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拾った悪役令嬢にはアレがついていました 5

 俺とラウルの生活は驚くほど順調だった。ラウルは自分のやれる範囲を見つけるのがうまく、そこから少しずつ発展させていった。

 一年が経つ頃にはラウルの身長は俺を抜かした。まだ厚みが出ないから大きめの服の出番はない。この調子だとあと一年……もしかしたら半年ほどで必要になるかもしれない。毎日身体が痛いと言っていたが、たぶんそれは一気に大きくなると痛いやつだ。父に成長期には体中が痛くなってぐんぐん大きくなるって聞いていたけれど、俺にはその痛みは来なかった。悲しい。


 きこりの仕事は長年の勘も必要だから理解するのに時間がかかっているが、素材採集なんかはもう俺よりも見つけるのが早い。

 町のほうは少しざわついているようだが、木材と素材を売りに行くために月に二回ほど出入りしているだけの俺には細かい内容は伝わってこない。だけど、塩やら香辛料の値段が上がっているから少し不安だ。ラウルに話したら、次に行ったら塩を多めに買っておくように言われた。


「多め?」

「うん、一年か……何年か山にこもっていられるぐらい。種芋とかもあったら便利かも」

「わかった」


 何年も山にこもるなら、その間はラウルは出ていかない。次に町に行ったときにはいうとおりにして持ち金全部を使って塩と種芋を買った。

 買い方も教えられていて、一か所で大量に買うのではなく、何か所かで少しずつたくさん買うように言われた。さらには、人目につかないように町を出るように言われたから、一時だけ行商の荷馬車に乗せてもらった。

 帰り道は真っ直ぐ帰るのではなく、迂回して俺しか知らないような道を早足で通り、行きにかけておいた岩場を通るためのロープも帰りに落とした。誰も追ってきていないようだが、これほど念入りに隠れなければならないのは不穏だ。


「ただいま」

「おかえり、サク」


 俺を迎えたラウルが俺の後ろ、家の周りを見回す。


「何をそんなに警戒しているんだ?」


 流石に聞かずにはいられない。少しだけ俺よりも上になったラウルの目を見つめて問いかける。


「う、そう、あの……えっと」

「どうしても言いたくないってのは無理だぞ」


 荷物を下ろした俺に、ラウルが茶を用意してくれる。飲めればいい程度に思っていた茶も、ラウルが来てから味が格段に良くなった。


「その、僕、というかフローリアが追放された影響が出始めるならそろそろだから」

「どういうことだ?」


 ラウルが言うには、ラウルの故郷は辺境だが公爵家であり、かなり権力を持っている。もともと一つの国だったグロウルという地域が、勢いの良かった昔の我が国ロウヤーに併合された難しい土地柄なのだという。

 定期的に王家と婚姻関係を結ぶことで平和な関係を保っていたが、今回は無理矢理婚約者にしたフローリアを騙し打ちのように排斥したことで、くすぶっていた火種が燃え広がりグロウルを焼こうとしているようだという。


 現当主であるラウルの父は切れ者で、併合された頃とはまるで違うほどに領地に力を蓄えた。だからフローリアの件をきっかけに、独立戦争を仕掛けるのではないかということだ。

 塩の値段が上がったり、その他のものも値段が上がっていったことで、ラウルは確信したらしい。


「父上にとっては、わ……僕のことも、周りのものの全てが目的を達成するための駒なんだ。父上の父、僕にとって祖父にあたる先代からグロウルの独立は悲願だから。公爵家の中でもほんの一部しか知らないことだけど。いまはまだロウヤーのいち領地に過ぎないからね。失敗してロウヤー王家に潰されるわけにはいかないし」


 かなり女性的な言葉遣いはなくなってきたが、染みついた言葉遣いを変えるのは難しいようだ。滅多にないが、慌てていると口調だけは完全に女性になる。声は低く男そのものだ。

 ラウルの手の中で、玻璃のグラスが光る。ラウルの瞳の色に似ていたから、つい有り金はたいて買ってきてしまった一品だ。渡したら無駄遣いを怒られてから、頬を染めて礼を言われた。大事に使ってくれている。


「そんなことを俺に話してしまっていいのか?」

「サクは誰かに話したりしないでしょう?」

「ああ」


 信頼しきった瞳を真っすぐに向けられて、照れくさい気持ちになる。


「そろそろロウヤー王家側もグロウルが何をしようとしているか、気付いている人間はいると思う」

「へぇ」


 正直、雲の上すぎる話で想像もつかない。いつでも触れられる距離で同じ飯を食べているけれど、ラウルは本当は顔を見ることさえなかったはずの人間だ。おれみたいな平民と貴族が関わることなど、あり得なかった、


「正面からぶつかると厄介だから、和平のためにフローリアを探すと思うんだよね」

「何で?」

「どれだけ人気があっても、もしかしたら貴族の養女になっていても聖女さまはもともと平民だ。正妃になれないと言い張って、フローリアを正妃に、聖女を愛人に据えて、ロウヤーの顔を立てるって感じ」


 貴族は後継がいないと困るから、奥さんに子供ができないと愛人を作るって聞いたことがあるけど、嫌な感覚だと思う。一生かけて大事にする相手は一人でいい。


「今更か? あんなひどい手配書を配っておいて?」

「そう思うよね。きっと何もなかったことにして誤魔化すつもりじゃないかな。安易にサクにわ……僕の髪を売るように言ってしまったから」

「髪?」


 フローリアの綺麗な縦ロールなら大事にしまってある。町でもあんなに綺麗な金髪は見ないから、たまに出して眺めているのは秘密だ。ロールするほどの長さがない今のラウルの髪も、緩くウエーブして綺麗だ。いくら歳下でも、自分より背の高い十五の男の頭を撫でることはできない。


「特徴的だし、時期的にもフローリアの髪だってバレてもおかしくない」


 心配でたまらないという顔をされたら、隠していることに胸が痛む。俺のボロい外見に反して金に困っていないことは、この一年でラウルも理解したからいいだろう。


「……髪は売ってない」

「え!?」

「なんかもったいなくて」

「えええ!?」

「ごめん」

「……いい。いいんだ……。サクのその運の強さが好き」

「す、好き!? 俺もラウルが好きだ!」

「え!?」


 すっかり家族のようなものだけど、家族でないなら言葉で行為を示さなければならない。ラウルから好きだと言われて、同じように好意を返さなければと慌てたら告白のようになってしまった。

 二人で見つめ合う。互いに動揺しすぎて、おかしな雰囲気になってしまった。



 いくら美しいとはいえラウルは男だ。俺より背も高くなって、顔立ちも男らしくなってきている。出会った時の印象が強すぎて……そこまで思い出して吹き出してしまった。


「サク、どうしたの?」

「いや……拾ったとき、ケツに石ぶちこんでやるって言ってたの思い出して」

「何でいまそれを思い出すの!」

「あはは、最初から男らしかったな、ラウルは」


 顔を赤くして怒ったラウルだったが、俺が笑うとすぐに破顔する。初めの頃は表情が少なかったのに、今はくるくるとよく変わる顔が楽しい。


「もう、ずるいよ、サクは」

「何が?」

「いいんだ。とりあえず危険はなさそうだから、しばらく二人で山に引きこもろう?」

「しばらくってどれぐらいだ?」

「うーん、二、三年かな……」

「わかった。きこりの仕事を完璧に教えてやる。俺よりもでかくなったんだから、頼りにできるぐらいになってくれよ?」

「任せて!」

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