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拾った悪役令嬢にはアレがついていました 11

 ラウルは半年経っても心が変わらなかったら受け入れてと言って、ウードのところに行った。


 王様が変わったはずの町はほとんど変わりがなく、ラウルが来る前のように俺は月にニ、三回町に行く生活に戻っていった。


 俺の予想どおり、ラウルはウードの材木屋でも良く働いた。俺との噂があっても、町の年頃の娘たちはあからさまだったり控えめだったり色んなアプローチをラウルに仕掛けているようだ。ラウルは全てきっぱりと断っている。

 それでもラウルが周りから嫌われないのは、俺のことが好きだと公言しているからだ。ウードもラウルがどれだけ俺にベタ惚れか語るものだから、いまは俺のほうが町に行くときはコソコソしている。

 知らない女の子に罵られるのは一度で懲りた。


 ラウルは山で採れた材料で化粧を作って、肌の色を少し暗くした。髪はいつも布で隠すことにした。俺の好きなふわふわの金の髪は、ラウル本人以外では俺しか知らない。


「サク、お酒をもらったから持っていって。これ好きでしょう? 会えて嬉しい。変わらず愛してる」

「はいはい、ありがとな」


 ウードのところに行って、ラウルが仕事に出ていなければ会って話す。一緒に軽食を食べたりもするが、男しかいないような食堂かラウルの借りている部屋に持ち込んで話している。

 最初の頃に普通の食堂で食べていたら、こんなみすぼらしい男の何がいいのかと女の子に絡まれたからだ。ブチ切れたラウルが立ち上がったのを抑えるのが大変だった。止めなければ、あの子が再起不能になるほどの口撃を仕掛けていただろう。


 ウードの材木屋は、ウードの妻以外は見事に男ばかりだ。力仕事が主な奴らは荒っぽく、働き始めた頃はラウルに絡むやつもいたらしいが、腕っ節と心を抉る言葉でぺちゃんこに叩きのめしたらしい。

 そいつはすっかり大人しくなって、いまはラウルを兄貴と慕っているそうだ。ラウルの兄弟分は俺だけのはずなんだけど。


 ウードが大げさな身振り手振りで、ラウルがすごかったと教えてくれた。誇らしかったが、俺の見ていないところで活躍されることに胸がモヤモヤした。


 いっそ女の子の友達でもできれば気持ちも変わるだろうかと飲み屋に行ってみたりもしたが、ラウルと俺は王様が変わって最初に男同士で結婚した人間として有名になっていた。




 ラウルがウードのところで働き始めて三ヶ月が経ったが、会えば俺に蕩けるような笑顔で愛を囁いてくる。信じてほしいから、と山で暮らしていた時よりもずっと情熱的に口説かれ続けている。


「逃げ場がない……」

「なんだ、お前、逃げたかったのか?」

「…………どうなんだろ。ラウルを、俺から逃がしてやるつもりだったのに……」

「どう見てもラウルのほうがお前にぞっこんだぞ?」

「う……」


 今回はラウルが二日がかりで隣街まで荷運びをしていると聞いて、ウードと酒を飲んでいた。まだ婚姻届を出していないことは話してある。


「ラウルのやつ、お前と結婚してるって言ってるから、男にも粉かけられてるんだぞ」

「はぁ!?」

「荒い奴もいるから、強引にって奴もいるみたいだけど、叩きのめして済ませてるみたいだ。二度とそんな気が起きないようにって……かなりエゲツない」


 他人と関わらないでいたから、町にそういう危険があるのを忘れていた。俺よりも体格のいいラウルを無理やりとか……。男同士で無理矢理何をするんだろう。触るのか? 触って楽しいのか?


 生理現象としてそういう衝動があるのは知っているが、禁欲生活が続いていて、俺自身のそういう欲望はなくなっていた。ラウルがどうなのかも気にしていなかった。なんとなく外見が整っているから、そういうのはない気がする。

 自分に関しては目の前に魅力的な女性が現れたら復活するだろうと気にもしていなかった。だけど、世の中の男は下半身に支配されがちだ。

 ちゃんと自力で回避できたなら良かった。


「べつに半年にこだわらなくても、お前さえ良いって言えば元サヤだろ? 何拗らせてるんだ?」


 変にこだわっているのは俺だけなのか?

 男同士で今までと変わらない、のんびりした生活でラウルが満足するならいいのか? あいつが言うようにきこりの仕事を伝えていきたいなら養子を取るなりして……。


 町まで出てきたのにラウルの顔を見ずに帰るのか、と歩けなくなる前に立ち上がって会計をしていた。その時、町の入り口が騒がしい。


 野次馬がわらわらと集まり始めていたから、酒で回らない頭の中、俺もふらふらと見に行った。


 そこには立派な服を着たラウルそっくりの男がいた。違いはラウルは髪がふわふわしているが、そいつはまっすぐハリネズミのように短い髪を立てている。髪の色は同じだ。

 なぜかまだ帰らないはずのラウルがそいつの側にいて、苦虫を噛み潰したような顔をしている。他人から見たら無表情にしか見えないだろうが、俺にはわかる。


 人垣を隔ててラウルと目が合う。

 俺を見つけたラウルの表情が緩んだ。それを、ラウルもどきの偉そうな奴に見つかった。あいつがラウルの仕事を切り上げさせて連れてきたのか?

 イラッときて睨みつけると、ニヤリと笑ってラウルに耳打ちをする。顔は似ているけれど、表情が全然違う。よく見ればラウルのほうが体格もいいし、性格も良さそうだ!


 ラウルが男に向かって何かを言うと、一行はウードの材木屋の方向に向かっていった。

 残された野次馬達は、あれは誰だとざわついている。


「あれはグロウル家の紋章じゃないか?」

「え? 新しい王様の?」

「王子様じゃないか?」

「なんでこんな田舎に」

「フローリア様の手がかりがあったとか?」

「王都から身一つで追い出されたのに、ここまで来れるはずないじゃないか」

「いや、歩けない距離じゃないし」

「それっぽい女の子はいないよなぁ」

「巻き毛の金髪なんていないな」

「この町の近くで亡くなってたりしたら……大丈夫なのか?」

「お、おれは石なんて投げてないぞ」

「あんたなんで急に。まさか、あんた」

「お前石を投げたのか!」

「だって手配書に」


 俺の山に向かう道でフローリアは倒れていた。手配書には石を持って追い立てよと書いてあったから、この男に非はないのかもしれない。でも許せるはずもなく。

 俺は野次馬の群れから逃げようとする男の首根っこを捕まえた。


「おい、逃げるな。心当たりがあるなら自分から申し出ろ」

「な、なんだよ、離せ!!」


 ひょろっとした町の男が俺の力に敵うはずもなく。野次馬連中が袋叩きにする前に男を引きずり出した。助けようとしたんじゃない。俺だってこいつに石を投げつけたい。

 俺は倒れていたフローリアの姿を忘れたことなどないから。

 どうせならラウル(フローリア)に裁かれたらいい。そう、ケツに石をぶち込まれてしまえばいい。


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