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11.oddball.初めての異世界人

緑のローブを身につけた男の後ろをケイは歩いていた。

「なぁ、どこいくの? 森の外に連れて行ってもらえたら、俺はそれでいいんだけど」

「・・・・・・・・・・・・。」

「何か怒られたりするなら俺にも心構えって奴が・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「って、ねぇ聞いて??」

「・・・・・・・・・・・・。」


ついてこいって言われたからついて行ってるのに、話しかけても無視するんですよ、こいつ。

腹立つなぁ。

結局、スライムも戻ってくる前にあの広場を出てきたし、向こうは今どんな状況なのか・・・

でも下手に仲間がいるって言っちゃうのもまた首飛ばされそうで怖いんだよな。

歩き始めて数分。会話もないから、ついつい心の中で悪態をついてしまう。


それはそうと、そもそも何なんだこいつ。

いきなり攻撃してきて、ちょっとちびるかと思うくらい怖かった・・・。

日本じゃ味わえないハプニングだよな、味わいたいかはともかくとして。

ケイは今更、手も足も出なかった事に冷や汗をかく。

どうしたらあんな早い動きができるんだ・・・?

前を歩くローブ男の背を見つめる。


一体、こいつは何者なんだ?


そう思いながら、こっそり《鑑定》する。

いや、しようとした。


首にピタリと当てられた剣。ちょうど喉仏に当たり、軽くえずいた。

「げぇ・・・っ!! ・・・ごめ、っ、攻撃の意図は、なくて・・・」

鞘に入ったままでなかったら頭と体が離れていただろう。

反射的に謝りながら、ケイはすぐさま両手を上げて降伏した。

「あまり舐めるなよ。その程度の練度でエルフをごまかせると思うな。」

短剣をケイの首から離して、こちらをじっと睨み付ける男。

「え・・・エルフ・・・?」

「・・・・・・・・・。」

何も言わないまま、エルフ?の男はまた歩き出した。

ケイは疑問ばかり増えていくが、もう大人しく黙ってついていくしかなかった。





男に連行されながら改めて辺りを見渡すと、まるで木が男を避けるように道ができていった。

「不思議だな、木が動いてるみたいに見える・・・」

つい、口から驚きが漏れて、男が足を止めた。

今度は首が飛ぶかもしれない。サッとパーカーを手繰り寄せ、首元を押さえながら、ケイは恟々として男を見る。

怯えていたけれど、男は硬いながらも親切そうな口ぶりで答えをくれた。

「彼らはトレント。我らの里を隠す門番みたいなものだ。」

それだけ答えるとまた歩き出してしまった。

「へ、へぇー。 トレント。木が動くなんて驚きだ・・・」

適当に怒られなさそうな単語を呟きながら、スライムのことを考えた。

スライムが知ったら面白がるんだろう、楽しみだ。まぁ、それもお互い生きてたらなんだけどな。

へへへ・・・と暗い声を漏らしながら、男の背しか見てなかったケイは、もうしばらく気づかないのだが、実はスライムはもうケイの後ろについて歩いていた。

「「おかえりなさいませ」」

綺麗にハモる声にケイが男の背から顔を出して前を見ると、少し開いた場所に、浅黄色の髪を肩の上で切りそろえた少女が2人、立っていた。双子だろうか? 全く違いがわからない。

表情の抜け落ちたような少女に若干ビビりつつ、ケイは男の横に立つ。

並んだ2人がふらりと左右に分かれると、行き止まりのような場所だった木々の乱立した林は少女を真似るように木は別れていき、アーチ状に道ができた。

3人は平気な顔で先に進む。ケイも慌てて付いていった。(実はスライムも)

