拾った悪役令嬢にはアレがついていました 4
今日は換金と買い物だけだったから、日が高いうちに家に帰り着いた。不便はなかっただろうかと心配しながら、家の扉を開ける。
「おかえり、サク」
「あ、ただいま……」
腹が減ったら食べるようにと置いておいた果物を持って、ラウルがこちらを見ている。髪を切ってもまだまだ美少女にしか見えない。
おかえりと言われたことに感激して、じわりと目元が熱くなった。ラウルは嫁じゃないけど、服屋のおかみが父親を亡くした俺にしきりと嫁を勧めていたのは、こういう心の安らぎのためだったのかもしれない。
一人は寂しい。
父が亡くなってすぐは、二人でやっていた家業を一人でやらなくてはならなかったから考える暇がなかった。軌道に乗ってからは、寂しさを考えると押し潰されそうで、考えないようにしていた。
ラウルは頭がいいから、フローリアの面影がなくなりさえすれば、どこで商売をしても成功するだろう。いつかここを出て行く日が来るとしても、その頃には俺ももう少し強くなっているはずだ。
巣から落ちた雛を巣立ちの時まで預かるだけ、と自分に言い聞かせて、ラウルが大空を羽ばたけるように守り教えるのが俺の使命だ。
決意も新たに玄関で仁王立ちしていると、ラウルが心配そうに近づいてきた。足を引きずっている。
「ラウル、まだ足が痛むだろう。治りが遅くなるから無理をするな」
「うん……。サク、何かあった?」
「久しぶりに服を買ったんだ。ラウルにも見て欲しい。好きなのを二つずつ選んでくれ」
「こんなに?」
「ああ、良い値で売れたんだ」
何が、とは言っていないから嘘ではない。ラウルは髪が売れたのたと誤解してくれたようで、少しだけ笑顔になった。おおぅ、可愛い。
「サクにはこっちの色が似合いそうだから、わ……僕はこっちをもらうね」
僕にしたのか。よく似合っている。可愛すぎて俺の顔が溶けそうだ。
「あの、こっちは?」
「これはしまっておく分だよ。いずれ使えるから」
ひとまわり大きな服は、俺かラウルの身長が伸びてから使うためのものだ。いつもより多く食材も買ってきたから、ラウルの好みを聞きながら作ろう。たくさん食べて大きくなるんだ。
説明しながら料理をする。座ったままでもできる皮剥きを任せると、危なっかしい手つきで一生懸命ナイフを使っていた。
こういう使い方は危険だと先に教えてあるから、危なっかしいけれどなんとかなっている。俺の両親も、俺に教えた時はこんな気持ちだったのだろうか。
年は近いけれど、庶民としてのラウルの父親みたいなものだな!
「初めてにしては上出来だ」
「そ、そう?」
出来上がった野菜を見て褒めると、満更でもなさそうに笑う。素直でめちゃくちゃ良い子じゃないか。こんな良い子を捨てるなんて本当に王子はアホだ。
野菜と干し肉を鍋に入れて煮る。調味料は少しずつ増やして、ラウルに味見をさせて調節していった。
その間に固いパンを最後にスープに入れやすいように切っておく。いままでは一回分の大きさに切ったのを食いちぎっていたけれど、あの細い顎ではできなさそうだと小さくした。味は町でも美味しいと評判の店のだからいいはずだ。
このパンがなくなったら俺が作ることになるが、パン作りもラウルに教えよう。
肉も食いたいから、獣を捕らえるための仕掛けも確認しよう。獣のさばき方を教えたらどんな反応をするだろうか。青い顔をして必死に覚えようとするだろうか。
「サクは、美味しい? わ、僕の好みにしてしまって良かった?」
「美味しい。今まで食べたどんなスープより美味しい」
実際美味かった。ラウルが今までに食べてきた料理とは調味料の数も食材も違うだろう。ラウル好みの味にすることで、俺も少しだけ貴族の感覚を味わえるような気がする。
「良かった」
「ラウルはどうなんだ? 足りるか?」
「今は寝ているだけだから大丈夫」
わからなかったから俺と同じ量を用意したんだが、ラウルは全て平らげた。けっこう食べる。成長期だからかもしれない。
食事のあとは風呂を用意して、ラウルが入ってから俺が入る。毎日風呂だなんて身分の高い貴族でもなかなかやれない贅沢のはずだ。
「このお風呂は気持ちいい……」
「風呂に毎日入ってると疲れも取れるし、傷の治りも早い。父が母に嫁に来てもらうために作ったそうだ」
「どういうこと?」
「母は町ではそこそこ美人で競争率が高かったらしい。そんな母にどうしても嫁に来てほしかった父は、この風呂を作って母に貴族よりもいい生活をさせてやるからって求婚したそうだ」
母が風呂に喜んでくれなかったらどうするつもりだったんだろう……。
「そう。サクはお母様似だね」
ラウルが風呂から手を伸ばして、俺の鼻をつんとつついた。何この可愛い生き物。
「母の顔は好きだけど、俺としては父に似たかったなぁ。父は背が高かったから」
「サクは何歳?」
「十八」
「えっ」
「なんだよ」
背が低いのは母に似てしまったからだ。俺だって男らしさの塊みたいな父に似たかったよ!!
「わ……僕と変わらない年かと思ってた。年が変わらないのにしっかりしてると思っていたから、すごく負けた気分だったけど、年上で良かった」
風呂で上気した顔でにっこりと笑うから、俺のいじけた気持ちは一瞬で霧散した。顔がいいは正義だ。
「はは、そうだよ。ラウルより年上なんだから甘えてくれていい。この通り侘しい一人暮らしだから、人がいてくれると嬉しいんだ。きこりの仕事はラウル一人ぐらい余裕で養える」
「まるで嫁入りみたい。お風呂は僕も好きだから、サクのお父様の目論見は正しかった、ね」
まるで口説いているようだと思ったら、ラウルも同じように感じたみたいで笑ってしまう。互いに笑い合って心が暖かくなっていく。
男らしい言葉遣いを心がけているせいでゆっくり話すから、ラウルの言葉もゆっくりと心にしみ込んでくる。親の気持ちだったけど、嫁?
少し不安になってラウルを見たが、胸のない薄い身体には何も思わない。よかった、男を嫁にする趣味はないみたいだ。年齢的に親ではなく兄といったところだろう。
「身体が良くなったら、無理をしない程度に手伝ってくれ。ラウルが自立できるように、俺に教えられることはみんな教えるから」
「ありがとう、サク」