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7 土下座


 「さて、これからどうしたものか」


 天井裏に用意されたフカフカのベッドの上で寝転びながら、窓から見える星を眺めて呟いた。


 ソフィから村で誕生した勇者が幼馴染であると聞いたサニーだったが、その話だけを聞いた後にソフィの保護者であるおばさんがソフィを呼び出し話は終わった。

 その後に夜食での食事と楽しみにしていたアップルパイを御馳走になり、今日は一晩泊まらせてもらう事となった。

 天井裏と聞いた時は物置にでもなっている場所だと思っていたが、いざ見てみると人が生活していた跡があり、普段から掃除が行き届いているようだった。


 「あの・・サニーさん?」


 天井裏へと繋がる手すりからヒョッコリと顔を出してきたのはソフィだ。


 「その、少しだけお話してもいいですか?」

 「ん? あぁ、全然大丈夫。 まだ寝る気もなかったし」


 しかし時刻はすでに真夜中と言ってもいい時間帯である。

 だいたいの人間ならすでに寝始める時間だが、サニーも昼間の話の続きを聞くチャンスだと考えソフィを招く。

 

 だがソフィは中々手すりから昇ってこずに戸惑うように頭を出したり下げたりを繰り返す。


 「あの~、何してんの?」

 「いや、その、ちょっと・・待ってください。 い、今覚悟を決めているので」

 

 一体何の覚悟を決めているのかと思うサニーだったが、戸惑っている様子のソフィを見て察しがついた。


 (ま、まさかッ?! 俺が魔王だとを見抜いた事を脅しに来たのでは?!)


 こんな真夜中に年頃の娘が見知らぬ男が寝泊まる部屋に1人で来るはずがない。

 ――となれば考えられる事は、自分が魔王である事を知り勇者に知られたくなければ言う事を聞けという定番の状況が待っているのでは!?


 (やるなこの娘。 すっかり美味い料理に目が眩み油断していた。 一体いつから俺が魔王だと言うのを見抜いたのか!)


 座り込んだベッドから立ち上がり、未だに手すりから出てこようとしないソフィにゆっくりと近づいていく。

 それに気が付いたソフィは戸惑いながらも何故か頬を徐々に赤らめて身体を縮こませていく。


 「ソフィ。 何か俺の用事があるんだろう? そんな所にいつまでいても話は進まないぜ」

 「わ、分かってはいるんですけど、もうちょっと・・もうちょっとだけ待ってください・・」

 「いいや、もう待てない」

 「・・・へッ?!」


 神妙な表情で見つめてくるサニーにソフィはボンッと爆発したように顔を真っ赤にする。


 「まままままま待てないって、それは・・その、どういう意味でででで!」

 「言葉通りの意味だ。 もう、気づいてるんだろう?」

 「~~~~~~~ッッッ!?!?!」


 薄暗い部屋の中、明かりは窓から差し込む月光のみ。

 そんな状況で若い男女が2人きりになると、妙な雰囲気が漂う。

 ソフィは何かを決したように目を閉じて口元をギュッと力を入れる。

 そして、ソフィとサニーとの顔の距離がギリギリまで近づく感覚を見えないながらも感じていたソフィだったが、何故かいつまで経っても唇に当たるはずの感覚が伝わってこない。

 恐る恐ると瞑っていた瞼を開けると、そこに見えたのはサニーと頭だった。

 

 「・・・サニーさん。 一体何をしてるんですか?」

 

 サニーは頭を床につけ、両手と膝をそろえて体をうずくまるような姿勢で固まっていた。


 「フッ。 見ての通りだ。 これは人間の中で最大の敬意と謝罪を意味する礼節な姿勢。 土下座であるッ!!」


 頭を床にこすりつけながらハキハキとした声で言い切ったサニーにソフィは冷たい視線を送る。

 しかし、そんな視線を送られている事とはまったく知らないサニーの心の中は勝ち誇っていた。


 (どぉ~だ見たかこの素晴らしくも美しい土下座をッ! ここまでくる旅の途中で多くの人間達が構えたこの姿勢で幾つもの困難を乗り切った場面を見てきた)


 例えばギルドのとある男性職員が上司に叱られている途中に披露したこの姿勢により長時間の説教から抜け出した場面や骨董品を買い取ろうとする客に対してペコペコと頭を下げていた男性店員が何度も何度も行ってきたこの行為。

 まるで魔法のように人の心を揺さぶり相手を翻弄とする姿にサニーは感服していた。

 

 人間の男という物はこれだけで多種多様な人間達と上手な絆を築き上げてきたのだと。


 (つまり! この素晴らしい構えである土下座を披露すれば、ソフィも俺が魔王である事をばらさずに放置してくれるに違いない!)


 実際にソフィから全く声をかけられてこない。

 あまりの美しい土下座に驚いて声も出せないのだろう。

 チラッと頭を少しだけ挙げてソフィの様子を見る。

 しかしそこに見えたソフィの表情は驚きでも許しでもない、呆れたような冷たい視線と目があった。


 「・・・サニーさん」


 まだ出会って1日も経っていないが、ソフィから今まで聞いた事がない冷たい声で呼ばれ、思わず体をビクッと震わせた。


 「とりあえず、頭を上げてベッドに座ってください」

 「え? でもまだ何も話は―――」

 「これからお話をしますので、早く、そこから、立ちなさい」

 「・・・ハイ・・・」


 今まで魔王という立場で、あらゆる人間や魔族を見てきたつもりだったが、生まれて初めて女という人種に恐怖を感じたサニーであった。

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