「ただいま。異常は?」

男が聞くと、左の子が先に答えた。

「ありません」

端的に短い返答を聞きながら、木々の開けた足場の悪い道を物ともせずに男はどんどん進んでいく。

まるでトンネルのような暗さで、根っこなのか枝なのかわからないけど地面は凸凹で足元がおぼつかないが、ケイは何ともないような顔をして何とか歩いた。

かつ、こつ、と4人分の靴音が響く。どこかで水滴の跳ねる音がしたような気がした。


右の女の子が質問した。

「侵入者は後ろの方ですか?」

「ああ、抵抗の意志は今のところないようだ」

木々を抜け切ると小さな広場になっていて、ここで別れというように2人は初めて会った時と同じ姿勢のまま通ってきた道の前に立った。

「・・・って俺、侵入者なの?」

ケイが発言すると、男はフードを払って舌打ちをした。

フードで隠れていた、あまりの美形と『黙れ』と言う無言の圧力を如実に表す碧の瞳の凄絶な睨みっぷりに、ケイはなす術もなく黙る。

「「わかりました」」

返事をする2人の少女と同じことを思いながら、手持ち無沙汰で辺りを見回す。

男はすでに扉に手をかけて待っているし、急いで行かねば。

そう思って最後にふと2人の少女に目を戻した時、少女とその後ろの通ってきた道はまるで砂浜で水をかけられた砂の城のように崩れて、消えた。あとに残ったのはただの木の壁だけだった。

「へ・・・? な、え、なにが!? 女の子消えちゃった?!」

「うるさい。彼女らもトレントだ。早く来い。」

フードと口周りの布を取って現れたのはたいそうな美形だったけれど、額のしわが非常に多いイケメンだった。

エルフ、と言う事で少し期待したが、別に耳はとんがってなかった。少し残念だ。

「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・。」

まだ何も言ってないのに男の眼光がさらに鋭くなったような気がする。

ケイは口を閉ざして、大人しくイケメンエルフの後について歩いた。








扉を抜けるとぐるりと水の柱を囲むように作られた螺旋階段のような道だった。

少しずつ曲がりながら、この道を5分ほど歩く。会話は相変わらずなかったが、ケイはそんなことより景色に夢中だった。

さっき水の音が聞こえたのはこれだろうか?


どこから落ちてくるのか、那智の滝なんて目じゃないほどの長い滝をぐるりと迂回するように道ができている。

もしかして、どこかに鍾乳洞的なの、あったりしないだろうか。そう言うスポット、実は大好きなんだよね。

ケイがニヤニヤしながら、滝の高さが知りたくなって覗き込んだらイケメンエルフに怒られた。

(その後、ケイに気づかれること無くスライムは喜んで滝に落ちて行った)



そんなこんなで村の前だ。

門の前に立つと、これもトレントだろうか?脇に生えていた木が門を開けた。

「おかえりなさいませ」

門が開くと、たくさんの人?が迎えにきていて、ケイは久しぶりの大勢の人との対面に、今の状況を差し引いても嬉しくなった。日本ぶりの大勢の人。感慨深げに辺りを見渡すと、皆びっくりするほどの美形揃いだった。ここまで圧巻だと、その間に挟まれる己の平凡さが少し恥ずかしくなる。

真ん中に立っていた、昔はイケメンだったことがよくわかる掘りの深い爺さんが一歩前に出て、ケイの前に立っている男に聞いた。

「ジェイド、こいつか」

「は。」

ジェイドと呼ばれた男は、さっきまでの尊大な態度は一体どこに仕舞ったのか、慇懃な態度で跪いた。

もれなく俺も跪かされた。なんでだよ。

「では、牢へ」

「お待ちください、この者は密猟者でも侵入者でもないようです、話を聞いてからでも遅くはないでしょう」

荘厳とも言える老人の声を遮って、ジェイドの焦った声がした。その行動にむしろケイの方が驚いた。

まさか、問答無用で連れてきといて・・・


「って、ロウって、牢屋ってこと!? いきなり豚箱は困る!!」

ケイは思わず立ち上がって大声をあげた。


「待ってくれ、ほんとに俺こんな村があるなんて知らなかったし、別にこんな森に欲しいものなんてないんだ!!

ただちょっと金目のものっつーか金に困ってはいたから確かにそーゆーもんは欲しかったけど!!

