「そうなんだ」

《ボクモオニク!!スキ!!モットホシイ!!》

「はいはい・・・なぁ、うちの連れはよく食べるんだ。この香辛料?って高いのか?手持ちの肉を焼いて欲しいんだけど・・・」

「ああ、これは森で取れるから、好きに使うと良い」

カンディアが調理場に立ってくれて、カバンから血抜きした狼の肉を出すと驚かれた。

「森で襲われて獲ってきた狼の肉だ。よかったらまだまだあるからみんなで食べようぜ」

「良いんですか!? それにとても新鮮です!!・・・早速焼きますね!!」

《ヤッター!!》

「そんな小さいカバンによく入るな・・・。」

彼女はスライムを拾ってきただけあって、スライムと仲良しだ。




追加の狼肉も好評で、楽しく飯を食べた。やはり香辛料は偉大だ。硬いと思っていた肉も塩や酢で下処理をするととても柔らかくて舌鼓を打った。

その後、食後のお茶を飲み終わった後、ケイにあてがわれた部屋を案内されている。

カンディアによって着替えやタオル、歯ブラシや諸々準備されていて、あの子はきっと良い嫁になるな・・・なんて他人事ながら思う。

「ベッドに入る前に沐浴に行ってこい」

カバンを置き、引き出しやらを物色してる中で、入り口にもたれた格好のジェイドにそんなことを言われる。


「え、っと。使い方とか、教えてくれる? そろそろ俺に常識通じないのわかってるよな?」


言った後で少し傲慢な言い方になったことに気づいたけど、ジェイドは気にも留めず、少し考えた後、部屋の隅に置かれたデカイたらいを指さした。

「これでなんとかしろ。入院患者用の湯浴みたらいだ。今日は忙しいから付き合えん。水汲みは・・・」

「あ、水は魔法で出すから良いよ」

「・・・魔法。そうか、そうだったな。部屋を水浸しにしないよう、家の裏でやってこい」

そう言うと部屋から出て右手の廊下の先の勝手口を指差してジェイドは仕事に戻る。



1人と1匹になったケイはいそいそとたらいを裏口から運んだ。たらいが戸口につっかえたが問題なく運び出した。

家の外に出ると、そこは広めの畑になっていて、薬草や野菜、なんかの木がたくさん植えられていた。

柵越しに隣の民家の畑も見えたけど、ここの畑は倍以上広い。薬屋だからだろうか?

周りの家から見えないよう、物置っぽいところの影にたらいを置いて、お湯を張り、服を脱いで、感慨深くため息をついた。

「久しぶりの風呂だ・・・」

また涙が出てきた。

ここ数ヶ月、人間らしさを捨てた生活だっただけに、感情の波が激しい自覚がある。



「ハァァ・・・やばい、気持ちい・・・」

屋外で全裸というのは少し恥ずかしいが、露天風呂と思えば躊躇はなかった。

借りたタオルと石鹸で何度もゴシゴシと洗い、しつこい垢を落として、垢と汚れで絡まった髪を剃刀で適当に切り、最低限整えてから、スライムと一緒にたらいに浸かる。

たらいを持った時はそんな大きくないように感じたけれど、入ってみると思ったより深めで、少しかがめば肩まで入れた。

屋外だけにすぐ冷めていく湯。火魔法で少しずつ湯の温度を上げながら1人と1匹は風呂を楽しんでいた。

《オフロ、アッタカイネー》

「ああ、良いだろ? 風呂は日本の文化だ」

周りを木に囲まれた村・・。いや、里?だっけ? 狭いが空は見える。空には太陽と、雲が見えた。

「昼の露天風呂も乙なもんだな〜」

スライムの飛ばす水鉄砲を見ながら深々と呟いて、たらいの端に腕をつくと、畑の端にカンディアを発見する。

知らない人に見られるのは抵抗があるが、見知った幼女に裸を見られても別に気にならないし興奮もしない。

目があって軽く手を振ると、少し恥ずかしそうに顔を草や野菜が色々詰まったカゴで隠しながら近づいてきて、疑問を投げかけられた。

「お兄さん、なんでお湯に入ってるの?」

「え、風呂はこーゆーもんだろ?」

「沐浴は湖に入るんだよ? 普通は水で綺麗にするんだよ?」

「え? 水の中? 寒くない?」

「ん〜?この里の中の気温は年中一定だから、寒くないでしょ?」

「え、そうなの?」

「そう・・・、じゃないの?」

「・・・?」

互い首を傾げていたけど、遠くからジェイドに名を呼ばれてカンディアは行ってしまう。

やはり、常識が通じない。

「・・・・・・明日は何がなんでもジェイドに付いてかないと。」

去っていくカンディアにじゃれて水鉄砲を当てようとする呑気なスライムを水中に沈めながらケイはそう呟いた。




エルフの村と隠れ里でも色々違いがあるのでケイ君の戸惑いはこれからも続きます。

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