別にこの森で一攫千金とか狙ってたわけでもないし、ダメなもんは持ってく気なかったんだよ、いきなり死刑とか勘弁しっ・・・・!?!?」

「死にたくなければ黙っていろ!!」

ジェイドが話している途中のケイの頭を掴んで引き摺り下ろした。

ケイは体制を崩し、額を地面に打ち付け、その衝撃で視界に火花が散る。一瞬意識が飛び掛けた。

「いっ・・・てぇ・・・」

呻きながら、脱力する。

額の痛みよりも、脳震盪のせいかフワフワとした浮遊感でうまく力が入らず、起きあがれない。

ケイは必死に頭の上の手を退けようとするが、うまく力の入らない腕では力負けして動かせなかった。

「長、こいつは本当に何も知らないようです。

 ただ、『草原』と口にしました。だからここに連れてきました」

ざわりと周りが騒ぎ始めたのを誰かの声が制する。

「本当か?」

ジェイドの手をようやく振り払うと、ケイは顔を上げて、周りの痛いくらいの視線に怖気ついた。

ヒッと喉が引きつった声をあげた。

いつの間にか、イケジジイの顔が近くにあった。

もう一度小さく、でもしっかり聞き取れる声で、繰り返し聞かれた。


「お前は本当に崖を超えて『草原』から来たのか?」


その老人の圧に、ケイは額から流れる血を止めることもできず、ただ頷くしか出来なかった。








ぶっちゃけ、前の・・・日本でさえ額から血が出るような、こんな大怪我したことがない。

骨も折ったことのない健康優良児だったのだ。森で蛇に噛まれても、転んでも、こんな血が出たことはない。

額を深めに切ったようで血がなかなか止まらず、血が目に入って痛い。

いくら目元の血は止まりにくいと言われても限度があるだろう。

まだクラクラする頭を押さえて、ようやく村長の言葉にうなずいた後、ケイは一つの民家に通されて休まされている。

意外と手際よく薬の準備をする家人のジェイドに、ケイは声をかけた。

「・・・草原がなんかあったの?」

「それだけエルフ族にとって『草原』は重要ってことだ」


話はそれきりで、薬草をすり下ろす音だけが響いていた。

話題がなくて、少し焦りながら見つけた光明にすがる。

「あのさ、俺の連れ知らない?」

「連れ?・・・まだいたのか?」

訝しげな顔のまま、薬を差し出してくる。

「これを塗れ。染みるがすぐ治る」

「ありがとう。 実は、魔物なんだけど・・・お前と会う前に別行動してたからはぐれちゃって。」

「魔物? お前はヒューマだろう? 魔物と旅をしてるのか?」

不思議そうな顔をするジェイドに、ケイは困った顔を向ける。

「ごめん、鏡ない? 1人じゃ塗れない・・・」

「・・・貸せ。」

少し不機嫌そうに薬を塗りつけてもらいながら、ケイは話す。

「魔物と旅するってそんなおかしい?・・・・・・いってえ!!なにこれすごい染みるじゃん!?オキシドールの方が100倍マシだよ?!?!」

「うるさい。染みるといっただろう」

「あー、さっき堪えた涙がお前のせいで出てきたんですけどー!!」

「さっきも泣いていただろう、男のくせに弱いな。」

「なんっ・・・!!そのセリフは『もうちょっと優しくできなくてごめん』とかそーゆー気持ちと一緒に黙っておくものだろう?!」

「バカに優しくするだけ無駄だ」

「んだと!?」

2人がギャンギャンと噛みつきあってる時、のれんが架けられただけの簡素な玄関に幼い女の子が立った。

「本当にお前はうるさい・・・。 カンディア、どうした?」

振り返らずに言うジェイドに、ケイは少し驚いて、その後さらに驚いた。

「ジェイにい、川で拾った。」


言葉の少ない少女が手に持つのはケイにとっては見慣れた白い球体。

《ケイー!!》

赤い瞳がこちらを見て、びよ〜んと飛び出した。

「スライム〜〜!!!!」

スライムの声の聞こえないジェイドがその動きに短剣を構え、少女も焦って手を伸ばすが、誰よりも俺が先に動いてその球体を掴んでいた。

この時ばかりはジェイドより俊敏に動いた気がする。


ひしっと抱き合ってお互いの無事を確認し合う。

「お前よくここまでこれたな?!怪我はないか!?」

ケイは涙目でぽよぽよボディに欠損がないかこねくり回す。

《カワニオチテタイヘンダッタノ!! オナカスイタヨー!!》

もそもそとカバンを漁るスライム。


スライムはケイの額の傷よりもカバンの中身が気になるようで、少し悲しかった。




ケイ君、普段は素っ気無いけど、実はスライムが大好きです。

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